ホーム > インタビュー&レポート > 「頭より心が先に動くような音楽を」 衝動に従え、感動を信じよ。ドイツへの移住がもたらした 三船雅也(vo&g)の新しい人生『8』を語る! ROTH BART BARONインタビュー&動画コメント
今こそ言い訳をしないで、新しい挑戦をしようと思った
――ここ数年はコロナ禍というのもあってリモートでもインタビューしてきましたけど、今回はまた事情が違って。三船くんの音楽的素養から考えると選択肢はまずアメリカか、そうじゃなければイギリスかと思う中で、なぜドイツに移住したのかは興味深いところだなと。
「アメリカの音楽は好きだけど、今は政治的にどうかなと思って...。あと、トランプ政権以降、外国人に対するビザの発行がかなり厳しくなって、イギリスはイギリスでブリクジットでEU(欧州連合)をやめちゃって、『Glastonbury Festival』に出るようなバンドでも、ビザを取るのが難しい。そう考えると、ドイツは外から来た人間を差別しないポリシーがあるし、税制的にも起業しやすいから小さなアプリの会社とかのスタートアップもさかんで、いろんな国から若い人たちが集まってる。初めてWi-Fiをフリーで使えるカフェを作ったのもベルリンが最初だったり...そういう新しいことが始まる気配があったから、ドイツを選んだのもありますね。僕が住んでいる辺りには、SoundCloudやAbletonとか音楽サービスのオフィスもあって、ポストクラシカルのミュージシャンもたくさんいるので」
――三船くんは、いつか海外に住みたいと思ってたの?
「ずっと考えてはいたんですけど、実行に移すには何か勢いが足りなくて、そう思っていたらパンデミックになった。コロナ禍の頃は、"これは3~4年かかるな"と感じたからこそ、むしろどっしり腰を据えて、日本と向き合った作品を作ろうと思って。そのおかげでロットは多くの人に気付いてもらえたから、結果的に素晴らしい3年間になったけど、どっちの人生が面白いか...元々ロットは日本以外でも活動したいと思ってきたから、今こそ言い訳をしないで、新しい挑戦をしようと思ったんですよね」
――実際に移住したのは'22年末とかかな?
「'22~'23年の冬には本格的に移ってました。でも、その前に何回かテストで行き来してたんですよ。実際に気に入るか分からないから、何カ月か試しに住んでみたり。コロナ禍でリモートが当たり前になったのもいけるなと思った要素でしたね。これで日本とつながりを持ったまま、どんどん新しい体験ができるんじゃないかって」
――ということは、この夏の主催ライブ『BEAR NIGHT 4』や、『FUJI ROCK FESTIVAL'23』出演というヤマ場も、ドイツ⇔日本を普通に行き来しながら。そりゃ大変だわ。
「そうですね(笑)。『BEAR NIGHT 4』は本当に楽しかったし、ロットが2年連続で日比谷野音でやれるなんて思わなかった。フジロックは自分が音楽ファンとして通っていた場所に、ちゃんと夢をかなえられるところまで行けて良かったなと。憧れを現実に変換する、夢を夢じゃなくしたというか、一つ一つ本物にしていかないとね。フジロックにも出るし、海外にも住む(笑)。それを実現するのは大変だったけど、人生のポイントになった気がします」
僕はミュージシャンだから音楽でしか人とつながれない
――『BEAR NIGHT 4』には、『BLOW』(M-2)に参加しているSafeplanetも出てくれて。出会いは彼らが'19年に開催した来日公演で共演したのが縁ということで。
「台風で彼らが出るはずだった『朝霧JAM』が中止になっちゃって、その来日公演当日も東京は結構な雨だったんですよ。ちょっと非常事態な感じで、『朝霧JAM』で見たかったという悔しさを抱えながら音楽ファンが押し寄せたエモいライブでしたね。ちなみに、その日に出会ったビデオグラファーのドムくんが、『BLOW』のMVをタイで撮ってくれたんですよ。SafeplanetもDIYで活動してるんですけど、コロナ禍にタイで成功して。お互い成長した姿でこうやってまた出会えたのもうれしかったし」
――その『BEAR NIGHT 4』でも演奏された『BLOW』は、元々オリエンタルな雰囲気をまとっていたのもあって、Safeplanetと一緒にやることを思いついたと。
「彼らも忙しいからできるか分からなかったんですけど、僕が曲をLINEしてリモート上で作って...楽曲が導いてくれた感じがしますね。アイナ(・ジ・エンド)ちゃんとA_oというユニットをやったり、中村佳穂、ASIAN KUNG-FU GENEARTION...この3年間でいっぱいコラボしたじゃないですか。究極を言えば、僕はミュージシャンだから作った音楽でしか人とつながれない。自分が生み出した音楽でコミュニケーションを取るしかない。でも、それが一番大切なんじゃないかと気付いたんですよね。仕組みを作って後から音楽を作ることもできるけど、音楽が浮かんじゃったからその人とやる。そこにもう一回立ち返りましたね」
――『BLOW』はサビのメロディが2層あるのが面白いし、これは歌い手が2人いる共作ならではの構成ですね。
「『BEAR NIGHT 4』に前乗りして、東京で一緒にセッションしながらレコーディングして。最初は自分が歌っているメロディだけを書いたデモをSafeplanetに渡したんだけど、結果、彼らがさらにメロディをかぶせてきた。それをバンドのメンバーに聴かせたら、みんなが笑顔になって...クリエイティブがぶつかることでいいものが生まれるし、メンバーの目がキラキラするときは、いいサインだから(笑)。Safeplanetはコラボ曲が初めてだったらしいけど、らしさを存分に出してくれました。僕も自分だけじゃこうは作れなかったなと思って」
――余談だけど、Safeplanetの"自分たちのバンドTシャツを着てる人を見かけたら絶対に話しかけに行く"というエピソードを聞いて、いい話だなと思いました。
「素晴らしいですよね。これからは僕もロットのTシャツを着ている人を見かけたら、迷惑かなとか思わないで"ありがとう"と言おうと思いましたね」
なぞるくらいなら全部ぶっ壊してみようと思った
――いわゆるパンデミック3部作『極彩色の祝祭』『無限のHAKU』『HOWL』のリリース周辺は、怒濤のタイアップに映画のサントラetc、毎日のようにYouTubeにコメントが上がったりと追い切れないほど情報量が多くて。今回の『8』が平穏にすら感じますね(笑)。
「僕もここのところ動き過ぎたせいか、これでいいんだろうかと若干思っちゃってるけど、むしろ今回が普通だよね?(笑) みんなが2年ぐらい休んでも、こっちは6年連続でアルバムを出してるし(笑)」
――毎回、まずはアルバムの軸となるテーマが浮かぶと言っていたけど今回は?
「まず"ジュブナイル"というテーマが浮かんで、アートワークは写真にしようとか、何となく考えてはいて。その後、ベルリンで生活を始めて...言葉も通じないし友達もいない。すごく寒いし、買い物をするのも大変で、Amazonもろくに使えないところからスタートしたんですけど、この感覚はまさに10代に戻ったようだなと。『極彩色の祝祭』『無限のHAKU』『HOWL』...日本のインディーバンドであのクオリティのアルバムを作れたことは自分でも誇らしく思いますけど、それをなぞるくらいなら全部ぶっ壊してみようと思ったから生活も変えたし、高校生の頃に買ったギターをかついで、一から真っ白い紙に物語を描くような...『8』は新しい僕の人生の成長譚だなと」
――そもそもジュブナイルは三船くんの表現の核たるものというか、初期の作品はそのフィールに溢れていた。それから時を経て、時代を映してきたここ3作は、ずしりとくるメッセージのあるアルバムばかりだったけど、『8』からはもっと根源的な衝動のようなものを再び感じますね。
「今日は友達が一人できたとか、知らない隣町を発見したとか、スーパーで"豚肉200gください"とドイツ語で言えたとか(笑)、初めて電話でレストランの予約ができたとか...10代の頃っていちいちドキドキしてたじゃないですか。今の自分はそれの連続で。大人になっても新しいことを始めたり、引っ越したのも単純にそうだけど、この激動の時代がひと段落して、立ち返るのは人間の個人的な発見とか喜びなんじゃないかと思ったんですよね」
――そんな今作の起点となった一曲は?
「きっかけは『Ring Light』(M-6)で、家の近くの行きつけのコーヒー屋さんで初めて友達ができたんですけど、その人が"うちの娘から自撮り用にリングライトが欲しいと言われて買ったんだけどさ..."みたいな話をしたとき、それが天使の輪みたいに、あの世とこの世をつなぐ、大人と子どもをつなぐ象徴になったら面白いなと思って。独特の妖しさがあるあの光がモチーフになったところから、ジュブナイルというテーマが転がり始めた。次にSafeplanetと作った『BLOW』ができて、アルバムが見えてきた気がします」
僕がこんなにギターを弾きまくってるアルバムは初めてじゃないかな?
――今作ではエレキギターを弾く楽しさを改めて感じたみたいだけど、『Ring Light』からもそれが伝わりますね。
「僕がこんなにギターを弾きまくってるアルバムは初めてじゃないかな? ずっとアコースティックギターがメインで、エレキギターはいろいろと取っ替え引っ替えしてたんですけど、なかなかしっくりくるものがなくて。だから素材とか形とか、ピックアップの種類も全部自分で選んで、色も指定して...ようやく自分の相棒みたいな、世界で僕しか持っていないエレキギターを手に入れたんですよ。アコースティックとエレキの中間の、本当に独特な音が出るんですよね。アメリカのBilT Guitarsに発注して出来上がるまで1年ぐらい待ったんですけど、予想以上に素晴らしくて、今でもそれをずっと弾いていますね」
――新しい楽器にテンションが上がって曲ができるという話は、ミュージシャンからよく聞きます。
「だから何かに行き詰ったら楽器を変えればいいんです(笑)。ご飯や住む場所、服装や髪型を変えると気合いが入るとかも、多分同じようなことだと思うんですよね」
――今作では長尺のギターソロとかも三船くんが基本弾いているってことでしょ? ゲストボーカルもギタリストもいない、三船くんだけというのは久々よね。
「僕自身もギターを弾く人間としてアイデアはあるんだけど、『HEX』('18)ぐらいからずっと岡田(拓郎)くんに弾いてもらってたし、外からメンバーを迎えるにあたって、僕のエゴが出過ぎるとみんなのスペースがなくなっちゃうから、ギタリストとしての自分はあえて封印していたというか」
――それも相まって、今作では楽器を奏でること自体がもうすでに楽しかったのかもね。
「って思いました。10代でギターを弾き始めた頃の気持ちに戻った感じがしますね」
――前作『HOWL』のインタビューで、"『O N I』における、問答無用にリフでアガれる身体性みたいなところも、今後もっと見てみたいロットのロックな部分だなと"と伝えましたけど、『Ring Light』とか『MOON JUMPER』(M-9)は理屈抜きでアガる、踊れる曲だなと。
「コロナが終わった世界でみんな踊りたくなるだろうなと思って、もっとアフリカンなリズムとか、民族感の出る楽曲を作りたいなと。ほら、子どもだって考える前に踊っちゃうじゃないですか。大人になるとつい頭で考えちゃって体が固まっちゃうけど、頭より心が先に動くような音楽を作るという点でも、ジュブナイルというテーマはいいなと思って。工藤(明・ds)くんがハンドメイドのすごく変わったパーカッションを買ってきてくれてレコーディングしたり、僕もギターっぽくない音をつま弾いてリズムを出したりして」
――『MOON JUMPER』はライブでエグい盛り上がり方をしそうだなと。
「ね。僕もライブが楽しみ」
ようやく『Closer』を鳴らせる世界になった
――今作はシンセの使い方も大胆で、80sな音色がとめどなく鳴り続ける『Closer』(M-7)には驚きました。
「僕もこの曲を作ってるとき、Tears For Fearsみたいな感じだなと思った(笑)。何でこんな曲ができたのかよく分かってないんですけど、僕自身も驚きました。『Closer』は『けものたちの名前』('19)を出したぐらいにはもうあって、レコーディングもしてたんですよ。レーベルのスタッフもバンドのメンバーもみんな"大賛成!" みたいになってたんだけど、コロナ禍の当時に手放しで踊れる曲を鳴らす気にはどうしてもなれなくて。でも今なら...もう一回、今のバンドで鳴らしてみようと思って録り直して」
――自分の心境とか世間のムードにフィットしたときに出す方が、やっぱり刺さるもんね。
「そうなんですよ、ようやく『Closer』を鳴らせる世界になった。そうやって新しい気持ちで歌えたのはすごく良かったし、本当に自分でも意外な扉が開きました」
――そこはかとないエモーションがあるロット流のダンスミュージック。ブルース・リーの名言みたいな感じ(笑)。
「"Don't think. Feel(考えるな、感じろ)"ですね(笑)」
――今作はドイツでの生活から生まれた曲も多々あると思うけど、『Krumme Lanke』(M-8)はベルリンにある湖の名前で。フィールドレコーディングしたような環境音も聴こえる、ほぼ弾き語りの一曲で。日本では近所のコーヒー屋さんに行ってPCで曲を作るみたいな話だったけど、今は公園に行ってギターを弾いたり?
「日本だと何をするにも周りにすごく気を使わなきゃいけないけど、ドイツでは公園でギターを弾いていても誰も気にしないし、お弁当を食べているのと変わらない感じなんですよね。あと、冬になると湖が凍って、みんながしめしめとアイススケートを始めるんです(笑)。僕もおっかなびっくりで湖面を歩いてみたりして...そこから自分が見た景色を映しとる、その景色をどんどん重ねていく」
――写真を撮るように曲にしていく。
「そう、日記のように。そのフィルターを通して自分が、生活が、変わっていくのを感じましたね」
背伸びしないで、今の生活で出会った人たちと何かを作っていく
――ドイツ人脈のあと2組のゲストミュージシャンの話も聞きたいなと。
「共通の知り合いからつながった山根星子(vl,va)さんは、60年代から活動している伝説的なドイツのバンド、Tangerine Dreamのメンバーで。今は割とエレクトロニックなサウンドになっていて、ロット顔負けの機材量でものすごい電子音を鳴らすんです。星子さんはとてもきれいなバイオリンを弾く方で、楽曲を聴かせたら"ぜひ手伝いたい"と言ってくれたので、僕の部屋にマイクを立てて弾いてもらいました。うれしい限りですよね」
――山根星子さんは前述の『Krumme Lanke』と『Boy』(M-3)に参加してくれています。もうお一方の藤田正嘉(vib,mar)さんとの接点はいったい?
「それこそ僕がドイツに行く一つの理由にもなったポストクラシカルのピアニスト、Nils Frahmと同じレーベルのErased Tapesに所属している方で。今はもう日本に帰ってきて兵庫に住んでるんですけど元々はベルリン在住で、その時代の作品が僕はすごく好きで。僕が"ドイツに引っ越しました"とX(旧Twitter)に投稿したときに、藤田さんが反応してくれたんですよ。それも僕がドイツに行ったからこそ起きたことだし、『BEAR NIGHT 4』直後に藤田さんのプライベートスタジオでレコーディングさせてもらいました」
――ドイツ、東京のみならず、タイに兵庫と相変わらずフットワークが軽い(笑)。藤田さんの参加曲は『千の春』(M-4)、そして『Kid and Lost』(M-1)です。この曲はイントロからリフレインするカリンバの音も強烈ですが。
「藤田さんのヴィブラフォンもやわらかい空間を作ってくれています。"深くなる"というか。『Kid and Lost』は、裏テーマの"どこの国でもない民族音楽"の要素が散りばめられた曲になっていますね」
――近年は参加ミュージシャンもゲストも多彩なロットのアルバムだったけど、今作は少数精鋭での制作ですね。
「背伸びしないで、今の生活で出会った人たちと何かを作っていく。ベルリン何部作になるか分からないけど(笑)、第1弾はやっぱりそこでしたね。でも、日本で培ってきたポップソングを作ることも諦めない。『BLOW』とか『Closer』みたいな楽曲を入れられたのも良かったなと思うし、不思議で絶妙なバランスのアルバムができたんじゃないかな。僕の新しい人生を一緒に追体験できるような作品になればいいなと思ったし、それもあってアートワークも、僕が引っ越してから見てきた景色を素直に撮った写真を並べたので」
――それこそ『Kid and Lost』で、"何度でも あたらしい 扉を 開けてみせましょう"と連呼しているように、ロットの次のタームを感じさせる作品になりましたね。個人的には、最後の『NIN / GEN』(M-10)の、"まるで 僕ら 人間みたい"という一節が...少ない言葉と音で、景色を変えていけるのが素晴らしいなと思って。
「すごく静かで、空白を楽しむ。大人な楽曲になりましたよね。日本だと作れなかったような気がするし、何だか不思議な空気をまとってますよね。正直、住む場所でこんなに変わるのかと、作った後に思いました」
もっともっと衝動に従ってほしい
――毎回ロットはアートワークにも並々ならぬこだわりを感じさせますが、『8』はデジタルでの配信とアナログ盤、ライブ会場とHPで販売するZINE+CDという形態で。
「CDの12cm×12cmの歌詞カードより、もっと大きい世界を音楽と一緒に作りたいのが前からあって。だから今回は、アルバムの世界観を伝える僕が撮った96ページ分の写真と、そこに歌詞と文章も載っているボリュームのあるアートブックに、CDがインクルードされた『BEAR MAG vol.3 -8- Photo Book』(※ハイレゾ音源DL Code付)というZINEを作ってみました。レコードを買う人もいれば、配信で聴く人もいる。でも、その真ん中はCDじゃなくてまた別の形でもいいんじゃないかなと思って、本として成立する音楽体験に今回はトライしました」
――フィジカルでリリースすることの意義について毎回、"僕たちが音楽を形にできる唯一の作業"、"音楽なのに重さがあるのが良い"etcと語ってきてくれたロットだからこそ、今回は配信がメインになるのかとどこか寂しい気持ちもあったけど、CDというフォーマットすら飛び出して形にするという今の話を聞いて、すごく納得しました。
「もっと自由でいいはずなのに、ずっと慣習でやってきたことに固執し続けちゃう。それを一回断ち切ってみようかなって。以前から写真も撮っていたし、それを本にしてみたい気持ちはあって。でも、音楽と関わりのないものを出すのも違うし、きちんと音楽とつながった作品を作りたい。今回はそれが形になったのでうれしいです」
――そして、アルバムのタイトルは『8』。8枚目なのはもちろんあると思いますが。
「最初はアルバムタイトルに1曲目の『Kid and Lost』もいいなと思ったけど響きが悲しいし、『極彩色の祝祭』も『無限のHAKU』も『HOWL』もシンボリックな言葉があったから、逆に言葉じゃないところで作品に名前を付けてみたいなと。『8』は横にすると終わりのない無限=∞だし、メビウスの輪じゃないけど、結局、僕らは同じところをぐるぐる回ってるだけなのかもしれない。あと、漢字だと末広がりの八にもなるし、日本には"八方塞がり" という言葉があるように、8つの空間に仕切られる価値観を大事にしてるから、『8』は重要な数字だなと思うし」
――後付けにしたって、巡り合わせを感じるタイミングですね。
「数字のタイトルはずっと付けたかったんですけど、例えば一つ前の『7』だと"七つの大罪"とかもっとキリスト教っぽい、ダークな感じになっちゃうからイヤだなと思って。今回は『8』という数字を背負って歌う景色が浮かんだというか、ライブであの数字がバーンと僕らの後ろにそびえ立つ絵がイメージできたんですよね」
――これまでもツアーはさまざまな会場で行われてきましたが、今回はオーソドックスにライブハウスでやると。
「北海道だけ、今やロットのホームみたいなモエレ沼公園 ガラスのピラミッドでやるけど、今回は楽曲がシンプルなので、"ライブハウスで踊れる"ということをしっかりやりたくて。コロナ禍は椅子があることでもみくちゃにならないことがみんなの安心につながったと思うけど、今回はむしろもみくちゃになってほしいんですよ(笑)。頭じゃなくて体で聴いてほしい。今は思わず叫んでしまうようなライブがやりたくて。もっともっと衝動に従ってほしいというか、僕らはもう3年以上十分に頭を使って考えてきたじゃんと思って」
――"Don't think. Feel"の精神で(笑)。リリースツアーの関西公演は、年内は11月12日(日)に京都メトロ、年明けは2月18日(日)に大阪・BIGCATが控えています。
「今回はクラブヴァイブな曲もあるし、京都はメトロがいいんじゃないかなと思って。すごく好きな場所の一つなので、どんな音になるのか楽しみですね」
――BIGCATはロットの音楽を聴くには最高の空間だと思うので、満員のお客さんでもみくちゃになりたいね(笑)。
「そうですね(笑)。本音を言えば、もうみんな来てほしい! 本当に来てほしい」
――そして、三船くんがリリース解禁の際にもSNSでステートメントを出していたけど、これからは世界での活動を本格化させるぞと。その辺も今後は期待です。
「まだ交渉中なんですけど、来年は日本以外でも活動ができるといいなと思っていて。それをやりたいがためにロットは動いてきたし、可能性を広げていきたい。せっかくヨーロッパ支部ができたんだから(笑)」
Text by 奥"ボウイ"昌史
Photo by 金本凜太朗、三船雅也
(2023年11月10日更新)
Album
『8』
【Digital】発売中
【LP】発売中 4400円
SPACE SHOWER MUSIC
PEJF-91049
<収録曲>
01. Kid and Lost
02. BLOW
03. Boy
04. 干の春
05. Exist Song
06. Ring Light
07. Closer
08. Krumme Lanke
09. MOON JUMPER
10. NIN / GEN
ロット・バルト・バロン…シンガーソングライターの三船雅也(vo&g)を中心として活動する、日本のインディーロックバンド。『ROTH BART BARON』(‘10)、『化け物山と合唱団』(‘12)という2作のEPを経て、1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』(’14)はアメリカ・フィラデルフィアで、2ndアルバム『ATOM』(’15)はカナダ・モントリオールで制作。’18年には3年ぶりとなる3rdアルバム『HEX』をリリースし、同年よりバンドとリスナーがつながる新たなコミュニティ“P A L A C E”を立ち上げるなど、独自のマネジメントを展開。’19年にリリースした4thアルバム『けものたちの名前』は、多くの音楽メディアにて賞賛を得る。’20年7月には中原鉄也(ds)が脱退。10月には5thアルバム『極彩色の祝祭』をリリース。’21年は、ポカリスエットのCM曲にアイナ・ジ・エンド(ex.BiSH)とのプロジェクトA_oとして『BLUE SOULS』が起用され話題に。12月には6thアルバム『無限のHAKU』をリリース。’22年は、ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞を受賞した映画『マイスモールランド』の劇伴音楽と主題歌を手掛け、11月には7thアルバム『HOWL』をリリース。’23年7月には東京・日比谷野外大音楽堂で主催イベント『BEAR NIGHT 4』を開催、『FUJI ROCK FESTIVAL’23』に出演。10月18日には最新作となる8thアルバム『8』をリリースした。
ROTH BART BARON オフィシャルサイト
https://www.rothbartbaron.com/
『TOUR 2023-2024 “8”』
【宮城公演】
▼11月4日(土)仙台 darwin
チケット発売中
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。
▼11月12日(日)18:00
京都メトロ
一般(全自由)5500円
学生(全自由)3300円
(入場時に学生証をご提示ください)
info@rothbartbaron.com
※大人1名様につき小学生以下1名様同行無料。
一般発売日未定
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。
▼2月18日(日)17:00
BIGCAT
一般スタンディング5500円
学生スタンディング3300円
(入場時に学生証をご提示ください)
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※大人1名様につき小学生以下1名様同行無料。
「大阪在住ながら、この夏は東京の『BEAR NIGHT 4』や新潟の『FUJI ROCK FESTIVAL’23』に足を運びました。どれもロットが連れて行ってくれた、今でも忘れられない思い出です。フジロック出演を終えた夜のオアシスでは、三船くんと西池(達也・key)さん、大田垣“OTG” 正信(tb)といろんな話をしましたが、感慨深くてクソ最高だった! 彼らがそうであるように、自分にとってもROTH BART BARONが行動の起点で人生の基準の一つであることを再認識。そして、あの頃はまだ未完成だった『8』のビジョン、リリース形態、ツアーの切り方etc…今回のインタビューで全ての疑問が解消されましたよ。オンライン越しに現れた三船くんは、柔らかな日差しの差し込む天井の高い異国の一室から、グッとくる言葉を重ねてくれました。今回の『8』は音楽もアガるが、相変わらずインタビューもアガるわ。ライブではどうなっちゃうんだろ。『MOON JUMPER』でマジ昇天しそうである(笑)。ちなみに、この文章を書きながら何気なくドイツと日本の時差を調べてみたら、何と“8”時間。ロット、神懸かってるな!」