ホーム > インタビュー&レポート > 「“吠える”こと…それがこの世界で今一番欠けている気がして」 時代に潜む違和感も、忘れられた喜びも歌にして―― 失われた3年間を奪還するROTH BART BARONが描いた最前線 『HOWL』インタビュー&動画コメント
『極彩色の祝祭』『無限のHAKU』、そして『HOWL』を作っていく中で
どんどんオープンマインドになった気がします
――『極彩色の祝祭』('20)『無限のHAKU』('21)はリモートでのインタビューだったので、ようやく、ですね。
「本当に。フェスも復活してきたし、お客さんもそれを感じていて。現場のスタッフさんが喜んでいたのもすごく伝わってきたし、少しずつ開けてきましたよね」
――コロナ禍においてもロット(=ROTH BART BARON)は限りなく通常運転でずっとライブをやっていたから、そのグラデーションを一番肌で感じられているかもね。
「そうですね、何なら通常運転よりライブが多かったぐらいですから(笑)。'22年はだいぶムードが変わって...やっぱり『無限のHAKU』とか『極彩色の祝祭』の頃はピリピリしてましたからね。"コロナ3部作"と言っていいのかは分からないけど、『極彩色の祝祭』『無限のHAKU』、そして『HOWL』を作っていく中で、どんどんオープンマインドになった気がします。世の中みんながクローズしていたのが浮き彫りになって僕の方がオープンになっちゃったというか(笑)、そうならざるを得なかった。責任感で音楽をやっているわけじゃないけど、僕がダークになるとバンドも自ずとダークになっちゃうから。心が大きくなったと言うと大げさだけど、扉がパカパカ開いたような感覚でした」
――それはもう、ある種の生存本能かもしれないね。
「そう、やろうと意識して、目標としてそうなったわけじゃなくて、自然となっていたという」
――何より'22年は、JR東日本CMソングに『K A Z E』(M-2)、Disney+のドラマ『すべて忘れてしまうから』に『糸の惑星』(M-3)、TBSドラマ『階段下のゴッホ』に『赤と青』(M-4)、茨城県つくばみらい市のシティプロモーション曲に『MIRAI』(M-10)と、ロットがタイアップ曲を担当することにもはや驚かなくなってきたのが、よく考えたらすごい変化だなと。しかも、それがコンペとかじゃなくて。
「ロットにぜひやってほしいと、心から望んでくださる方と一緒にやれて」
――さらには、前回のインタビュー時に"映画監督の岩井俊二さんとも接点ができたし、いずれサントラも..."とか言っていたら、本当に実現して。映画『マイスモールランド』('22)の劇伴制作の経験は、やはり大きかった?
「すごく大きかった。作品を通して、シーンのために音楽を作って...音楽が勝ち過ぎるとセリフが聞こえなかったりもするから、ボーカルより繊細というか、演奏とのバランスにはめちゃめちゃ気を使いました。かと言って、絵に合い過ぎてもけれん味がないし、流されて相乗効果は生まれない。だからあえて外してみたり、心情をくみ取ってはいるけど、セリフでは言えない気持ちを音で伝えるとか...本当に音でできることがあり過ぎて。普段なら曲だけで表現すればいいものが立体的になったのは、ポカリの経験も生きていると思うんですよ。あれがあったからできた感じもあるし。もう全神経を集中させないと作れない感覚で、歌もほとんど歌ってないし、得意技を封じられたような状態で音を作ったのはすごくいい体験だった。何せ初めてだったから、作り終わった後に"もっとこうしたい"みたいな思いもすごくあって...でも、それによって、ロットの楽曲を彩る上ではより進化できたと思いますね」
いろんな人たちとの出会いの集合地点みたいなものを
アルバムでも作っていく
――以前、アルバムの制作時にはまずテーマが先に浮かぶと言っていたけど、『HOWL』におけるそれはあった?
「(毎回ゲストを呼んで)ずっとやってきた『HOWL SESSION』の集大成として、'22年のゴールデンウィークにKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオで1週間連続で毎日違う演目の公演をしたり、その後9月にブルーノート東京でもジャズ編成で『HOWL SESSION』をやって...そういう、いろんな人たちとの出会いの集合地点みたいなものを、アルバムでも作っていくことになりそうだなという予感はあって。そこにコロナ禍で距離がある中、顔は見えないけどつながっている関係性みたいなもの...それを現代における狼の遠吠えに例えるアイデアが浮かんで、大事に温めてきた『HOWL』="吠える"という言葉を使うのは今かもしれないと思って。見えない誰かと吠え合うようなつながりを、人間は忘れちゃってるんじゃないか? 一番大事な見えないものをもう一度信じるにはどうしたらいいのか? それって現代における一つの力になるんじゃないか? みたいなことを考えて作り始めたんですよね」
――そもそも、同じ顔ぶれだけと演奏し続けてバンドが停滞しないようにと'17年頃に始めた『HOWL SESSION』が、水面下で地肉になっていた感じですね。
「自分から知らない人に会いに行った結果が、今のバンドメンバーや関係性につながっていたりするので、そう考えると確実に『HOWL SESSION』があって今がありますよね。あと、この3年間って、情報だけがバンバン入ってきて頭でっかちになっちゃって、デジタル上でつながってはいるけど実際には触れてもいないし、身体感覚は衰えていく一方じゃないですか。子どもたちは学校で給食を食べるときも話しちゃいけないとか、そんなことを3年も続けているのってヤバくね? と思って。そうやって忘れちゃった感覚を取り戻すために、人とつながるために、体を使って"吠える"こと...それがこの世界で今一番欠けている気がして。狼は孤独で勝手にほざいてるんじゃなくて、仲間がいると分かっているから吠える。人がいるという希望があるからこそのコミュニケーションなので。それが'22年を非常によく表していることに焦点が合って、着想を得た感じですね」
――先述したタイアップの話も、ロットがブレないスタンスで吠え続けた結果というか、それに気付いて共鳴してくれた人たちが少しずつ集まってきたのもあるだろうし。リリースに際したYouTubeの連続企画でも竹内(悠馬・tp)くんが、"常に日本の音楽業界に吠え続け、訴えてきたロットを、分かってくれる人たちがちょっとずつ現れてきたこのタイミングで『HOWL』というのはドンピシャだ"と(笑)。
「アハハ!(笑) 素晴らしいですよね。竹内くんって本能的に的確な言葉を使える人なんですよ。しかもあれ、インタビューしてるのは実は僕で(笑)。ずっと吠えてきたんですけど、今回は作品として吠えてみたという、うん」
自分で自分に感動できるのはいいサインだし
そういうことは人生でもそうはない
――今作の起点となった曲は、やはり『月に吠える feat. 中村佳穂』(M-1)になるのかな?
「相変わらず力のある一曲でアルバムが動き出すというか、運命の歯車がガチャガチャと回り始めるような曲ができちゃうんですよね。この曲は'22年の正月ぐらいに、コーヒー屋さんにコンピューターを持ち込んで作ったんですけど、2時間ぐらいでできちゃって。"あ、これはすごくいい曲だ"と自分で自分に感動できるのはいいサインだし、そういうことは人生でもそうはないので」
――リリース当日のインスタライブでは全曲解説もしてくれて、この曲は"自分の声じゃないように歌おうとしてる感覚があった"と。そこで中村佳穂に白羽の矢が立った。
「彼女は音楽に対する瞬発力とか嗅覚が異常に優れていて、自分でソングライティングもできてずっと歌ってきたから、勘がいいとかそういうレベルじゃなくて、動物的に"速い"んですよ。"せーの"でタイミングを合わせなくてもいけちゃう。それぞれのアーティストに人生と歌の距離感があって、お仕事で歌えるバランスの人もいれば、歌そのもののような人もいる。セルフプロデュース力とかビジュアル力とかいろんな能力があるけど、彼女は音楽自体のパラメーターがすごく高くて、音楽に一番近いシンガーなんじゃないかな。あと、東京・日比谷野外大音楽堂で一緒にやったときも思ったけど、彼女の核はやっぱりライブですよね。毎回違うし、フェイクとかスキャットもアドリブでできる。演劇的に、肉体的に、声であそこまで表現できる人はなかなかいない。自分で生み出せる能力、ステージに立ったときの爆発力が彼女らしさで...生き物みたいな音楽をやっている人という印象でした」
――三船くんにそこまで言わせるシンガーと、フィーチャリングが実現できて本望だね。ただ、『けものたちの名前』('19)の冒頭を飾る『けもののなまえ feat. HANA』もそうだったけど、今回もアルバムを再生してしばらくは三船くんの声が聴こえてこないパターン(笑)。
「いろいろ考えたんですけどまたやっちまったというか、あのアレンジに落ち着きました(笑)」
――いやでも、この曲のマーティ(・ホロベック)のベースもエグい。アルバムの1曲目かつ中村佳穂が参加した重要曲で、これをぶっ込んでくるのかと思って。
「すごいでしょ(笑)。僕がシンセサイザーで作ったラインをマーティがベースで翻訳するとき、どうせならすっごく変な音、シンセか弦かも分からないような音を作ろうと。ミックスが終わった後にマーティが、"今までレコーディングしたベースの中で一番いい音!"とうれしそうに言ってくれたときは感動しましたね」
――今回のアルバムでは歌を立たせながらも、サウンドデザインやアレンジ的には結構攻めてるもんね。だって、表題曲の『HOWL』(M-5)なんかも...。
「もう攻め攻め(笑)。今まで積み重ねてきたことと、まだロットがやっていなかった革新性の両方が『HOWL』にはあるし、変わりゆく時代に適応するというか、変化していくことがロットの強さだと思っているので。この曲は中でも一番新しい曲だったので、『月に吠える feat. 中村佳穂』と裏表の生き別れた双子の姉妹みたいな関係性で、近いけどちょっと遠い曲、対になる曲になればいいなと思って作ったんですよね」
――あと、今やロットの専売特許というか、ゲストとか一曲単位じゃなく、ここまでストリングスありきでアルバムを構成するバンドも珍しいと思うし、『陽炎』(M-9)もホーン共々ため息が出るような美しさだけど、『K A Z E』なんかは三船くんが歌っていて泣きそうになると言うのも納得の躍動感とエモーションで。
「'22年の裏テーマに、ストリングスをもっと美しくフィーチャーして、彼らのクリエイティブもバンドメンバーのようにロットの音楽に昇華したいというのがあって。『マイスモールランド』のサントラも僕がプロデュース/アレンジしたHana Hopeの曲も、ロット自体も手伝ってもらったから、'22年はまさにストリングスと一緒にやってきた一年だったんだけど、『HOWL』ではそのアレンジが大爆発でしたね。KAATでストリングスと演奏したのも大きくて、『無限のHAKU』もすごいものができたと思ったけど、今作でそれ以上にいけたのはすごくうれしかったです」
――それも『けものたちの名前』の頃から、バンドと馴染んでいく行程をじっくり重ねられたからこそ。
「そうなんですよね。例えば『K A Z E』は、アコギは淡々とコードを弾いて、ピアノはちょっとランダムにズレていって、ベースはずっと同じフレーズを弾いているのにドラムはそれを無視したり...いろんなレイヤーで風が吹いている状態を音で表現したくて。そこでストリングスチームが応えてくれたというか...いくら事前に譜面を見ても、音源のデータを聴いても、やっぱり実際に音を出すまではどうなるか分からないんですよ。レコーディングで"ドーン!"と弦が鳴ったときの感動は、『K A Z E』が一番だった気がします。自分の声に絡んでくる弦を後ろに感じながら歌うと、感情を揺さぶられて...自動的に泣いちゃうという(笑)。切なさと情熱の両方があるんですよね。本当にすごいと思いますね、(徳澤)青弦(vc)さんのストリングスチームは」
こんなに特別な曲になるとは思わなかった
――今作の中で個人的に好きな曲は、『赤と青』、『O N I』(M-6)、『Ghost Hunt (Tunnel)』(M-7)で。中でも『赤と青』は、アルバムがひと通り仕上がってからオファーを受けて制作したタイアップ曲だったことに驚きました。それでよくドラマの主題歌としてもアルバムの一角を成すようにも作れましたね。
「"ようやく全部終わったぞ!"と思った途端に、"はい、再集合!"って(笑)。本当は次のアルバムで『赤と青』みたいなことをやろうと思ってたんですよ。"ロットがエイトビートをやるって面白くね?"みたいな。そうしたらタイアップの話が来て...そのムードとハマッたんですよね。だから次のアルバムではまたイチから考えないと(笑)」
――新しいリズムを作り出すことが一つの命題だと公言するロットが、エイトビートという王道に挑むとどうなるのか? ただ、エイトビートってシンプルだからこそメロディが問われるし、そこが良くないと成立しないシビアさが同時にあって。『赤と青』はビート自体にも絶妙な質感があるけど、何より曲自体がいいなと。
「そういった意味でもロットの新しい挑戦だったし、シンプルが故に他のいろんな部分を磨かなきゃいけない。ちょっとソウルな匂いもあり、物静かな感じ。結果的にアルバムに収録されたけど、今までの曲を忘れて新鮮な気持ちでもう一回線を引き直せたのは、この作品にとっても僕にとってもよかったですね」
――そして、あえて『HOWL』の世界に寄せなくても、むしろつながっていた。
「結局、一人で夜をさまよう、仲間を探そうとしている曲だから=『HOWL』だなと。それに、『HOWL』には情熱的な曲が多いので、こういうちょっと静かな楽曲が入る方がいいなと思って。去年、台湾のフェスで初披露したんですけど、こんなに特別な曲になるとは思わなかった。何かね、静かなのに盛り上がる」
――この曲があるのとないのとではアルバムのインパクトが変わってくるから、入って正解だったなと。あと、この曲だけ今度のツアーに新たに参加するベーシスト、ザック・クロクサルが弾いてるんだよね。
「マーティが忙し過ぎて、レコーディングが一回終わっちゃったらもうつかまらなくて(笑)。ただ、マーティは彩りが豊かでラインもよく動くベーシストなのに対して、『赤と青』はずっと同じフレーズの繰り返しで。でも、ザックはただ同じことを繰り返しても微妙に違う、何とも言えない抑揚を醸し出す天才なんですよ。そこはマーティとガラッとキャラが違うから、むしろこの曲はザックだと思ったんですよね」
全曲に脚本みたいなものがあるので
――逆に『Ghost Hunt (Tunnel)』なんかは、マーティのベースが炸裂しまくってもう最高! ザ・ローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』('68)とかに近いサイケなフィーリングをモダンにしたという独特の浮遊感で。
「『Ghost Hunt (Tunnel)』はライブでもめちゃめちゃ評判がいいし、外国の方からも"あのアレンジはヤバい"みたいなメッセージが来るのでビックリして。ロットの中ではちょっと珍しい、とにかくリズムから始まった曲ですね」
――あと、この曲では"ゴースティング"=こっちの問い掛けに返事がないのにSNSにはポストしているような、自分がゴーストのように扱われる現象をテーマにしていて。インスタライブで、"恋人が死んじゃったけど、パートナーのアカウントからはまだポストされている。それを頼りにその人を探しに行って..."みたいなプロットを三船くんが話してくれたけど、本当に一曲一曲が映画になりそうなアイデアだなと。
「アルバムを5年ぐらい出さなくていいなら映画も作れるかもだけど(笑)、全曲に脚本みたいなものがあるので、そういうフラッシュアイデアのストーリーからいつも作り始めるんですよね。歌詞には表れないキャラクターたちの世界があって、このシーン以外でも普段は家に帰って寝てるんだろうな、みたいなイメージも自分の中にはあるんです」
――元々ロットの楽曲は映画的だけど、歌詞の前段階にそういう行程があることを知って、ロットの想像性の源泉に触れた気がしました。サントラを作った影響というよりも、根本的な作り方がそうだったという。『糸の惑星』の、"言えないことがこんがらがって大きな玉になる"みたいな発想も、大人になるとなかなか出てこないと思うし。
「聴いてくれた人が勝手に解釈してくれたらいいんですけど、『糸の惑星』は絡まった毛糸玉が街中に浮かんでるイメージで...って映像化がすごくめんどくさいやつ(笑)」
――それに、タイアップでキャッチーさをまるで追わないこの曲調もすごい。これをよく許したな、みたいな(笑)。
「本当だよね(笑)。でも、ワールドワイドに配信するサービス初の日本のドラマプロジェクトということで、世界中の人が見る可能性があるから、逆に攻めた音源の方が...この曲はかなり音に間があるんですけど、何秒以上空白にしたらダメとかいう放送コードのギリギリを攻めてみたという(笑)。意地悪じゃなくて、有機的に止まる感じ...音にならない、"あ、隣に誰かいるな"ぐらいの気持ちを、ちょっとした余白に入れたつもりなんですよね」
自分より年下の人と音楽を作りたい思いが、今はすごくある
――さっき個人的に好きだと言ったもう一曲の『O N I』における、問答無用にリフでアガれる身体性みたいなところも、今後もっと見てみたいロットのロックな部分だなと。
「ギターをかきむしって、本当にシンプルに体を使って曲を作ってみたくて。大人の空白があるアルバムの中に、まさかの10代みたいな曲が入りました(笑)」
――ただ、『O N I』の制作に関しては、歌詞に悩んでいた時期と重なったみたいですね。
「あれもこれもやらなきゃいけない。ヤバい、みんな待ってるし、でも来週ライブだし、みたいな(笑)。11曲どころかそれ以上の歌詞が僕の心臓に思いっきりのし掛かっていた時期でしたね」
――そのときにたまたま、小学生の男の子2人が話していた言葉を耳にして。
「そう。"僕さ、一生懸命人間になろうとするんだけど、いつもダメになっちゃうんだよね"って...それを聞いてもう道端で膝から崩れ落ちて。『鬼滅の刃』とか『チェンソーマン』の話をしていたかもしれないですけど、もしかしたら全ての子どもたちは最初は人間じゃなくて、長い年月をかけて変化していくのかもしれない、みたいなストーリーがそこでまたブワッと浮かんできて」
――この3年間、自由を奪われた子どもたちのために、そして後進の世代に、音楽で何ができるのか? そんなことを三船くんも思うようになったのかなと感じます。
「そうですね。まぁ勝手にやるし勝手に聴いてくれ、ぐらいの気持ちではいるけど、つながれる瞬間があったら一緒に何かやろうよって。それが今回の『MIRAI』だったり、それこそ'20年に『場所たち』というタイトルで石川・金沢21世紀美術館でやったワークショップだったり...A_oの夏編のアレンジではCMに出ている高校生のみんなに合唱してもらうとか、自分より年下の人と音楽を作りたい思いが、今はすごくあるんですよね」
――それはここ最近の三船くんの、ロットの新しい目線ですよね。
「ね。自分が成長したのもあるし、世代的なこともあると思うんですよ。音楽をやっているとまだまだ先輩が多いから、かわいがっていただくのはうれしいんだけど...(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの)Gotch(vo&g)が僕らをフックアップしてくれたように、次の世代に同じことができたら、それは素敵なことだと思うから。ただ、そうは思いながらむしろ、小学生の突然の会話に横っ面を引っぱたかれるような刺激を受ける、みたいな(笑)」
――この小学生、"あのときの僕です!"っていつか気付いてくれたら面白いんだけど(笑)。
「アハハ!(笑) 彼らの発想はすごく豊かで、現実とイマジネーションの区別がつかないのがいいところだなと思うし、自分にもそういう時期が確かにあったから、この思いを忘れないようにしなきゃなって。今や空想より現実に圧倒されることが多いけど、想像力はやっぱり大事だなと思いますね」
人間の汚い部分も見て見ぬ振りをしないで作品にしたい
――『場所たち』(M-8)は、『HEX』('18)の制作時から約5年にわたり何度も録り直していたとは...何百曲とストックがあるのに、そこまでこの曲に執着したのは何なんだろうと。
「言ったら、'20年のめぐろパーシモンホール 大ホールでも、『場所たち』をやったんですよ。あのときにバンドにとっても来てくれたお客さんにとっても、やっぱり特別な曲なんだとよく分かったのが一つ。革新性が欲しいと思い続けながらできなかったスランプを超えて『HEX』を作れたけど、それでも『場所たち』は新し過ぎて、当時のロットには手に負えなかったのが一つ。それからずっとライブで鍛え上げてきて、今のバンドなら表現できる確信があったのと、ハウスはあるけどホームはない=家があっても行く当てがない人がたくさんいる現代に居場所を作る曲、今の時代に鳴るべき内容だなと思って」
――なるほど、5年越しの執念の正体が分かりました。
「そうこうしてる間に、(歌詞にある世界の人口の)70億人が5年で約80億人になっちゃったんですけど(笑)。だから、ロット史上ちょっと面白い歴史を持った曲ですね。でも、5年生き抜いたということは100年残りますよ(笑)。ある人に、"三船くんが10年ぐらい前に作った『小さな巨人』('12)とかを、今でも輝きを持って歌えるのは本当にすごいことだよ"と言ってもらえたことがあるけど、僕もそういうバンドがずっと好きだったので。ビートルズとか他の60年代のバンドがみんな、"あの子が好きだ"とかいう恋愛の歌詞を歌っていた頃に、"俺たちの世代の話をしよう"と歌ったザ・フーはやっぱり面白いというか、ロットもそれに近い気がするんですよね。時代性はあるけど普遍的で、大人になって笑っちゃうようなものを題材にしない。その感じが『場所たち』にもあったんだなって」
――そう考えたら『HOWL』は、ロットのいろんな伏線を回収したアルバムのような感じもするね。そもそも『MIRAI』なんかもさ、"街と音楽を作る"なんてオファーが舞い込んで来ること自体がなかなかないよ(笑)。
「ロットがド真ん中のJ-POPをやってるならまだ分かるんですけど、だいぶオルタナティブな僕たちで本当にいいんですか? みたいな(笑)。ありがたいですよね。でも、これまでにワークショップとかをやった経験があったから、大きなプロジェクトでもやれますと言えたし、街と一緒にやるなら、その街に生きている10代の子たちや中高生と何かを作りたかった。僕の一つだけのわがままをそこに置いてやらせてもらいました。最初は1000人同時に歌おうというハチャメチャなプロジェクトだったんですけど(笑)、コロナ禍で厳しくて。だからディスタンスを保って、街中に人の列を作って...みたいなことを映像チームが考えてくれました」
――そして、『髑髏と花 (дети)』(M-11)でアルバムは締めくくられるけど、『MIRAI』でもきれいに終われたところを、あえてそうはせず。
「すごく悩んだんですけど、今回は明るくてエナジーがあるアルバムだから、ちょっとダークな一面を最後に残して終わるのもいいかなと思って。映画『ターミネーター2』('91)で、高速道路にヘッドライトだけが映って先が見えないまま走るシーンがあるけど、本当に解決したのか、希望があるような、ないような...'22年もそういう時代だったじゃないですか。コロナ禍の終わりは見えてきたけど本当に? みたいな違和感がちょっと残っている感じを出したいなと。人間の汚い部分も見て見ぬ振りをしないで作品にしたい。そういう意味では吠えてますよね」
物を作るのはやっぱり楽しいから。そういう気持ちで音楽も作っているので
――アートワークも毎回凝っているけど、『HOWL』はいつも以上に気合いを感じました。
「CDがいよいよ日本でも衰退してきたじゃないですか。そんな中で僕らはなぜCDを作り続けるのか? アーティストとしてもう一回立ち返らなくちゃいけなくて(とCDを手に取る)」
――インスタライブでもこのジャケットへの並々ならぬこだわりを語ってくれたけど、"僕たちが音楽を形にできる唯一の作業ってここでしかないから"と言っていたのには、胸を打たれました。
「こいつは死んだ後も残るじゃないですか。僕たちの生活はもはやデジタルとは切っても切れないけど、例えばみんなが使ってるアプリが突然"今月で閉じます!"となったら、何万人とフォロワーがいる人だって一瞬で意味がなくなるわけで。あと、『HOWL』にはハイレゾ音源のダウンロードコードを付けているので、人によってはいいリスニング環境で聴けるし、データとしてもずっと聴くことができるから」
――サブスクに関しても、ロシアとウクライナで戦争が起きて、ロシアのファンがロットの曲を聴けなくなったと。
「そういう国際的な問題で一瞬にして聴けなくなっちゃうこともある。もっと確かなものって何だろうと考えたとき、ちゃんと手触りが残せるもので、"あ、ちょっと指紋がついちゃった"とかの方が楽しいというか」
――三船くんがCDを指して、"重みがあるって楽しいじゃないですか。音楽に重みがあるって、ちょっと矛盾してるけど"って...いいこと言うなと思ったよ。
「まさしくその身体性みたいものを大事にしたいのがあって。ずっとロットはそうやってきましたけど、物を作るのはやっぱり楽しいから。そういう気持ちで音楽も作っているので」
こんなライブは他にないと思ってもらえるように
――『ROTH BART BARON "HOWL" TOUR 2022-2023』も始まっていますが、ストリングスを迎えた東京、大阪、バンド編成での静岡、石川の4本を終えた手応えはどう?
「ビルボードライブ大阪と東京・COTTON CLUBのストリングスもめっちゃよかったし、映像としてもYouTubeに残すことができた。静岡では『Ghost Hunt (Tunnel)』がバカ受けして、その後のラジオの生放送のリクエストがそればっかりに(笑)。ライブの雰囲気も新しいお客さんが来てくれている感じがしますね。各地にライブで帰って来れるのは毎回幸せだなと思いつつ、今までの曲も全然違った解釈で演奏できるようになって...進化しちゃったというか」
――関西公演は2月18日(土)京都・磔磔、翌19日(日)大阪・BIGCATで。初ワンマンとなるBIGCATは、天井が高くて照明も映える会場だから楽しみですね。
「僕もすごく好きな会場で、ずっとあそこでワンマンをやることを夢見ていたので、ようやくかなってうれしいです。照明さんも連れていくし、関西の人に届くといいな。ぜひ来てほしいです。その頃にはいろんな公演を経て楽曲が鍛えられているはずなので。今のバンドは本当にすごくて、"いきなりこんな完成度で見せられるの!?"みたいな衝撃が初日からあったんですよ。日本のロックのスタイルとも違うし、外国のバンドとも違う。この唯一無二な感じをだまされたと思って今のうちに見てほしいんですよね。フル編成でやるファイナルの3月10日(金)東京・昭和⼥⼦⼤学 ⼈⾒記念講堂も、BIGCATも、どの会場もそうだけど、あの空間を一つの楽器だと思って毎回演奏しているので」
――ということは、そこにあなたがいるかいないかで鳴りも変わる。
「僕たちからするとそこにいる人たちも楽器の一部で。だから一緒に吠えてくれと(笑)。パフォーマンスも照明も装飾も、総合体験としてのロットがこれからも成長して、こんなライブは他にないと思ってもらえるようにしたいし、そこにみんなも巻き込まれてくれたら楽しいな。今後ロットはもっとすごい体験を生み出すことになると思うから」
――ツアーを回っていく中で、一匹一匹だった狼がいつの間にか群れになって、ファイナルを迎えられたらいいね。
「そのためにも『HOWL』を引っ提げて、ツアーで吠えまくろうと思ってます!」
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2023年2月 1日更新)
Album
『HOWL』
【初回限定盤Blu-ray付】
発売中 4700円(税別)
SPACE SHOWER MUSIC
PECF-91038
【通常盤】
発売中 3000円(税別)
SPACE SHOWER MUSIC
PECF-91038
【アナログ盤】
発売中 3300円(税別)
SPACE SHOWER MUSIC
PECF-91038
<収録曲>
01. 月に吠える feat. 中村佳穂
02. K A Z E
03. 糸の惑星
04. 赤と青
05. HOWL
06. O N I
07. Ghost Hunt (Tunnel)
08. 場所たち
09. 陽炎
10. MIRAI
11. 髑髏と花 (дети)
<Blu-ray収録内容>
『無限のHAKU』~Final Full Concert~
01. EDEN
02. みず/うみ
03. iki
04. 春の嵐
05. Shopping Mall Monster
06. BLUE SOULS
07. あくま
08. GREAT ESCAPE
09. Eternal
10. Helpa
11. ひかりの螺旋
12. 霓と虹
13. HAKU
14. King
15. Ubugoe
16. NEVER FORGET
17. 月光
18. けもののなまえ
ENCORE
19. 極彩|IGL(S)
20. 鳳と凰
21. N e w M o r n i n g
ロット・バルト・バロン…シンガーソングライターの三船雅也(vo&g)を中心として活動する、日本のインディーロックバンド。『ROTH BART BARON』(‘10)、『化け物山と合唱団』(‘12)という2作のEPを経て、1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』(’14)はアメリカ・フィラデルフィアで、2ndアルバム『ATOM』(’15)はカナダ・モントリオールで制作。’18年には3年ぶりとなる3rdアルバム『HEX』をリリースし、同年よりバンドとリスナーがつながる新たなコミュニティ“P A L A C E”を立ち上げるなど、独自のマネジメントを展開。’19年にリリースした4thアルバム『けものたちの名前』は、多くの音楽メディアにて賞賛を得る。’20年7月には中原鉄也(ds)が脱退。10月には5thアルバム『極彩色の祝祭』をリリース。’21年は、ポカリスエットのCM曲にアイナ・ジ・エンド(BiSH)とのプロジェクトA_oとして『BLUE SOULS』が起用され話題に。12月には6thアルバム『無限のHAKU』をリリース。’22年は、ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞を受賞した映画『マイスモールランド』の劇伴音楽と主題歌『N e w M o r n i n g』を手掛け、8月には東京・日比谷野外大音楽堂で『BEAR NIGHT 3』を開催。11月9日には最新作となる7thアルバム『HOWL』をリリースした。
ROTH BART BARON オフィシャルサイト
https://www.rothbartbaron.com/
『ROTH BART BARON
“HOWL” TOUR 2022-2023』
~with Strings~
【大阪公演】
▼11月11日(金)ビルボードライブ大阪
【東京公演】
▼11月18日(金)COTTON CLUB
~バンド編成~
【静岡公演】
▼11月13日(日)K-mix space-K
【石川公演】
▼11月26日(土)メロメロポッチ
【愛知公演】
▼2月12日(日)ボトムライン
チケット発売中
▼2月18日(土)18:00
磔磔
一般(スタンディング)5000円
学生(スタンディング)3500円
※公演当日要学生証。
info@rothbartbaron.com
チケット発売中
▼2月19日(日)18:00
BIGCAT
一般(前方椅子自由席)5500円
一般(後方スタンディング)5000円
学生(後方スタンディング)3500円
※公演当日要学生証。
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※椅子席5歳以下膝上観覧無料。
【宮城公演】
▼2月23日(木・祝)仙台 darwin
【北海道公演】
▼2月25日(土)モエレ沼公園
ガラスのピラミッド
▼2月26日(日)ペニーレーン24
【福岡公演】
▼3月3日(金)Fukuoka BEAT STATION
【広島公演】
▼3月4日(土)広島クラブクアトロ
~Tour Final・フル編成~
【東京公演】
チケット発売中
▼3月10日(金)18:30
昭和女子大学 人見記念講堂
Sエリア(1階・椅子指定席)7000円
Aエリア(2階・椅子指定席)5500円
Bエリア(2階・椅子指定席)4000円
学生(2階・椅子指定席)2500円
※公演当日要学生証。
[ゲスト]中村佳穂
ディスクガレージ■050(5533)0888
※2階A・Bエリアは5歳以下膝上観覧無料。
公演内容に関する詳細はhttps://info.diskgarage.comまで。
「最近、エゴサしても明らかにロットに興味を持ってくれている人が増えているのを実感します。『HOWL』はトピックも多いし、リリース周りのYouTubeやInstagram=映像コンテンツも充実。三船くんは“奥さん(=筆者)は事前にインスタライブを見てくれているから話が早くてありがたい” と言ってくれましたが、それはそれで記事にして全曲載せたいぐらい濃い内容でしたよ(そちらもぜひチェックを)。あと、実物を見るとビビりますが今作のジャケットもこだわり満載で。インタビューで今の時代に形にする=所有可能なCDを作り続ける思いについての話になったときは、クローズされたらフォロワーもコンテンツも一瞬でなくなっちゃうようなアプリを例に挙げ、“だったら奥さんが今着てるTシャツの方が確かで信じられる”と、何とも三船くんらしい発言も。ちなみにそのとき僕が着ていたのは、ビート文学の作家アレン・ギンズバーグのTシャツで、彼の代表作も『HOWL(邦題:吠える)』って…めっちゃキレイじゃないですか?(笑) 余談ですが、昨夏はロットが久々に出るということで、『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』に行かせてもらって…やっぱり“実際に行く”行為って本当に面白いというか、何が大事で、何が幸福なのかが分かる。人生の解像度が上がる。北海道、最高だったな(いろんな意味で)。だから感じるんです。今度のリリースツアーも、絶対にそうなると。この記事を呼んでくれた同志よ、それぞれの街で、共に吠えよう!」