新型コロナウイルス禍の余波を受け、幾度も問いかけられるかのような音楽の存在価値、ライブの意味と役割。誰もが答えを知らない時代に、配信ライブやSNSを通したセッション、歌のバトンをつないだりと様々な選択肢が手探りで提示される中、LAMP IN TERRENから届いた新曲『Enchanté(アンシャンテ)』(=フランス語で“はじめまして”の意)は、そんな混迷の現在もその目で見てきた景色も音楽にしてみせた1曲だ。4thアルバム『The Naked Blues』(’18)で手に入れたリアル、それを踏まえてあえて描くファンタジー。祝祭感のあるギターと美しいメロディに彩られた同曲が生まれる過程に大きく作用した“信頼”という感情は、委ねることを恐れない新たな翼を松本大(vo&g,p)にもたらしている。そして、10月24日(土)千葉LOOKを皮切りにスタート予定の、過去最大の全国ワンマンツアーも発表。この旅でオーディエンスと再会するという希望を糧に、彼はまたきっと多くの曲を書くだろう。松本大がアフターコロナ以降の音楽の形を語るインタビュー。
――『Enchanté』はいつ頃からあった曲です?
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「今年の初めに、“春に新しい曲を出したいね”という話になって。自分の核の部分にあった“新生活応援ソング”みたいなイメージで曲を作っていって、その曲に呼ばれる形で歌詞を書いた感じですね。一応、バンドの音を先に録り終えて、3月の自粛期間に入る直前ぐらいには全部できてたんですけど、もっと映像が見える歌詞にしたかったのもあってやり直させてもらったんですよね。最初はもうちょっと哲学的というか、自分の概念みたいなものが言葉になってて、ぼやっとしてたんですよ。共感してもらうためには、同じ景色を見てもらわないと同じ気持ちになれないだろうなと思って。そのまま自粛期間に入っちゃったんで、最終的に歌は家で録りましたね」
――4thアルバム『The Naked Blues』('18)は大きな転機となって、より生身の自分の歌を歌えるようになって。それはオフィシャルインタビュー にもあったように、“ちゃんとリアルを提示した上でじゃないと、フィクションや夢物語は語れなくなった”というのがまさにで。この曲はその先にある、『The Naked Blues』以降改めて挑むファンタジーというか、ちゃんと物語に余白があって。
「あぁ〜嬉しい。それを狙ってたというか、それがやりたいことだったんですよね。分かんない部分って大事だなと思ってて、想像させる余地が絶対に必要で。ここ最近は1つしか正解を提示しないパターンがかなり多かったんで、“聴かれて初めて音楽になる”と言ってる以上は、その世界観を確立させて完結させるよりは、聴いてもらった人の心と同調して初めて1つになれる“ものづくり”をしたいなって」
――そういう気分になったのは、それこそ『The Naked Blues』でやり切れたからなのか。
「まぁ“信頼度”かもしれないですね。要は自分の中に“こう伝わってもらわなきゃ困る”っていう考え方がずっとあって。それは自分に対する信頼もなかったし、言ったらリスナーに対する信頼もなかったからだと思うんですよ。“誤解されるんじゃないか?”とか疑って曲作りをしてた部分もあったので。自分を見せるということは、本当に恐ろしいことなんですよね。だからこそ、自分にとっては信頼が必要だった。相手に対しても、信頼することで初めて自分を見せられるし。“どう思ってもらってもいい”という信頼がないと、裸の歌詞は書けないなって」
――自分を信じられて、ちゃんとテレン(=LAMP IN TERREN)のフォロワーも信じることができて、ようやくここに来れたという。テレンのお客さんってすごい純度が高いというか、絆を感じるもんね。
「まぁ僕らも音楽業界からやや孤立してる感じがありますけど(笑)、LAMP IN TERRENが好きな人はLAMP IN TERRENばかり聴く人が多め、みたいな…何て言うんですかね? 共依存みたいな感じはちょっと面白いなと」
――『Enchanté』を書けたことで過去も回収できたというか、テレンの初期の理想像=ファンタジーを追い求めていた自分と、『The Naked Blues』以降のリアルな自分…その両方を説得力のある形で書けるようになったという。
「でも、そうなれたのは“年齢”かもしれないです。何かだんだんと、想像よりもリアルでしか歌詞が書けなくなっていくんですよね…それは退化と言えば退化なのかもしれない。でも、僕は元々ものすごく雑念が多いというか、あれもこれも詰め込み過ぎる気質があったんで、そこに疲れて、やや手を抜いてるわけじゃないですけど(笑)、やれることを絞っていくのは、割とバランスが取れていいのかもしれない」
――想像力の退化という観点は面白いね。でも、大人になるってそういうことでもあるもんね。頭の中のファンタジーよりリアルな経験値が勝っていくから。
「そんな感じはしますね。だからこそ、ピンポイントで“ここ!”という部分を強く描けるようにもなってきました」
――サウンド面で言うと、ファンファーレのようなギターリフが、この曲の持つ祝祭感を際立たせてるなと。
「よかった! そこはパッと思い付いたメロディだったりもしたので、最後までこれでいいのか悩んでたんですよね。この曲は元々ずっと転調せずに進行するストイックな曲だったんですけど、真ちゃん(=大屋真太郎・g)がサビで3度下に下がるギターを入れて一気に開ける感じのアレンジをしてくれて、ガラッと変わったんですよね。(川口)大喜(ds)も、ものすごい数のドラムのパターンを動画で送ってきてくれたり…最近は本当にちゃんとバンドをやれてるなっていう感じがします。昔はプロデューサーやアレンジャーがいてほしいなとも思いましたけど、今は自分たちで進化していく手段を取ってもいいかなって、すごく思いますね」
僕にしか歌えないことで、社会との共通点みたいなものを探すとするならば
面白いと思ってもらえるのはここかなと
――『Enchanté』=フランス語で“はじめまして”という意味で。この感情をこのタイミングで歌おうと思ったのは?
「元々自分が不登校だったのもあるんですけど、1500人ぐらいのデカい高校に通ってて、そもそも友達もそんなにいないし、ちょっと会わない間にみんな変わっていっちゃって。ぶっちゃけ名前も思い出せないような人ばっかりですけど、自分の知らない時間がその人にも存在してて、会わない間に苦しいこと辛いこと、怒られたこととか、親とケンカしたとか(笑)、いろいろあったのかなって。そうやって久しぶりに会うたびに変化していってるのが自分にとってはいい違和感でもあり、不思議でもあり、毎回、“はじめまして”の気持ちがあったんですよね。この曲はそういう当時の気持ちを思い出しながら書いたのはありますね。あと、リアルな話をするならば、どう共感してもらうかを考えながら曲を作っていったとき、僕にしか歌えないことで、社会との共通点みたいなものを探すとするならば、面白いと思ってもらえるのはここかなと。僕の話をしなきゃいけないなとは思ってたんで、自分の中の一番のフックが“はじめまして”というワードで。元々は『Spark』とか『空に落ちる日』という仮タイトルが付いてたんですけど、一番推したい部分をタイトルにしたかったんで、“はじめまして”=『Enchanté』にした感じですね」
――それをフランス語にしたのは?
「主に響きなんですけど、以前フランスに行って気付いたのは、あの街の空気感ってすごく自分に近いものがあって、一見、冷たいんですよ。みんな笑うでもなく怒るでもなく、端から見ると無表情っぽいんですけど、自分の文化に対する自信とかそれを大事にする気持ちはすごく情熱的だと思ってて。フランス映画を見てても、ちょっと自分に近いものを感じる。そういう感覚もあったんでフランス語に」
――それこそオフィシャルインタビュー で言っていた、フランス語にすることでピントとボケの感じがちょうどよくなる、みたいな例えがすごく分かりやすくて。ハッキリさせ過ぎず、でも大事なところはちゃんと見えて。
「そうですね。よく考えてみると、最近は全部そういう価値観で動いてるかもしれないです」
――あと、さっきの年齢の話じゃないけど、“はじめまして”な出来事ってどんどん減っていく。そう考えると、自分の人生に今でも“はじめまして”が生まれるのは、ありがたいというか嬉しいとも思いますね。
「やっぱり僕は大人になりたくない気持ちもあったりするので(笑)、常にその価値観を持っていたいのもあります。反骨心みたいなものなんですかね? 子供でいたいというか…わがままでいたいなというところで、ものすごく自分の都合のいいようにモノを言ってますけど(笑)」
――でもそれは、自分の人生との付き合い方が分かってきたからじゃないかな?
「そうかもしれない。まぁでも、ちょっとぐらい批判されたり、否定的な意見が生まれたり、“こいつのこと嫌いだな”って思われるぐらいでないと(笑)、やってる意味を感じないんですよ。日本をざっと見渡しても同じような振る舞いをしてるアーティストが多いなと思うし、それが彼らなりの正しさだとは思うんですけど、みんな同じになっていっちゃうのがイヤなんですよね。じゃあ自分はちょっと違うところにいようかなと、最近は思うようになりました」
――コロナ禍の影響でみんなライブができなくて、じゃあ音楽家としてどう動くんだというところで、それぞれが配信をしたり、星野源さんの『うちで踊ろう』とセッションしたり、歌のバトンをつないだりといろいろやってたけど、そこで曲作りに想いが傾いたアーティストはやっぱりすごく信頼できるなと思うし、それこそが今聴きたいとも思う。『Enchanté』しかり、急遽YouTubeにアップされた『宇宙船六畳間号』のデモもそういう感じがするし。
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「何だか不可抗力みたいな感じですけどね(笑)。どっちかって言うと僕は、この時期に音楽でみんなを支えたいというよりは、僕らは同じ人間で、同じような生活を送る中で、自分がどう思ったかを歌にして発信していく方がいいんじゃないかと思ったんですよ。自分が見てる世界を共有していく方が、僕としては真っ当な音楽の向き合い方だと思ってやったところはあるんですよね」
――そこで周りに流されないというか、足並みを揃えないことに不安がないのは、自立できてる感じがするね。
「まぁそれが吉と出るか凶と出るかは…(笑)」
――アハハハハ!(笑)
いまだにライブをすることが生きる糧だったり希望だったりもするので
―― まだこの先どうなるかは分からないけど、 10月からスタートする全国ツアーも発表されていて。
「これからいろんな変化があるだろうし、それぞれがこの時期を経験した上でライブに行くわけなんで、実際、離れちゃう人もいると思うんですよね。人との密接な関係、密接な場所に行くのがイヤになっちゃう人もいるだろうし、僕らも変わる必要があるなと。元の世界に戻ってまたライブがやりたいというよりは、“もっと面白いものは何だ?” って探していく方向にシフトした方がいいんだろうなって。でも、ちゃんといろいろ考えた上でも、いまだにライブをすることが生きる糧だったり希望だったりもするので。やっぱり、そういう目標とかがないとつまんないんですよね。だから、発表はしたんですけど…やっぱりいろいろ変わっていくんじゃないかなと思ってる感じです」
――こればっかりは本当に誰も経験したことがないことだもんね。
「何かが変わるときって、小さなきっかけから一気に広がって、気付いたら全部が変わってるみたいな感じなんだなって。それを体感する時期に生きてることは、ちょっと面白いですけどね。歴史を見ればいろんなタームでガラッと世の中が変わったみたいなことも書かれてますけど、僕らにとっては多分これなんだなって」
――そういう状況の中で、音楽の位置付けは何か変わりました?
「結局、何もできやしないんだなっていうのが分かりました(苦笑)。もちろん、僕らのことを愛してくれてる人は僕らの音楽と共に生きてくれてると思うんですけど、何だかんだこういうことになったとき、音楽って衣食住のどれでもないので世の中からそんなに求められてない感覚があるんですよ。だからこそ、今までは音楽って基本的にみんなを支える形で、少しでも前向きになれるように作られてきたと思うんですけど、今は“そっちはどうなの?”って友達の話を聞くような感じで、歌の中で自分の話をしてる方がむしろ届くんじゃないかって思ってるのはあります。本当にクラスメイトの1人みたいな感じで」
――そう考えたら、やっぱり音楽と時代は切り離せないものだし、LAMP IN TERRENの次の表現が興味深いね。
「それも学級委員長みたいな感じではなく、教室の隅っこでクールに決めてるヤツ、みたいなね(笑)。『Enchanté』はこういう時期だからこそ自分にやれることを考えた結果、結構瞬発的に生まれた感じはあったんですけど、一貫してる気はします。僕らにどのアーティストよりも強い部分があるとするならば、音で映像が見える音楽をしているところと、聴いてくれるみんなと同じ目線に立っているところ。そこは自分たちが信条としている部分なので」
――ツアーが開催されるであろう頃には、新しい作品は出るんでしょうかね?
「制作はずっとしています。“この時期を乗り越えていく1人の人間の日記”、みたいな感じにはなっちゃうだろうなと思いますけど」
――でも、そんな1人の人間の日記にみんなの心が動くのが、音楽の面白いところよね。
「そうなる“ものづくり”をしなきゃいけないですね。やっぱり聴いてもらわなきゃ始まらないんで。これからも、自分の表現を突き通すための鋭い武器を磨いていかなきゃいけないなと思ってますね、うん」
Text by 奥“ボウイ”昌史