ホーム > インタビュー&レポート > ゲストは小島麻由美! 2014年1月から2年間、全12回にわたって開催された 奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 定期演奏会 『ローリングサンダーレビュー~人類史上最強の ロックショウ~』最終幕をレポート!
最初に登場した小島麻由美は、ハッチこと八馬義弘(dr)、カジヒデキ(b)、そしておなじみの塚本功(g)と鉄壁の4人編成でのステージ。オープニングの『結婚相談所』のタイトなイントロにフロアのあちこちで声が上がる。昭和の時代の銀幕の歌手が歌っているような、ちょっぴりレトロで色っぽさもあるこの曲で、1995年に小島麻由美がデビューした時の衝撃を憶えているお客さんも多いようだ。続く『恋の極楽特急』では、アウトロで爆走し始める塚本のギターと小島のスキャットふうなボーカルの掛け合いが、いい。歌い終え、まるでリングアナウンスのようにハッチが小島麻由美の名前を呼びあげると、「大阪、お久しぶりです」と一言。
テンポの速い2トーン。そしてブルースへ転調する『黒い革のブルース』に続き、『背後に気をつけろ』の出だしを歌ったところで、小島が突然演奏を止めて、「ちょっとだけおしゃべりしませんか?」と。その何とも言えないユルさともいえる彼女の個性に、メンバーもお客さんも誰一人驚かない。メンバー紹介の際に、カジ君とハッチが同級生との発言に驚きの声が上がり、その反応にすかさずハッチがツッコむ。仕切り直して始まった『背後に気をつけろ』は、“血しぶきをあげて”とか“背後を振り返るな”などサスペンスなフレーズが踊る曲で、これも彼女ならではの世界だ。
渇いたロードムービーのような『テキサスの黄色い花』に続いて、初期の代表曲である『セシルのブルース』。もともとフレンチポップやスウィングの匂いを持っていたこの曲が、今夜の4人編成にかかるとヨレッとしたロウファイでワルそうなバンドのノリに衣装替え。そこに絡むシュビドゥビ~♪なスキャットも絶妙だ。また、オルガンがサイケデリックだった『泡になった恋』は、ガシャメシャに疾走感を増したガレージロックチューンに。ギター、ベース、ドラムの個々の音は深くえぐってくるような生々しさがあるのに、全体的にはカラリと軽やかで心地よく聴かせてくれる。
「小島麻由美の曲ってかっこいいなぁ!」とハッチが言えば、当の本人は「フフフ」と上品な笑顔で返す。『パレード』は、暗いテントの中で繰り広げられるサーカスに笑うピエロ、夏の夜のパレードと、歌詞から立ちのぼる情景もセクシーなら、彼女の歌い方も妖艶そのもの。それなのに、歌い終えて最後の挨拶に「また会いましょう」とニコッと笑うと、まるで少女のような雰囲気を醸し出してしまう。ギターの塚本が「トラベルスイング楽団が解散されるそうで……、おつかれさまでした」と一言添え、最後に『ひまわり』を。本来は気だるくブルージーなこの曲が、まるで今夜はトラベルスイング楽団へのはなむけの歌のように、ゆったりと会場いっぱいに広がっていった。そんな音楽のマジックの余韻を残して、小島麻由美のショウは幕を閉じた。
緞帳の向こう側からは、いくつもの音が混ざったサウンドチェックの様子が漏れ聞こえる。開演前のこの音をこの場で聴くのも今夜が最後か、と思う。ザワザワしていたフロアが暗転と同時に拍手と歓声に包まれ、深紅のカーテンが開く。『どばどばどかん』のイントロセッションに沸く中、奇妙がいつものように“オー!イェー!”と雄叫びを上げながら登場。奇妙の声は、前回にもまして艶があって、軽やかで、張りがある。続く『タンバリア』では、弦を引っぺがすように、または叩きつけるようにギターを弾く姿も印象的で、そうこうしているうちに2曲目にして奇妙のギターの弦が切れた。今夜はとにかく、とことん楽しもう!ステージの上もフロアも、そんな空気に満ち満ちている。
手拍子に乗って軽快に『機嫌なおしておくれよ』、『わるいひと』を聴かせた後に『SWEET MEMORIES』。思えば昨秋から始まった今回の定期演奏会では、この曲を歌う前にチャチャを入れるようなMCをすることもあったけれど、今夜はいつになく真顔でストレート。英語詞も含め歌詞の一言一言がはっきりとわかるように歌い上げ、さっきまで手拍子しながら大騒ぎしていたフロアもじっくりと聴き入っている。『桜富士山』は原曲を思わせるテンポでゆったりと、『東京ブギウギ』ではネクタイを振り回す一幕も。続く『愛の讃歌』では、歌に入る前にひとこと、“いい夜だね”とポツリ。バンドマン。シンガー。ミュージシャン。いろんな呼び名はあるけれど、魂を絞り出すように歌い、その歌声で聴く人ひとりひとりをぎゅっと包んで動けなくしてしまうほどの威力を持つ奇妙礼太郎という人は、いったい本当に何者だろうと思う。こんなふうに歌える人を他に知らない。
即興のように始まった『抱きしめておくれ』では、例によって長山動丸(tp)を呼び寄せ、ソロを吹かせる。いい雰囲気でトランペットが歌い始めたにもかかわらず、“もう一回”と仕切り直してフロアを沸かせ、続いてトミー(tb)、田中ゆうじ(ts)と続き、気づけば“♪三人合わせてかしましい 俺たちホーン隊”と『ホーン隊の唄』へ。
“女と金には気をつけましょう”と世知辛いMCをしつつ、“お金の話はやめようね”といったその直後に“10円の裏は~”と歌い始まるものだから、あちこちに笑い声が起こる。“10円の裏は”とステージから歌いかければ、ちゃんとリズムに乗せて“平等院鳳凰堂~♪”と歌い返すお客さんに、「何で知ってんの?」と奇妙が突っ込む場面も。“10枚集めて100円 100枚集めて1000円”という何でもないフレーズも、彼らが演奏し奇妙が歌うととたんにブルースになってしまう。メンバー紹介を交えたその『10円玉の裏』が終わると、間髪入れずにギターがうなり『あの娘に会いにゆこう』。塩見哲夫のギターが、ザクザクと盛大に歌い上げる。この曲の歌詞に登場するのは、“どこにでもいるような つまらない俺と どこにでもいるような ありふれたお前”。このフロアにも、世界中のどこにでもいる、そんな人たちの胸を打って打って撃ち抜くロックンロールナンバーだ。
本編最後は『男と女』。ステージ上から放たれる音がすべて獰猛な生き物になったように、絡まり合い、Shangri-laの空間を埋め尽くすこの曲。ホーンのメンバーはフロアを練り歩きながら演奏し、奇妙はステージに寝転がってギターを弾く。色鮮やかな照明も相まって、ひときわ濃くファンキーなセッションに圧倒されるようで、でもしっかりと体に注ぎ込まれる音を楽しめている実感がある。
「アンコールありがとうございます!」と登場した岩井ロングセラー(key)が、「定期演奏会は今日が最後。今まで何回やったんやろう?調べてないなぁ」とにこやかにMCし、最後の『ビールの唄』へ。ここで普通に終わらないのが彼らで、「ここで、それぞれが思う『ビールの唄』を歌っていただきましょう」と奇妙が盛大に無茶振り、田中→動丸→トミー、そして最後はテシマコージへと歌い継ぐ。テシマが即興で、かつて奇妙と一緒に住んでいた頃のエピソードを歌うと、「そのメロディー、クリトリック・リスと同じや!(笑)」。最後などという湿っぽさもなければ、何ならいつもより晴れやか。フロアへ降りた奇妙は、いつものようにバーカウンターに乗り上げ、場内を見下ろす高さから声を張り上げる。“ぐでんぐでん べろんべろん”のフレーズをこの夜だけで何回繰り返したことか。最後に“ビールもう一杯!”と声を合わせ、大きな拍手と歓声でいっぱいの中、本当にジ・エンド。いつまでも鳴りやまない拍手の中、いつも最後にステージを去るテシマコージが「気を付けて帰れよー!」と手を振ってステージ袖に消えた。
結成から8年。スウィングジャズ、ブルース、ソウル、ファンク、シャンソン、歌謡曲等々、あらゆる音楽のうまみを凝縮した作品を世に送り出し、ステージを重ねてきた奇妙礼太郎トラベルスイング楽団。4月1日のステージを最後に彼らは解散。今後も奇妙はソロや他バンドで、トラベルスイング楽団のメンバー(ペペ安田・シオミテツオ・岩井ロングセラー・ますたにさえか・キツネうどん・長山動丸・トミー)によるオオサカズのライブも告知され始めている。この人たちからライブを、ステージを取り除いてしまったら何が残るのか?そんなキンキーなバンドマンたちがトラベルスイング楽団を離れ、これからどんな音楽を鳴らしていくのか、まだまだお楽しみは続いていく。最後に、今回の定期演奏会シリーズに足を運んでくださった皆さん、ありがとうございました。毎回、最高のステージをともに堪能出来たことに心から感謝します。
取材・文/梶原有紀子
撮影/河上良(bit Direction lab.)
(2016年5月 9日更新)
発売中 ¥3000+税
PCD-18813/4
<トラックリスト>
DISC 1 [Live Recording at Ebisu LIQUIDROOM]
01.どばどばどかん
02.タンバリア
03.機嫌なおしておくれよ
04.カトリーヌ
05.赤いスイートピー
06.抱きしめておくれ(東京)
07.俺たちホーン隊(東京)
08.抱きしめておくれ#2(東京)
09.SWEET MEMORIES
10.桜富士山
11.愛の賛歌
12.溝の口で見かけたら(東京)
13.星に願いを
14.わるいひと
15.十円の裏(東京)
16.あの娘に会いにいこう
17.ビールの唄(東京)
DISC 2 [Another best take from LAST TOUR]
01. どばどばどかん Live at Nagoya
02. タンバリア Live at Nagoya
03. 機嫌なおしておくれよ Live at Nagoya
04. 抱きしめておくれ(名古屋)
05. TWITTER ~愛のテーマ~(名古屋)
06. 抱きしめておくれ(大阪)
07. ゆうじと俺の動丸音頭(大阪)
08. 俺はハーフの商社マン(新潟)
09. だるまになれば(新潟)
10. ロンリートランペッター(新潟)
11. 抱きしめておくれ(仙台)
12. 俺たちホーン隊(福岡)
13. たまごの唄(岡山)
14. ビールの唄(福岡)
小島麻由美
01.結婚相談所
02.恋の極楽特急
03.白い猫
04.黒い革のブルース
05.背後に気をつけろ
06.メリーゴーランド
07.テキサスの黄色い花
08.セシルのブルース
09.泡になった恋
10.ハートに火をつけて
11.茶色の小瓶
12.パレード
13.ひまわり
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
01.どばどばどかん
02.タンバリア
03.機嫌なおしておくれよ
04.わるい人
05.SWEET MEMORIES
06.桜富士山
07.東京ブギウギ
08.愛の讃歌
09.あの娘に逢いに行こう
10.男と女
EN
01.ビールの唄
▼4月22日(金) 19:00
BIGCAT
自由席-3800円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]オオヤユウスケ
※4歳未満は入場不可。
[問]夢番地
[TEL]06-6341-3525
▼5月20日(金) 19:00
Shangri-La
前売-4000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]在日ファンク/天才バンド
[問]Shangri-La
[TEL]06-6343-8601
▼5月22日(日) 12:30
服部緑地野外音楽堂
シングルチケット-3900円(整理番号付)
キッズチケット-1500円(小学生)
[出演]BAGDAD CAFE THE trench town/RYO the SKYWALKER/Spinna B-ILL/JUMBO MAATCH/TAKAFIN/BOXER KID/奇妙礼太郎/Leyona/土岐麻子/Zeebra [DJ]YONE&MATSUMOTO/Sundayカミデ/タクヤリッスントゥミー
[司会]加藤真樹子
※雨天決行・荒天中止。小学生未満は保護者同伴に限り無料。小学生はキッズチケットを購入の上、保護者同伴に限り入場可。
※出演者の変更・キャンセルに伴う払戻しは不可。
※ドリンク代別途要。
[問]夢番地
[TEL]06-6341-3525
オフィシャルサイト
http://meets-the-reggae.com
▼7月31日(日) 11:00
服部緑地野外音楽堂
自由-4500円(ドリンク代別途要)
[出演]七尾旅人/天才バンド/BRADIO/大石昌良/他
[司会]KTa☆brasil
※雨天決行、荒天中止。13歳以上は有料。
※12歳以下は保護者同伴に限り無料。
※出演者の変更・キャンセルに伴う払戻しは不可。
※2日間通し券はPコード:782-118にて販売。
[問]GREENS
[TEL]06-6882-1224
オフィシャルHP
http://www.natsu-biraki.com/