奇妙礼太郎トラベルスイング楽団が隔月で行う
定期公演のライブレポート連載第2弾!!
今回は昨年11/20(金)に行われたカセットコンロスとの
ライブの模様をお届け!
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 定期演奏会『ローリングサンダーレビュー 人類史上最高のロックショウ』の第2回が、昨年11月20日(金)梅田Shangri-laで開催された。最初に言ってしまうと、この日のトラベルスイングは、すさまじくキレていた。それは後で報告するとして、まずステージに現れたのは、この日の対バン相手であるカセットコンロス。
一度聞いたら忘れないコンパクトでチャーミング、なおかつ妙にしっくりくるバンド名。最初に登場した辻コースケのパーカッションソロがリズミカルに、そして徐々にテンポを上げるにつれて拍手と歓声が沸き、場内の温度も上がっていく。ひと盛り上がりしたところへメンバーが登場、「カセットコンロスです、こんばんは!」と言うワダマコト(vo&g)の声で『Ah-ha』が始まった。前のめりに駆け出すような楽しげなギターが鳴り出したのとほぼ同時に、お客さんの手拍子が聴こえ、コンロスのホーム然としたのんびり、穏やかな空気が広がる。アンディことアンドウケンジロウのクラリネットがくっきりとした音で歌い出せば、まさに歌詞にある通り、「~呑めや!歌えや!踊るカリプソ! 今夜のバカ騒ぎはまだまだ始まったばかり~」だ。
ハスキーでいてどこかトボけた人情味のある歌声。その声の持ち主であるワダのギターはどっぷり深い音色を軽快に鳴らし、そこにするりとクラリネットが絡む。ベースの田名網ダイスケは、体と音が一体になっているかのように全身をうねらせている。ソウルやラテン、スカや古い日本のポップスも溶け込んだ、コンロス独特の大らかでトロピカルな南国ミュージックに、こちらの体も自然に右に左に、前にナナメに心地よく揺れる。
「僕らはカリプソって音楽が大好きなんだけど今、カセットコンロスの中では南アフリカの音楽が大ブームで!(笑)」(ワダ)という紹介とともに聴かせてくれたのは、南アフリカの40~50年代のダンスミュージックだというクウェラ。ここで“キング・オブ・クウェラ”とアナウンスされたアンディが取り出したのは、民族楽器のティンホイッスル(たて笛)。クウェラを楽しむためのかけ声のやり方をワダがお客さんにレクチャーした後に、曲がスタート。曲が始まってみれば、このたて笛の音色がまるでおもちゃの笛のように愛らしく人懐っこくて、和やかな笑いがあちこちに広がる。「笛の音が小さくて、みんながワァ~ッて狂乱すると俺たちが弾けないから、ジェントルに盛り上がって(笑)」とのレクチャー通り、会場は熱し過ぎない温かなムード。遠く離れた南アフリカで60~70年前に現地の人々が聴いて踊っていたダンスミュージックが、2015年の大阪の冬の夜に、陽気ににぎやかに鳴り響くこのミラクル。
最新アルバム『カリプソ・ア・ゴー・ゴー』の発売から5年近くが経っているという事実を踏まえつつ、「次のアルバムが出るまでは、ずっとリリースツアー(笑)」との名言を添えて『ヘッドフォン』を。南国の街角や広場で日常的に鳴っているようなご機嫌なインストゥルメンタル曲をはさみ、「ありがとう!また逢いましょう」と言葉を残して、最後の曲は『アイ・ウイッシュ・ユー・ラヴ』。陽気な中に、夏の夕暮れ時のようなもの淋しさがフッとよぎる。メンバー紹介を交えたソロパートでは、演奏のテンポがどんどん速くなり、そのテンポにつれて、お客さんの手拍子も歓声も徐々に大きくなる。アンディは大きな体をスウィングさせながら奏で、ベースのダイスケはフロアに背を向けベースを後頭部まで持ち上げて弾き倒す。どんどん上がる場内の熱もあいまって、演奏は速く、強く、果たしてどこまで行けるか――その臨界点を超えたところで、ふわっと元のメロディーに戻り、再びワダの歌が始まった時の心地よさと言ったら!「もっとそばにいられたら」という歌詞の一節が、楽しいひとときの終わりを知らせるようでなんとも心憎かった。
続いていよいよトラベルスイング楽団の登場。「レディース&ジェントルメーン!」のアナウンスとともに、ステージ上には今日もぎっしり10人のキンキーなミュージシャン達が勢ぞろい。冒頭から威勢のいいオープニングに続いて『DEBAYASHI ALL NIGHT』が始まると、お客さんの手拍子が一気に大きくなる。ステージの左右両端に配置された鍵盤のうち、向かって右側に位置する岩井ロングセラーの鍵盤は早くも火を噴く勢いでグルーブ熱を放出。続く『どばどばどかん』でいよいよ奇妙礼太郎が登場すると、すでに気合十分のバンドをさらに扇動するような勢いで“歌う”というより、歌をブチまける。「アー・ユー・レディ?」と奇妙が雄叫びをあげ、そのテンションのまま『タンバリア』へ。いきなり熱の高さを見せつけられ、その熱がいつまで経っても一向に冷めない。そのまま連打するように、『星に願いを』。奇妙が“when you wish”と歌うと、メンバー&お客さんが“upon a star”と返す。どんなコール&レスポンスにも応える、メンバーとお客さんの音楽的快楽指数の高さを思い知らされる。確かステージに出てきた時、奇妙の左胸に挿してあった薔薇の花は、あまりの暴れっぷりにこの時にはもうどこかへいってしまっていた。息継ぎする数秒の隙間さえ与えないぐらい、ステージ上の11人は1人残らず最初からフルスロットル。けれど、そこは“ロックショウ”と掲げているだけあって、そのテンションも含めて楽しませてくれるステージなのが流石。
最初のMCらしいMCにもかかわらず、奇妙は「何も言うことはありません(苦笑)」。そう言いながらギターをつま弾き「~ブラウン管の向こう側~」とブルーハーツの『青空』の一節を。『オンリーユー』では、“ダッパダッパ ディドゥディドゥ~”とスキャットを挟みながらの歌唱。そこへダメ押しのように『愛の讃歌』が続くとなると、これはまるでリサイタル。ギターもホーンも泣いているが、奇妙は歌い手としての本領発揮というべきか、彼の歌声が持つ艶やかな妙味を、それはそれはとてもドラマチックに堪能させてくれた。やはり、この歌声と演奏をナマで聴かずして死ねない、と思ってしまう。
チューニングの延長で歌いました的なノリで始まったブルースの『hey hey』が、まるで最初からセットリストに組まれていたように1曲になってしまうバンドメンバーの腕っぷしの確かさ。『東京ブギウギ』、『機嫌なおしておくれよ』のハチャメチャな荒っぽさも、トラベルスイングのリスナーならお嫌いじゃないはず。奇妙の胸にはもうバラの花はないけれど、胸に真っ赤なバラを挿したあの娘の歌、『カトリーヌ』。ギターをかき鳴らして歌いはじめ、徐々に楽器が加わり、そこへさらに手拍子も重なる。『カトリーヌ』はラブソングでもあるけれど喜び、哀しみ、怒りや涙も全部が詰まった僕らの歌であり革命の歌、レベルソングでもある。アルバムでのラテン風味とはまた一味違った、優雅な雰囲気漂う演奏はゴージャス。そこに乗る奇妙の声の発色はとても鮮やかで、一瞬、明るい希望が見えたようだった。
「俺たちを観に来てくれてありがとうね! 絶対に嵐のほうがいいのに(笑)」とMCするバックで岩井の鍵盤が『赤いスイートピー』を奏で始める。話が脱線して演奏の間を空けたとしても、何事もなかったように『赤いスイートピー』に戻るその流れの完璧さに「ブラボー!(笑)」と声が飛ぶ。そうして歌った松田聖子のカバーは、世界にたった一つ、今夜このShangri-laにしか咲いていない奇妙ならではの『赤いスイートピー』だった。特に2コーラス目からの、原曲とは違った旋律に乗せた完全なる奇妙アレンジはもう二度と同じものを聴くことはないだろう。続く『オー・シャンゼリゼ』の途中、奇妙を筆頭にぞろぞろとメンバーがステージを下り、フロア中央のバーカウンターを目指す。ステージのメンバーを次々にバーカウンターに呼び込み、ついにステージには3人だけを残し全員がバーカウンターにひしめくという事態に。その間、フロアの歌声はどんどん大きくなり、ほぼ『オー・シャンゼリゼ』シンガロング状態。ドラムのテシマコージをバーカウンターに上げ、奄美大島の地元言葉を歌わせたかと思えば、お客さんはもれなく奄美言葉もシンガロング。しかも手拍子付きで。世界一懐が深いお客さんとしか言いようがない。バーカウンターに上がる理由なんていらないし、そうしなければならない理由もないけれど、演奏や歌はもちろん、『ドラえもん』や『一休さん』まで飛び出すハプニングのようでいて奇妙の中ではちゃんと道筋がある一連の流れも含めて、ここで起こるすべてがライブの醍醐味であることだけは分かる。
本編最後はソロ回しも圧巻の大セッション。「電気を消せー!」の奇妙の鶴の一声で本当に場内が真っ暗になる瞬間もあれば、後半は演奏に合わせて照明がギラギラと点滅。まだまだテンションを上げていく。そのまま途切れなくアンコールを望む拍手と手拍子が続き、再び現れたメンバーに続いて登場した奇妙が何故かネクタイを頭に巻いている。もう『ビールの唄』でしかないことは全員がわかっていて、歌う準備もできている。サングラスを外したテナーサックス、田中ゆうじの謎のアイメイクに釘付けになり、奇妙が渾身(?)の酔っ払い演技力を発揮した歌いっぷりに笑い、大満足の一夜が幕を下ろした。気がつけば、前回同様に1時間を超えるステージ。けれど、前回よりもあっという間のひとときに感じられたのは気のせいではないはず。
次回、1月15日(金)に開催される定期演奏会第3弾に登場するのは、SOIL&“PIMP”SESSIONS! 両バンド合わせて、ステージ上にいったい何人の人間がいるのか? 2組がどんな火花を散らすのか、猛烈に乞うご期待!
Text by 梶原有紀子
Photo by 森好弘
(2016年1月 6日更新)
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