ホーム > インタビュー&レポート > 奇妙礼太郎トラベルスイング楽団が隔月で行う 定期公演のライブレポート連載スタート!! Vol.1は9/20(金)に行われたNabowaとのライブ の模様をお届け!
先攻はNabowa。開演時間を少し過ぎた頃、ステージのカーテンが開いたらそこにはもう4人が待ち構えていた。「こんにちは、Nabowaです」と言い終えると同時に山本啓がバイオリンの弦に弓を滑らせる。ドラム、ベース、ギターが奏でる中にバイオリンが加わり、暗いライブハウスに柔らかな陽の光が差し込むような演奏が広がっていく。オープニングは『SUN』。何という心地よさ。走り出したくなるような、大声で歓喜を叫びたくなるような、胸のすくような心地よさに、今日はもう最高の夜になるに違いないと確信。やさしい旋律に、思わず何か歌を乗せてしまえるような気さえする『続く轍と懐かしき扉』。遠くで揺れる灯のようにゆらゆらと鳴らされるギターが心地よい『凪と宴』。ラテンもジャズもロックも、どこかの国の名前のつかない旋律も、あらゆるものがゆったりと融け込んだメロディーに浸っていたら、いつのまにか曲が終わる頃には“浸る”どころかすっかり軽快なテンポに体も心もノセられている。魔法にかかったような数分間の連続だ。
昨年で結成から10年を迎えた母体のNabowaに加え、景山奏(g)のソロ、THE BED ROOM TAPEや、川上優(dr)と堀川達(b)がWONDER HEADZとしても活動するなど、京都を拠点に自分たちのペースをキープしたまま音楽を楽しんでいる彼ら。「僕らインストバンドなんで最後までボーカルはないんで…(苦笑)」と景山が言うと、山本が「僕は歌ってるつもり(笑)」とナイスなお返し。「もうちょっとやる時間あるのかな?」(景山)と言いながら始まった『ナイスパレード』は、フォークやカントリーにボ・ビートまで混ざり合った中にうっとりするようなバイオリンが踊る、まさに陽気でナイスなパレード。この音楽が流れている間は、お酒を呑んでもおしゃべりしていても、もちろん音楽に没頭していても、何をしていたって楽しい。それは最後に聴かせてくれた『So Fat?』も同じ。歌詞や言葉がないからこその自由律に思う存分好きなように遊ばせてもらいながら、まるで歌っているようなバイオリンやギターの音色に引き込まれ、酔わされる。「ありがとうございました!また遊んでください」と言って4人はステージを後にした。こんなに楽しい遊びは毎日だって大歓迎だ。
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『ミスタータンブリンマン』が小さな音でフロアに流れる中、ステージを隠すカーテンの向こうからサウンドチェックのにぎやかな音が聴こえてくる。背伸びをしてステージの様子を伺う人もいる中、いよいよ幕が開き、万雷の拍手とともに“ウォー”だか“イェー”だか大きな歓声が飛び交う。揃いの衣装に身を包んだ11人のキンキー(近畿+kinky)なミュージシャン達によるビッグバンドがオープニングの『どばどばどかん』をブチ鳴らし始める。フロントの奇妙の姿はまだ見えないけれど、11人ものメンバーが、しかもサックスやトロンボーンなど確実に場所をとる楽器ばかりを手にしたメンバーがステージ狭しと勢ぞろいしている眺めは壮観で、華やかな演奏と相まってフロアのテンションも一気に上がる。ふと見ると、フロア横のバーカウンターに立ち上がってワオワオ叫んでいる妙な男が一人…それこそ奇妙礼太郎その人だった。やっぱり今日は間違いなく最高の夜だ。
「オー!イエー!アーユーレディー?行くよー!」でドカンと始まり、続く『タンバリア』では、田中ゆうじが手にしたテナーサックスでエアギターをキメている。奇妙の雄叫びに煽られるようにホーンが咆哮を上げる。「イェ~!願いごとをするぜ~」と始まった『星に願いを』は高速チャールストンともいえる超絶な小気味よさで、そうなるとこれはまっすぐに立ってはいられない。Nabowaの景山のソロ作『THE BED ROOM TAPE』(2013年)に参加した当時のエピソードを話しながら、お客さんのかけ声に反応しアドリブで歌い始めると、バンドはしっかり追随しいつの間にかリードする。こんな言い方は本当に失礼で謝罪ものだけれど、ボソボソしゃべっている時はただの酔っ払いの様なのに、一声歌えば世界はすべて奇妙礼太郎のものだ。そのアドリブから『カトリーヌ』へと流れ着き、絶妙なテンポチェンジで渇いたギターに乗ったブルースが、ロマンチックなダンスナンバーに姿を変える。こんなにもロマンチックな歌に“レジスタンス”や“革命”というフレーズがちりばめられているのも奇妙礼太郎ならではだろうか。「かっこいいよね、エリック・クラプトン」と、たまたま弾いたっぽいリフを繰り返したところへあっという間にバンドが乗っかり、一大セッションへなだれ込む。言い出しっぺのフロントマンが「誰か止めて~!」「バンドメンバー、怖っ!」とストップをかけなければどうなっていたかと思うぐらいの盛り上がり。
「いつもより多めに弾いております!」とギターを掲げる『オンリーユー』。スウィンギンにバップする『桜富士山』はやっぱり華やかでおめでたい。そして、全身全霊で歌うとはこういうことか、と一瞬金縛りにあったように動けなくなった『愛の讃歌』は前半のハイライト。歌い終えた本人も「最高!」と。そう言ったにもかかわらず、次の瞬間に「じゃ、ちょっとご飯食べてきます(笑)」ってその照れ隠しは何なのだ。一呼吸おいて、「あー、なんか現代を斬りたいなぁ…。あー勉強不足!一大事っぽい雰囲気するけど……ゆるしてくだせぇ!」と、『機嫌なおしておくれよ』。歌い終えて足元に目をやり、「俺は今、初めて今夜のセットリストを見ている」と言ったけど、今日のステージ運びはちょっと神がかっている。『SWEET MEMORIES』のイントロで「いっぱいギターを持ってきたから」と白いギターに持ち替える。そのギターをかき鳴らしながら唐突に「アー・ユー・エクスペリエンスト?」とお客さんに向かって尋ね、それがツボなのか何度も「アー・ユー…」とやる。思いついたことをすぐ口にする子供か(笑)。そんな戯言を口走りながらも、歌い始めたらやっぱりピカ一どころか世界一だからかなわない。その声で、いいムードでグッと胸に迫る歌を聴かせておいて、間奏になった途端「最近やせたと思えへん?」「パン食べてないからー!(笑)」「“痩せたら好きな男の子振り向いてくれるかな?”みたいな人多いけど、そういうとこが嫌いやから!(笑)」……と。けれどそういうところも含めて奇妙礼太郎。いい声で歌うだけなら、ただの“歌がいい人”だけれど、彼はそういう部類の人間ではない。オリジナルシンガーである松田聖子がこの『SWEET MEMORIES』をテレビで歌っていた頃、この曲がこんなにも胸を締め付ける表情を持っていたことを誰が知り得ただろう?『東京ブギウギ』だって、どんなに崩してどんなに乱暴に歌っても、奇妙礼太郎の歌になってしまう。歌いこなせるのではなく、奇妙が発した声が歌になっていく。「大阪の海は悲しい色やね」と歌う歌があったけれど、奇妙礼太郎の歌声の半分は悲しみで出来ている気がする。続く『あの娘に会いに行こう』で、汗と一緒に血がほとばしっているんじゃないだろうかと思うようなしわがれた声で“ロックンロール!”と叫ぶ奇妙は、頭のてっぺんからつま先までバンドマン。歌うためにこの世に生まれてきたんだろう。お世辞でも何でもなく、世界一カッコいいバンドマンのステージを今ここで目にしている。
本編ラストの『ビールの唄』では、1コーラスを歌い終えて興が乗ってきたところで「久しぶりにやるか!」と東西対決スタート。ご指名を受けた西の田中ゆうじがテナーサックスをブイブイいわせながらフロントに進み出て、お手並み拝見とばかりにはじめは静かに歌わせる。続いて東の塩見哲夫のギターが泣けば、「見せてくれるんでしょう~?スゴいの見せてくれよ~!」と盛大に煽る奇妙は高みの見物。対決は徐々に熱を帯び、トランペットもトロンボーンも次々にソロを回していく。となれば、ソロ→拍手→ソロ…と対決の余波はフロアにも広がっていく。コール&レスポンスを終え「サンキュー!」と奇妙がステージを下りた。が、なかなか終わらないエンディングの長さに思わず笑いが込み上げる。どんだけタメたら気が済むのん?てかこっちがタマりません。と思ったところへ再び奇妙が現れ、これはお約束のジェームス・ブラウン方式かと思いきや、「終わったのに間違えて出て来てもた(笑)」って。
アンコールの拍手に応えて再びステージに現れると、嬉しいのか照れくさいのかフロアに向かって、「欲しがるね(笑)」とひとこと。「空に…お星さま~」とマイクに向かって歌い出せば、お客さんも続いて歌い出す。歌わせておきながら、そのやんわりとした空気を一瞬でザックリと切り裂くように、ギュインと歪んだギターを振り下ろす。「オー、イエー!」と雄叫びを放ったのを合図に『男と女』へ。石の斧でマンモスを追っかけ、男と女と、必要なもの以外は何もない、まるで『はじめ人間ギャートルズ』のような原始時代から、2015年の今この瞬間までひとっ飛びするトラベルスイングな音楽の大洪水に一気に飲み込まれる。もったりと、まったりとした野太いグルーブに、どんどんフロアの空気の密度が濃くなっていく。ホーンのメンバーはステージを下りてフロアを目指し、二手に分かれてぐるりと場内を練り歩く。当たり前だけれど、CDやレコードで聴くのとはまるっきり違うグルーブ。総勢12名の演奏と歌に、この場の空気やステージの温度、汗、こちらの発する熱なんかも混じっているのだろうか。音楽に酔うとはこういうことなのか。音にも、演奏にも、生き物のようなうねりが感じられて怖いような気持ちいいような、でも間違いなくこの場でなければ味わえない悦びのカタマリのようなものを確かに掴んだ手ごたえがある。
終わらない夢のような、壮絶な祭りのようなセッションは15分にわたって続いた。いっそこのまま終わらないでくれ、とも思ったけれど、さんざんギターを弾き倒し、お立ち台の上でステップを踏んだり、叫んだり、目いっぱいやりつくした後で、「もうやることないよ」と奇妙が笑いながら言った時には心底納得できた。2マンでありながら1時間半を超える濃密なステージは、十分すぎるほど楽しませてくれた。ステージが終わり、「すげーなぁ」とため息混じりの男たちの前を、「激し過ぎる~!」と目を輝かせた女たちが通り過ぎる。次回の定期公演は、11月のカセットコンロスとのライブ。どんなステージを見せてくれるのか、すでに今から楽しみだ。
Text by 梶原有紀子
Photo by 河上良(bit Direction lab.)
(2015年10月10日更新)
01.SUN
02.きょうの空
03.続く轍と懐かしき扉
04.凪と宴
05.sunpeko
06.カサブランカ
07.ナイスパレード
08.So Fat?
01.どばどばどかん
02.タンバリア
03.星に願いを
04.カトリーヌ
05.オンリーユー
06.桜富士山
07.愛の讃歌(Hymne A L'amour)
08.機嫌なおしておくれよ
09.SWEET MEMORIES
10.あの娘に会いにゆこう
11.東京ブギウギ
12.ビールの唄
EN.男と女
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
主催定期公演
ローリングサンダーレビュー
~人類史上最高のロックショウ~
チケット発売中 Pコード275-480
▼11月20日(金) 19:00
Shangri-La
自由4000円
[ゲスト]カセットコンロス
Shangri-La■TEL06(6343)8601
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
オフィシャルHP
http://travelswing.jp/
カセットコンロス オフィシャルHP
http://con-los.com/
梅田シャングリラ オフィシャルHP
http://www.shan-gri-la.jp/