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次世代の日本映画界を引っ張っていく未来の巨匠との呼び声も
《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》
大注目の監督、濱口竜介 超ロングインタビュー
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──映画を作り上げて何か掴んだこと、確信したことはあったんでしょうか?

 

「こんなに素晴らしい語りが聞けるのは小野さんが聞いているからだ、ということです。大勢の前でしゃべっているのとは違う声の響きが得られる、親密な、と言う言葉では言い切れない、一対一の関係の中で交わされる人の声というのはこういうものなんだなと、嫌というほど知りました。ただ、こんなことを言っていいのかわかりませんが、ある時期から、映画を撮りながら「自分の目の前でこんなに素晴らしいことがたくさん起こるのはどうしてなんだろう? 」と僕は結構疑問に思ってきたんです。

 

──先ほどの「『THE DEPTHS』で石田法嗣さんにカメラを向けていた時の話や、会話への興味で話していただいたことですね?

 

「はい。もちろん出会いも含めて、ただ運がいいだけかも知れないんですけど、それだと映画を続ける上で心許ないので、もう少しだけ、自分が何かをしていることにしたいと思いました(笑)。小野さんを通じて感じたのは、自分も少なからず目の前の彼らに“関心を向けていた”のかもしれないし、“聞く”ということをしていたのかも知れない、ということです。それであんなことが起きたのかも知れないな、と。だとすれば、それは案外誰にでもできることなのでは? という思いもあって、じゃあそれをワークショップのテーマにしてみようと思い立ったんです」

 

──…肝心なことを訊きそびれていました。濱口監督が神戸へ拠点を移した目的が「聞くこと」に主眼を置くワークショップ(http://kiito.jp/schedule/workshop/article/3526/)の開催です。今更ですが、なぜ神戸? だったんでしょう。

 

「ワークショップを開くにあたっては東京で、という選択肢がかなり現実的にあったんですが、もし東京なら、役者志望の人で定員が埋まるかも知れないと思ったんです。絶対数が多いですから。もちろんそれはそれでまったく問題ないんですが、それがちょっと不安に感じたんですね。やろうとしていることが、職業俳優になりたい人の役にどれほど立つか分からないワークショップなので。そんなこと言っていいのかわからないですが(笑)。どちらかというと、普通に暮らしている人たちと“演じること”とをどこまで繋げられるか? というワークショップを考えていて、そういう人が来る余白のある場は東京を離れて探した方がいい気がしたんです。演じるということは特別なことではないと最近よく考えるんですけど、演じることと生きることの境界が曖昧になる場所、そういう空間をこのワークショップの中で作れたらいいなと思っています。そういう、ちょっとフワフワしたことを話したときに(笑)、積極的に協力してくれる人たちが神戸にいたんです。それは驚きだったし、ここに来ようとすんなり思えました」

 

──ワークショップの主旨と、プロスペクティブで上映する作品は連なっているともいえますね?

 

「何度か“感情”や“魅力”という言い方をしましたが、映画作りを通して人が生きているだけで魅力があるという事実を知ってしまうと言うか、行き会ってしまった。魅力というのは例えば容貌ではないし、所作や振る舞いでもない。人が生きている事実がそこに溢れてくれば、魅力は自ずと現れてくるし、それはカメラも映し取ってしまう。とても怖いことでもありますね。写し取られたものに魅力がないなら、それは自分の責任だということでもあるので」

 

──ワークショップのプログラムには来年春の映画制作も組み込まれています。関西から濱口監督のどんな新作が生まれるのか期待は脹らみますが、これもはじめに聞いておくべき質問でした。《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》、どのようなコンセプトで名づけたタイトルなんでしょう?

 

「去年、自分の名前を付けたレトロスペクティヴを東京・渋谷の映画館で上映して、その流れで今回は《濱口竜介プロスペクティヴin Kansai》。非常にすみませんというタイトルですが(笑)、簡単に言うとレトロスペクティヴ、「回顧する、後ろを振り返る」の反対語です。単純にそれを持ってきたり、東京で行ったことを関西で縮小再生産的に、という興行の流れは嫌だなと思っているうちに、反対語のプロスペクティヴを使おうと決めました。基本的には「前を見る、将来の展望を測る」、そういう形容詞として使われていて「これからここで活動します。最も新しいドキュメンタリー、フィクションも上映しますよ」ということを打ち出すためのタイトルになりました」

 

──最新作のドキュメンタリーは『うたうひと』、フィクションは『不気味なものの肌に触れる』ですね。『不気味なものの肌に触れる』は54分の中編。これはどんな作品でしょう?

 

「仙台に住み、東北でドキュメンタリーを撮っているうちに「こういう感覚で役者さんと映画が撮れたらな」という意識もまた芽生えてきたんですよね。東京へ戻った折に『PASSION』に出てくれた占部房子さんの舞台を観に行って「ドキュメンタリーの、脚本も何もなくて、今起きていることを撮っていればそれが映画になるんだという感覚って面白いですね」みたいなことを話すと「私たちのこともそういう感覚で撮りなさいよ」と言われて、まあそうですよね、そりゃそうだと(笑)。目の前で起こっていることに驚きながら、役者と映画をもう一度撮れたらいいなという思いが結構おさえ難く強くなってきて」

 

──そうした思いから2年ぶりにフィクションを撮って、新しい空気を吸うような感覚はありましたか?過去の監督作に出演した渋川清彦さん、石田法嗣さんが出演している一方、染谷将太さんなど初めて出演される役者さんもいますが?

 

「そうですね。久しぶりなのは勿論ですけど、まるで初めて撮るような感じも覚えたんですよね。「今までならこんなことしないよな」ということも自然にたくさんしています。藝大の同期のカメラマンに佐々木靖之さんという人がいて、彼とも6年ぶりくらいに一緒に組んだらお互い変わっていた。佐々木さんがメチャクチャ腕を上げていたというのは率直な実感ですが、ある意味でふたりとも“ゆるく”なったというか、昔だったら絶対許さなかったことを共に許しあうような、今までより許容度の高い中にお互いがいた気がします。そういうこともあって、なおかつカメラと役者の関係などの面で、どっちが主でも従でもない、とてもいいバランスが生まれた気がします。その感覚も初めてだったかもしれません」

 




(2013年6月24日更新)


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濱口竜介 監督 監督プロフィール(公式より)
はまぐち・りゅうすけ●1978年、神奈川県生。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。精力的

Movie Data




《濱口竜介プロスペクティヴ》

●6/29(土)~7/12(金)、第七藝術劇場
※連日20:40~レイトショー、
6/29のみ23:15~オールナイト
6/30(日)、7/10(水)、12(金)イベントあり
●6/29(土)~7/8(月)、神戸映画資料館
※6/29(土)、7/7(日)イベントあり
●7/8(月)~19(金)、
元・立誠小学校 特設シアター
※7/9(火)、19(金)イベントあり
●7/13(土)~19(金)、京都シネマ
※連日19:00~、
7/13(土)、18(木)イベントあり
●7/13(土)、京都みなみ会館
※23:15~オールナイト

【《濱口竜介プロスペクティヴ》】
http://prospective.fictive.jp/

【濱口竜介即興演技ワークショップ in Kobe 】
http://kiito.jp/schedule/workshop/article/3526/

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