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次世代の日本映画界を引っ張っていく未来の巨匠との呼び声も
《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》
大注目の監督、濱口竜介 超ロングインタビュー
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──台詞を書く上で意識されていることはありますか?

 

「……最も基本にあるのは“生活”ですね。生活の中で言葉を拾うことがたくさんあります。たとえば『何食わぬ顔』にいじめの話が出てきますが、あれはファミレスで隣から聞こえてきたのが非常に衝撃的な内容だったので、帰って書き起こしてそのまんま使いました。以降のほとんどの作品でも人が言ったことを使っているんですよ。「普通、こんなこと言わないでしょ!? 」という台詞ほど、だいたい生活で言ったり聞いたりした言葉、僕が実際に驚いた言葉だったりします。「え? こんなこと言うんだ? 」と思った言葉を映画の中でなんとか成立させてみたい、そうするとその周りの言葉も生まれてきます」

 

──濱口監督が創作した台詞だと漠然とイメージしていたものも、日常にあった言葉だったんですね。

 

「生活の中で得た言葉を通じて“真実”のようなものを感じた瞬間があるんです。ちょっと危ういニュアンスですけど。でも否定し難くそれを感じるから、それを使いたい気持ちになるんじゃないかな」

 

──今のお話を聞きながら思ったのは、私たちが普段の生活で何気なく使っている言葉もフィクションの要素を持っている、そう考えてよいのでしょうか?

 

「そうです。いろんな型があって、クリシェ(決まり文句)や流行語を使うのはフィクションから引用するパターンですよね。でも、ある言葉がまるでフィクションのような強度を持つこと、フィクションのようだと思う言葉が日常の中で現れることもあるんですよ。約4時間半の『親密さ』の反応をツイッターで読んでいると「観て長さを感じない」と言って下さる人がいて、それは日常の会話とも似たようなところがあるんじゃないかと。会話をしていたら2時間、3時間過ぎていたという経験が結構ありますよね。そういうときにそういう言葉が現れる」

 

──この取材も、ここまであっという間に時間が過ぎました(笑)

 

「ハハハ(笑)。僕は大学時代に出会った人に本当にいろんなことを教わったように思っているんです。くだらないことをする時間も沢山過ごしたし、とても“濃度のある時間”を過ごした感覚もあります。「今、友人と喋っているこの時にカメラが傍らにあって、これを撮ってくれればそれだけでもう映画になるんじゃないか」とずっと思っていたんですね。日常の中で言葉が交わされ発されて、人の関係や人そのものを変えてゆく、言葉にはそういう力があるという実感を持っています」

 

──特に『親密さ』にはその実感がよく表れていると思います。濱口監督の映画は言葉だけを追っても楽しめますが、それを突き詰めてふと逆説的な疑問に突き当たるときがあります。「もしかすると文筆や演劇でも面白いものが作れるのでは? 」と。あえて映画で表現を続ける理由は何でしょう?

 

「そうですね。人からも「小説にすれば? 」「演劇にすれば? 」、さらには「ラジオドラマにすればいいじゃない」と、そんなことを言われる度にちょっとムカつくと同時に「確かにそうかもしれないと」とグラつくんですけど(笑)。でもどうだろうな………言葉にしづらい部分で決定的なのは、「これはカメラで撮らないといけないだろう」という手触りがあるんです。『何食わぬ顔』は人の顔のアップで構成された映画、何か簡単な言葉だけをしゃべっている/聞いている人の顔だけがずっと映っている映画ですが、ひとつ言えばそれがすごく好きで、撮りたかったということですかね。そしてそれは映画のとても重要な要素にもなっている……とでも言わないと、他に自分を弁護しようがないのかもしれません(笑)」

 

───顔というと、『親密さ』のキャストは濱口監督が演技を教えていたENBUゼミナールの生徒たちで、プロフェッショナルではないのに彼らの表情には魅力があります。『親密さ』は演劇を作り上げる物語、『親密さ(short version)』(2011)はその演劇の部分だけを抜き出していますが、単なる「上演の記録」ではない映画になっていますよね。そこからも監督がカメラで撮りたいものが見えてくるように思いますが?

 

「最近はもう声だけを聴いていても「ああ、いいな」と思うことがあったりするので、もしかしたらもうカメラでなくマイク一本でもいいのかもしれません。でも、こう言って付加価値のように聞こえてしまうとよくないですが、言葉を話している状態でも言葉を受けている状態でも、とにかくその人の表情が変わってゆくことにものすごく映画的な魅力があると感じているんですね。僕はそこがとても好きで、それを映画にしたいという原初的な欲望があるとでもいうんでしょうか」

 

──映画を作る人はそれぞれ異なる欲望を持っていますよね。

 

「ちゃんと会話をしている人のあいだには男女問わず、とてもエロティックなものがある。話している人の顔を撮るのも聞いている人の顔を撮るのもエロティックなことのような気がしていて、きっとそれが映画にとっては必要なんだと信じて撮っています」

 

──『親密さ』に続くのが、『なみのおと』をはじめとする「東北三部作」。これらの作品では震災発生時のエピソード、さらに東北地方の民話を語る人/聞く人がカメラの前にいます。なぜフィクションからドキュメンタリーへ? と思った方もいるかもしれませんが、監督の中では一貫性がある訳ですね。また、今回のプロスペクティヴの上映作品の制作年度が新しくなるに連れ、「話している人」だけでなく「聞いている人」が画面に映る比率が高くなる点からもそれが窺えます。

 

「聞くことに関しては、最新作『うたうひと』(2013)に出てくる「みやぎ民話の会」顧問の小野和子さんについて話すことでお答えできると思うんですが、知り合ったのは2011年の夏でした。小野さんは聞き手で、沿岸部に住んでいる民話の語り手たちに会いに行くんですね。僕と共同監督の酒井はカメラも持たずに同行してその場を見て、語り手と聞き手のちょっと言葉にできないような親しさに出会ったんです」

 

──その「親しさ」を詳しくきかせてもらえますか?

 

「震災後に確かにあった高揚感も影響していたと思うんですが、お互いがある種の信頼感をぶつけ合うというか、人と人がこんなにあられもなく互いの感情をさらけ出すんだという驚きがまずありました。しかもそれはべたべた嫌な感じのものとは違う、他人としての親しさなんですよね。しかも、小野さんはあらゆる地域の語り手とそういう関係を結んでいた、という印象です。小野さんの前で言葉がどんどん溢れてくる、これはどうして起こっているんだろう? どうしたら人と人はこういう関係になるんだ? ということがひとつの興味としてまずあって、その後もお付き合いがあり、小野さんに聞き手をお願いして民話の語りを記録する『うたうひと』を作りました」

 




(2013年6月24日更新)


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濱口竜介 監督 監督プロフィール(公式より)
はまぐち・りゅうすけ●1978年、神奈川県生。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。精力的

Movie Data




《濱口竜介プロスペクティヴ》

●6/29(土)~7/12(金)、第七藝術劇場
※連日20:40~レイトショー、
6/29のみ23:15~オールナイト
6/30(日)、7/10(水)、12(金)イベントあり
●6/29(土)~7/8(月)、神戸映画資料館
※6/29(土)、7/7(日)イベントあり
●7/8(月)~19(金)、
元・立誠小学校 特設シアター
※7/9(火)、19(金)イベントあり
●7/13(土)~19(金)、京都シネマ
※連日19:00~、
7/13(土)、18(木)イベントあり
●7/13(土)、京都みなみ会館
※23:15~オールナイト

【《濱口竜介プロスペクティヴ》】
http://prospective.fictive.jp/

【濱口竜介即興演技ワークショップ in Kobe 】
http://kiito.jp/schedule/workshop/article/3526/

★京都みなみ会館でのオールナイト上映のチケットはこちら↓
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