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次世代の日本映画界を引っ張っていく未来の巨匠との呼び声も
《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》
大注目の監督、濱口竜介 超ロングインタビュー
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──いえいえ(笑)、続けてください。

 

「カメラを向けると何だかよくなる気がする。ただ、いつでもそうなるわけではなくて、それは向け方にもよる気がします。暴力的な向け方では出て来づらい気もするんです。そうではなく対象を受け止めるようにカメラを向けると、さっきあった言葉、“張り”が自然と出てくるし、向けていることによって段々とショットが充実してゆく感覚があります。石田くんでいうと「気がついたらこんなに魅力的になってしまった」と撮りながら思っていました。「すごいな、こんなことがあるものなんだ」と」

 

──監督自身、驚きながら撮っていたということですね?

 

「単に容貌の問題ではない魅力というのがしっかりあって、しかもそれがカメラを通しても伝わって、それが映画に映るんだと驚かせてもらった体験でしたね」

 

──震災の被害に遭った方たちの会話やインタビューを収めたドキュメンタリー『なみのおと』(2011)のカメラの位置にもかなり驚きました。

 

「今の流れでお話すると、あのときはそのカメラポジションが人の魅力を撮るためのポジションなんだと考えたんですね。カメラの前に立つことに慣れていない人に魅力的になってもらうために、結果として最もカメラを意識するあのポジションがベストだと共同監督の酒井耕と僕が判断しました。カメラを人物の真正面に置く。そして対話してもらう。真正面に置くのと対話をしてもらうのは両方必要で、それによって言葉でその人が変えられていく様が写し取られている気がします」

 

──ちょうど話題に上ったので、「言葉」に関しても質問していいでしょうか。濱口監督の作品は言葉の多さが特徴です。台詞が多く、エリック・ロメールを彷彿とさせる会話劇が展開する。『親密さ』には予告編でも聞ける「言葉は想像力を運ぶ電車です」という印象的なフレーズもあります。言葉のウエイトをどう考えておられますか?

 

「映画には「台詞を使わない」という手段もあります。「使わない方がよりよい」「台詞は言葉による説明でしかなくて、映画本来の豊かさを削いでしまう」と言われたりしますね。実際そういう側面はあるとも思います。ただ、僕は生活の中で“言葉”が単純に好きなんだと思います。特に大学時代には「人と話すのがこんなに楽しいんだ」という感覚があったんですよね。くだらないノリの時もあれば、その人の容易に触れられない部分に言葉で触れていくこともあって。生きてゆく中で「言葉って、映画で嫌われているほど悪いものじゃない」。そんな感覚は、他の映画を撮ってる人より強いのかもしれません」

 

──台詞を活かす、それは映画作りの最初の段階から考えていたことですか?

 

「どちらかと言えば、必要に迫られてだと思います。2003年に『何食わぬ顔』を撮った時はほとんど意識していなくて。僕も含めてほぼ全員が素人だったんです。だから「しっかり台詞を言うことができないだろう」と思って、日常会話レベルか、それを少しアレンジした言葉で構成しました。でもそれだけで物語を語るのはホントに辛い(笑)。その後、大量の台詞自体が方法論になったのが『Friend of the Night』(2005 )ですね。簡単に言えば。この作品は制作費がほぼなかったんです。トータルで10万円もない。車借りて、撮影する家も借りたら、雑費だけでほぼ消えていく。でも映画を撮らないといけない状況でどうしようかなと考えた時に、「語られる言葉が面白ければ映画も面白くなるんだろうか? 」と考えたんです。たとえばジャン・ユスターシュはそれだけで上手く作っている。単に話をしているだけでも面白い映画になっているので、そこにヒントのようなものを見つけました」

 

──ユスターシュの『ママと娼婦』(1973)は、ひたすら会話している映画ですね。

 

「『Friend of the Night』も44 分のうち、約30分は思い出話をしているような映画です。観てくれる人がそこで何らかの感情にまで至ることがあるだろうか? という実験をしていて、上手くいったかどうかはわからないです。ただ「こういう映画の作り方もあるんだな」という手応えは得たんですね。つまり僕たちみたいにお金も機動力もない状況で「言葉を使って映画を作ることは、すごく経済的な方法だな」という気づきはありました。消極的、消去法的な発想ですが(笑)」

 

──経済的な困難が幸いに転じたんですね(笑)。のちに演技経験を持つ人たちと映画を作るようになって変化はありました?

 

「東京藝大に入ってからは職業俳優という存在を得ることになりました。プロの役者さんとお仕事ができる状況になって『何食わぬ顔』のときだったら書かなかったようなフィクショナルな台詞を書くようになりました。乱暴に言えば「台詞を書けば言ってもらえるんだ。じゃあこういう台詞を書いてみよう」とどんどんタガが外れてゆく感覚があって、更に台詞を多用する映画になっていったんですが、さっきもお話したように、台詞って映画の中で結構嫌われているところがありますよね」

 

──はい。台詞を語らず感情を伝えるのも映画のよい面ですしね。

 

「そう。映画って沈黙と結構相性がいいんです。沈黙している俳優を映せば、そこには“黙っている”というある種の真実が映る気がします。一方で台詞を使うといろんな問題が出てきます。その都度、観客からもそこはかとなくジャッジを受けるわけですよね? 「こんなこと言う!? 」とか「こんな言い方で言う? 」と。だから台詞を発する度に観客の映画への信頼を壊しかねないリスクを負うともいえます。ただ『PASSION』のときに、渡した脚本の台詞だけを頼りに役者が自分で解釈して、自分の言葉としてつかまえてゆく過程が見えたように思ったんです。その台詞を言うことで役をつかまえてゆく、もしくは役につかまえられるのが見えたというか。それからは台詞を使うことにあまり躊躇がなくなりました」

 

──たとえ脚本に話し言葉で書かれていても、役者さんが台詞として発するまでは「書かれた言葉」の状態にあるといえます。それが立ち上がる瞬間に面白さがあるということでしょうか?

 

「ええ。台詞のそういう使い方で、豊かなことが起こる可能性があると思っています。台詞の質はまだまだこれから考えないといけないという気持ちもありますが、台詞は恐れず使っていきたいと思っています」

 




(2013年6月24日更新)


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濱口竜介 監督 監督プロフィール(公式より)
はまぐち・りゅうすけ●1978年、神奈川県生。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。精力的

Movie Data




《濱口竜介プロスペクティヴ》

●6/29(土)~7/12(金)、第七藝術劇場
※連日20:40~レイトショー、
6/29のみ23:15~オールナイト
6/30(日)、7/10(水)、12(金)イベントあり
●6/29(土)~7/8(月)、神戸映画資料館
※6/29(土)、7/7(日)イベントあり
●7/8(月)~19(金)、
元・立誠小学校 特設シアター
※7/9(火)、19(金)イベントあり
●7/13(土)~19(金)、京都シネマ
※連日19:00~、
7/13(土)、18(木)イベントあり
●7/13(土)、京都みなみ会館
※23:15~オールナイト

【《濱口竜介プロスペクティヴ》】
http://prospective.fictive.jp/

【濱口竜介即興演技ワークショップ in Kobe 】
http://kiito.jp/schedule/workshop/article/3526/

★京都みなみ会館でのオールナイト上映のチケットはこちら↓
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