ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第1回『しとやかな獣』

オノマトペ大臣「シネマ、ライムズ&ライフ」

 

MOVIE DATA

しとやかな獣
(C)1962 角川映画

『しとやかな獣』
1962年/大映/96分
監督:川島雄三 原作・脚本:新藤兼人
出演:若尾文子/川畑愛光/伊藤雄之助/
山岡久乃/高松英郎/山茶花究/小沢昭一/
浜田ゆう子/船越英二/ミヤコ蝶々

2部屋しかない団地の1室を舞台に、金にがめつく世間の道徳観念など屁とも思わない一家が繰り広げる騙し合いを描く。海軍中佐であった父親の指導のもと、息子は芸能プロに勤め、サギまがいの悪徳手口で荒らし回り、娘は流行作家の妾(めかけ)となり、絞り取ることに余念がない。母親はそんな親子を温かく見守っている。そこに息子が横領金を貢いでいた女事務員が登場し……。悪に徹し切った登場人物たちのセリフが実に小気味良く、それにガッチリ応えた役者たちの味も格別。若尾文子の悪女ぶりや、能舞台を思わせる音楽の使い方などが斬新なブラック・ユーモア家庭劇の傑作。

DVD発売中!
角川書店/DABA-90901
http://www.kadokawa-pictures.jp/
official/shitoyakanakedamono/
video.shtml

PROFILE

1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。

オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/

街の踊り 『街の踊り』
オノマトペ大臣
EP/MARU-098
http://maltine
records.cs8.biz/
98.html

PR0P0SE 『PR0P0SE』
PR0P0SE
MARU-113
http://maltine
records.cs8.biz/
113.html

BACK NUMBER

しとやかな獣 第1回
『しとやかな獣』

僕らのミライへ逆回転 第2回
『僕らのミライへ
逆回転』

私をスキーに連れてって 第3回
『私をスキーに
連れてって』

第4回
『殺人の追憶』

第5回
『ショーン・オブ・ザ・デッド』

第6回『告白』

ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」がスタートしました。記念すべき第1回は、鬼才・川島雄三監督の代表作の1本『しとやかな獣』です。

オノマトペ大臣「シネマ、ライムズ&ライフ」

 土曜日、朝10時。起きてすぐ家を出て、近所のレンタルショップへ。店内に設置された機械で検索。ピポパ。無い。通勤定期で地下鉄に乗り梅田まで。ここでも一目散にレンタルショップに向かったが、在庫は無かった。これはどうしたものかと思い、慌ててスマホを取り出し、TSUTAYAの店舗別在庫検索を行うと、JR尼崎駅前に在庫があるとのことで急いで向かう。
 私が高校生だった頃、通学途中にこのTSUTAYAに幾度となく寄り、DVDを何本も借りたことを思い出した。目当ての棚につき、「さ行」を探したが幾ら探してもないので若い店員さんを呼んだ。「あれ、無いですね。おかしいな。」と言った2秒後に隣の「た行」に入っていたのが見つかった。なんか恥ずかしい。
 10年経ちすっかり大人になった私はDVDを抱え帰路に着いた。これから映画を見て、コラムを書くのだ。電車に乗ると高校生が籠に入った犬を見て笑っていた。電車は動き始めた。

 初めてなので、少し説明すると、このコラムは、ぴあ編集部から毎月指定される映画を見て、その感想などを書くというものである。さらに、この映画コラムの最後に必ずラップの曲を提供するというお題もある。 
 恐らくほとんどの人が知らないと思うので、私自身についても少し説明しておくと、私はごくごく普通の会社員で、平日は地味な眼鏡にスーツを着込んで営業職として働いている。と同時に、趣味で続けているラップが、周りの人間のちょっとした成功のおかげもあり、主に朝飯を抜いても平気な顔をしているような不摂生な若者の間で、少しだけ話題になっている。
 映画のコラムというと、映画に人生を捧げた淀川長治先生みたいな映画評論家や、はたまた三度の飯より映画が大好きな文化系著名人の方が執筆するものだと思うが、私は大したこと無いレベルの映画愛好家で、「岩井俊二知らないやつはマジで浅ぇ」などとしたり顔で言う、どこにでもいる普通の27歳である。
 そんな私が書くコラムであるから、ぜひとも肩肘張らずに読んでもらいたい。そして最近映画を見る機会が少なくなったなぁと思っているあなたが、映画を見る気になってくれると幸いだ。

 さてさて第1回目のお題は、『しとやかな獣』。『恋空』とか見て恋愛観でもツラツラ語るのかなぁと思っていたところに、まさかの1962年川島雄三監督作品である。ひぇー!
 怖気づいて中身も観ずに、一言「マジ深いと思った。」で終わろうかと思ったが、世間体もあるし、廻り廻ってTOFUBEATS(友人/新進気鋭の若手トラックメイカー/評価高い)とかにまで迷惑がかかりそうなので、大人しくリモコンの三角ボタンを押したのだが、これがまぁあなた!家が傾くほどの衝撃作だった! うげー!
 舞台は、戦後10年くらい経った日本で、キッチンと部屋が二間あるようなマンション五階の一室。そこに暮らす家族たちが主人公。20歳過ぎの息子が「そばって体にいいのかな?」と聞くと、父親が「ルチンが含まれているから血圧にいいんだよ」と答える。どこにでもあるような家族の風景だ。美しい。
 ところが、実はこれが全然美しくない。何故なら彼らは家族ぐるみの悪党である。金に滅法汚い。息子がチョロまかした会社の金や、娘が不倫相手である大作家の先生から援助して貰ったお金で、親父がキャビアなんかパクパク喰っている。ホントにタチが悪い。筋金入りの化けダヌキ一家である。
 人を騙しお金を巻き上げる彼らであるが、世の中プカプカ漂いやすい浮いたお金というのはあるもので、彼らに騙された人々もまた、スネに傷のあるなんらかの悪党ばかりで、悪行に対してあまり強気に出られない。この物語は、それなりに悪い人たちが家族の住む家を訪問して、「金返せ」「いやだ」「幾ら欲しいんだ」「あんたも悪だね」みたいな、ちょっとファニーな悪党会話を行い、それによって話が進む会話劇の体裁をとっている。登場する人間が全員悪党なので、いわば“家族版ほっこりアウトレイジ”とでも呼びたくなる。

 吸ったタバコもお金に変えたい、カネの亡者のような彼らだが、何故このようになったのかというところは、非常に説得力ある形で描かれている。ご覧になるまで楽しみに頂ければよいが、年の寄った親父の顔面アップというのは特に説得力がある。恐れ入った。この映画自体、新喜劇感溢れる名調子で小気味よく会話が投げつけられる面白みが存分にあるのだが、大事なシーンではグッとスローな雰囲気になり、重みある言葉が上から降ってくる。この対比の妙が、日常に潜む狂気をなんとも印象的に浮かび上がらせている。

 舞台は東京という設定のようだが、出てくる出演者がチョイチョイ関西弁で、ミヤコ蝶々が銀座のママとして関西弁のイントネーションでまくし立てたときには、そのシーンだけ切り出して、iPodにブチ込みたくなるような興奮を覚えた。蝶々師匠がベロ出して、ベェー!っとやるシーンがあるのだが、あの顔の印象といったら、人力3Dとでも言いたくなる愛嬌のある迫力で、是非「アバター2」があるならあのシーンを使ってもらいたい。日常という舞台を面白くするかどうかは、やはり役者の顔面なのである。そのことを改めて感じた。
 名シーンということで言えば、途中空が赤く染まり、息子と娘がテレビに合わせて、ゴーゴー(?)ダンスを踊り狂うシーンがあるが、あの時漂う熱気も異常である。ゴダールが見たら、「気狂いゴーゴー」とフランス語で語っていただろう(←フレンチジョーク)。
 若い二人がゴーゴーのサウンドに合わせて腰をシェイクするのだが、何故かその音に被さるように和製の小鼓がポンポン鳴りだし、しちりきの音が空気を切り裂き、「っよぉ~~」の勇ましい掛け声が煽る煽る。さながら歌舞伎か能舞台でも見てるような気分になったが、このシーンで録音された二人の「ヤッホー」や「イエー」の声はデカすぎて完全に割れている。子供たちが踊り狂う横で父母はお茶をすすって我関せずと言った風体で、もし映画の予告編を私が作ってイイなら、このシーンを丸々三分上映したい。それぐらい、ギュッとエッセンスの詰まったシーンであった。
 物語には重要な要素として、恋愛感情が絡んでくる。赤いバラほど棘があるとは、そこらへんのオッサンがボソッとつぶやいた言葉で、これは私にとっても身に詰まされるところである。ヴェルナー・ゾンバルトという19世紀の大経済学者が著書『恋愛と贅沢と資本主義』の中で、そもそも経済とは、好きな子にええ格好をしたいという男の見栄を原動力に発展したと書いている。美しい女性に金品を貢ぎ、贅沢をさせようと考えることが、必要以上のお金を市場に廻し経済が発展するのだ、と。
 近所のオッサンにしても、大経済学者にしても、やはり女性に心を根こそぎ捧げた実感があったのだと思う。私だって、好きな子の前では社会的な人間としての体裁は保たず顔がとろけてた餅みたいになっていることだろう。誰もが恋愛という熱に浮かされるのは当たり前のことだが、根のない草はいずれしおれる。土から抜かれた瞬間から、実をつけることはないのだ。

 しとやかな獣は、社会という野に放たれた獣の話である。

 しかし彼らは、そこで野生の暮らしをするわけでもなく、狭い部屋の中で社会的な生活を送ろうとするのである。この映画は、そういった獣の生態をじっくりと観察するには申し分ない作品である。夏の自由研究の題材に、王子動物園に行き猿を見にいくのが億劫なあなたは、DVDでお手軽に彼ら獣の姿を見るとよいだろう。
 この映画、favります! (←決め台詞模索中)

 DVDを見終えて、晩御飯を食べに外へと向かった。夜道を、スーパーの袋を小脇に手を繋いだ家族が歩く。たこやき、たこやきと息子がシャウトすると、母親が今日はたこやきじゃないわよ、と諭していた。何食べるんだろう。
映画の中で親父が、「ここ四、五年家族でご飯食べたことなんてなかったんだから、これでよかったんだよ。」とつぶやくシーンがあったことを思い出した。何食べたんだろう。

 私は一人、やよい軒へと足を進めた。メニュー選びに慎重になった。

 

Track & Lyrics

ここでは、オノマトペ大臣がその映画にインスパイアされ書き下ろしたリリックを楽曲にしてご紹介! 記念すべき第1回のトラックは、トーベヤンソン・ニューヨークのメンバーでもある玉木大地さんが手掛けております!

【スピーカーノイズ】

深夜のラジオ 星が降る音
コオロギ鈴虫がバックバンド
風がカーテンをふわり揺らす頃
読んでおくれよ 僕のリクエスト
明日の予定書いた左手のメモ
こすっても落ちないサインペンだもん
落書きだらけ数2の教科書
夢の公式どっか載ってないの?

3時超えて進む銀河鉄道
大人の人もドキドキするの?
眠くなっちゃってもう起きてないよ
色々あんだ 27にもなると
どんどんと増えてく欲しいもの
くだらない嘘も増えてくだろう
君も変わっていくのさどこまでも
ちょっと/混じって/消える/スピーカーノイズ

閉店間際に駆け込もう 仕事帰りに向かった梅田のタワレコ
君なら何を選ぶだろう あの人のあと視聴機で聞こう
ビルの間を歩いてくゾウ あのキリンは何を食べて寝るの
アンドロメダ目指し飛んだフラミンゴ
ピンクの羽に描かれてた地図よ

高架を走って街を抜ける頃 パンタグラフが火花弾く音
All time we need hi-speed, you always think about new dream.
マンション明かりが全部ついたなら 暗闇の星は見えなくなるかな
実家帰んのとか久しぶりだな 野良猫が玄関をコンコン

窓を/開けーればー/ソー聞こえてくるだろうザミステリアスサウンド
都会を澄まし歩く彼らの鳴き声を
目を/閉じーればー/ソー聞こえてくるだろうさマイスピーカーノイズ
雑音混じりで聞かせてよあの頃の音 ザザーザッ

 

次回からのトラックはなんと一般募集いたします。世界中のトラック野郎(トラックメイカー)は、下記注意を参照の上、是非ご応募ください。
【トラック応募に関する注意】
①基本的にサンプリングNG
②3分以内
③音楽ジャンルは不問
応募の宛先はコチラ
onomatope_daijin@hotmail.co.jp

 

企画・構成:天野あゆみ