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『上方落語若手噺家グランプリ2017』
決勝進出者インタビュー、桂小鯛編

第3回『上方落語若手噺家グランプリ 2017決勝戦』インタビューも後半へ突入。第五弾は桂小鯛の登場だ。岡山から大阪へ落語を聴きに通ううちに、桂塩鯛(当時、桂都丸)の元へと入門を決めたのは2007年のこと。あれから10年。今年初めて『上方落語若手噺家グランプリ』決勝戦進出を決めた。ライバルは桂華紋、桂三四郎、桂雀五郎、桂雀太、桂二乗、桂米輝、笑福亭喬介、林家染吉と、先輩、同期、後輩と顔ぶれもさまざまだ。6月20日(火)に行われる決勝では、予選と同じく「やかん」を口演する。

――初めての決勝進出ですね。予選はいかがでしたか?

ありがとうございます! 先輩もいてはるし、そんなに気負うこともなく、順番もありがたいことに後の方だったので、結構冷静にずっと見てました。

――同じグループは皆さん、強敵でしたね。勝ち抜けるという思いはありましたか?

どうですかね。まぁ、頭からずっと見てて、グランプリという形ですけど、落語会ですから、なんか、もう一回、一山どこかで来るはずだと思ったんですよ。そういう予感みたいなものがあって。そこに自分がちょうど当たって、ラッキーだったと思います。

――予選のネタは「やかん」。上方で他にされる方はあまりいないですよね?

そうですね。何人かだけですよね。「やかん」はまず時間の自由がきくということと、ほかの人とかぶらないっていうのがまずあって。あとはどのネタにも似てないんですよね、内容が。ただただ面白いだけでもなく、いろんな見せようができるネタなので、そのへんが好きですね。ありがたいし、昔から重宝してます。

――「やかん」をやり始めたきっかけはなんですか?

このネタは東京のイメージですけど、好きは好きでしたね。それに、ほかの方はどうかわからないですけど、「これ、やったら面白くなりそうな気がする」っていう予感が起こるネタっていうのが、今まで何回かあったんですよ。そのうちのひとつです。予感が外れることの方が多いんですけど(笑)。

――決勝は何をされますか? 秘策とかありますか?

ネタ一緒なんですよ。また「やかん」をやらしていただきます。時間が最大3分延びますので。カットしてた部分やギャグももう少し入れられますし、また一緒かと思わずに、たぶん、「あ、こんなんあるんや」と新鮮に思ってもらえると思うんです。

――決勝の他のメンバーを見て、いかがですか?

先輩が多いですし、ネタを見ていて僕以外、ほんまに強豪ぞろいなんで「絶対こうしてやる」と気負うことはないです。

――決勝進出に選ばれた時の気持ちはどうでしたか?

予選の時は2位に入ればいいという戦い方なので、2位で呼ばれなかった段階で結構、ぎくりとしてたんですよ。2位には入ってるんちゃうかなと思ってたんで。だから、名前を呼ばれた時はホッとしました。意外でした。

――周りからなんか言われましたか?

「お前はノーマークや」と、とあるお兄さんから言われました(笑)。

――ノーマークは結構怖いですけどね(笑)。

まぁ、大穴やと思ってください(笑)。えぇように言えば。えぇようにも言うてないけど(笑)。

――小鯛さんは岡山県出身ですね?

はい。岡山県の倉敷市というところです。

――でも、言葉は上方の言葉ですよね?

いやいや、そんなことないですよ。苦労しましたし、現在進行形で気ぃつけてますね。入門した時から「一生治ると思わんといた方がいい」と言われています。確かに今でもそうですね。

――もう入門されて10年ですよね?

僕、6月1日入門なんで、丸10年ですね。

――この10年、いかがでしたか? 

月並みですけど、あっという間ですね。無我夢中っていう感じですよね。時間だけたってた感じです。ほんとに。

――岡山でも落語をされてたんですか?

そもそもお笑い好きで、高校生くらいの時から芸人さんに憧れてたんですけど、その時はテレビでやっているような漫才やコントをする人に憧れてたんです。僕が高校を卒業する年に吉本の養成所の岡山NSCが開校したんですよ。「これや」と。運命かなと勝手に思って入学したんですけど、土地柄なのか、18歳で入ってきた若造がいなかったですね。おばちゃんとか多くて。サラリーマンの方もいました。

――おばちゃん?

そうなんですよ。おばちゃんが新喜劇したいみたいな感じで入ってたんですよ。あれ、ちょっと空気が違うなと思って。年の近い人と一瞬、コンビを組んでみたんですが、やっぱりうまいこといかなくて、学校も結局行かなくなりましたね。その時に2人でするっていうのが難しいなと、そういうことも感じたんですよ。時間を合わせて。お互いの趣味趣向も違うし。お笑い好きの延長に落語があったので、そのへんから興味を持って聞き出しました。で、落語って楽しそうでやってみたいと思うようになりまして。

――それから落語を習い始めたんですか?

その時、フリーターでしたから、岡山大学に行っている同級生に落研っていうのがあるよって教えてもらって、落語研究会にだけ出入りしてたんです。ネタもいくつか覚えて。老人ホームとか行きましたわ。結構仕事あったんですよ。今よりあったかも(笑)。その時に面白いなと思って、それで真剣にやろうと思いました。

――岡大の人たちと車に乗って、大阪まで落語会を見に来られてましたよね?

そうなんですよ! ワッハ上方やトリイホールとか! 繁昌亭ができた時は繁昌亭に行ったり。

――桂塩鯛師匠のところに入門した理由は何ですか?

岡山で一番よく見ていたっていうのもありますし、好きは好きですよね。一番好きな人に行くっていうのはみんな一緒やと思うんです。今までは「好きやからです」って答えてたんですね、ただただ。でも最近、当時の気持ちを思い出すことがあって、うちの師匠の落語の面白さってちょっと解析できない謎な部分があると僕は思ってるんですよ。

――謎な部分?

ほかの方々を見たら現代的なギャグを入れているだとか、古典落語の古めかしい言葉を分かりやすく伝えてくれるだとか、何となくそういう面白さがある。そういうのは理屈で納得できたりするんですけど、うちの師匠の落語の面白さってそういう分析、解析できない謎な部分があるなって。それを知りたくて追いかけていたと、今、考えたら思いますね。

――それは解析できたんですか?

できないですね。よく分からないですね…。でもやっぱり、人間性とか、ざっくり言うと才能とかになってしまうのかもしれませんけど。経験なのか…。すごくオーソドックスにカットするわけでも、足すわけでもあんまりなく、古典落語のいいところ、悪いところもありのままに見せてくれる。ポテンシャルをそのまま提示しているっていう感じがあって。その辺が魅力的でしたね。

――小鯛さんも師匠のそういうところを取り入れていきたいっていう?

はい。今のところは。でも、真似できないなと思っています。いつかはそんな感じでやれたらええなと思っていますけどね。

――決勝では小鯛さんの魅力、持ち味をどういうふうに出せたらいいなと思っていますか?

そうですね。うーん。自分の魅力はこれですと言えるものは別にまだないと思いますし、今、噺家は多いですし、若手もいっぱいいますので、「この子はちょっと違うかな」と思ってもらえたらえぇなと思いますけどね。ネタもそうですし。落語って道筋は一応決まってまいすので、変な言い方ですけど、肌触りとか感触みたいなものが大事やと思ってるんです。そこは人とは違うよなっていうのはなんとなく思ってるんですけど。でも、それはお客さんに感じてもらうものなので。でも、やってみての話ですね。

――そこを磨いていくためにしていることはありますか?

あー……そこを別に意識してということはないです、無理やり作るもんでもないと思ってますし。

――決勝の時のアピールポイントはありますか?

うーん、コンセプトみたいなものがそれぞれあると思うんですけど、きっと皆さん、それはネタ選びに現れていると思ってるんです。だから具体的にここっちゅうのが、あると言えばあるんですけど、それはもう、あんまり言うことでもないのかなと。先ほども言いましたけど、強豪ぞろいなので。まずは、僕みたいなやつはノーミスで行くと。そこを一番大事にしないといけない(笑)。

――噛まずにいく!

2回まで(笑)。噛むとしても2回までくらいの(笑)。ノーミスでいく。これが唯一、用意できる僕の戦略かなと思います。

――決勝に残っている染吉さんも同期ですし、小鯛さんの同期はいいメンバーですよね。

そうですか。ありがとうございます。生寿くんとか福丸くんとか、咲之輔くんとかがいます。

――同期で競いながら上がっていくのが、ベストなパターンですよね。皆さんはされていますが、10周年はしないんですか?

いや、それもね、考えてないんですよ。よく言われるんですけど。みんながするとは思わんなかったので。怠けてるのかみたいな感じに思われるのが辛いんですけど、僕としては3か月ごとに動楽亭でやっている勉強会「小鯛の落語漬け」が自分の最新というか、神経を削ってやっていますので、そこに来てもらえたら一番ですね。

――これからはどんな噺家さんを目指していきたいですか?

まぁ、コツコツやってきたし、これからも変わらずコツコツやっていくだけやと思ってます。あんまりこれっちゅうような具体的な目標があるわけでもないんですけど、大きくいうと、面白いおっさんになるということが僕の目標なんで。変わらずコツコツやっていきます。

 

取材・文/日高美恵




(2017年6月19日更新)


Check

繁昌亭夜席 第三回 上方落語若手噺家グランプリ2017 決勝戦

▼6月20日(火) 18:30

天満天神繁昌亭

当日-2500円

[出演]桂華紋/桂小鯛/桂三四郎/桂雀五郎/桂雀太/桂二乗/桂米輝/笑福亭喬介/林家染吉

※未就学児童は入場不可。

[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874

※前売り券完売ため、当日券若干枚数あり。

天満天神繁昌亭
http://www.hanjotei.jp/

【会見レポート】ファイナリストが意気込みを語る!
https://kansai.pia.co.jp/interview/stage/2017-05/1705-whgp2017.html

桂小鯛

1984年6月23日生まれ
岡山県倉敷市出身
2007年6月に桂塩鯛に入門