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知恵、勇気、愛はすべてあなたの中にある
宮本亜門が贈る日本の魂(ソウル)のミュージカル
(2/2)

――ミュージカル界の巨匠で亜門さんの友人のスティーヴン・ソンドハイムは、自分のミュージカルはミュージカル俳優ではない人が出てほしいとおっしゃっているそうですね。亜門さんも同感なのでしょうか?例えば、弱虫ライオン役のエハラマサヒロさんはお笑い畑の方ですが。

エハラさんには初演でも出てもらって。なんともいえない個性でエハラさんらしいライオンになっています。別に、ミュージカル界の人が嫌いな訳ではないんですよ(笑)。みんな素晴らしい俳優が多いです。僕は、彼らと一緒にお仕事も多いのでそれはないんですけれど、やっぱり、ファンタジーだし、ぶっ飛んでいる世界じゃないですか。何これ? こんなにカラフルな世界なの? という表現をするときに、一色ではなく、違う香り、色、息吹を出したいんです。下手をすると統一してしまう人がいる。どこのどなたかは石を投げられるので、いいませんが(笑)。でも、その人の個性や魅力が匂い立っているほうが舞台は面白いと僕は思います。多様な生き方が合わさって、舞台の上で生でぶつかり合う。初日は皆、顔では笑っているけれど、内心は怖くて不安なんです。違う職種の人が多くて予測がつかないから。でも、それを毎回繰り返すことによって、可能性以上の可能性が引き出される。それに立ち向かっていくことは最高の体験なんですよ。

――また今回は、20代、30代のスタッフが多いと伺っています。

美術監修はきゃりーぱみゅぱみゅさんのPVや舞台装飾を手掛けた増田セバスチャンです。映像はPerfumeの演出サポートを行っている真鍋大度さん。音楽は安室奈美恵さんらに楽曲を提供しているNao’ymtさん。昔のソウルフルミュージカルと全く違った、オール・メイド・イン・ジャパンにしたかったからこのスタッフを選んだんです。だから、ブロードウェイの人が見に来ても、何これ? と思うぐらい、演出をはじめ、ノリやリズム、テンポも違う。日本でしか作れない新たな『ウィズ』にしたかったんです。ソウルというのは、黒人のソウルではなく、魂という意味では日本の魂(ソウル)のミュージカルなんです。

――さらに、振付は少女時代やジャネット・ジャクソンなどの踊りを手掛けた仲宗根梨乃さんです。亜門さんは仲宗根さんにアドバイスをされたりもするのですか?

基本的に、人がこう動いて、こういうフォーメーションだとかは僕が考えます。それに、キャラクターはこう思っているから、こういう動きだというのも提案しています。歌や踊りが入ったときに、いかにもショータイム!とならないで、すべてが物語としてうまく流れるように修正は加えますけれど、仲宗根さんは、僕の細かい注文にもカーッと目を見開いて、全部入れ込もうとしてくれます。例えば「ブランニュー・ディ」という歌は、9回ぐらい僕が変えてといったんです。いやなヤツなんですよ、そういうときは(笑)。キャスト全員が振りを覚えているのに、僕が満足しないから「何がブランニュー・デイだ。ちっとも嬉しくないよ未来は」みたいな雰囲気になったときも(笑)。とてつもない喜びを表現するときは、形やステップで適度に見せていてはいけないんですよね。例えば、何十年間、部屋に閉じ込められていた子が表にポーンと飛び出していく、すごい瞬間を表現するとしたら、ただ、お客さんに見せる踊りになってしまうのはダメ。手の先まで喜びを表してという振付を要求するんです。それを仲宗根さんは喜んで変えていってくれる。本当に才能がありますね。よくぞここまでやったと思うほど素晴らしいダンスになりました。

――若い人と一緒にやるのは亜門さんにとっても学ぶことが多いのでしょうか。

多いですね。僕はすごく幸せな場所にいるんです。というのは、演出家によってはずっと同じスタッフを継続して、一つのチームを作る人もいる。僕はそこには興味がないんです。次々に出て来る新たなクリエーターたちと、新たな発想、新たな感動が化学反応みたいに起こる瞬間は何ごとにも代えがたい経験です。正直に言うと、新しい人たちとやると、時間もかかるから大変です。それを否定する人もいるんですが、僕はだからいいんだと守ってあげています。自分が若いときを思い出してごらん? 僕もそうだったんです。周りの熟練したスタッフが支えつつ、新しい才能を入れ込むことはむしろ、最高の体験になっているんです。僕にとっても学んでいける場所であり、そこで新たなものを観客に届けられるならステキなことではないですか。

――周りの人と自分の考えが違うとわかったら、「来たなー!」とよけいに面白く感じられるそうですね。

違いが分かる男なんです(笑)。

――それは何歳ぐらいのときからですか?

コーヒー飲んだときからかな(笑)。もともとミュージカルは歌や、踊り、芝居で作られている。僕だってミュージカルだけを信じている訳ではなくて、オペラや芝居の演出もします。色んな芸術が好きなんです。でも、ミュージカルが嫌いだという人の意見も分かる。誰かが突然、歌って踊りながら街を歩いていたらそりゃおかしいですよ。すぐに警察が来ますよね。こんなのないよと笑えたり、バカバカしく見えたりするスタイルが、では、なぜ、こんなに世界に広がっているかということなんです。さまざまなジャンルをお互いに結び付けて、違うものが合わさったときに可能性がある。それは多種多様の考え方がある人間の根源的な面白さにも通じる。組み合わせ方を変えていくことで、新たなものがいくらでも生まれるんです。そういう意味では、僕とは違う考えを持つ人と一緒に舞台を作り上げていくことは、怖くありませんし、世界も広がる。ミュージカルは一つの形だけではなく多様なスタイルが生まれている。ブロードウェイでも世界でも。そんな可能性のある楽しさが好きですね。

――そこから真実がこぼれ出る瞬間があるのですよね。

そう思います。ふとしたときに、なんで涙が出るんだろうと。コンサートに行って一曲聞くのとは違う深みが出ていることがある。何だか分からなくてもいいんですよね。実はその言葉が一番嬉しくて。歌がうまかったというだけでは、心がそんなに動かされていない証拠なんですよ。心のどこか内面に深く触れてほしい。それでこそ、劇場に来ていただく意味があると思うんです。

――亜門さんの作品は社会的なメッセージも込められています。それはミュージカル『太平洋序曲』以降ですか?

そうですね。2011年に『金閣寺』を演出したときも三島由紀夫の精神性を描いたり、昨年の『ヴェローナの二紳士』もそういう場面がありましたね。ある人がツイッターで、「私は亜門さんの舞台は大嫌いです」と書いていました。その理由が、「現実逃避をしたいのに、必ず現実が舞台で顔を出す」と。それも分かるんですよ。でも、僕はあえて、社会的な主張を入れています。というのは、「今、あなたはここにいるんです。それは怖がらなくていいんだ。夢が終わったら無くなるのではなく、あなた自身も素晴らしい生きもので、現実と向き合っても大丈夫なんですよ」と伝えたいんです。ファンタジーだから楽しかったというだけではなく、いつの間にか観客がそれぞれの人生を重ね、現実の自分に自信がついていく…というのを僕はやりたいですし、演出家としての意義はそこにあると思います。

――『ウィズ』の初演から3年たっていますし、世界の状況も変化しています。亜門さんなりの社会的メッセージを今回も期待していいのですね?

はい。『太平洋序曲』もそうですけれど、同じセリフを言っていてもそのときの世界情勢によって察し方が違ってくるんですよね。出演者たちももっと面白く言おうとか、このセリフは前よりも響くようになったねと話し合っています。

――今作でドロシーやブリキ男、かかしたちと一緒にどんな旅ができるかを楽しみにしています。

かかしは脳がない。弱虫ライオンは勇気がない。ブリキ男は心がない。自分は何かがないからというけれど、実を言うと何かはあったんですね。他人に言われたからないと思い込んでいる。自分でそれで生きてきてしまった過去があるというところが登場人物の共通点なんです。本当はその人がそれを一番持っているかもしれないのに。「足るを知る」という言葉がありますが、すべては中にある。大丈夫と思って自分を信じたら何かは出てくるものなのですよね。先日、ブータンを訪れて、よけいにそう確信したんですけれど(笑)。僕が言ったら、「亜門さんついにきちゃったよー、きれいごと言ってんじゃん」と言われかねないので(笑)、こればっかりは舞台を通じて見せていければと思っています。一方、ドロシーはあまりにも現実逃避をしていたことによって、『ウィズ』という不思議な世界に入ってしまう。そして、現実に勇気を持って帰っていく。ドロシーは自分が満たされていることを知ったがゆえに、ちゃんと人を愛せるようになるんだと思いますね。あの子は変わっていくんだろうな。今後は自分ができることを人にしていく…。すみません、なんだか亜門の部屋みたいに熱く語ってしまいました(笑)。

――こちらこそ、亜門さんの熱さに生き返る思いで、とても幸せな時間でした。長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 

取材・文 米満ゆうこ

 




(2015年3月31日更新)


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宮本亜門
みやもとあもん●1958年1月4日生まれ、東京都出身。ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎等、ジャンルレスな演出家として国内外で幅広い作品を手がける。2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて『太平洋序曲』を上演、トニー賞の4部門でノミネートされた。2005年、『Into The Woods』で朝日舞台芸術賞の秋元松代賞を受賞。2011年1月には、三島由紀夫原作の『金閣寺』を舞台化し、NYリンカーン・センター・フェスティバルに正式招へいされた。2013

スーパー・ソウルフル・ミュージカル
『ウィズ~オズの魔法使い~』

発売中

Pコード:441-450

▼4月4日(土) 13:00/18:00

▼4月5日(日) 11:00/16:00

梅田芸術劇場 メインホール

S席-13000円

A席-7000円

[原作]ライマン・フランク・ボーム

[脚本]ウィリアム・F・ブラウン

[作詞][作曲]チャーリー・スモールズ

[翻訳][演出]宮本亜門

[翻訳]森雪之丞(訳詞)

[出演]

梅田彩佳(NMB48) 田野優花(AKB48)《ダブルキャスト》/
佐賀龍彦(LE VELVETS)/施鐘泰[JONTE]/エハラマサヒロ
岡本知高 阿知波悟美《ダブルキャスト》/小柳ゆき/瀬戸カトリーヌ 
仲宗根梨乃/吉田メタル
陣内孝則


4月4日(土)5日(日)
11:00 
梅田/阿知波
13:00
田野/岡本
 
16:00 
梅田/阿知波
18:00
田野/岡本
 


※未就学児童は入場不可。
※一部Wキャストあり。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]0570-200-888

ウィズ ~オズの魔法使い~
http://www.parco-play.com/web/play/wiz2015/

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宮本亜門より動画メッセージも!

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