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知恵、勇気、愛はすべてあなたの中にある
宮本亜門が贈る日本の魂(ソウル)のミュージカル
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日本が誇る演出家、宮本亜門が、児童文学「オズの魔法使い」をベースにしたスーパー・ソウルフル・ミュージカル『ウィズ~オズの魔法使い~』(以下『ウィズ』)を手掛ける。カンザスで育った少女ドロシーが、竜巻によって魔法の国「オズ」に入り込み、家へ帰るために仲間と旅を続ける物語は今も世界中で愛され続けている。主役のドロシーをAKB48からオーディションで選び、話題となった2012年の初演は大好評で、今回再演が決定した。普遍的な物語を彼ならではの世界へと変えた『ウィズ』に対する思いをたっぷりと聞いた。

――『ウィズ』は1974年にブロードウェイで初演されました。亜門さんは、その舞台を現地でご覧になられたそうですね。キャスト全員がオールアフリカ系アメリカ人というのは、当時珍しかったのではないですか?

大変珍しかったですし、黒人が白人の話を演じるということも不思議でした。正直言うと、チケット買う前は「えっ?」と思ったのを覚えています。行ってみたら、まず驚いたのが劇場の80パーセントぐらいが黒人のお客さんだったこと。そんな光景を見るのも初めてでした。ハーレムの教会みたいだなと思いましたね。そして舞台が始まると、出演者の歌のうまさも含めて、異常なテンションとエネルギーなんです。これがブロードウェイか!とびっくりしたのを覚えています。

――当時、亜門さんはまだ20代で、初めてブロードウェイに行かれたのですよね。そのときから『ウィズ』を演出されたいと思っていたのですか?

僕はそのころよく日記を付けていて、いつか演出したい作品はリストにして書いていたのを覚えています。今でもその夢が諦めきれなくて、こうやっておかげさまで演出家でいられる。しつこいヤツだなと自分でも思うぐらい(笑)、思いが入った作品です。昨年演出したミュージカル『ヴェローナの二紳士』もそうですね。

――『ウィズ』の物語のどこにひかれたのでしょうか。

物語が楽しいのはもちろんですが、そこに入り込んでいるメッセージ性に強くひかれました。人間のあり方や不安、恐怖など生きるうえでの本質的なものを描いているんです。それはドロシーの中にもあり、彼女が自分が生きている価値というものを見いだしていく旅になっているんですよね。ドロシーのかわいらしい格好や、彼女の仲間であるブリキ男やライオンなどゆるキャラみたいなものは、子供っぽく見えるんだけど、本質は大人も子供も心に触れる内容なんです。ブロードウェイの観客は大人が多くて、皆その大人が泣いている訳ですから、メッセージの芯がちゃんとしている。そういうところにとても興味を持ちました。ドロシーは魔法使いのウィズのところに行くのですが、彼こそはすべての夢を叶えてくれると信じていたら、それがひっくり返る。そして二幕から新たな話が怒涛(どとう)のように展開する。ドロシーはウィズから魔女を殺さなければ夢は叶わないと言われますが、それ以上の困難で、どんでん返しが続くんです。でも面白いことに、そのたびに、ドロシーが成長していく。やっぱり痛みがあると人は成長するし、苦しいことがあると次に繋がり、乗り越えるんですよね。人が生きるうえでの本質をついているという意味では見事な作品だと思います。

――ドロシーが進む紆余曲折の道を、観客それぞれが自分の身に置き換えられる。

そうなんです。3.11の震災以降、あえてこの舞台をやろうと決意したのは、若い子たちが、これからどうやって生きていけばいいんだと悩んでいたから。20代、30代、40代でも未来が信じられなくて、生きる活力をどこに見いだしたらいいか分からないという人が多いので、そういう人たちに見てほしいんです。周りが悪いんじゃない。まず、自分なんだ、自分を信じれば世の中は変えられるんだという第一歩を少しでも踏み出してほしいと思って。初演でも僕より年は上で疲れたオジサンが、「亜門さん、元気になりました!」と喜んでくれました。家族で子供のために来たら、お父さんが一番泣いていたとか(笑)。

――2012年の初演では亜門さんは主役のドロシーをAKB48のメンバーからオーデションで決められました。今回もそうですが、きっかけは?

僕がまず秋元康さんに電話をしたんです。「主役をAKB48から選ぶというのはどうですか?」と。そしたら、秋元さんの第一声が「うち、誰も歌を歌えないよ(笑)」。僕は、「誰か歌えるでしょう、これだけ人数がいるんだから」と返したんです(笑)。そこから話が進みました。人前にでて、演じたり歌を歌ったりしたいという10代、20代の女の子たちがこれだけいる。オーディションですごい難関を乗り越えてくることは、やっぱり素晴らしいと思うんです。競争したり、切磋琢磨したりすることによって、磨かれていく、このテンションは必要なんですよ。ブロードウェイでも常に皆切磋琢磨しているし、その層の厚みたるやすごい。全員が競争することがすごいエネルギーを生み出していく。AKBはあまりレッスンをしないというのは有名なんですが、本気でやりたい子がいれば、あなたは本当に変われるんだ、あなた自身もドロシーのようになれるんだと、僕やスタッフも彼女たちに入れ込むことができるのではないかというのが野望でした。ただ、かわいい子がいて、レールを敷いてあげるのではなく、本人が変わっていくことで僕たちもチャレンジしたい。観客にもそれを見てもらいたいですし、そのことが、『ウィズ』のエンディングの歌、「ホーム」にも繋がると思ったんです。

――そのオーディションで今回、梅田彩佳さん、田野優花さんのお二人がドロシー役に選ばれました。

もともとドロシー役は一人のはずだったんです。それが二人を見て変わりました。第1次、第2次、第3次のオーディションを通過して、これだけ変わっていける子たちはいないと。スタート地点は全然違ったんですよ。でも、ものすごく伸びてきている。この流れは絶対に止めたくないと思って。この二人のドロシーがどうしても見たいと思ったのが起用した理由です。

――お二人の魅力をお聞かせください。

梅田さんは『ウィズ』以外、ほかのミュージカルにも出たりして、ミュージカルに対する思いがすごいです。一つ一つのシーンの意味をつかみとろうと、成熟した演技をしようと頑張っていてすごく魅力的です。「ビーライオン」という歌があって、大丈夫、元気だしなさいよー!と歌うときの梅田さんはすごいんですよ。この曲だけで、もう幕閉めてもいいんじゃないかと思うぐらい(笑)。自分も苦しんできた、傷ついてきたけれど、次に向かうために、相手を勇気づけながらも自分に言い聞かせている歌なんですね。これはすごいです。田野さんはミュージカルにあまり興味がなく、その良さを知らずに、むしろ、梅田さんが出たミュージカルを見て、新鮮に感じて、ここに入ってきているんです。すごくダンスがうまいんですよ。竜巻が起こり『ウィズ』という、日常の生活とは違う王国に入った、何がなんだか分からないところにぶつかる驚きや感動がとても新鮮です。最後の曲「ホーム」で道が開けたように昇華していくのもいいですね。成熟を目指すもの、まだ全く初めてスタートしたばかりのもの、年齢も違うし、あり方も違うんです。全然違うドロシーを見事に築いてくれています。稽古場で見ていて面白いし、お互いがドンドン競争し合いながら良くなっている。この二人がいて一つの作品が完成するぐらいなので、お客さんには二人とも見てほしいですね(笑)。

――周りのキャストもお二人に感化されるところはあるのでしょうか?

もちろんです。皆真剣勝負ですし、絶対初演より面白くしようとする意気込みがすごいですよ。初演も評判が良かった分、もっとお客さんの期待に応えられるように努力しています。

――亜門さんの場合、再演でキャストを一新したり、同じ人が続投したり、作品によって選び方が違うのですか?

うーん、空いた期間によります。空いた期間が長いと新たにオーディションすることが多いです。常に一人か二人は継続して同じ人がする場合もありますね。「アイ・ガット・マーマン」だったら、ずっと同じだったり。中島啓江は亡くなってしまいましたが…。ただ、生ものなので、初演が良かった人が同じようにいいということはないんです。やっぱり、そのとき、どう生きているかというのが、もう一回会ってみないと分からない。同窓会に行ったときに、あれ、この人こんな人だったの?という場合がありませんか(笑)? クラスで一番、生き生きしていた人が魅力がなくなって疲れていることが。それと同じで、一、二年で皆さん、変わりますから(笑)。常に自分を切磋琢磨している人かどうかは会えば分かりますからね。僕もそういう人間でありたいと思っています。再演のときに、演出家が疲れ切って、下ばっかり向いていたらダメですし、再演だから、「うん、いいんじゃない」と同じテンションでその場にいたら、素晴らしい舞台を作ることはできないんです。一回、一回、全力投球して、一人前のめりで、興奮しているオヤジになっている(笑)。そうしたら、周りの皆も熱くなって一緒にやっている最中です。

――亜門さんの熱さは半端ではなく素晴らしいから、周りも発熱するのでしょうね。

ウザいですよね(笑)。

――いえいえ、とんでもないです!テレビで拝見していても、熱いですものね。

昔はこうじゃなかったのになぁ…。昔は「違いが分かる男」として、すましていい感じでテレビのCMにも出ていたんですけどね(マネージャーを含め一同爆笑)。それに飽きて面倒くさくなったんですね。テレビの生番組はすごく楽な気持ちで出演させてもらっているので、変に興奮しているばかりの人になっているんでしょう(笑)。

――陣内孝則さんは前回に引き続き、魔法使いのウィズの役です。亜門さんがオファーされたのでしょうか?

陣内さんてペテン師ぽいじゃないですか(一同爆笑)。前からよく知っていてオファーしたんですよ。あの軽さというか、B級感が大好きで(笑)。こんなこと言うと怒られるかな。もともとロックンロール系の歌手だったこともあって、ウィズが真面目に歌い、演技するのではなく、どこかそれを遊ぶことが、このミュージカルには必要なんです。僕はブロードウェイにいた20代のときに、ブロードウェイの演出家4、5人に、「演出家になりたいんですけど、何が必要ですか?」と聞いて、コメディセンスだと言われたんです。それを聞いて落ち込んで辞めようかと。昔は僕はとても真面目だったから。今もそうですけど(笑)。コメディものは好きなんだけど、自分は作れないと思っていた。陣内さんはすごくそこがいい。説得力があるようで、嘘くささもあり、ウィズの痛みがよく表現できる。若いキャストが多いので、不安そうでしたが、今は一番盛り上がっています。




(2015年3月31日更新)


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宮本亜門
みやもとあもん●1958年1月4日生まれ、東京都出身。ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎等、ジャンルレスな演出家として国内外で幅広い作品を手がける。2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて『太平洋序曲』を上演、トニー賞の4部門でノミネートされた。2005年、『Into The Woods』で朝日舞台芸術賞の秋元松代賞を受賞。2011年1月には、三島由紀夫原作の『金閣寺』を舞台化し、NYリンカーン・センター・フェスティバルに正式招へいされた。2013

スーパー・ソウルフル・ミュージカル
『ウィズ~オズの魔法使い~』

発売中

Pコード:441-450

▼4月4日(土) 13:00/18:00

▼4月5日(日) 11:00/16:00

梅田芸術劇場 メインホール

S席-13000円

A席-7000円

[原作]ライマン・フランク・ボーム

[脚本]ウィリアム・F・ブラウン

[作詞][作曲]チャーリー・スモールズ

[翻訳][演出]宮本亜門

[翻訳]森雪之丞(訳詞)

[出演]

梅田彩佳(NMB48) 田野優花(AKB48)《ダブルキャスト》/
佐賀龍彦(LE VELVETS)/施鐘泰[JONTE]/エハラマサヒロ
岡本知高 阿知波悟美《ダブルキャスト》/小柳ゆき/瀬戸カトリーヌ 
仲宗根梨乃/吉田メタル
陣内孝則


4月4日(土)5日(日)
11:00 
梅田/阿知波
13:00
田野/岡本
 
16:00 
梅田/阿知波
18:00
田野/岡本
 


※未就学児童は入場不可。
※一部Wキャストあり。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]0570-200-888

ウィズ ~オズの魔法使い~
http://www.parco-play.com/web/play/wiz2015/

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宮本亜門より動画メッセージも!

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