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劇団柿喰う客・中屋敷法仁の新機軸
女体シェイクスピアシリーズ003
『発情ジュリアス・シーザー』が大阪で開幕中!
中屋敷法仁が語ったシリーズへの思い
そしてシェイクスピアの魅力とは!? (2/2)


--では、女優さんについてもお伺いします。

中屋敷:今回は特に若いんですよ。平成生まれが半分くらいいます。これは政治劇なので、若い人でやるしかないだろうと。僕、文楽もイメージしていて。文楽は人形ですから手足が短いですよね。この作品にもちっちゃい女の子がたくさん出ます。みんな身長がちっちゃくて。このちっぽけな感じがすごくいいなぁと思って。斬られた時もポテっと倒れちゃって空しいなぁと思って。例えば、ジュリアス・シーザーの役をやっている川上ジュリアさん。19歳で最年少です。ジュリアス・シーザーは歴史上では50を超えている偉大なる政治家ですが、それを19歳の生意気な女の子がやる。最年少の川上さんがシーザーをやって、それをみんなで殺そうとする。ジュリアさんの若くて、全く恐れを知らない感じがジュリアス・シーザーの驕り高ぶる状態とリンクしているなと思ったんです。会った時から、ジュリアス・シーザーはこの人がいいなと思って。

--配役はパッと決まったんですか?

中屋敷:お会いしたらすごく元気で、ああ、この向こう見ずな感じがいいなぁと思って。若い子ってみんな元気なんですよね。で、政治家を殺して世の中を変えるって思うのって、良くも悪くも尋常じゃない精神状態ですよね。国を動かそうなんてことは論理的な思考でやれるもんじゃない。政治を、国を動かすとなると、我々は急に頭でっかちになるけど、かつては情熱でやってたんじゃないかなって。それを今、考えられるのは若い子たちでないといけないと思って。でもまあ、今は政治不信がひどくて、20代もみんな選挙に行かないですけど…。

--女優さんたちは作品について、どんなリアクションですか?

中屋敷:みんな男に対してイライラしていますね(笑)。みんなカッコイイ男を演じているんですよ。みんなの中に素敵な男像があって、それを具現化しています。でも、逆に言うと空しさがあって。“こんな男は今日日、いないよね”みたいな。皆さん、過剰なくらいカッコイイですよ。演じる上で一番参考したのは黒澤映画ですね。『椿三十郎』とか。なんで三船敏郎は髪の毛ぼさぼさで汚いのにカッコイイのか。敵役の仲代達矢さんも二枚目で、色白で。その感じがセクシーだなって。今はイケメン産業で、世の中も“こういう男子がカッコイイ”とかって一辺倒で。それがいまいち、味がない。各々の味をどう出そうかと。『七人の侍』がなぜあんなにセクシーなのかすごく考えましたね。女優さんたちも“これがカッコイイ”みたいなことを考えて。

--なるほど。チラシを拝見しますと、今回の衣裳は和装で。

中屋敷:時代設定をちょうど時代の変遷期にしようと思って。和ものから洋ものに移る話にしようと。西南戦争とか、戊辰戦争の頃ですかね。洋服に移り変わる時代で、ギリギリ残っている着物の人たちの話、みたいな。

--ストーリーでも和装はばっちりはまって。

中屋敷:はまっていないという人もいるんですけど(笑)、僕ははまってると思います。ジュリアス・シーザーという大物の政治家がいて、“このままじゃいけない”とその人を倒そうとする人がいる。でも、やっぱり時代は新しい方に行きますよね。例えば、和服の人と洋服の人が戦うとなると、何となく洋服が勝ちそうな気がしますよね。何でしょうね、やっぱり旧時代から新時代に行く時の感じとか…。ただ、和ものにしていると誤解されることもあって、ノスタルジックなイメージとか抱かれるんですけど、ノスタルジックなんてものじゃない、もっと空しさがあります。

--東京公演はどうでしたか?

中屋敷:内容に関すること、演出の意図とか、僕のまだ足りないところはあるんですけど、いろんなところから感想を聞きました。AKB48の子も観に来てくれましたよ(笑)。結構アイドルの子とか観に来てくれましたね。それで言うと、今の女の子産業は“男に愛されなければ”っていうのがありますよね。イケメン産業も、女の子のファンをつけなきゃって。世の中はこんなに男女平等とかになっているのに、産業の方がむしろ狭くなってきてるなって思って。

--中屋敷さんもイケメンボーイズとのお仕事など、結構されていますよね?

中屋敷:どっちともお仕事しているんですけど、どっちともきつくなってるなぁと。今、男が惚れる男とか、女が惚れる女っていう像がなくなってきてますよね。あと、男が男に惚れない。結局、そういう男がいないからだと思うんです。高倉健とか、三船敏郎とか。勝新太郎もそうですよね。ああいう人が出ないですよね。

--あえて挙げるなら誰ですか? 男が惚れる男。

中屋敷:いや~、昔はスポーツ選手だったんですよ。スポーツ選手も最近、アスリートという単語になって、イケメンとか、美女が注目されていますよね。ついに終わってしまったなと思って。もうアスリートっていう単語は何だよ、選手だよ、選手と思って。すぐみんな、顔とかを取り上げますけどね。……誰だろうなぁ。いやぁ、何でしょうね。今、誰なんだろうなぁ。そういう象徴になろうっていう人もまずいないですからね。男ならば女性ファン、女ならば男性ファンっていう思考とか、売り方とか…人気の出方が一方向になりがちで。

--女体シェイクスピアを手がけていて、どうですか?

中屋敷:東京も動員が多かったんですけど、いや、もう、女体シェイクスピアの一番の悩みはやっぱりね、客席の半分が男性なんですよね。演劇ファンって普通、女性なんですよ。これ、本当に女性たちに観に来てほしいなぁと思って。できれば年配の女性たちに。本来なら年配の女性が一番、劇場に足を運んでいるんです。ご婦人方が。そういうご婦人方が若い女の子たちの芝居を観に来ないと、これはいけないなと思ったんです。あと、おじさんたちが若手イケメンの舞台を観に来なきゃまずいと思って。これ、難しいところですよね。そこが開ければ“演劇も大変だ”とは言っていられないですよ。劇場に来る人はいるわけだから。そこに対してエクスキューズができればいいなと思います。

--それはシリーズを3回されてきた間に出てきた課題ですか?

中屋敷:もう、強く思ってますね。僕、いつも言っているんですけど、基本的にシェイクスピアを男だけでやるっていうと、大体その裏に男社会が歴然とあるわけですよ。それを観て日本のご婦人方は喜ぶだろうが、本当にこのままでいいのかなと。シェイクスピアの真髄を女性が楽しむにはどうしたらいいんだろうと考えてますね。このままではシェイクスピアがただただ消費されるだけになるなと思ったりして。

--年配のご婦人方にも興味を持ってもらえるように…。

中屋敷:じわじわと女性のお客さんも増えているんですけど、やっぱり引っ掛かりは男性の方が多いので、何か女性のための…。“女性のための”ってつけるとまた、それはそれですごく胡散臭い(笑)。

--ちょっと先の話をお聞きしますが、次回の女体シリーズはもう決められているんですか?

中屋敷:今度は東京だけになるんですが、『リア王』をやろうと思ってます。そうやって来年以降も年2本のペースでできたら、20年を待たずに全シリーズができるので。

--他の舞台も手がけながら、女体シリーズと、お忙しそうですね。

中屋敷:僕、シェイクスピアは仕事が嫌な時に、さぼって読んでいるんです(笑)。もう趣味です。良くも悪くも研究する時間はないんですけど、好きですね。シェイクスピアをやっていると、落ち着くんです。自分の中では、シェイクスピアは観劇している数も多いので。例えば『無差別』(柿喰う客本公演。2012年上演)なんかをやる時とか、自分の中でどんな演劇が好きなのかとか、自分に対する突き詰めがすごくきつくなるんですけど、シェイクスピアだと、“ああ、蜷川さんはこういうのやっていたな”とか、“宝塚はこんなことやってたな”とか、過去に観たシェクスピアの作品とか、演劇の歴史の中における自分の立ち位置というものを改めて確認できたりするんです。あと先輩たちからもいろんな意見をもらえて。なので、シェイクスピアが一番、孤独じゃなくなりますね。400年前のイギリス人と僕がつながっている。その間にある演劇ともつながっている。それで意外と孤独感を感じずにいられるんです。これは僕個人の話ですけど。だからシェイクスピアをやっていると機嫌がいいんです(笑)。シェイクスピアってイコール演劇の歴史みたいなところがあるので、シェイクスピアを通ることで日本の演劇とか、西洋の演劇とか、いろんなものをまた勉強することができるんです。やっぱり入り口になるものですからね。決して大それたものではなく、初心者向けです。僕、いつも言ってるんです。演出家になりたい、俳優になりたいという人が、“シェイクスピアっていつごろ読めばいいんですか?”って聞くんですが、僕からすると入門書なので、“それから入らないと、どうするんだ”って。シェイクスピアにはいろんな秘密が込められていて、いつ読んでも発見が多くて。

--シェイクスピアの魅力とは、どんなところですか?

中屋敷:シェイクスピアが何でこんなに上演されているのか、その一番の理由が、まずはどこをカットしても大丈夫。例えば、チェーホフとかって切れないんですよね、どこの場面も。シェイクスピアだったら登場人物を2、3人にしてもいいし、一人芝居にしてもいい。それでも成立するということが一つ。あとモチーフですよね。衣裳を変えてもやっぱりローマの話として成立する。これはどちらも台詞の力です。言葉の力。ファストフードにもなるし、高級料理にもなるという変幻自在なところがシェイクスピアのいいところですね。

--今、シェイクスピアと肩を並べる劇作家はいますか?

中屋敷:これがいないんですよ。何でいないかというと、シェイクスピアは文学性にも優れていますけど、商業性にも優れていて。シェイクスピア自身も座付き劇作家で、人気商売だったので、“このシーンで喜ばせよう”とか、“ここでギャグのシーンを入れよう”とか、見せ場と自分の書きたいもののバランスが絶妙なんです。これがものすごくいい。

--第3弾も90分に凝縮しての上演だそうですが、“女体シェイクスピア”は作品内容が分かりやすいですよね。

中屋敷:それが、『ジュリアス・シーザー』は歴史的背景が分からないと内容が分からない部分もあるのですが、僕からすると分からなくてもいいじゃないかという考えもあって。多少、ストーリーラインが分からなくても、俳優さんの力で見せられないかなって。今回は特に説明を加えていませんが、舞台を見ていればストーリーを追えるようにしています。

--なるほど。大阪公演が終わると、新潟、三重での上演も控えていますね。ホールでの見え方も、また違ってくるでしょうし、そちらでもぜひ楽しんでほしいですね。今日はありがとうございました。




(2013年3月15日更新)


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●公演情報

柿喰う客
女体シェイクスピア003
『発情ジュリアス・シーザー』

▼3月14日(木)~17日(日)
(木)19:30
(金)~(日)14:00

in→dependent theatre 2nd

【一般】-4300円
【発情アリーナ】-5300円
【全ステージ共通】
敬老(60歳以上)-3800円
学生-2000円
高校生以下-1000円(枚数限定、当日受付にて要証明)

[原案・原作]シェイクスピア

[演出][脚色]中屋敷法仁

[出演]石橋菜津美/岡田あがさ/荻野友里/川上ジュリア/七味まゆ味/清水由紀/岡野真那美/鉢嶺杏奈/葉丸あすか/深谷由梨香/我妻三輪子/渡邊安理

〈乱痴気公演〉
▼3月15日(金)19:30
全席指定【乱痴気】-4300円
※全キャストシャッフルにて上演。

〈ガールズナイト〉
▼3月16日(土)18:00
【女性】-3800円
【男性】-7600円

※全席指定。
※出演予定の田島ゆみかは都合により降板となりました。代役は岡野真那美。
[問]ゴーチ・ブラザーズ
[TEL]03-6809-7125

柿喰う客公式サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/

●あらすじと配役

【あらすじ】

ローマ市民からの熱狂的な人気を誇る、凱旋将軍ジュリアス・シーザー。
彼の暴走を恐れたブルータスは、旧友キャシアスらに駆り立てられ、
シーザー暗殺を決意する―

「ブルータス・・・お前もかッ・・・!」

女優によるシェイクスピア上演プロジェクト第3弾!!
浮世の“情”に絡め取られる儚き政治劇、ここに解禁!!

【配役】

石橋菜津美……マララス/メテラス/レピダス
岡田あがさ……占い師/召使/ピンダラス
荻野友里………カルパーニア
川上ジュリア…ジュリアス・シーザー
七味まゆ味……アントニー
清水由紀………ポーシャ/ルーシリアス
岡野真那美……ディーシアス/市民
鉢嶺杏奈………キャスカ/市民
葉丸あすか……シナ/市民
深谷由梨香……ブルータス
我妻三輪子……ルーシアス/フレイヴィアス/歌人のシナ
渡邊安理………キャシアス

(公式サイトより)