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劇団柿喰う客・中屋敷法仁の新機軸
女体シェイクスピアシリーズ003
『発情ジュリアス・シーザー』が大阪で開幕中!
中屋敷法仁が語ったシリーズへの思い
そしてシェイクスピアの魅力とは!? (1/2)

2009年上演の『悩殺ハムレット』よりスタートした劇団柿喰う客の新機軸“女体シェイクスピア”。シェイクスピア作品の脚色、演出を劇団代表でもある中屋敷法仁が手がけ、全て女優だけで演じるという本シリーズも3作目に突入した。そして“女体シェイクスピア003『発情ジュリアス・シーザー』”が3月14日(木)より大阪・インディペンデントシアター2ndで幕を開け、現在絶賛上演中だ。女優たちが“女”のままで、べらんめぇ口調で繰り広げるとったりやったりの政治劇。大正浪漫を髣髴させる衣裳も見どころの本作についてインタビューを実施。中屋敷法仁、大 い に 語った。

--ぴあ関西版WEBです。どうぞよろしくお願いします。“女体シェイクスピア”シリーズの第3弾は『ジュリアス・シーザー』というとこですが、まずはなぜこの作品にされたのでしょう?

中屋敷法仁(以下、中屋敷):『ジュリアス・シーザー』は、民主政治の走りだったローマの時代の話で、英雄が倒れてまた新しい英雄が出てくるという変遷を描いているんですけど、一番に“市民の存在”というのがあって。新しい政治家にどんどんなびいていくとか、演説一つでころっと意見を変えてしまうとか、そういう愚かな市民を描いています。ついさっきまで誉めていてたのにすぐ鞍替えするとか、劇中でも何度も変わってしまう。こんなに付和雷同というか、意見がないんだな、市民たちはって。あと、シェイクスピアは16世紀の作家ですが、話は紀元前のローマの時代で。シェイクスピアが自分の時代よりさらに昔の話をやっているんですね。それで、人間というのは愚かだなというところをまざまざと見せつけられました。で、昨今の政治状況を見ていて、これはぜひやりたいなと。まあ、企画した時はまだ民主党に政権があると思っていたんですけどね(笑)。

--企画されたのはいつごろですか?

中屋敷:去年の夏頃ですね。前作の『絶頂マクベス』が終わったのが4月で、その時から次は『ジュリアス・シーザー』と決めていて。解散総選挙とぶつかったら面白いだろうなと思っていてたんですが、(上演前に)早々と退陣してしまって。逃げられた感じですよね。(女体シェイクスピアシリーズの)過去2作、『悩殺ハムレット』と『絶頂マクベス』は悲劇を描いていますが、どちらも個人の悲しい話なんです。社会に対して自分がうまくいかないという話で。『ジュリアス・シーザー』は完全に政治劇というか、歴史劇。これを女優のみでやれないものかと。政治劇になると登場人物はほぼ男で、女性役もふたりしか出てこないんです。その女性役もだれそれさんの奥さんという形で全く自己主張がない。『ジュリアス・シーザー』は、そこに加えてすごく男らしい話、“生き様とは”という、そういう話なので、これを女優でやって今の社会をシニカルに描けたらなぁと。今、世の中の男の子はあんまり信用できないですからね。

--あえての『ジュリアス・シーザー』。

中屋敷:1回目、2回目は有名なものがいいと思って、『ハムレット』『マクベス』という2大悲劇を。原作は『ハムレット』が一番長くて『マクベス』が一番短いんです。で、『ハムレット』と『マクベス』は対比されることも多いので、この2作をやって、3作目は何にしようと思った時、やっぱり現代演劇なので社会に通じる作品をやらなければということを思いました。あと、僕はシェイクスピアの中にある女性蔑視というか、いかに男社会だったかということをもう一度考え直したいなと思っていて。『ジュリアス・シーザー』は、みんな男らしいというか、男としてどう生きるかということを延々とやる話なので、これを女の子だけでやると面白いだろうと思いました。

--『ジュリアス・シーザー』を脚色することで、シェイクスピアの描く男像など、改めての発見はありましたか?

中屋敷:シェイクスピアにとってローマ人はすごく距離のある存在だったと思うんです。劇中に「ローマ人」という単語がものすごく出てきますが、多分ですけど、当時のローマ人って「自分たちはローマ人として」とか、「ローマ人の誇り」とか言わないと思うんですよ。イギリス人であるシェイクスピアが古代ローマに対してロマンを持って、“ローマ人には、こんな男らしいヤツが多い”っていう憧れですよね。逆に言うと、当時のイギリスの男たちが情けなかったと思うんです。我々も幕末の志士とか、戦国武将を見る時、単純に“わ、カッコイイ”だけじゃなくて、“あ~、じゃあ、今の男はどうなっているんだろう”とか、そういうことを考えますよね。それと同じような…。シェイクスピアって、人間を描く際、個人だけじゃなく時代の中から描くという、司馬遼太郎さんみたいな人だと思うんです。世界を「舞台」と言っているくらい俯瞰で見ている人なので。今回、そういうところがかなり見てとれましたね。ローマ人もそんなヤツらばっかりじゃないと思うんですけど、『ジュリアス・シーザー』に描かれているのは、シェイクスピアが思うローマ人なんだなって。

--その憧れる感覚というのは、日本人にとっては幕末の志士以外には何があるでしょう。

中屋敷:やっぱり侍だと思いますね。『ハムレット』も『マクベス』も、苦悩しても自殺はできないんですよ。それはキリスト教が自殺を禁じているから。でもローマ人ってキリスト教じゃないから、みんな死んじゃいます。自害する人も多い。名誉のために死ぬんです。ただ、日本人の感覚で自害というと、“敵に捕まるくらいなら今ここで”とか、そういう散りの美学があると思うんですけど、ローマ人ってそういうことじゃないと思うんです。誇りとかプライドもありますが、日本人のプライドを重んじるというものとは違う。僕は今回、割りと日本人の散りゆく美学、“いかに散り際がカッコイイか”ということを意識しています。『ジュリアス・シーザー』には「ブルータス、お前もか。ならば倒れるがよい」という台詞がありますけど、これが歌舞伎だったら、すごく粋な台詞だなと思って。単純にめそめそして、“ああ、何だ、お前を裏切ったのか”と引くんじゃなくて、“お前みたいな素晴らしいヤツが裏切ったのなら、俺は負けた方がいい”って言ってのける感じが、もっと開いていったらいいなって。

--今回は歌舞伎のテイストも入れているそうですね。

中屋敷:全編、大和言葉を使っていて。シェイクスピアって大体、標準語で訳されるますが、『悩殺ハムレット』も『絶頂マクベス』も基本的にしゃべり言葉に訳していて。これはかなり主張していることで、例えば、『ジュリアス・シーザー』ってどの翻訳を読んでも「公明正大」とか「清廉潔白」といった表現で、音で聞いても分からないですよね。じゃあ「公明正大」という台詞がどうなるかというと、『発情ジュリアス・シーザー』では「まっすぐなヤツ」と表現しています。“発情”なんてタイトルをつけていますが、情というものをかなり使っています。どうもガチガチした言葉にして訳されることが多いですが、ーマ人だって人間として生きていると思うので、温もりとかあると思うんです。

--シェイクスピア作品で、そうではない翻訳もありますか?

中屋敷:シェイクスピアを翻訳した坪内逍遥(1859-1935)という先生がいますが、あの人は『ジュリアス・シーザー』を一度、浄瑠璃にしている。文楽にしているんです。100年以上前ですけどね。でも、それに対してのアンサーを日本の演劇はあんまりやっていなくて。多分、坪内逍遥が『ジュリアス・シーザー』を読んだ時、“あ、これ、浄瑠璃でやればいいじゃん”“文楽じゃないか、これは”って思ったと思うんです。世の中をよくするために悪代官を倒すという、ストーリー的に。講談調に翻訳した『ジュリアス・シーザー』があります。僕もそうだよなと思って。多分、坪内逍遥の翻訳以降、徐々に標準語が生まれて、それが正しい日本語だみたいなことを言われてますけど、本当に我々の心に響く言葉をもう一度、改めなければなって。政治家のマニュフェストとかを読むようになってますけど、良くも悪くもすごいですよね。しゃべっていること、論調は一緒で、日本語の組み方とか言葉の力は全く軽視されている。単語だけ並べている感じですよね。いかに言葉を使うかっていうことが政治家にとって一番大事なはずなのに、使っているのは官僚言葉といいますか…。

--その辺はやはり気になりますか?

中屋敷:気になりますね。私が最近、一番感動したのは、古いですけど、「どげんかせんといかん」。あれが政治家のいい台詞だなと思って。伝わりますもんね。すごく伝わる。僕、(大阪市長の)橋下さんは何で関西弁でしゃべんないんだろうと思って。賛否あると思うんですけど、名古屋の河村さんとか、言っていることは伝わってくるんですよね。あれを標準語の論調でやられると…。今、ネット上とかでも、いろんな文字とか情報が氾濫してますけど、人の言葉から何が語られるかですね。それで、『発情ジュリアス・シーザー』ではもう、みんな旧江戸弁でやっています。

--旧江戸弁というのは、江戸時代の話し言葉?

中屋敷:そうですね。江戸の落語とかが分かりやすいですね。「するってぇと何かい?」みたいな。「あなた」のことを「おめぇさん」と言ったり。これは全員に言える話ですけど、今、標準語をしゃべる俳優しかいなくて。これが僕はもう、すごく悲しいです。俳優さんって何でもしゃべれないといけないんじゃないかなと思うんです。

--方言も。

中屋敷:方言もそうですし、古い言葉も使わないし。まあ、時代劇がなくなったということもあるんでしょうけど、古い言葉もかつてはしゃべり言葉ですからね。標準語はしゃべり言葉ではないので。かといって若者言葉を教えたりもしませんからね。『悩殺ハムレット』を若者言葉でやった時も、みんな結構、しゃべれなくて。使ってないからしゃべれないんだけど、俳優さんだったら使ってなくもしゃべれないといけないから。僕はシェイクスピアをやりながら、日本語の広がりみたいなものも見せたいなと思って。どうもシェイクスピアというと、みんな標準語になっちゃう。翻訳家の翻訳は正しいけども、日本語の強さみたいなものは、そこは坪内逍遥以来、あんまり出ていないんです。簡単な日本語に訳す人はたくさんいます。小田島雄志さんもそうですね。誰もが分かる言葉に訳されます。でも、誰もがびっくりするような言葉には訳したりはしない。だから、関西弁のシェイクスピアも意外とないんですよね。僕はやればいいのにと思います。

--先ほどの“べらんめぇ調”について、もう少し教えてください。

中屋敷:『ジュリアス・シーザー』って簡単な英語で書かれているんです。原文は中学生でも読める。かなり分かりやすくて、論理的で誤解のない英語にしていて、すごく簡単です。主語述語、形容詞の順番がはっきりしていて、ちゃんとした英語で書かれています。なので、標準語で翻訳しちゃうと、どうでもいい台詞が多くなるんですよね。で、歌舞伎って、どうでもいいことを名台詞にしちゃうよなと思って。「絶景かな、絶景かな」って、あれは結局「いい眺めだな」だし、「しばらく」もそうですよね。「ちょっと待ってください」。それがいいと思って。「お前もか、ブルータス」なんてのは、これはちゃんと名台詞になっていて。それで、今回はいかにシェイクスピアの名台詞を名台詞っぽく言うか。『悩殺ハムレット』は若者言葉でやって、「生きちゃう系? 死んじゃう系? それ問題じゃね?」っとかって。今度は名台詞でございって感じですね。

--例えば?

中屋敷:「~~してみな」とか「してみやがれ」とか、相当、日本語的な脚色が多いですね。「さあ、好きにするがいいみたい」な台詞は、「煮るなり焼くなり」と入れていて。当然、英語で「煮るなり焼くなり」なんて表現はありませんが、「煮るなり焼くなり好きにしやがれぃ!」みたいな。ああ、これは名台詞だと。大和言葉で気持ちいい瞬間というか、何かこう立ち上がるものがあるようにしたいなって。最近のドラマも、名台詞がないですよね。いい言葉は多いんですけど、“決まったー!!”みたいなものが…。何でなんだろう。劇作家でも劇団☆新感線の中島かずきさんぐらいじゃないかな。かずきさんはロマンチックなので。かずきさんは名台詞を書くためにいろんなものを書いていらっしゃる。

--舞台でも少ないですか。

中屋敷:名台詞を言う芝居がないですよね。すっと中に入ってくる台詞はあるんですけど、染み込んでどうすると思って。染み込むんじゃなくて、こっちから“うわ~! よく言ったー!!”ってなるような…。この間、市川海老蔵さんの『夏祭浪花鑑』を観ましたが、いや~、名台詞のオンパレードでしたね。「どうだぃ!どうだぃ!」とか。“よ!!”ってなりますよね。気持ちがいいな~って。宝塚もそうですよね。宝塚は何もかもカッコイイ。ああいうダイナミックなものは本当に少なくなっていて。ダイナミックになっているかはさておき、今回はダイナミックというものを主眼に置いている演出だなということを分かっていただけると思います。

--これまでのシリーズ2作品ともまた、違いますか?

中屋敷:かなりスタイリッシュじゃなくなっていますね。過去の2作品は良くも悪くもショーアップされていて、照明と音響でザーン!!ってなってましたけど、今回は先に俳優がしゃべって、そこに照明と音響を合わせるという方法をとっています。照明があってそこに俳優が入るんじゃなくて、俳優の動きに照明を合わせています。これは良くも悪くも、俳優さんの底力みたいなものが出てしまうので、危険な選択なんですけど…。彼女たちもまだ20代前半の子が多くて、最年長で30歳です。若いですね。なので、ひとまず『ジュリアス・シーザー』を経て、これから女優としていろんなことを考えていってほしいなと思います。



(2013年3月15日更新)


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●公演情報

柿喰う客
女体シェイクスピア003
『発情ジュリアス・シーザー』

▼3月14日(木)~17日(日)
(木)19:30
(金)~(日)14:00

in→dependent theatre 2nd

【一般】-4300円
【発情アリーナ】-5300円
【全ステージ共通】
敬老(60歳以上)-3800円
学生-2000円
高校生以下-1000円(枚数限定、当日受付にて要証明)

[原案・原作]シェイクスピア

[演出][脚色]中屋敷法仁

[出演]石橋菜津美/岡田あがさ/荻野友里/川上ジュリア/七味まゆ味/清水由紀/岡野真那美/鉢嶺杏奈/葉丸あすか/深谷由梨香/我妻三輪子/渡邊安理

〈乱痴気公演〉
▼3月15日(金)19:30
全席指定【乱痴気】-4300円
※全キャストシャッフルにて上演。

〈ガールズナイト〉
▼3月16日(土)18:00
【女性】-3800円
【男性】-7600円

※全席指定。
※出演予定の田島ゆみかは都合により降板となりました。代役は岡野真那美。
[問]ゴーチ・ブラザーズ
[TEL]03-6809-7125

柿喰う客公式サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/

●あらすじと配役

【あらすじ】

ローマ市民からの熱狂的な人気を誇る、凱旋将軍ジュリアス・シーザー。
彼の暴走を恐れたブルータスは、旧友キャシアスらに駆り立てられ、
シーザー暗殺を決意する―

「ブルータス・・・お前もかッ・・・!」

女優によるシェイクスピア上演プロジェクト第3弾!!
浮世の“情”に絡め取られる儚き政治劇、ここに解禁!!

【配役】

石橋菜津美……マララス/メテラス/レピダス
岡田あがさ……占い師/召使/ピンダラス
荻野友里………カルパーニア
川上ジュリア…ジュリアス・シーザー
七味まゆ味……アントニー
清水由紀………ポーシャ/ルーシリアス
岡野真那美……ディーシアス/市民
鉢嶺杏奈………キャスカ/市民
葉丸あすか……シナ/市民
深谷由梨香……ブルータス
我妻三輪子……ルーシアス/フレイヴィアス/歌人のシナ
渡邊安理………キャシアス

(公式サイトより)