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「柿喰う客の舞台は亜流だと思って観てほしい」
中屋敷法仁に聞いた『女体シェイクスピア』への覚悟 (1/2)

劇団柿喰う客の『女体シェイクスピア002「絶頂マクベス」』が伊丹のAI・HALLで上演中だ。この『女体シェイクスピア』とは、2011年9月初演の「悩殺ハムレット」より始まった女優だけで演じるシェイクスピア作品シリーズのこと。脚色、演出を柿喰う客の主宰・中屋敷法仁が手掛ける、当劇団の新機軸だ。そして、女優だけという妖艶かつ華やかな舞台はもちろん、長尺なシェイクスピア作品を90分という時間に収めつつ、何ひとつ取りこぼすことのない解釈も見どころの一つとなっている。そこで、中屋敷法仁にシリーズ2作目である「絶頂マクベス」について、また『女体シェイクスピア』に賭ける思いを聞いた。

--ぴあ関西版WEBです。今日はよろしくお願いします。まずは先日、千秋楽を迎えた東京公演はいかがでしたか?

中屋敷法仁(以下、中屋敷):これは前回の反省でもあったんですけど、前回以上に女優さんにしかできないシェイクスピア劇というものを色濃く打ち出せたと思いました。前回は「同じ演出プランで男の俳優さんでもできるんじゃないの」という一番根底を覆されるような意見もあって、その魅力に対してまだまだアプローチが足りなかったんじゃないかと思っていて。今回は、これこそ女優だけでやる意味を出せていると思います。『マクベス』は三人の魔女に取りつかれていく男の話ですが、全体を通して女の持つ魔性の力のような、それをモチーフにしています。魔女に取りつかれた男の話ですけど、舞台上にいる15人の女優みんなが魔女に見えていくような、そんな世界の広がりがあると思います。『マクベス』には「女の股から生まれたものには、マクベスを倒せない」という有名な台詞がありますが、テーマの裏側には女性の体など、そういったものがたくさん出てくるので、そこもかなり見応えが出てくると思います。それを男性でやると見ていられないというか…。

--それはリアリティという観点からですか? 権力争いとか、下剋上とか。

中屋敷:いや、男で演じると、男社会というか、男の話としかならないと思うんです。それが、ちゃんと「魔女と夫人」の話になっているような気はします。そっちが主人公というわけではなくて、それに対してマクベスがどういうふうに挑んでいくのかというところが出せているかな。マクベスを誰かが普通にやると、絶対マクベス役の俳優さんって「俺が主演だ」ってなるんですよね。でもこのマクベスは主演だけど残念ながら一番ひどい目に遭うので、マクベス以外の14人でマクベスをいじめるので、そういうようなチームワークが稽古場でも生まれていました。マクベスは悲劇だから、マクベスがめっためたにされるのが一番面白いから、そういうところが出ているのかなって。みんな、「いいね、この話」って。「一人の男が女の魔性の力でぼろくそにされていくのがたまらない」って稽古場で話してて。そうだよなって思って。こういうことが多分、男の作品では生まれないんですよね。男の人がやると一般論に陥っちゃう気がして…。それだけに、女だけのカンパニーでやっているという点と、女優しかいないという利点がかなり出ていると思います。東京公演を見ていただいた感想で一番嬉しかったのは、女性が見て痛快なものができていたこと。「女性が生き生きと演じられていた」とか。

--カンパニーは女性ばかりで。そういう中で、女の人の嫌な部分など見えることもあるのでは? そこは、男性から見てどういうところだと思いますか?

中屋敷:いい部分でもあるんですけどね。表裏一体です。女の人って人と接するときの浸透圧が低いというか。僕の勝手な考え方ですが、男の人ってコミュニケーションが女の人より密じゃないと思うんです。反面、女の人はすぐ、他人を息子のようにしたり、兄弟や家族のようにしたり。逆に、突き放すときは突き放す。この寄ったり引いたりがすごく感覚的にいいなと思いますね。何年ぶりかに会った女友達でも、昨日まで会っていたような感じで接近したりしますよね。そういうところが何か…。言い方が適切ではないかもしれませんが、そういうところでも「絶頂マクベス」は前回よりベタベタしていますね。舞台上でベタベタしているわけではないですが…。2作目ということでかなりチームワークもよく、1作目での僕の硬さもほぐれていて、非常にいいものとなっています。内容としても、歌とかダンスとか、たくさんあります。

--1作目も、「女性が女性のままで演じる、無理に男性化せずに」とおっしゃっていましたが、今回も同じように踏襲されているんですか?

中屋敷:やってますね。さらに、女性が女性のままでやるということプラス、女性が男をやっているというフィクショナリティをもっと出した方がいいと。女の自然体じゃなくて、女の無理体が見たいなと思って。男の子のポーズをしているんだけど、どうしてもヒップラインとか、肩の流れとかが女性的になっているとか、そういうアンバランス具合が非常に出ていますね。それは作品のコアな部分なので、まだご覧になっていない方に何と伝えていいのかわかりませんが、“女優感”は前回より強いですね。前は男をやるというより、作品を作る方に目が行っていて、女優さんを見るとか、女性讃歌とかまで行ってなかったなって思います。

--それは中屋敷さんの中で?

中屋敷:そうですね。まだまだ、まだ行けるだろうって…。当然、「悩殺ハムレット」は旗揚げだったので課題が残るもので。それを今回は、かなりぶち壊している感じはありますね。まあ1回目をやるときから2回目は決まっていて、反省材料を沢山手に入れようと思っていたので、そうならなきゃおかしいんですけど…。

--そうして1回目を終えられて、反省材料を生かして2作目の「絶頂マクベス」を。

中屋敷:前回以上に、もっともっと、まだまだ女体のすばらしさ、女性のすばらしさは出せるはずだと考えていましたね。今回は特に、歌や踊りがあったり、ステップがあったり…。振付をするのは男だけど、演出家が男ですけども、非常に女性的なものがたくさん仕込まれています。

--振付にしろ、言葉にしろ、独特のリズム感がありますよね。それが絶妙でクセになるんですが、リズムなどこだわりはお持ちですか?

中屋敷:そうですね。今回もリズムがいいですね。歌も歌っていますし。今回はかなりシェイクスピアの原文主義で作っているので、リズムよく聴いてもらえたらいいなと思っています。何しろ俳優さんの台詞が聴きづらい、リズムが悪い、そんな演劇は存在してはいけないと思っているので(笑)、リズムが悪い台詞って台詞じゃないだろうって思っているくらいなので・俳優が語るメロディですよね。耳に優しく、気持ちよく、それでいて考えなさいというか、深いテーマがあるといいなと思います。前回は結構、文字で頑張ってしまったところがあるので、「絶頂マクベス」では、もうちょっと俳優さんの言葉とか声色とかで頑張ろうというような部分は出たなと思っています。

--ダンスはどうですか?

中屋敷:ダンスは、僕が作ったものを女優さんがクオリティを上げてくれています。まあ、振付といっても、すごいダンスを踊るんじゃなくて、所作ですよね。僕、女性にハイヒールでの歩き方を教えたの初めてですよ(笑)。全然ダメだから、「スタイルが悪い」とか言って。あと、「煙は上から来ないとダメだ」とか。僕は俳優さんを見る職業なので、普段からこういう動きがいいなとか、あの動きはダサいとか、考えていて。何がダサいのか。ダサいけど逆に素敵だからやろうとか。ダサいけど、一つのスタイルまで持って行けているからダサく見えないとか。それは、“このポーズがダサい、このポーズが悪い”とかじゃなくて、そこにどういうモチベーションで圧倒的なものを持って来るかですね。振付と言っても、俳優さんの個性をもっと引きだしたいと思っているので。今回、素敵ですよ、皆さん。

--「絶頂マクベス」での女優さんの特色は?

中屋敷:まず2点あります。一つは前回以上にバラエティに富んでいるメンバーですね。ダンサーのキタマリさん、新良エツ子さんは歌をガンガン歌っていて、キャラメルボックスの渡邊安理さん、アクション女優の佃井皆美さん、マクベス夫人役の内田亜希子さんは新国立劇場演劇研修所を出てシスカンパニーの作品にも出演されて、いつもは堅い役ばかりされるんですが、ふざけたことをたくさんしてもらってます。あと、18歳の藤沢玲花さんとか、モデル出身で映画女優の小野ゆり子さんとか、本当にバラバラ。一括りに女優と言ってしまうけど、本当にバラエティ豊かで、異種格闘技戦の様相を呈していますね。さらに今回は、我ながら頑張ったんですけど、マクベスはハムレットより年上、ハムレットは若者で、マクベスは妻帯者なので、物語に出てくる人も全体的に大人なんです。でも座組は若返らせたいなという考えがあって。逆ですね。座組は前回より平均年齢を下げたいということで半分以上、25歳以下が出演します。最年少が18歳で、平均年齢も若いですね。ただ、ポイントがあって、それでいて芸歴が長い人が多いです。自分がどういうパフォーマンスをしてきたかということに誇りと、今後に向けて展望がある方が多いと思っています。皆さん本当に出自が変な人ばっかりですね。それは、前回より女優さんの多様性というか、可能性を探っています。

--「悩殺ハムレット」では、その多様性などは探れなかった?

中屋敷:というより、まだまだ変な人と会った方がいいなと思っていて。もうちょっと僕の手の届かないような人がいれば…。手の届かないというか、僕が会えないような人がいたらいいなと思って。そして、もうちょっと女優さん自身のパフォーマンスと向き合いたいなと思いました。僕の演出意図を体現してもらうだけだと、僕は何も受け止めるものがないので、そういうところでも、もっと女優さんから貰えるものがほしいなと思ってやっていましたね。

--実際、女優さんから得られるものは多いですか?

中屋敷:そうですね。女性は男の子よりも主体的だと思いますね。男の子は「命令を聞きますよ!」みたいな、「殿!!」みたいな忠誠心のようなものがあって。それが男の子のかわいいところで、すごく優秀なんですけど、女優さんはよくも悪くも「あたし、あたし」「あたしはさぁ」というところがあるから。でも、それはすごくいいことで、期待されたらめちゃくちゃ応えようとするし、「やめてください」って言われたら逆に「ぐーっ」となるし。あと、バラバラですよね。稽古場でも、「この人が主演だから一番偉い」とか、「わき役だから抑えて」とか、そういうことをしていないので、「どんどんアイデアを持ってきてよ」みたいなことは言えますしね。あと、活気がいいんですね、何が活気いいのかわからないけど…。こういう現場はあんまりないんじゃないかなと思いますね。女優に任せられている、しかも「どんどん持ち込んでください」というの現場はあまりないので。現状の日本では、女が15人も出る芝居はあったとしてもアイドル芝居しかないので…。結構、調べているんですよ、いつも。女優さんに期待している企画はないかなって。なかなかないですね。若いカンパニーになればなるほど。で、また男が演出家だと、演出家の方に注目が集まっちゃうんですけど、僕のことはどうでもいいので、ぜひ女優さんたちのコラボを見てもらった方が絶対面白いですね。



(2012年4月29日更新)


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●公演情報

柿喰う客 女体シェイクスピア002
「絶頂マクベス」

▼4月27日(金)19:30

〈乱痴気公演〉
▼4月28日(土)18:00
S席-3300円
学生-2000円
高校生以下-1000円

▼4月28日(土)~30日(月・休)14:00
S席-3300円
学生-2000円
高校生以下-1000円

〈ガールズナイト公演〉
▼4月29日(日・祝)18:00
S席女性-2500円
S席男性-5000円
学生-2000円
高校生以下-1000円

AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)

[原案・原作]シェイクスピア

[演出][脚色]中屋敷法仁

[出演]七味まゆ味/深谷由梨香/葉丸あすか/内田亜希子/岡田あがさ/荻野友里/小野ゆり子/きたまり/葛木英/斎藤淳子/佃井皆美/新良エツ子/藤沢玲花/我妻三輪子/渡邊安理

[問]柿喰う客[TEL]080-6801-7389

※学生券・高校生以下券は公演当日会場にて座席指定券と引換え、要学生証。未就学児童は入場不可。当日券は要お問い合わせ。

柿喰う客公式サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/

『絶頂マクベス』特設サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/

●あらすじと配役

スコットランド最強の武勇を誇る将軍マクベス!
邪悪な魔女たちが予言したのは輝く王冠と国王の座!?
欲深い妻に駆り立てられたマクベスは、現国王ダンカンの殺害を夢想する―

「ヤっちまおう…それで何もかも終わりだ…!!」

女優によるシェイクスピア上演プロジェクト第2弾!!
“絶頂”を目指す泥沼の下剋上、ここに解禁!!

一の魔女…七味まゆ味
マクベス…深谷由梨香
暗殺者…葉丸あすか
マクベス夫人…内田亜希子
医者…岡田あがさ
ダンカン…荻野友里
ロス…小野ゆり子
三の魔女…きたまり
バンクォー…葛木英
レノックス…斎藤淳子
マクダフ…佃井皆美
二の魔女…新良エツ子
フリーアンス…藤沢玲花
マルカム…我妻三輪子
門番…渡邊安理