「柿喰う客の舞台は亜流だと思って観てほしい」
中屋敷法仁に聞いた『女体シェイクスピア』への覚悟
(2/2)
--では、今回のカンパニーの雰囲気はどうですか?
中屋敷:前回以上にぐちゃぐちゃですけど、でもすごく盛り上がっていますね。「そこ、カットしよう」とか言ったら、みんながわーっと来て、「ええーー!! ダメダメダメ!」って。「くだらないギャグだからやめようよ」って言っても、猛抗議で。お互いやんややんやで、謎の責任感と無責任感がありましたね。それは多分、僕だからなんでしょうね。僕があんまり先生みたいになっていないから、それはよかったと。そして女優が主体的にシーンを作っているなと思います。僕は場面を整理して、作品とどう出合わせるかという作業なので。“僕先行”で作ったとは言うけど、やっぱり女優さんから跳ね返ってくるものではないといけないと思うので。前回の「悩殺ハムレット」の反省点でもありますが、前回は僕の演出意図が強く出過ぎていて、女優さんの跳ね返りをあんまり期待していなかったきらいがあったなぁと思って。
--期待していなかったというのは?
中屋敷:僕の最初の意図で、「僕がこうやった方がいい」というものをそのままやっていたので。「あ、これはちょっと違うな」と。もうちょっと反発というか、「それ以外にも(こんなアイデアが)ありますか」とか、もっと何か違うものがあればよかったなと。
--それで、今回は女優さんからの跳ね返りもあって。
中屋敷:結構想像しなかった役とかありますね。女優さんが持ち込んだプランと僕が持ち込んだプランと、どっちも総崩れになって、「全然違うんじゃない、これ」とかなって、「変えよう変えよう!」って。つまり、「こんな芝居をやりたかったんじゃないの、お互いにね」ということですよね。「『女体シェイクスピア』としては、これは違うんじゃないの?」って。「悩殺ハムレット」をやっている分、「絶頂マクベス」は2回目なので。ミッションみたいなものはより明確になってましたね。前回は「『悩殺ハムレット』という作品を作る」という気負いみたいなものが。この、2回目の『女体シェイクスピア』は、“演劇の金字塔であるシェイクスピアに女優のみで演じることでケンカを売る”という観点からすると、「この選択はナシだよね」とか考える余裕もあって、早くも“女体シェイクスピア劇団”という様相を呈しているなと思って(笑)。
--そういう違いが舞台にも表れていそうですね
中屋敷:『女体シェイクスピア』というシリーズで何をするか、「マクベス」という作品をどう立ち上がらせるかというところはあると思います。単に面白い作品を作るだけでなく、テーマと、企画意図がお客様に与える影響も考えています。東京公演のご感想で「『絶頂マクベス』見てガーターベルトを買いました」という女性からのご意見があって。それもすごく嬉しかったですね。何か分かんなかったけど、すごく嬉しかったです。何かを与えてしまったんでしょうね。
--2回目にして何か見えてきましたか?
中屋敷:見えてきましたね。やっぱりまだまだ、お客様から貰うものも多いし、まだまだ発展途上の段階ではありますけど、ひとまずこの勢いというか、可能性は広がるばかりの作品ですので、この機会に見ていただきたいなと思いますね。
--最初に『女体シェイクスピア』というシリーズを立ち上げようと思われたきっかけというか、その理想に近づいているというか…。
中屋敷:そうですね。さらに言うと、最初は「僕が天才的な演出をしなければいけないな」という気負いがありましたが、今は、1600年代にいたシェイクスピアという人と、今、目の前に生きている女優さんをつなげるだけでいいから、シェイクスピアと女優さんの胸を借りましょうという異様な余裕ができて、かなり冷静に作品を作れている気がします。
--演出家という役どころでは、それはありですか?
中屋敷:ありですね。自分が売れたいとか、お客さんを楽しませるためには!みたいな、そんな小さいところではないので、今必要とされる演劇とは何か、今、世の女性たちに訴えられる作品、またその作品を見た男性たちが何を思うかというところを考えながら作っています。『女体シェイクスピア』は100年後にも残るように、僕が死んでからも続けてほしいので。だから、僕が存命中にできれば僕の弟子を3人ぐらい育成したいですね(笑)。「そうか、中屋敷さんはこうしたけど、あえて変えてみよう」とか(笑)。決して、50年で終わるつもりでやってはいないですし、続くものならいつまでも続いた方がいいと思っていますし、それぐらいの覚悟でいかないと…。もし僕が歴史に残るとしたら、これで名を残すくらいでいかないと。「『女体シェイクスピア』というものを作りました」と。
--では、『女体シェイクスピア』と柿喰う客の本公演での兼ね合いは、どうでしょうか?
中屋敷:それは、プレッシャーを感じていますね。非常に吐きそうなくらいですね…。これじゃ「よっぽど本公演は面白いんでしょうね」と、ハードルが上がっているので。7月にパルコ劇場が上演しますが、パルコ劇場はちょっと似ているんですよね。男の俳優さんたち僕のコラボなので、まだいいんですけど…。でも、次もかなり会心作です。去年、キャラメルボックスと一緒にしたり、かなり育んで、自分を追い込む材料はあるので、多分、“脚本家・中屋敷さん”の本を体現するために頑張るんじゃないかなと思ってます。今回の「絶頂マクベス」とは関係ないですけど、僕としても、作・演出をやっていると演出寄りになってしまうので、僕はもうちょっと僕という脚本家を信用した方がいいので…。そろそろ100年後にも残るような戯曲を書くことを目標にしたいと思っています。そうやって、自分一人だけどんどん壮大なテーマを抱えていますね…。
--話は変わりますが、関西と関東では、お客様の『女体シェイクスピア』に対する感触は違いますか?
中屋敷:どうでしょうね、ただ、関西の方は盛り上がりやすい、ノリがいいのかなって思いますね。今回も、非常にショーアップされていますし、バラエティに富んでいますよ。今回は特に小ネタが面白いです。シェイクスピアって見ているとだんだん、飽きてくるんですよね。歌舞伎とかって、急に蝶々が飛んできたりとか、ちゃんと流れているテーマとは別に、ちょいちょい飽きさせないサービスに溢れていますよね。今回も90分には凝縮されていますけど、90分という短さだけでとお客さんを惹きつけられないと僕は思っているので、何分に1回はちゃんと惹きつけて、また離してみたいな、客席を沸かせて黙らせてみたいなことをしています。音楽の使い方もかなり考えていますね。
--90分とコンパクトですが、『悩殺ハムレット』のときもシェイクスピアの『ハムレット』の重要なシーンは全部抑えてあるというご意見があったそうですね。
中屋敷:『マクベス』はシェイクスピアの作品の中でも短い方ですよ。にも関わらず、まともに上演すると3時間を超えてしまうので。ただ、シェイクスピア時代の人たちと僕たちって、劇場で喜びを得る処理時間が違うと思うんです。今の音楽も、小室時代はシングル曲でも5分はあったのに、今は大体、3分くらいですよね。YouTubeで動画をさっと見たり、『1分間の深イイ話』とかあったり、情報を早く欲しいんですよね。欲しがる時間が早くなっているから、だったらそれに合わせて脚色すべきだと。多分、シェイクスピアが現代に生きていたら、「ごめん!削るわ!」って言ったと思うんです。これは時間に対する考え方が違うだけだから、あとは、どこを摘まんで、どれくらいのスピードで出すかという、情報のスピードの問題だと思っています。と、僕は考えている演出家なので、のんびり見たい方は、そういうものを見たらいいですし、選択できるといいですよね。『ハムレット』を4時間で見たい人、30分で見たい人と、選べたらいいのになぁと思いますね。コンサートでも1コインコンサートがあったり、歌舞伎でも1幕だけ観劇できたりとかあるので、シェイクスピア作品もそうなればいいなと思います。とりあえず柿喰う客では90分でスピーディーに見られるコンテンツになればいいなと。
--このスピード感が、シェイクスピア作品をご覧になったことのない人にも分かりやすいと思います。
中屋敷:そうですね。入りやすいと思います。誤解はするかもしれませんが、見た時に「これは絶対違うんだよね」と思っていただき、その後で原作を読んでもらえると僕はすごく嬉しいですね。なので、初心者向けというよりは、シェイクスピアは取っつき難いと思っていた人向けだと思います。『女体シェイクスピア』は亜流なんだなと分かった上で、本流に興味を持っていただけたらと思います。どう見ても亜流ですよね、『女体シェイクスピア』というものは。でもこれを見て、原作に興味とか、ほかの『マクベス』に興味を持ってもらえると僕はすごく嬉しいです。
--前回の『悩殺ハムレット』もそうですが、柿喰う客の『女体シェイクスピア』を見て、ほかのシェイクスピア作品を見ると、自分の目線もかなり異なりそうですね。
中屋敷:僕もほかのシェイクスピア作品を見て、「あれ、ここ、ギャグじゃないの?」って思うことがありますね。ギャグにしていたのは僕だけど。決闘シーンでも、『女体シェイクスピア』の場合は「やー!」ぐらいなもので。でもまあまあ、「シェイクスピアなんて重たいんじゃないの」って思っているような、本当に腰が重い人にさっと見てもらいたいですね。『女体シェイクスピア』は、“漫画で分かるシェイクスピア”と思っていただければ。
--ああ、なるほど。それはぴったりですね。今日はありがとうございました。
(2012年4月29日更新)
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