ホーム > インタビュー&レポート > じんわり温かい、ヨーロッパ企画が贈る5分間の人情紙人形劇 『タクシードライバー祇園太郎』がNHKで放送中! 監督・脚本の永野宗典にインタビュー
――きっかけはラジオドラマなんですね。
「KBSでラジオをやらせていただいていまして、2時間になったので、看板コーナーを作らないといけないなと思って。ラジオドラマはずっとやってたんですけど、ちょっと惰性でやってたところがあったんですよね。演劇人のラジオだから、ラジオドラマがいちばん強くないといけないと思って、みんなでプレゼンしあって。で、いちばんラジオを聞かれている層はやっぱりタクシーの運転手さんだろうっていうところから、運転手さん向けに作りだしたんです。でもやっぱり1ヵ月くらいやってると、どうしてもマンネリ化しちゃうんですよ。これじゃいかんなと思って、僕が『タクシードライバー祇園太郎』プロデューサーになって世に出すんだ!って意気込んだんですよね。曲を作ってくれる人を呼んだり、ゆくゆくは、祇園太郎カレー、祇園太郎ふりかけ、祇園太郎the movieっていうように展開していくんだ!って(笑)。そうこうしているうちに、NHKの青山ワンセグ開発っていう企画開発番組に応募することになり、社長とプレゼンをしに行ったんです」
――それでトーナメントを勝ち上がったわけですね。
「対戦形式なんですけど、僕らの対戦相手がフルCGのデジタルアニメーションだったんですよ。僕らは紙人形だから対極ですよね。相手のクオリティが相当高かったので、なんで僕らこんな時代錯誤なことやってしまったんだろうって思いましたね(笑)。でも、これで負けたら何もなくなっちゃうんで、熱く語ったんですよ。アバターだのなんだのって技術革新していますけど、振り返ったところにたくさん遺産があるじゃないか!と。僕は紙と割り箸でアートシーンに戦いを挑むんだ!という感じで、アジテーション気味で。3話分の対決で、それまで負けていたんですけど、3回目に大逆転勝ちしたんですよね」
――懐かしさと温もりが視聴者に響いたんでしょうか。
「何がよかったのかはわからないですけど、ラジオドラマの続編という形で作っていったので、バックボーンがしっかりしてるというのもあるかもしれませんね。ラジオドラマは、劇的タクシーっていうタクシー会社で祇園太郎が働いているお話なんですけど、映像版は個人タクシーを始めましたっていうところから始まるんです。そこでちらほら劇的タクシーの登場人物が出てきたりするので、紙人形だけど壮大なドラマがあるような。そこは強みかなと思います。あと、これで負けたら紙人形シーンは終わってしまうっていうくらい、紙人形のことを考えているんですよね(笑)。でも、CGの相手には勝ったんですが、さらに最終決戦がありまして。最終、トーナメントを勝ち抜いた4組の中で1位にならないといけない。もう、えらい狭き門で、しかも決勝戦もみんなキャラが立ってて。作品はもちろんですが、プレゼンも面白くてね。負け戦だと思いながら、負けコメントだけ用意していったんですが、割とダントツでビックリしました」
――ヨーロッパ企画の底力を見せつけた感じですね。
「受かってよかったんですが、そこからも割と大変で。みんな舞台の仕事もあるので、その合間に人形劇を作って。初期の頃は劇団員や男肉 du Soleilの団長にも脚本を手伝ってもらいましたね。僕らは『ショートショートムービーフェスティバル』で短編映画を作っているので、みんなある程度の脚本は書けるんですよ。そこら辺のノウハウはしっかりしているので、協力体制で挑みましたね。書いてもらったものを最終的には僕がまとめたりして」
――それは題材だけ永野さんが決めて渡すという感じで?
「場所とテーマと、紙人形のギミックですね。紙人形がフラれたら割れるとか、変身するとか、燃えるとか、紙人形ならではの面白さを毎回盛りこんでいるんです。あとは、京都のスイーツを出すとか、世界的名所だったり、住んでみないとわからないスポットを出すとか。京都ならではのものを必ず散りばめつつ、人情劇にするっていう形ですね。でもいかんせん、盛り上がっているのかがわからない(笑)。観てる人がいるのかが心配で……。まだカレーも作ってないし、永野プロデューサーの夢が何も叶っていないのに!」
――声優は、劇団☆新感線の古田新太さんとか、ナイロン100℃の犬山イヌ子さんなど豪華ですよね。
「演劇畑に割と近しい人たちをブッキングすることができましたね。こういうことでしかなかなか接点が持てない方々にお願いしたので、演劇とはちょっと違うルートで面白い仕事ができて嬉しいですね」
――紙人形のイラストも本人にそっくりですが、役者さんに合わせてキャラクターを作るんですか?
「台本ができてからキャスティングすることが多いので、台本が先なんですよ。古田さんの時は、古田さんがやったらすごく良くなるだろうな~っていうイメージで書きましたけど。イラストは劇団員の角田(貴志)画伯に描いてもらっているんですが、ひやひやしますね。アテレコに来られて初めて見られるので、怒るんじゃないかなって。ムロツヨシさんは、俺じゃないか!って喜んでいましたけど(笑)」
――ひとりひとり描いて切って、結構地味な作業ですよね。
「京都造形大学の学生さんと一緒にやってるんですけど、本当にひとつひとつ地味なんですよ。厚紙で作っているので、相当な圧力をかけないと切れなくて。血まみれになりながら作ってもらったり、見た目はチープですがかなり労力がかかっていますね。そこが伝わらないのが歯がゆくて、16話で制作の現場をタクシーがガイドするっていうメタを入れたんですよね(笑)。チープだからこそ、そこは見せても面白いんじゃないかと。撮影も、遠近法を利用していて、すごく知恵が詰まっているんです。その技術だけに特化したカメラマンが育っていますよ」
――5分のものを作るためだけにいろんな労力がかかっているんですね。
「京都タワーが0時になったら消えるのとか、なかなか知らないでしょ。それをロマンスにして、フッて息を吹いて消すっていうことをしたりね。紙人形だからこういう臭いこともできるんです(笑)」
――では、残り3話となりましたが、どんな展開が?
「めちゃくちゃ濃い話になっていて、今までは京都の街をロケして撮影するのが基本だったんですが、終盤ということもあって、18・19話は宇宙に飛んじゃいます。大長編ドラえもん的な感じで、ちょっと男の子向けですね。ゲストの博士役で『ドラえもん』のスネ夫とか『おそ松くん』のイヤミの声をされてた肝付兼太さんに出て頂いていて」
――壮大な話に発展していますね。
「原発をよぎらそうとは思ってないんですが、エネルギー問題の話にしようと思って。地球を侵略しようとする宇宙人と、陰謀に巻き込まれた祇園太郎が宇宙まで行って解決するっていう話で。ヨーロッパ企画の事務所に、宇宙の背景とかUFO船内、月面の特撮セットを組んで撮影したんですよ(笑)。ここまでずっとヒューマンドラマでやってきたので、そういうちょっと飛んだ面白さはあるんじゃないかなと思います。本当にやりたい放題やらせていただいていますね。これだけテレビで好きなことをやらせていただける状態は今までなかった流れなので、大変ですが、すごく楽しんでやっています」
――一旦、3月でシーズンが終わってしまいますが、今からでも観て頂きたいですね。
「ワンセグのコンテンツなので、持ち運びやすい観光ガイドドラマというコンセプトでやってきました。観光名所やスイーツも出していますし、かわいらしいので、持ち運ぶ感覚でドラマを観て頂けたらなと思いますね」
今週は、京都、大阪で祇園太郎のイベントも開催。3/8(木)19:00~NHK京都放送局、3/11(日)14:00~タワーレコードNU茶屋町店にて。詳細はhttp://www.europe-kikaku.com/
(取材・文/黒石 悦子)
(2012年3月 6日更新)
放送日
<NHK・Eテレ>毎週土曜午前0:50~0:55
レギュラーキャラクター
祇園太郎(声・本多力)/真面目さと素朴さが取り柄のタクシードライバーで、ついついお客さんの世話を焼いてしまう。先日独立して『祇園タクシー』を開業したばかり。
ジョゲン・スヨン(声・奥田ワレタ)/太郎が行きつけの喫茶店でアルバイトをしている韓国人留学生で、良き相談相手。最終話では韓国へ帰ることに……。
祇園太郎ホームページでは、前回の映像が視聴できます!
http://www.nhk.or.jp/aoyama-k/giontaro/
〔大阪公演〕
発売中
Pコード:418-187
▼3月23日(金)19:00
▼3月24日(土)13:00/18:00
▼3月25日(日)13:00
in→dependent theatre 1st
前売2300円
当日2800円
(いずれも全席指定)
[劇作・脚本][演出]大歳倫弘
[出演]本多力/酒井善史/角田貴志/土佐和成/他
[問]サウンドクリエーター[TEL]06-6357-4400(大阪公演のみ)
※京都公演はチケットぴあでの取り扱いなし。未就学児入場不可。
ヨーロッパ企画公式サイト
http://www.europe-kikaku.com/
大阪公演のご招待もあります!
ヨーロッパ企画 イエティ
「ブラッド&バター」
インタビューはこちら!
https://kansai.pia.co.jp/interview/stage/2012-02/20120216.html