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新たなるスタイルで落語に新風を吹き込む柳家花緑に
その手法や舞台で披露する“新作落語”について、
そして巨星・立川談志への思いを聞いた! (2/2)


花緑「この舞台は藤井青銅さんに書いていただいた噺ばかりです。藤井さんの作品は既に5、6作品ありますが、タイトルだけ『地獄八景』になぞらえた『ケータイ八景』という作品があります。『地獄八景』はご存知のとおり、大阪の大ネタで、地獄めぐりをする噺ですが、『ケータイ八景』は、あるサラリーマンが夢の世界で携帯電話の中を巡るという噺です。これは僕が『3.11のことを噺に盛り込めないか』とリクエストして、震災後に藤井青銅さんに作ってもらいました。携帯の機能の中に緊急地震速報というものがありますが、東京の人間も一時期、緊急地震速報にすごくストレスを感じたんですよ。鳴ると『これから揺れが…』と思うし、揺れると思って身構えたら揺れなかったとか、揺れたのに速報が鳴らなかったとか、音が怖いとか。そこで『あれ、もっとメロディアスな音にならないかとか、そういうことを言われて困る』という緊急地震速報のつぶやきがあったりするという、そういう世情を盛り込んでいます」

--2011年の世情を取り入れた作品を、ほかにもいくつか披露した。

花緑「もう1つ、東京でやったのは、『揺れる思い』というタイトルの作品で、古典落語でいうと『千両みかん』『崇徳院』みたいな噺です。テレビでボランティアに行っている男の人を見てお嬢様が恋焦がれて寝込んでしまい、爺やが被災地に行ってその若者を探すという。被災地に行くという写実のために、青銅さんと僕で9月に石巻と女川に行って現地を取材してきました。ただ、大阪ではどれをやるか決まっていません。『はじめてのおつかい』は確実にやります。東京では『なでしこ』という噺もやりましたね。これは、なでしこジャパンが優勝した5日後に青銅さんが作って、ニコニコ動画でお披露目しました。そのときは200人ぐらいの人にご覧いただき、若干少なかったんですけども一生懸命やりました。それは25分くらいにまとまりました」

--藤井青銅の作品には擬人化されたものが多いという。擬人化の魅力とは、どのようなものだろう。

「ほかに、東京タワーと東京スカイツリーが会話するという作品もあって。ドバイタワーから何から世界のタワーが集結して、どちらが東京の顔になるか会議をするというものも作りましたね。擬人化の面白さは、人格を持たせることで普段気づかなかったことに気づくことですね。八百万の神じゃないけど、単に物として扱うか、心があるものとして扱うかで、その面白度がアップするといいますか。藤井青銅さんは小説でもそんなことをたくさん書かれていて、得意分野ですね。(春風亭)昇太兄さんが作った『愛犬チャッピー』も一緒で、わがままな飼い主に犬はどれほどストレスを感じているかという、あれは大傑作だと思っています。余談ですが、『愛犬チャッピー』は演者が変わると犬も変わって見えるようですね。僕がやると血統書の犬に見えると言われました(笑)。(立川)談春兄貴もされますが、非常にやさぐれた犬に見えるそうです(笑)。三枝師匠の『鯛』も一緒ですよね。擬人化していく面白さというのは、語り芸としての面白さじゃないですかね」

--新作落語といえば、噺家自らが創作することが多いが、花緑の場合は作家に書いてもらうことを基本としている。その理由については?

花緑「僕はずっと古典落語をやってきて。改作のようなことはやらせていただきましたが、1から作るとなると僕には才能がないと早くも見切っていて。今からSWAに追いつけ追い越せとやっても、SWAのメンバーだって20年ぐらいかかって今の位置に来たので…。今から20年後というと60歳で、その年になってやっと新作が手の内に入ると思うと、それよりも才能のある作家さんのお知恵を借りて、一緒にタッグを組んでやるほうが現実的にお客さんにお届けできるし、僕も作家さんと交流ができて、自分にとっても得るものが多いと思ったんです。2010年も宮部みゆきさんのデビュー作である『我らが隣人の犯罪』という短編を落語化させてもらいました。そのときも舞台に白いソファーを置いて、スーツを着てやりました。物語は『三軒長屋』という古典落語にさも似たりで、シェアハウスの真ん中の部屋に住む人がうるさい両隣を追い出そうと画策する話です。ドタバタですごく面白くて。これは劇作家の真柴あずきさんに落語化してもらい、1時間ちょっとの作品になりました」

--藤井青銅、真柴あずきなど作家たちと新作を世に送り出している花緑。今後もいろいろ、描いているビジョンがあるようで…。

花緑「まず、劇作家さんの後藤ひろひとさん。前に名古屋の会でトークゲストでお呼びしたとき、ぜひ書かせてくれとおっしゃってくれて。あと、『江戸の青空』というお芝居に出たんですが、演出をされたG2さんが飲んでいる席で『3年から5年の間に僕は新作を書きたいんだ!』とおっしゃって、『ありがとうございます!』と言って盛り上がりました。後藤さんやG2さんが僕に落語を書きたいとおっしゃってくれてとても嬉しかったので、現実化するといいなと思います。今後、そういうコラボレーションが増えていくと、噺によって作家さんのカラーが出て一人演劇みたいな感じになって、その数が多ければ多いほど面白くなると思いますね。そして、僕がその作品をやらせてもらうことで、演劇とのパイプが落語につながったらいいなと」

--最後に、花緑自身、多大な影響を受けたという兄弟子、立川談志について、その思いを聞いた。

花緑「談志師匠は身内みたいな感覚でいますから、本当に身内の死に直面したようなインパクトがありましたね。小さんの孫ということもあって、談志師匠が僕に気持ちをかけてくれたというか、そういうものをすごく受け取っていたので…。芸のことでも細かく直してもらったり。昔、僕が『がまの油』という噺をやったとき、高座から降りた直後に談志師匠に『へたくそ!』と言われて。それで、『どうしたらいいですか』とすぐ聞いたんです。そしたら、『あそこのギャグは、自分の中ではもうこれ以上ないっていうぐらい一番面白いものを出すんだ』とおっしゃって。まだ甘いぞということなんでしょうね。談春兄さん、志らく兄さん、昇太兄さんと『落語騎兵隊』というユニットを組んで、第1回目の会を国立演芸場でやったとき、僕は『ちりとてちん』をやったんです。それがあんまりウケなかったんですよね。そのときも、『お前な、最後はもっと必死になって辛がってみたらどうなんだ。その方が面白れぇじゃないか』と談志師匠に言われて。うちの祖父の教えでは『あんなところで笑いを取るなんて品がないから、ひぃひぃやるのはよくない』ということでしたが、談志師匠のおっしゃったことを自分なりにやってみたんです。祖父の教えもわかっていて、あえて談志師匠のアドバイスの方でやってみたら、お客さんにより伝わるようになって。今はそっちをやっています。たまに『ちりとてちん』を僕の形でやりたいとお稽古に来られる方もおられますが、小さんと談志師匠、その両方をお伝えしています。まあ、談志師匠の生き方は当然、真似はできませんし、参考になるところもならないところもいろいろ、あるんですけれども、でもこの先、あんまりお目にかかれないような方と随分至近距離で会えたことは僕にとって財産ですね。本人がいなくなればなるほど教えとかが鮮明に自分の心に迫ってくると思うので、これからの方が影響を受けると思うんです。不思議なことですけどね、本人はいないのに」

--その感覚は、祖父である小さんにも共通するのだそう。

花緑「うちの祖父がそうですね。亡くなって(2011年で)9年目なんですが、亡くなってからの方が祖父の教えがもっと僕の心に迫ってくるような。思いを馳せると、その教えがもっと近づいてくるというか。本人が生きている間はやっぱり、当人との距離を気にしますよね。その距離がもうないので、残した言葉とか、やってきたことをこっちがイメージするとより近づいてくるんですよね。談志師匠もそんな気がしますね。また、生涯現役ということで言うと、うちの祖父も談志師匠も、見せ方は違いますが、日々の告白のようにお客さんに自分の老いを見せたところも師弟でよく似ているなと思いますね。亡くなる年の2月に鎌倉芸術館で今の6代目小さんである叔父と僕との親子三代落語会をやったんです。そのとき、トリでかけた『強情灸』が祖父にとって生涯最後の高座でしたけれども、そこまでの間、老いていくところも見ていましたから、『生涯現役とは実際、どういうことなのか』ということを目の当たりにして、それこそ先輩が自分の身を呈して見せてくれたことは、ものすごい財産だと思っています」

そんな“財産”も武器にして花緑が見せる新機軸の同時代落語。大阪では初の試みとなるだけにこの記念すべき瞬間に立ち会わずにはいられない!? 落語を楽しむと同時に、ぜひ歴史の証言者にもなっていただきたい! 




(2012年1月18日更新)


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●公演情報

柳家花緑独演会「花緑ごのみ」

発売中

Pコード:416-347(1/26(木)まで販売)

▼1月29日(日) 14:00

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

指定席-3800円

[出演]柳家花緑

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888

柳家花緑公式サイト
http://www.me-her.co.jp/index.html

前売り券は残りわずか! お早めに。
チケット情報はこちら

●プロフィール

柳家花緑

やなぎやかろく/1971年生まれ、東京都出身。1987年、中学卒業後に祖父でもある柳家小さんに入門。1989年、二ツ目に昇進。そして1994年、戦後最年少の22歳で真打昇進、柳家花緑に改名した。落語のみならず、テレビのコメンテーターや舞台役者など、幅広いジャンルで活動中。2月13日(月)にはサンケイホールブリーゼで開かれる東西の“若旦那”が集結しての落語会『東西激突落語会-俺たち若旦那』(Pコード:416-977)にも出演する。