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新たなるスタイルで落語に新風を吹き込む柳家花緑に
その手法や舞台で披露する“新作落語”について、
そして巨星・立川談志への思いを聞いた! (1/2)

柳家花緑が定期的に行っている独演会『花緑ごのみ』が1月29日(日)、梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで行われる。これまでは主に古典落語を口演し、合間にピアノ弾き語りといった“お坊ちゃんのコーナー”を盛り込んでいたが、今回は大阪では初の“同時代落語”を披露する。この“同時代落語”とは、脚本を放送作家の藤井青銅が手がけた新作落語で、花緑は着物に座布団、ではなくスーツ姿で椅子に腰掛け口演するもの。22歳という戦後最年少の若さで真打に昇進し、いまや古典落語の名手と、まさに“落語界のサラブレッド”を地でゆく花緑がなぜ、“同時代落語”に挑むのか? その理由について聞いたほか、今回披露するネタや兄弟子である立川談志への思いも聞かせてくれたので、そちらもたっぷりとご紹介しよう。

柳家花緑(以下、花緑)「洋服での高座は2010年からやっていて、今回大阪でお見せするものも昨年9月に東京でやって、お客様に一番評価をいただいたもので、満を持して大阪でチャレンジ させてもらいます。ただ、やっぱり落語は着物に座布団だろうと、なぜ花緑はこれなんだ?というご意見もありました。それは、僕の中では、今、落語が生まれたらこのスタイルであろうということなんです。着物に座布団ではないだろうと。ましてや僕がやるのは古典落語ではなく、あくまでも現代ものの落語。それで洋服を着て、椅子に座ってやると。ですから、このチャレンジのときだけです。スーツを着始めたのは、着物が和服のフォーマルだからです。洋服ならTシャツでもいいじゃないかという思いもあるんですが、浴衣で落語をやる人はいませんよね。お稽古のときはありますが。それで、着物を和服のフォーマルと考えたとき、洋服でのフォーマルがスーツであったと。いろいろ(ご意見も)ありましたよ、やっぱり無理だ、ネクタイを締めて女を演じられるかなど。でも、談志師匠も髭ぼうぼうで『紺屋高尾』をされてましたからね。髭ぼうぼうで花魁を演じても、お客様が泣いていらした。落語はお客様に想像していただく芸というところで言うと、着ているものと物語とは何の関係もないんですよね」

--このスタイルを始めるきっかけは、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系列)でのコーナー「温故知人」を担当したことによる。

花緑「『温故知人』で、VTRとVTRの間で落語を3分間、スタジオでやることになったんです。そのときスーツ姿で、腰掛けてその物語を語るという提案をしました。それを2年半やりましたら、僕自身が変わっちゃったんですね。以前は『落語こそ着物に座布団だ』と言っていたんです。あれは『とくダネ!』で工夫としてやるだけであって、普通の高座ではやりませんよと。が、2年半やった結果、骨の髄まで変わって、『いいんじゃないですか、その方がより自然じゃないですか』と変化が生じました。そして、このスタイルでは、やる側の人間の生理があるということがわかったんです。ほかの落語家さんがやらない理由は、まず気持ち悪いんでしょうね。不快、不愉快。すべてをぶっ壊して洋服に椅子でやるのは、やっぱりプレイヤーの気持ちがそれを許さないのだろうと。僕はそれを2年半やったら、そのスタイルが大げさでない、大したことではない。つまりマイナス材料が自分の中になかったんです。そばを食べたり、手紙を書く仕草も、マルセル・マルソーの域になるんですね。パントマイムとしてどうかという、その辺のリアリティがお客様に伝われば、扇子も手ぬぐいもいらないんじゃないかと」

--そして、実際に舞台でやってみての発見も多いという。

花緑「やりながらわかることがいろいろあって、この1年間で大体、わかってきました。白い箱に腰掛けてやっていたときに、自分が箱のどの位置に座っているかわからなくなって、箱の縁を触りながらやったんです。そしたらお客さんに、『あのシーンの主人公は、立ってしゃべってたの? 座ってしゃべってたの?』と言われて。それは立っているシーンだったんですが、手で触っていると座っているように見えるんですね。以前、古今亭志ん朝師匠に『愛宕山』を習ったとき、山の中腹で待っている旦那のところにたいこもちが後から追いついてくるという場面で、僕は最初、手をついて『お待たせしました』と言ったんです。それを志ん朝師匠に『あそこ、手をつけちゃいけないよ』と言われて。つまり、手をつけると座ってお辞儀していることになるからと。これは洋服も着物も一緒ですよね。逆に“今、椅子に腰掛けた”という演技をしたいときは、意図的に触ればいいことがわかったんです。そうすると、『今、椅子に座ったな』という動きをお客さんに想像してもらえる。これはやりながら出た発見です。着物も椅子もルールは一緒。ほかにも歩くときには足踏みをして音を鳴らすとか、新しい工夫も生まれました」

--そして気になる演目はというと…。

花緑「1つは決まっていて、小惑星探査機はやぶさを擬人化した『はじめてのおつかい』という噺をやります。人間で言うと小学校低学年ぐらいのはやぶさ君が、イトカワさんちにおつかいに行くという話です。はやぶさは映画化もされていますが、映画を見た人が聴いても(内容が)かぶっているからつまらないということはないと思うんですね。映画を 観た方は、より感動が大きいというか、物語としてストレートに届いたと言ってくれて。僕は、はやぶさ関連の作品は、日本には4つの映画と1つの落語があるということを全面的にアピールしたいですね。長さは30分くらいです。先日、東京でやらせていただきましたが、一番評判がよかったです」

--この『はじめてのおつかい』の作者が、放送作家としても知られる藤井青銅だ。次ページでは、今、藤井青銅と手がけた作品について聞いた。



(2012年1月18日更新)


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●公演情報

柳家花緑独演会「花緑ごのみ」

発売中

Pコード:416-347(1/26(木)まで販売)

▼1月29日(日) 14:00

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

指定席-3800円

[出演]柳家花緑

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888

柳家花緑公式サイト
http://www.me-her.co.jp/index.html

前売り券は残りわずか! お早めに。
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●プロフィール

柳家花緑

やなぎやかろく/1971年生まれ、東京都出身。1987年、中学卒業後に祖父でもある柳家小さんに入門。1989年、二ツ目に昇進。そして1994年、戦後最年少の22歳で真打昇進、柳家花緑に改名した。落語のみならず、テレビのコメンテーターや舞台役者など、幅広いジャンルで活動中。2月13日(月)にはサンケイホールブリーゼで開かれる東西の“若旦那”が集結しての落語会『東西激突落語会-俺たち若旦那』(Pコード:416-977)にも出演する。