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変わりゆく時代に冷静と情熱の間で高らかに鳴り響く
これが新しいロットのフォークソング『極彩色の祝祭』!
「現実と向き合って、その先に希望が見通せる音楽が好きなんです」
ROTH BART BARONインタビュー&動画コメント

 ’20年を振り返ったとき、こんなにもパラダイムシフトが起きた1年が人生にあっただろうかと打ちのめされるような感覚と、世界中の人々が一斉に突き付けられた有無を言わさぬ変化と崩壊の足音が、より深刻に響き渡ったミュージックシーン。音楽とは、ライブとは、本当に不要不急なものなのか――? それは、トレンドに左右されない耐性を備えた巧みなサウンドデザインが称賛を浴びた前作『けものたちの名前』(’19)を経て、キャリアの黄金期へと足を踏み入れるはずだったROTH BART BARON(ロットバルトバロン)も例外ではなく、突然の猛威を振るったコロナ禍により過去最大規模となる東京・めぐろパーシモン 大ホール公演は延期に。さらにはオリジナルメンバーである中原鉄也(ds)の脱退と、バンドを取り巻く状況は一変。そんな窮地に、三船雅也(vo&g)が絶大なる信頼を置くサポートメンバーと共に今一度音楽を奏でる喜びを取り戻したのが、最新作となる5thアルバム『極彩色の祝祭』だ。変わりゆく価値観、変わらない情熱、そして、時に残酷な現実からも目をそらさず高らかに鳴り響く10篇の音楽は、アフターコロナの新時代を生き抜く日々のサウンドトラックとして、タイトルさながらの輝きで我々の未来を照らしてくれている。会話の中で何度も“励まされた”という言葉を口にしたタフな音楽家が、揺れ動く心情と激動の’20年について切々と語ってくれた、ROTH BART BARONインタビュー。

 
 
何も言わないより、よくも悪くもちゃんとアウトプットした方がいいなと
 
 
――リリース前には、今や恒例となったクラウドファンディングのリターンとして、星空の下で焚き火を囲んで行うライブ『“PALACE” Live Produce Team presents The CAMPFIRE』も開催されて。
 
「当日の天気はあいにく強めの雨だったんですけど、お客さんはライブを欲しているのが分かったし、全身全霊で吸収しに来てるから、本当にいい空間になって。『The CAMPFIRE』=焚き火があるから何とか暖も取れたしね(笑)。小さい『FUJI ROCK FESTIVAL』みたいな感じでしたよ。現場を作り上げたみんなもすごく必死で、逆境の中よく頑張ったなって、ちょっと感動しました」
 
――そんなクラウドファンディングも今回で4回目の成功を果たして、支援総額も過去最高額に達し。
 
「もう本当にありがたかった! ロットが描こうとする未来にみんなが投資してくれたというか…こういう時代だからこそ何だか励まされましたね。こっちも関わる人がたくさんいる巨大レーベルに所属するバンドだったらこんなにフットワーク軽くは動けなかったし、この先につながるアイデアをちゃんとみんなに提示して、参加してくれた人たちと新しいライブ表現をどう作り出すのか…僕らの規模でできるマックスな試みをこれからもやっていきたいですね。今だからこそ信じてくれた人たちがいる感じがして、そこはもう随分と背中を押してもらってます!」
 
――今年はコロナ禍においても、そうやって希望をもらえる出来事がポツポツ起きてるのが嬉しいよね。Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION・vo&g)が設立した『Apple Vinegar Award 2020』で、前作『けものたちの名前』(’19)が大賞をもらったりして。三船くんにしては珍しく喜びをあらわにしてるなと思ったけど(笑)。
 
「そうかもねぇ(笑)。今まではそういう個人的な感情は出さないでおいたというか、ソーシャルには乗せずに音楽に乗せようと思ってやってきたんですけど、コロナ禍の不安の中、インスタライブとかYouTubeライブで、僕がグッズを買ってくれた人にお礼のカードを書いたり、最近考えてることや、どうしてクラウドファンディングを始めたのかとか、そういうことを話すラジオ番組みたいなことをやってみたんですよ。ファンのみんながコロナの世界でどう生きてるのかも聞いてみたかったし。それを何カ月かやってきた流れで、自分の日常を素直に出すことにあんまり抵抗がなくなったのかもしれない。むしろ、何も言わないより、よくも悪くもちゃんとアウトプットした方がいいなと最近は思うようになりましたね。だから、嬉しいことは嬉しいと言おうと。その方がみんなも嬉しいかなと思って」
 
――三船くんの音楽的才能だけじゃなく、すごく人間味のあるところ。それを知ってもらうことでよりロットの活動への理解も深くなる気がしてたから、いい機会だったなとも思うね。三船くんはクールに見られがちだし(笑)。
 
「そうなんですよ。ライブ会場でもあんまり話しかけてもらえないからね(笑)」
 
 
人が大事にしてることとか、今までいいと思ってきたものも
’20年を境にガラッと変わる予感がした
 
 
――前作『けものたちの名前』の制作時から、次のテーマとして“祝祭”というイメージが何となくあったらしいけど、それってロットの音楽性から感じる根本的な部分でもあって。
 
「アルバムを作った後に、“次の作品ではこういう言葉を使いたい”と何となく考えて、忘れないように紙に書いて部屋に貼っておくんです。僕の中にある音楽的なところより文学的なところでやりたいこと…『ロットバルトバロンの氷河期』('14)のときも、“氷河期”という言葉を使いたいのがあったし、次は“けもの”という言葉を入れたいなとか。今、奥さん(=筆者)が言ってくれたように、ロットには元々祝祭的な要素はあったと思うんですけど、東京に住んでるとオリンピックに向けてか渋谷が人造人間のように毎日変わっていったりして…新しいものと消えていくもの、でも、人間の根源的な喜びって何だろう? とか考えたりして。そういう感覚を含んだアルバムにしたいなとは思ってましたね。5Gとかテクノロジーがすごいスピードで進化して、人が大事にしてることとか、今までいいと思ってきたものも、’20年を境にガラッと変わる予感がした。そしたらそれがウイルスという形でやってきたんですけど(苦笑)」
 
――精神的にいろんなものが分断されていった2010年代があって、今年はコロナで物理的にも分断されちゃった。三船くんみたいに実体験を重んじる人間として、戸惑いみたいなものはなかったの?
 
「ありますあります。でも、実際に会う行為には勝てないけど、モンゴルとかアメリカとか世界中のファンが同時にYouTubeにアクセスできてコメントをくれるあの感じとかは、これはこれで全然アリだなと思って。直接会えない悲しさはもちろんあるんだけど、それを利用してより遠くに行ける肌感覚があった。5月ぐらいには僕も慣れてきて、画面の向こう側を想定してパフォーマンスできるようになってきたので、次のツアーは配信もしたいなと思ったのはそれもあるんですけど。その土地に行けない寂しさはあれど、新しい展開が見えたのは大きな収穫だったなと」
 
――ライブ=実体験に替えは利かないけど、そこに新たな突破口があった。
 
「例えば、日本のお客さんはシャイだから、ライブの反応が静かなこともたくさんあるけど、YouTubeライブのチャットではみんなの脳内の声がダダ漏れしてて、“いつもより饒舌じゃねぇか!”と思うこともすごくあったし(笑)。案外、こっちの方が日本人の性に合ってるんじゃないかと思ったぐらいで、生で静かにグッと集中して見るのと、ネットでふざけながら見る感覚、両方あるのが日本人なんだなと気付けたのも大きかったですね。旅行に行きたくても行けない、会いたい人にも満足に会えない今、制限された状態をいかに楽しんで、新しいところに向かって、実体験を伴わない新しい実体験をどう作るのか? そういうことをすごく考える半年間でしたね」
 
 
コロナで静かになった街の中で生まれた曲こそが
新しいロットのフォークソングなんじゃないかって
 
 
――『Voice(s)』(M-1)、『極彩 | I G L (S)』(M-2)、『dEsTroY』(M-3)の冒頭の流れは特にだなと思ったけど、今までのロットは静かなる闘志や情熱を胸に秘める感じがあったのが、今回はそれをちゃんと表してくれてるというか。過去最高に力強いオープニングだと思ったけど、その辺の自覚はある?
 


「祝祭というテーマと、奥さんが僕にいつも言うところの、実体験至上主義な部分があって(笑)。人が集まれなくなってライブもできないからリモートでレコーディング、じゃなくて、6月ぐらいには大きいスタジオも開き始めたし、今は家にいてライブに行けないリスナーのみんなのためにも、バンドの人間たちが1つのスタジオに集まって空気を震わせたり、音を出す喜びに溢れたところを今こそパッケージして、人間の血の通った作品をリリースすることこそが、’20年のロットのやるべきことだと思ったんです。いろんな現場をこなしてきたプロフェッショナルな連中が久々にスタジオに集まったとき、“一緒に音を出すのは楽しいね!”とか、小学生みたいなことを目をキラキラ輝かせて言うわけですよ(笑)。今回はそういう感覚が、みんなで録ったテイクに嘘偽りなく入ってる。やっぱりこういう瞬間をレコードして聴いてもらうべきなんだと、改めて思ったんですよね。だからこそ、さっき奥さんが言ってくれたように、元々大事にしようと思っていたところが、より作品に出ちゃったというか」
 
――現代のテクノロジーなら別にリモートでも作品は完成するけど、実際にその場で感動しながら音を鳴らしたかどうかは…そういう言葉にできない、目には見えないものが確かにあって。
 
「本当に。その場でしかできないことと、デジタルの発見の両方を見せられたら、今の僕たちが生きてる感覚に近いんじゃないかなと思って。熱いけど冷めてる、冷めてるけど熱い、みたいなバランス感覚が、今回のアルバムでは音で表現できたかなと思ってるんですよね」
 
――最初にレコーディングしたのが『NEVER FORGET』(M-9)で、アルバムの核となった1曲なのに10~15分ぐらいでできちゃったと。コロナ禍でとりわけ表現者の人が参っちゃって痛ましいニュースも多かったけど、そんな中でこの曲ができたとき、こっちだという確信があったんだね。
 


「僕らも中原(鉄也・ds)が辞めちゃったのもあって、悲しい世界に悲しいニュースを発表するのは本当に心苦しかったんだけど…この先に映し出す未来を素晴らしいものにしたかったし、ロットが新しい一歩を踏み出す曲として、この曲なら今の世界に伝わる確信があったんで。無責任に励ましたくはないけど、バンドとして地に足が着いた希望というか、野望というか…バンドの情熱みたいなものが入ってて、冷静なところもあって、今のロットのありのままをちゃんと見せる楽曲から始めようと思った。コロナで静かになった街の中で生まれたそういう曲こそが、新しいロットのフォークソングなんじゃないかって」
 
――音像とかエディットはカオスで今のムードがあるけど、紛れもなくロットであるという不思議な生態の曲で、最後には“明日をもしなくしても 叶えたいものがある”と歌ってる。
 
「こういう書き方をすると、残酷だと思う人もいれば、希望だと思う人もいる。この曲が聴いてくれた人たちのものになったときにどっちに転ぶのか、曲が成長するのを見られる言葉だなと思ったんですよね。どっちにも行けるバランスのある、そういう言葉を今は投げたいなと思って」
 
――言わば、叶えたいものが何なのかというよりは、そういうものがあるということ自体を投げたいと。
 
「そうそう! 別にコロナがなくても僕らは相変わらず電気をたくさん使って音楽を作ってるから、世界的な温暖化とかは解決したわけじゃないし、その上でどうするのか、みたいな感覚とか気持ちも入ってるし。ただ、ロットは最悪、電気がなくても生楽器で全部演奏できる音楽だから、そこは強いなと思いながら(笑)」
 
――元々ロットはヤワなバンドではなかったけど、そのタフさをちゃんと提示してくれたというか、初めて引っ張っていこうとしてくれてる気もするね。
 
「ミュージシャンも分かれてきたじゃないですか、世界が元に戻るんじゃないか組と、戻らない組に。分断する気は全然ないですけど僕らは後者で、世の中が変わっていくのは止められないし、その荒波をどう泳いでいくのか考えてる。だからこそ、“言葉”だと思うんですよね。今の時代、カッコつけたり嘘をついたら絶対に響かないと思うし、たまに逃避的でもいいけど、現実とちゃんと向き合って、この先の希望が見通せる音楽が好きなんですよね」
 
 
自分の心の安定がないといい音楽は作れない
 
 
――曲作りのために一時は信州に行ってたみたいだけど、何でそうしようと思ったの?
 
「僕は根がスーパーポジティブなんでコロナでも割と大丈夫だったんですけど、ずーっと家にいると、さすがに心がヤバくなって(笑)。東京に居続けると自分が崩壊して、逆にみんなに迷惑をかけると思ったので」
 
――その感覚、結構久々じゃない?
 
「そうかも。10代の頃、引きこもってた時期には割とあったけど久しぶりにそう思ったし、こういうときは物理的に距離を置くと解決したりもするので。まずは自分の心の安定がないといい音楽は作れないから、少しノイズをシャットアウトしてもいいのかなと。特にコロナについて少し分かってきた頃、同調圧力みたいなものがすごく強くなったというか、人間が人間の足を引っ張り合う現状を見て、自分が向き合わなくてもいいモヤモヤもたくさんあるなと思ったので。だったら単純に、歌詞を書いて、ご飯を作って、“向こうにイノシシがいたぞ!”みたいな生活に身を置いて(笑)、自分の心とグッと向き合うというか」
 
――そこで生まれた曲があったり、完成にこぎ着けた曲もあるなら、行った甲斐はあったね。
 
「本当に行ってよかったですね。起きるかどうかもよく分からないことにおびえるぐらいなら、誰にも会わずに車で山小屋に行った方が集中できるし、自分で自分をコントロールさえできれば、全然対処できるなと思いました。あとはやっぱりね、自然はウイルスのことなんて全く気にしてないし、動物とかも普通に元気だし、ただそこに生きていて、人間だけが勝手に騒いで大変な目に遭ってるというか。ずっと人間の目線でモノを考えてばっかりだったけど、ウイルスだって人間を媒体にして生き残りたいだけだったのに」
 
――ウイルスの立場でモノを語ったミュージシャンは初めてだわ(笑)。自然の中でそうやってリセットできたというか、新たな視野に自分を持っていけた。普段からバランス感覚のある三船くんではあるけど、やっぱりクリエイトする上ではいろいろ思うことがあるということよね。
 
「そうですね。何だかんだ新しい曲もできてるし、毎年よくアルバムを出せてるなとは思ってますけど(笑)、ストックがあってもそれを活かすアイデアがないとダメで。今は結構いい感じに循環してきたというか、想像力のフローみたいなものが、いろんな歩幅と合ってきたんだと思いますね」
 
 
世界的な非常事態が起きても、パンデミックになっても
音楽を続けるぐらいはタフなんだな俺、っていう(笑)
 
 
――『B U R N H O U S E』(M-7)とか『Voice(s)』は、岩手県・盛岡の学校で宮沢賢治とか『遠野物語』(柳田國男)をモチーフとした演劇とコラボできないかとイメージしながら作った曲だと。クラウドファンディングでプロデュース権を購入してくれた方のアイデアで、アルバムの1曲目が『Voice(s)』になったという話もすごく面白いなと。
 
「前回のクラウドファンディングで、“ロットの次回作のプロデュース権”というメニューがあったんですけど、その方が毎日レコーディングに来てくれて、僕も構想してることとかをずーっと話して。他にも、“こういった曲のアイデアはどうですか?”とメールをくれたので、そのインスピレーションを持ち帰って、これならいいコラボレーションができそうだなと、それこそ森の中でずっと曲を書いたりもして(笑)」
 
――『Voice(s)』はインパクトのある曲だし、今となっては1曲目じゃなかったときが想像できないぐらいで。
 
「民謡っぽい感じでできた曲だけど、そもそも最初は声だけで全部作ってみようと思って、ちょこっと鳴ってるリズムのパート以外、98%ぐらいは僕の声を加工してるんですよ。声でどこまで表現できるのか…それも森で1人で考えることが多かったから、1人ぼっちの自分と向き合った先にいるみんなというか…そういうことを考えながら作ってましたね。やっぱり音楽があったから出会えた人がたくさんいるし、例えば奥さんだってみんなだってそうじゃないですか。だから僕はロットをやれてよかったなと思ってますし、こういう非常事態でもロットの周りの人はすごくポジティブで、めげないところがすごくいいなって(笑)。何だか励まされますよね。だから、“次こそは実現してやる!”と思いながら、岩手のこととかも考えながらアルバムは作ってましたし。結果、この曲が1曲目になって作品としても昇華できたし、自分では想像がつかない角度で楽しめたので、いいコラボレーションになったと思いますね」
 
――それこそ前作の1曲目『けものの名前』では、HANAの歌声のあどけなさと神秘性にも魅了されたけど、今作でも引き続き『ヨVE』(M-8)に参加してくれて。
 
「プライベートでもHANAちゃん一家と家族ぐるみで仲良くて、HANAちゃんのお母さんといろいろと世間話をしてるときに、ふとこの曲が合うんじゃないかなと思って。“ちょうどコロナで学校も休みで退屈してるのよ”みたいな時期だったし(笑)、1年経ってHANAの声がどれだけ変わったのかもちょっと気になったというか。そこも含めてまた歌ってもらえたら嬉しいなと思って。今回は自我が出てきたというか、全然変わっちゃってて面白かったな」
 
――この曲はいろんな人も例えていたように、どこかU2感=『ヨシュア・トゥリー』('87)感もあるね。あえて言うなら、大人が求める文脈というか、ロットと大衆性の共通言語になり得るのはこの辺りなのかなと思ったり。
 
「確かに。ロードムービーみたいな感覚で、みんなが見たことのある景色がそこにあるというか…U2も好きなバンドだしね。うちの母親も聴いてたし、多分、『ヨシュア・トゥリー』が出たのが僕が生まれた年ぐらいで…」
 
――胎教はあったかもね(笑)。この曲もそうだけど、今作はやみくもに希望だけじゃないところも趣深いし。
 
「揺れ動く、流動してる感覚が入ってると楽しいなと思って。みんな確固たるものはないじゃないですか。去年の今頃も奥さんとこうやって『けものたちの名前』のインタビューをしてたけど、今年はZoomで話すようになるなんて1ミリも想像してなかったし(笑)。諸行無常という言葉があるけど、同じものはないというか、一番怖いのは、元に戻ろうとする人がたくさんいることで。戻らないこともあるということは覚えておきたいですね」
 
――結果が見えてるところに戻るのと、どうなるか分からないところに進むのは、勇気の度合いも違うしね。
 
「そうそう。戻るんじゃなくて勇気を出して踏み出せるようなアルバムにしたかったんですよね」
 
――今回の力強さとか推進力はそこにあるのかも。三船くんは別に無鉄砲ではないけど、行くか行かないかだったらだいたい行くし(笑)。挑戦することによって生まれるケガの可能性とかは気にしてないというか。
 
「パッとニューヨークに行っちゃったりしてね(笑)。でも、自分が楽しいとか嬉しいと思えそうなことって痛くないじゃないですか。もしギターが好きじゃなかったら、弦を押さえるのが痛いからやめてたと思いますし(笑)」
 
――鳴らすのが楽しいから、その痛みすら愛しい。
 
「うん。ちょっとの勇気があれば、そこに飛び込めるはずなんで。その勇気をみんなが持つと、いろいろと面白くなってくるんだろうなと思うんですけどね」
 
――そう考えたら、三船くんが勇気を出せるフィールド=音楽に出会えたのも、巡り合わせだね。
 
「そうですね。だからやめずにここまで来れたし、世界的な非常事態が起きても、パンデミックになっても、音楽を続けるぐらいはタフなんだな俺、っていう(笑)。信州の森にいたときの自問自答の中でも、すごく思いました。こういうことになっても、音楽をやめる気は1ミリも起きないなって。むしろやろうと思いましたから、うん」
 
 
新しい希望とかロットの未来が少しずつ見えてきてる
 
 
――あと、ドラムが変わればそれはもう別のバンドとも言えるから、またイチから新しいグルーヴを再構築していくのはタフな作業だったと思いますけど。
 
「僕は中原がいないバンドをやったことがないから、それを楽しめるかどうかも分からなかったしめちゃくちゃ不安でしたけど、世界が非常事態になってる中で悲しんでる暇はない、みたいな感じで自分を奮い立たせながら、新しいロットの未来をいかに作り出すかにも責任を感じつつ。だから、コロナも含めてレコーディングを始めるまではすごいプレッシャーでしたよ。でも、蓋を開けたらやっぱり音を鳴らす喜びに溢れた現場だったというか、初めてバンドを組んだときのような気持ちになれた。いろんな意味で新しいロットなんだなって…周りのメンバーに励まされたんですよね。本当にどうなるかは分からなかったけど、素晴らしい経験が得られたのはよかったなって」
 
――同じタイミングでコロナと脱退というピンチが来て、かえってよかったのかもね。これがバラバラに来てたら、また違う痛みの連続だったかもしれない。
 
「いつもと同じ日常なら、“僕もメンタルをやられてたんだな”とか、痛みを感じてる余裕があるじゃないですか。ただ、誤解を恐れずに言うと、今は世界中のみんながそれどころじゃないという(笑)。まぁ今はまだ渦中にいるので、後に凹むかもとも思いますけど(笑)。正直、まだ全然振り返れてはいないですね」
 
――関西であれだけエモーショナルな夜をロットと共に過ごしてきた俺としては(笑)、まっちゃん(=中原)のことは今回、絶対に聞かなきゃいけないなと思ってました。
 
「僕も奥さんには絶対に言おうと思ってました」
 
――学生時代からの関係性って、大人になって目的のために出会うのとは違って、もう二度と取り戻せないロマンだから簡単に手放してはいけないと、他のバンドを見ても常々思ってきたからこそ残念であり、心配でもあり、実際どうだったんだろうと。まっちゃんとロットを続けることを模索し続けていたと聞けたのは嬉しいことだったけど。
 
「ベストなのは中原もいて、僕もいて、バンドが続けられることが最優先事項だったし、その未来を目指して動いてたんだけど、やっぱりなかなかうまくいかず…お互いの化学反応みたいなものがもうないんだろうなと分かっちゃったときが、一番辛かったかもしれないですね」
 
――仕方はないけど、寂しいね。
 
「本当に。でも、そこと向き合わなきゃいけないし、僕はこうやってインタビューで話せるからまだいいけど、中原にはそういう場が今のところないから、あんまり僕が饒舌に語り過ぎるのも、彼の目線がないからちょっとフェアじゃないし。ただ、お互いにちゃんと冷静に話し合って、すごく長い時間をかけて決めた大切な話なので。しかも、12月の東京・めぐろパーシモン 大ホールは一緒にやろうぜって、お互いポジティブに話せたのもすごくよかったなと思ったし。今回の作品もそうでしたけど、中原のいないライブは毎回…寂しいっちゃ寂しいし、まぁプレッシャーはありますよね。でも、これからロットが少しずつ新しくなっていく様をファンの人たちが支えてくれて、この間もJ-Waveの『TOKIO HOT 100』で『極彩 | I G L (S)』が6位になったりして。いろんな人が喜んでくれてるのを見て自分が励まされてるというか…新しい希望とかロットの未来が少しずつ見えてきてるから、そのきっかけをちゃんと逃さず磨いていくことに集中すればいいんだなと、今は思ってますね」
 
――最初はまっちゃんがパーシモンをやって最後なら去り際としてはきれいだったなとも思ったけど、コロナで延期になった結果、それで'20年を締めくくることになったのも、何だか運命のいたずらのようで。
 
「ありがたいなと思うし、パーシモンは2人の地元でやるのがそもそものコンセプトだったから、そこはちゃんと筋を通してやりたいなって。自分としても、2日間いい夜を作るのは使命だと思ってます。まぁ音楽をやってるとどうしても真剣な関係になっちゃうから、友達みたいにフザけてられないこともたくさん出てくるし、今はそれがただの友情に戻った。役職がなくなって、プライベートで普通にご飯に行ける、みたいな感じだと思うんですよね(笑)」
 
 
僕らが頑張った先でその情報をシェアして
いろんな日本のミュージシャンたちと協力し合えたら
いい感じに世の中がひっくり返るんじゃないかって
 
 
――そして、パーシモンはもちろんリリースツアーもあるわけで。予算的に全公演で実現できるかは分からないけど、基本的には有観客のライブと配信とのハイブリッドなツアーにしようと。
 
「コロナの余波はまだ1〜2年は続きそうな雰囲気があるから、僕たちとしては家でも見られる配信が付属するライブを定期的にできる経験値を稼ぐことがマストだなと。例えば、フェスティバルとかでお客さんの前で生演奏してるところを撮られても、カメラの向こう側まで意識してる人はそこまでいなかったと思うし、そこが一体化しちゃった今の世界ですら、生のライブと配信が同時に行われるツアーはまだ珍しいというか、ヘタしたら世界初ぐらいな感じだと思うんですよ。それはミュージシャンとしてこの上ない経験だし、いろんな配信サービスの知識も同時に増えていくから、もし成功したらそのノウハウを他のミュージシャンに分けてあげられる。演者として、作り手として、アーティストとして、どう届けるのかをちゃんと真剣に考えた結果、こういうツアーがやりたいなと思ったんですよね。バンドにとって今後10年活かせる宝になると思うんですよ、このツアーは」
 
――三船くんがよく言う、邦楽でも洋楽かぶれでもない、第三の道…今まではロットがそのけもの道を突っ走ってるイメージだったけど(笑)、今はみんなのちょっと前にいて背中を見せてくれてるというか、このアルバムから感じた力強さや推進力のように、いろんなバンドの先陣を切って引っ張っていってくれる地点まで来たのかなとも思うね。
 
「うんうん。1組1組いろんなポジションがあるから強力につながる必要はないんですけど、こういう世界共通の出来事を前にして、僕らだけが頑張っても絶対に何も変わらないから。だからこそ、僕らが頑張った先でその情報をシェアして、いろんな日本のミュージシャンたちと、インディーもメジャーも関係なく協力し合えたら、いい感じに世の中がひっくり返るんじゃないかって。そういう経験が、僕らにもとっても、リスナーにとっても、音楽に関わる人たちにとっても、大事な一歩になるんじゃないかな」
 
――ロットの1年後が、今までで一番変わりそうな予感がして楽しみだね。
 
「自分もその渦中にいる実感がすごくあるし、常に前を向いて考えていきたいですね。弱音を吐くのは簡単なんですけど、さっき奥さんが言ってくれた“挑戦心”は相変わらず胸にあるから、ギリギリ勝てる場所より、全力以上を出さないとギリギリ負けるぐらいの場所にいつも身を置きたい。そういうワクワクは今回の音源にもライブにもちゃんとあるので、生演奏でも配信でも、いい感じに巻き込まれてくれたら嬉しいなと思ってます!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
 




(2020年12月 3日更新)


Check

Movie

自室からの熱いメッセージ!
三船雅也(vo&g)からの動画コメント

Release

圧倒的スケールのオルタナフォーク!
渾身の5thアルバムがリリース

Album
『極彩色の祝祭』
発売中 3000円(税別)
felicity
PECF-1182

【LP】
発売中 3300円(税別)
felicity
PEJF-91033

<収録曲>
01. Voice(s)
02. 極彩 | I G L (S)
03. dEsTroY
04. ひかりの螺旋
05. K i n g
06. 000Big Bird000
07. B U R N H O U S E
08. ヨVE
09. NEVER FORGET
10. CHEEZY MAN

Profile

ロット・バルト・バロン…三船雅也(vo&g)を中心に、東京を拠点に活動するフォークロックバンド。『ROTH BART BARON』(‘10)、『化け物山と合唱団』(‘12)という2作のEPを経て、’14 年にはアメリカ・フィラデルフィアにて制作した1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を、’15年にはカナダ・モントリオールで現地ミュージシャンとセッションを重ねレコーディングした2ndアルバム『ATOM』をリリース。’17年にはイギリス・ロンドンの現地プロダクションからのオファーをきっかけに制作したEP盤『dying for』を、’18年には3年ぶりとなる3rdアルバム『HEX』をリリースし、バンドとリスナーがつながる新たなコミュニティ“P A L A C E ”を立ち上げ、共にプラネタリウムでライブを開催するなど独自のバンドマネージメントを展開。’19年11月には4thアルバム『けものたちの名前』をリリース、多くの音楽メディアにて賞賛を得る。’20年7月には中原鉄也(ds)が脱退。10月28日には5thアルバム『極彩色の祝祭』をリリース。それに伴う全国ツアーに加え、12月26日(土)・27日(日)には自身最大規模となる東京・めぐろパーシモン大ホールにて、15人が舞台に集う特別公演を開催する。『SUMMER SONIC』『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも出演しつつ二度のアメリカツアーや中国ツアーを行うなど、日本のみならず世界にその活動範囲を広げており、独創的な活動内容とフォークロックをルーツにした音楽性で、世代を超えた多くの音楽ファンを魅了している。

ROTH BART BARON オフィシャルサイト
http://rothbartbaron.com/

Live

有観客×配信で送るツアーが開催中!
年末には過去最大規模の大編成公演も

 
『ROTH BART BARON Tour 2020-2021
「極彩色の祝祭」』

【広島公演】
▼11月7日(土)広島クラブクアトロ
【静岡公演】
Thank you, Sold Out!!
▼11月14日(土)舘山寺

Pick Up!!

【京都公演】

チケット発売中
▼12月5日(土)18:30
磔磔
オールスタンディング4500円
学生券3000円
※学生券は大学生以下までのお客様が購入可能です(要学生証)。

【東京追加公演】 New!
▼12月11日(金)Shibuya WWW
【東京公演】
Thank you, Sold Out!!
▼12月12日(土)Shibuya WWW
 

Pick Up!!

【東京公演】

『ROTH BART BARON Tour
「けものたちの名前」Final
 at めぐろパーシモン大ホール 』
チケット発売中 Pコード189-361
▼12月26日(土)18:30
全席指定A席4500円
全席指定B席3500円
▼12月27日(日)17:00
全席指定S席5500円
全席指定A席4500円
全席指定B席3500円
めぐろパーシモン 大ホール
[共演]西池達也(key,b)/岡田拓郎(g)/
竹内悠馬(tp,key,perc)/
須賀裕之、大田垣正信(tb,key,perc)/
工藤明(ds,perc)/中原鉄也(ds)/
ermhoi(vo,key)/HANA、優河(vo)/
梶谷裕子、吉田篤貴(vl)/
須原杏(va)/徳澤青弦(vc)
ディスクガレージ■050(5533)0888
※年齢制限なし。膝上観覧は無料。この公演は5/30(土)の振替公演です。チケットはそのまま有効。詳細はディスクガレージ■050(5533)0888まで。学生席1500円(要学生証)はチケットぴあでの取り扱いなし。

チケット情報はこちら

 
【愛知公演】
▼1月16日(土)ボトムライン
【福岡公演】
▼1月21日(木)博多百年蔵 参蔵
▼1月22日(金)The Voodoo Lounge
【熊本公演】
▼1月23日(土)早川倉庫
【石川公演】
▼2月6日(土)金沢アートグミ
[ゲスト]noid
【富山公演】
▼2月7日(日)ウイング・ウイング高岡
高岡市生涯学習センター1F
リトル・ウイング(交流スペースA)

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中
▼2月13日(土)19:00
Shangri-La
オールスタンディング4000円
学生券2000円(要学生証)
SMASH WEST■06(6535)5569

【北海道公演】
▼2月20日(土)モエレ沼公園
ガラスのピラミッド
▼2月21日(日)mole
【宮城公演】
▼2月23日(火・祝)仙台Rensa

Column1

「自分の人生を大事にしてる人には
 きっと響くはず」
1億2000万人じゃなくて
70億人に届く音楽を――
ROTH BART BARONが移りゆく
時代に揺るぎなき意志を刻んだ
『けものたちの名前』を語る('20)

Column2

「このアルバムに出会ってくれる
 “誰か”を喜ばせたい」
これがROTH BART BARONの
新たなシグネチャー・サウンド!
渾身の『HEX』に至るまでの
3年間の闘争の記憶を巡る('19)

Column3

「こういうバンドが日本に1組
 いてもいいじゃないかって」
音楽への執念も表現者のプライドも
インディペンデントなスピリットも
時代の空気と共に刻んだ
異端の新作『ATOM』を語る('16)

Column4

雪解けは、近い――
ROTH BART BARON全国侵攻中!
話題の2人組がシーンに提示する
美しきレベル・ミュージック
『ロットバルトバロンの氷河期』と
バンドのストーリーを紐解く('14)

Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
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「コロナ禍において、多くのミュージシャンが配信ライブのクオリティをどう上げるのか、そもそもやるのか/やらないのかとかも含めて、そっちに頭(と金)を使ってた人が多い中、ロットはいち早く音楽に向かっていったイメージがあります。ただ、毎年コンスタントに凄まじいクオリティのアルバムを出してくるロットとは言え、今回の制作に取り掛かるまではヘヴィだった模様。今年作品を作らない表現者は何だか信用ならないし、しっかり音楽で回答してきた人の作品からは、軒並み執念にも似た信念と、音楽を奏でる根本的な喜びを感じます。すなわち個性と底力が出た作品が多い。『極彩色の祝祭』もしかりで、ロットの意地を見せてくれたな~。そして、そんな作品を作り上げた三船くんの言葉の頼もしいこと! ミュージシャンの中にも、自分が有利な土俵以外には立たないようにしてるヤツもいるし、安パイの勝負しかしないヤツもいる。それもいわゆる処世術ですけど、インタビューの最後に“ギリギリ勝てる場所より、全力以上を出さないとギリギリ負けるぐらいの場所にいつも身を置きたい”と言い放った三船くんは、ホント最高だった! 他にも、ロットのオフィシャルストアでアルバムをプレオーダーしてくれた人のための全曲視聴会や、『極彩色の祝祭』のアートワークにフォーカスしたポップアップ&エキシビジョンなど、アルバムを立体的に楽しめる試みをちゃんと具現化できるロットみたいなバンドって本当に少ないと思う。三船くんの言葉を借りるなら、“現実と向き合って、その先に希望が見通せる音楽”。それが僕にとってのROTH BART BARONであると、再確認したインタビューでしたね」