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「もっと自分に正直にやっていかんと後悔するかもしれへんなって」
まだ何も終わっちゃいない人生に捧ぐ
リクオの夢と覚悟と情熱を注いだ音楽の魔法
『グラデーション・ワールド』インタビュー&動画コメント

 “大人だろ 勇気を出せよ”。リード曲『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』のアウトロで何度もリフレインされ、胸を突き上げるこの言葉…。THE BLUE HEARTS、RCサクセションはもとより、小沢健二、ソウル・フラワー・ユニオン、ムッシュかまやつ、ボブ・ディラン、佐野元春、泉谷しげる、奥田民生に般若etcまで、溢れんばかりのオマージュ=音楽愛と、他人事ではいられない強烈なパンチラインが詰め込まれた同曲を筆頭に、リクオのメロディメーカーとしての手腕とメッセンジャーである視座が全編でみずみずしく躍動する、3年ぶりのアルバム『グラデーション・ワールド』が届いた。今作ではサウンドプロデューサーに森俊之、ゲストギタリストに仲井戸“CHABO”麗市、ウルフルケイスケ、古市コータロー(THE COLLECTORS)、山口洋(HEATWAVE)らを迎え、50代にして蘇る初期衝動や本音、焦りや欲望も受け入れてなお前進するシンガーソングライターの、新たな代表作と言える渾身の1枚に仕上がった。大人がカッコ悪くてウソつきだと、歳を取るのが怖くなる。かと言って、悠々自適の晩年にも何だか感情移入できやしない。時に割り切れない想いを抱えながら、同じ時代を生きてきた愛すべきミュージックラバーに捧ぐ、リクオインタビュー。“まだ何も終わっちゃいない”(『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』)と自らに、そしてあなたに語りかける、リクオの夢と覚悟と情熱をここに刻む――。

 
 
間口の広いポップスではありたいとは思うけど
それと同時にちゃんとエッジの効いた刺さる表現をしようと
 
 
――前作『Hello!』(’16)以来3年ぶりのインタビューですけど、この間に拠点が地元の京都に戻って。
 
「’17年の10月に京都に引っ越したんだけど、さすがに33年ぶりに住むとなると、やっぱり新鮮というか。新しい街に住む感覚と、地元に戻って来た感覚と、両方混ざってる感じ。今住んでる一乗寺は初めてやのに、こんなに居心地がええんかと(笑)。行きつけの呑み屋も何軒かあるし、左京区ローカル密着で活動できてるんじゃないかな(笑)」
 
――リクオさんはそもそも旅を続けながらライブをするスタイルですし、今はネット環境も整ってるから、音楽=東京じゃなくて、どこに住むか問われない時代になりましたね。
 
「そうやね。昔に比べると音楽業界の構造も変わってきたのも大きいし、ツアーを中心に活動してるミュージシャンは、必ずしも東京に住まなくても活動できる状況になってるんで。特に東日本大震災以降はミュージシャンが日本各地に散らばったなって。それは決して悪いことではないと思ってます」
 
――僕らからしても、才能のあるミュージシャンが関西にいてくれる心強さみたいなものはやっぱりあります。
 
「京都に戻って地元のミュージシャンと出会う機会もすごく増えたね。あと、京都は新しいものと古いものが同居し続けるのが1つのよさやけど、やっぱり学生の街やから常に若者がいて、風通しもいいなぁと思うし」
 
――前作はリクオさんなりのポップスへの挑戦を明確に意識したアルバムでしたけど、『グラデーション・ワールド』に何かテーマみたいなものはありました?
 
「これはサウンドプロデューサーの森(俊之)くんともレコーディング前から確認し合ってたことで、今回も間口の広いポップスではありたいとは思うけど、それと同時にちゃんとエッジの効いた刺さる表現をしようと。エモーショナルな要素をパッケージしようと心がけてましたね」
 
――ポップであること+刺さる表現でなければと思ったのは何かあったんですか?
 
「これは最近バンドでライブをすることが増えてきたことも関係あると思うけど、初期衝動みたいなものが、50代に入ってまた蘇ってきてるというか。バンドでもっと活動したいと思ったこと自体が心境の変化でもあるし、ドラマーが前作の椎野(恭一)さんから小宮山純平に変わったこともあって、よりアグレッシブでドライブ感のあるグルーヴに、熱量をどんどん高めてちょっと熱苦しい方向に、自分自身が向かっていて(笑)。そういう自分に共感したり寄り添ってくれるメンバーがいるのが大きいかな」
 
――様々な表現が混在する今、中途半端なものより濃いものじゃないと刺さらないというか、届かないでしょうね。
 
「50代に入って自分と向き合う機会が増えてきて、自分の情けない部分とか、今まで蓋を閉じてきたわだかまりみたいなもの…その蓋を開ける作業をここ数年はやってきたような気がして。『Hello!』のときもそうだったけど、蓋を開けて出てきた自分の想いを、もっとストレートにぶつけてもいいのかなっていうのはありましたね」
 
 
やっぱりポップス=共同作業だと思うので
 
 
――今作は森俊之さんと2人でガッツリ作るスタイルですけど、そうなった経緯は?
 
「今回はサウンドプロデューサー=スタジオで仕切ってくれる人がいてほしい、要は任せられる存在が必要だなと思って。僕は歌と演奏に集中する状況でレコーディングしたいなと思っていたので」
 
――前作はレーベル設立のタイミングでもあったので、他にもいろいろとやることがありましたもんね。
 
「前作では相当試行錯誤して、もちろんそのノウハウを今回も持ち込みながら作ろうと思ったんだけど、これ以上自分の役割は増やしたくないなと(笑)。あと、これは前作からの延長線上で、やっぱりポップス=共同作業だと思うので、いろんな才能が集まって、そこから生まれる化学反応をちゃんと作品に落とし込みたかったのはあります」
 
――そこで白羽の矢が立ったのが森さんだったと。
 
「自分の中でプロデューサーとしての条件があって、スタジオの現場が仕切れて、レコーディングのノウハウも知っていて、機材のことも分かっていて、アレンジもできて、自分と音楽の共通点を持っていて、年齢が近い人(笑)」
 
――森さんとの付き合いは長いんですか?
 
「それが全く。お互いに存在は昔から知っていて、僕は彼を随分前からリスペクトしていたので、全く面識はなかったんだけどマネージャーさんを通じてお願いしました。彼は相当忙しいからスケジュールを押さえるのが大変だったけど、森くんがOKしてくれたところから今回の制作は始まりましたね」
 
――実際に一緒に作業してみてどんな方でした?
 
「理詰めな部分と、非常に感情的な部分と両方持っていて、ある意味、すごく分かりやすい(笑)。良い/悪いのジャッジが常にハッキリしてるから、歌のテイクのセレクションは全て彼に任せました。場合によっては彼も“ここはリクオくんが決めて、こっちは俺がやるから”みたいな感じで、任せるときは全部任せてくるので(笑)」
 
――全部決めるんじゃなくて、決め方自体を決めると(笑)。
 
「それもこっちの負担にならない範囲で、ということまで彼は分かってて、現場の判断で振ってくれるんだよね」
 
 
楽しむばっかりじゃなくて、実は状況を変えられていない自分とか、
欲を持っている自分にも向き合ってやる
 
 
――リクオさんのブログをさかのぼって読んでいたら、2年前の’17年5月に行われたスペシャルライブ『HOBO CONNECTION 2017 ~HOBO SPECIAL~』の段階で、『永遠のロックンロール』(M-1)『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』(M-2)『希望のテンダネス』(M-4)『グラデーション・ワールド』(M-5)がすでに披露されていて。
 
「『グラデーション・ワールド』なんかは、’16年の夏とかにはもうできてたかな。『永遠のロックンロール』とか『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』は今やライブの定番曲で、お客さんにはもう随分と馴染みの曲になってるし。今作の1つの特徴としては、レコーディング前にプリプロとライブを積み重ねたのが大きくて。森くんのプライベートスタジオで打ち込みでアレンジを考えて、それをバンドで演奏してみる。あるいは逆に、バンドである程度演奏したものを、森くんのスタジオでアレンジを煮詰めていったり。最初にプリプロに入ったのが’17年の3月とかなので、2年前にはアルバムを録れるぐらいの曲数はあったんだけど、そこから方向性を意識しながらまた曲を書き足したり、森くんからの提案を参考にしながら曲作りしたり。『夜更けのミュージック』(M-7)なんかはそうだね。こういう跳ねるリズムとか、16分の感覚は森くんの得意とするところであると同時に僕らの共通言語でもあるんだけど」
 
――あと、かつてリクオさんは『永遠のロックンロール』について、“原点回帰に向かうことで進行形であろうとするという今の自分のスタンスを象徴する”曲だと言っていて
 


「そんなこと言ってた!? うまいこと言うねぇ(笑)。今回のアルバムの録音をするとき、キャッチーでパンチラインを効かせたいのと同時に、“みずみずしさ”をパッケージしたいなと思って。これは原点回帰という言葉とつながってくると思うんだけど、“音楽ってめっちゃワクワクするな”とか、“人と一緒に音を交わし合うのってこんなに楽しいのか”とか、そういう想いが最近は非常に強くて。それを隠さずにストレートに出したいなって」
 
――これだけ音楽をやってきて、まだ面白いんですね。
 
「ね! だから本当に歌詞の通りで、“今も魔法がとけない”っていう感覚なんだよね」
 
――リクオさんは音楽を辞めようと思ったことはないんですか?
 
「ラッキーなことに音楽を辞めようと思ったことは一度もない。しんどいと思うことはしょっちゅうあるけど(笑)」
 
――『永遠のロックンロール』では“歌を託して いつか星になる”、『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』では、“死ぬまで生きる 我らの掟”とあって。ここには、くたばるまで音楽を続ける覚悟を感じます。
 
「その辺は自信があるというか、もうこの音楽の魔法が解けることはないし、ときめきがなくなることはないだろうなって。疲れて何もやる気が出ないときもあるけど、まぁ食って寝て起きれば、また新鮮な気持ちにもなれる(笑)。何より今は、いろんな人との出会いがあって、その一期一会を楽しむ術みたいなものが若い頃より身に付いているので。状況的にドン詰まってるなと思っても、ライブをやるとちゃんといいエネルギーが循環してることを実感できて、そのことによって救われるというか」
 
――それはやっぱり、年に1枚のリリースとそれに伴う数本のライブ、とかいうアーティストだったらなかなか生まれない発想かもしれないですね。日々の鍛錬じゃないですけど、3日後にライブがあればそのときには復活できる。
 
「若いときはドン詰まったらひたすら堕ちていく一方やったけど(笑)、今はドン詰まる一方で解放されて楽しんでる自分もいる。それは若い頃とは違うかな。50代になって変わってきたことがあるとしたら、40代は楽しむことに最大のプライオリティを置いていた気がするんだけど、今は楽しむばっかりじゃなくて、実は状況を変えられていない自分とか、欲を持っている自分にも向き合ってやる。それは多分、自分に残された時間みたいなものを感じるようになって…もっと自分に正直にやっていかんと後悔するかもしれへんなっていう想いが強まってきたんじゃないかなぁ」
 
――だからこそ逃げずに向き合わないと、自分の音楽人生に次の展開はやってこない。
 
「うん。楽しむことばかり続けてツアーに埋没してしまったら、何か大切なことをやれずじまいで人生が終わってしまうんじゃないか、という危機意識がここにきて強くなってきた気がする。この前、ある後輩とライブをして感じたのが、すごく楽しそうにやってるけど、“案外新曲が少ないな、俺の方が絶対にいっぱい曲を書いてるで”とか(笑)、あるいは演奏してるときに、“目に見えるお客さんばっかり見て演奏してるよな”とか思えてきて」
 
――それ、めちゃめちゃ分かりますわ…。
 
「目に見えてる人と楽しむだけじゃなくて、もっと世界を広げて演奏しないとここからはもう広がっていかないんじゃないかなって。つまりね、彼を見ながら自分を見てたんだよ(苦笑)。俺も力づくで盛り上げるようなライブをやってたよなっていう自覚があったからこそ、そういう彼を見てね、改めて考えさせられたという」
 
――いい話やな〜。これ、うまいこと載せたい(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 僕らみたいなツアーミュージシャンが陥りがちなところだなぁって。一生そのままでいい人はそれでいいけど、“ここで満足してんの?”ってちょっと思ったな。でも、その姿を見て、俺もここで満足したらあかんなって思ったね。そのためには表現者として、切磋琢磨し続けないといけないから」
 
 
何を歌ってもいいっていうことを
忌野清志郎さんをはじめ先人から教えてもらったから
 
 
――今作のリード曲である『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』は、それこそパンチラインという意味では最高の破壊力というか、本当に’19年を代表する1曲な感じがします。
 


「ありがとう、嬉しい! そうなってほしいわ(笑)。この曲は『HOBO CONNECTION 2017 ~HOBO SPECIAL~』で仲井戸"CHABO"麗市さんと共演させてもらうとき、CHABOさんをはじめ自分が影響を受けたミュージシャンに対するリスペクトとオマージュを込めた曲を書いて、その曲をCHABOさんと一緒にやることを目標に作り始めて。だからもう2年以上前から、ライブで育っていった曲でもあるね」
 
――この曲も『希望のテンダネス』もそうですけど、ヒップホップ的要素が今作では1つのスパイスになっていて。
 
「元々ヒップホップもラップもコアなファンではないけど、好きで聴いてきたんでね。あとは遠藤ミチロウさんであったり友部正人さんであったり、トーキングブルース調というか、語るように歌うスタイルは若い頃から馴染みがあったので。歌うように語りたいし、語るように歌いたい。そういう意識は前からあって」
 
――リクオさんのメロディメーカーである部分と、メッセンジャーである部分が、このスタイルだと一番鋭く刺さる感じがしますね。この曲の歌詞には“あれからもう30年”とありますけど、平成とも言えるし、ある種リクオさんのキャリアとも当てはまるような時間ですね。
 
「平成が終わることを意識して書いた曲ではないので偶然そうなったんだけど、実はこの曲を書いていた頃に、どこかのお店の周年とか、いろんな30周年イベントに参加する機会が多くて(笑)。自分も弾き語りを始めてちょうど30年ぐらいの時期でもあって、いろんなことが30年前から始まっていたり、30年の年月が流れてるんだなぁって感じて、自分にとって象徴的な年月になってたんだよね。僕ぐらいの50前後の世代って、“社会に出て30年経った”とか、自ずと30年というのが1つの区切りとしてあるんじゃないかな」
 
――この曲のサブタイトルにもあるTHE BLUE HEARTSって、リクオさんにとってどういう存在だったんですか?
 
「(甲本)ヒロト(vo)くんとマーシー(=真島昌利・g)は2~3つぐらい年上で、僕が学生の頃からデビューしていて。当時は自分もアマチュアだけど音楽活動を始めていたので、RCサクセションには憧れしかなかったけど、THE BLUE HEARTSとBO GUMBOSはまぁ正直、むちゃくちゃ悔しかったよね。素晴らし過ぎて。年代的にもBO GUMBOSのどんと(=久富隆司・vo&g)も近い年齢だったし。あと、自分が’90年の11月にデビューすることになって、そのときのレコード会社の先輩がTHE BLUE HEARTSだったんだよね。言わば、僕らと同世代の日本のロックバンドのアイコンがTHE BLUE HEARTSであり、BO GUMBOSであり。あと、僕にとってはニューエスト・モデルもそうかな」
 
――この曲には現実から目を背けない社会的なメッセージもあって。こういう曲を今だからこそ聴きたいなと。
 
「社会的なことを伝えることと、個人的なことを伝えることを、分けて考えること自体が不自然やなぁと思っていて。自分の中では分けて考えてないし、分けて表現できない」
 
――“音楽に政治を持ち込むな”とか、“こういう言葉は音楽に乗せるべきじゃない”とかじゃなくて。
 
「うん。何を歌ってもいいっていうことを、(忌野)清志郎さんをはじめ先人から教えてもらったから。音楽の表現は自由で、正しいとか正しくないとかじゃなくて、好きなこと、感じたことを歌えばいいんだって」
 
――『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』ができたとき、“うわ、この曲ヤバいな”とか思いませんでした?
 
「自分で作りながらグッときてた(笑)。引用のコラージュを中心に表現するやり方は90年代の渋谷系でもあったけど、僕はその引用によって自分をさらけ出したろ、みたいな(笑)」
 
――歌詞にも出てくる仲井戸"CHABO"麗市さんが実際にゲストギタリストとして参加していたり、本当に記念碑的な曲になっていて、何回聴いても鳥肌が立ちます。
 
 
ちゃんと点と点が線につながる瞬間がやってくる
 
 
――今作ではそんなCHABOさんをはじめ様々なゲストギタリストが参加していて、『永遠のロックンロール』ではウルフルケイスケさんがギターを弾いてくれています。去年一緒に回ったツアーについてブログに書いていた、“諦めるところと諦めないところ”みたいな話も、すごく興味深いなと。
 
「ケーヤンと俺は向かうベクトルがかぶってるところとかぶってないところがあって、そこが面白いなと思っていて。ケーヤンはメジャーの世界でずっとやってきたから、もうその感覚を知ってる。俺は逆にそういうメジャーの世界にいた感覚があんまりないんで、ケーヤンが持っているその感覚を自分も知りたいなぁと思う。ケーヤンはケーヤンで、僕のやってきたことに興味を持ってくれてると思うし」
 
――そういう意味では、お互いに刺激がありますね。実際、この曲にもすごくエネルギーを与えてくれて。
 
「ケーヤンしかり、今回はたくさんのギタリストが参加してくれて…この20年はね、自分のレコーディングにエレキギターを弾く人が参加することがほとんどなかったんだよね。でも今回は、表現にエッジを効かせたり、心のノイズの部分をちゃんと表に出したいと思っていたので、やっぱりエレキギターっていう楽器が必要やなと」
 
――そして、『満員電車』(M-3)にはHEATWAVEの山口洋(vo&g)さんが参加してくれています。
 
「イントロの1小節目の最初のフレーズだけ“ロビー・ロバートソンっぽく”と指定して(笑)、それ以外はもう全部任せました。本当に彼にしか弾けないギターやね。彼とも長くて、もう四半世紀の付き合いかな。同じ時代を共に生きてきたミュージシャンが今でも元気に活動してるのは、すごく嬉しいし刺激になって、勇気づけられる。そういう感覚は10年前より今の方があるよね」
 
――ただ、『満員電車』とか『だんだんよくなる』(M-6)からは、去年の秋ぐらいにリクオさんが、“前の自分とは別人になってしまったような気分”と言っていた、曲が書けなかった時期のムードを感じたりもしました。
 
「1ヵ月前の自分と今の自分が、全然違う自分になってしまってるような感覚があって。でも、それは決して悪いこととは捉えてなくて、経験上、1ヵ月前のときめきが消えてしまっても、前とは違うまた新しいときめきがやってくる。いろいろとインプットしたものが、ちょっと時間を経て自分の中で形になり出してくるというか。ちゃんと点と点が線につながる瞬間がやってくるから、それを掴んだらいいんだっていう感覚はあります。常に更新されているし、これからもされていくと信じることが大事やなぁと(笑)」
 
――もう1人のゲスト、古市コータロー(g・THE COLLECTORS)さんとは元々接点がなかったのも意外でした。
 
「『千の夢』(M-9)で誰にギターを弾いてもらうのかを考えたとき、“これは古市コータローやな”と思って。それまでは全く接点がなかったんだけど、マネージャーさんに紹介していただいて連絡したら、快諾してもらえました」
 
――『千の夢』では、これぞ古市コータローというギターを弾いてくれていますね。
 
「本当に。今回、参加してくれたギタリストはみんな、その音を聴けばすぐ誰のギターか分かるね」
 
――改めて今作でも、リクオさんはやっぱりポジティブにもがいてるというか、人生に揺らぎはあるけど、絶対に前進するんだという気持ちが貫かれてるなぁと思いました。
 
「いい表現! それ使わせてもらおう(笑)。そうよね、(山口)洋のギターなんか、もがいてる感じがするもんね(笑)」
 
 
観に来ると言うよりは参加してもらって、一緒に最高の空間を作れたら
 
 
――タイトル曲でもある『グラデーション・ワールド』は、“初音ミクとデュエットするようなイメージで作り始めた”というところに、前作のインタビューでAKB48の話が出たように、リクオさんの視野の面白さを感じます。
 
「ボーカロイドの曲って、鬱屈した想いを表現してるような歌詞が多いなぁと思って。今は日本だけじゃなくて世界的に物事を白黒割り切って考えてしまって、そのことによって二項対立がどんどん深まっていく世界になってきて。でも、実際は物事には様々な視点があって、微妙で豊かなグラデーションに彩られていると思うから。その部分に目をこらすようになれたら、もっと世の中が寛容で風通しのいいものになるんじゃないかなって。世の中は他者の存在によって成り立っているし、そういう意味では多様性は思想じゃなくて、人類が生き残ってくために必要な要素で、イデオロギーを超えたものじゃないかなぁと思ってるんだけどね。言わば、それが他者に対する想像力やと思うし。そういうことを3.11以降、より強く感じるようになってきましたね」
 
――リリースに際し、佐野元春さんから寄せられた、“歌にする理由のある歌を聴いた”というコメントが、まさにだなと思いました。今歌うべき歌という感じがすごくしましたね。
 
「これは嬉しいコメントでしたね、本当に。もう自分の最高傑作ができたなと」
 
――リリースツアーに関しては全国を弾き語りで回りつつ、バンドセットでのスペシャルライブが、7月12日(金)京都・磔磔、13日(土)愛知・TOKUZO、21日(土)東京・Zher the ZOO YOYOGIにて行われます。
 
「今作のキャンペーンでいろいろと回らせてもらって、今日もこうやってインタビューをしてもらって。DJをはじめラジオ局の現場の皆さんが本当に熱い感想を伝えてくれたり…これはかつてないぐらいの反響だなと思っていて、そこにもすごく手応えを感じてるんで。それと同様、お客さんからのリアクションも今回のツアーはとにかく熱いんですよ。ちゃんと熱量を込めて、パンチラインを効かせたその成果が、ちゃんと返ってきてると思います。だからね、とにかくライブに来てほしいです。今回のアルバムは、いろんな人が参加してくれた化学反応から生まれた作品だと思っていて。ライブも僕ら演奏者が作り上げるだけじゃなくて、参加してくれたお客さん、その会場の磁場みたいなもの…いろんな要素が作用し合ってエネルギーを循環させていくものだと思うので。観に来ると言うよりは参加してもらって、一緒に最高の空間を作れたらなと思ってます!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
 




(2019年7月 3日更新)


Check

Movie

新譜にライブに地元京都を語ります
リクオからの動画コメント!

Release

時代を貫くリアリティと音楽愛に
奮い立たされる3年ぶり渾身のアルバム

Album
『グラデーション・ワールド』
発売中 3024円
Hello Records
HR-006

<収録曲>
01. 永遠のロックンロール
02. オマージュ - ブルーハーツが聴こえる
03. 満員電車
04. 希望のテンダネス
05. グラデーション・ワールド
06. だんだんよくなる
07. 夜更けのミュージック
08. 海さくら
09. 千の夢
10. 黄昏と夜明け

Profile

リクオ…京都出身。'90年11月、ミニアルバム『本当のこと』でメジャーデビュー。ソウルフルなボーカルと幅広いソングライティング、ニューオリンズピアノ、R&R、ブルース等に影響を受けたグルーヴィーなピアノスタイルで、注目を集める。'92年、忌野清志郎プロデュースによるシングル『胸が痛いよ』をリリース。90年代はシンガーソングライターとしてだけでなくセッションマンとしても活躍し、忌野清志郎、オリジナル・ラブ、ブルーハーツ、真心ブラザーズ等のツアーやレコーディングに参加。90年代後半よりインディーズに活動を移行。年間120本を越えるツアーで鍛えられたファンキーなライブパフォーマンスは、世代・ジャンルを越えて熱狂的な支持を集め、いつしか“ローリングピアノマン”と呼ばれるように。'12年よりコラボイベント『HOBO CONNECTION』を主催し、竹原ピストル、仲井戸“CHABO”麗市、奇妙礼太郎、TOSHI-LOW(BRAHMAN)、ウルフルケイスケ、大木温之(Theピーズ)、YO-KING(真心ブラザーズ)、七尾旅人、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)等多くのミュージシャンとのコラボライブを繰り広げる。'16年4月には、自身が立ち上げたレーベルHello Recordsより、アルバム『Hello!』をリリース。併せて、自身初のアナログレコードもリリースした。’17年1月にはリクオ with HOBO HOUSE BAND名義でライブCD『Hello!Live』とDVD『Hello!Live Movie』を会場限定で同時リリース。7月、ソロとしては『FUJI ROCK FESTIVAL』に初出演。’18年5月にシングル『永遠のロックンロール/海さくら』をリリース。’19年6月21日には、アルバム『グラデーション・ワールド』をリリース。

リクオ オフィシャルサイト
http://www.rikuo.net/

Live

弾き語りツアーの合間をぬって
バンドセットのスペシャルライブ!

 
『リクオ「グラデーション・ワールド」
 発売記念スペシャル・ライブ』

Pick Up!!

【京都公演】

チケット発売中 Pコード149-711
▼7月12日(金)19:00
磔磔
自由席4500円
[メンバー]寺岡信芳(b)/高木克(g)/
小宮山純平(ds)/宮下広輔(スティールg)
磔磔■075(351)1321
※中学生以下無料。但し、要保護者同伴。
※学割チケットあり。詳細はオフィシャルHPまで。

チケット情報はこちら


【愛知公演】
チケット発売中 Pコード149-595
▼7月13日(土)18:30
TOKUZO
全自由4500円
[メンバー]寺岡信芳(b)/高木克(g)/
小宮山純平(ds)/宮下広輔(スティールg)
ジェイルハウス■052(936)6041
※中学生以下無料。但し、要保護者同伴。
※学割チケットあり。詳細はオフィシャルHPまで。

チケット情報はこちら


【東京公演】
チケット発売中
▼7月21日(土)18:00
Zher the ZOO YOYOGI
全自由4500円
[メンバー]寺岡信芳(b)/真城めぐみ(cho)/高木克(g)/小宮山純平(ds)/
宮下広輔(スティールg)
[ゲスト]森俊之(key)
Zher the ZOO YOYOGI■03(5358)4491
※中学生以下無料。但し、要保護者同伴。
※学割チケットあり。詳細はオフィシャルHPまで。


 
【京都公演】
『磔磔築102周年記念!
 木村充揮満載な一週間!! 楽しんでや!!!』
チケット発売中 Pコード149-459
▼8月3日(土)18:00
磔磔
自由席5000円
[出演]木村充揮/中村耕一/リクオ/
皆川和義
磔磔■075(351)1321/GREENS■06(6882)1224
※未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。

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【大阪公演】
『なつかしい×あたらしい
 なにわブルースフェスティバル2019』
~石田長生展2019 SONGS OF Ishiyan~
チケット発売中 Pコード115-382
▼9月14日(土)17:00
なんばHatch
指定席6000円
ブルースシート10000円
(指定、ブルースセット付)
[出演]有山じゅんじ/ウルフルケイスケ/大塚まさじ/大西ユカリ/金子マリ/木村充揮/桑名晴子/桜川春子/清水興/竹田一彦/Char/ナオユキ/仲井戸“CHABO”麗市/フラッシュ金子/堀田幸祐/正木五朗/三宅伸治/山岸潤史/Unity Jey/ヨモギ/リクオ/ロジャー高橋
GREENS■06(6882)1224/なんばHatch■06(4397)0572
※未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。公演当日、学生の方は学生証提示で3000円返金(ブルースシートは除く)。ブルースシートのブルースセット内容は当日のお楽しみとなります。【オフィシャルHP】http://naniwabluesfestival.com/

チケット情報はこちら


Column

「世に問うような作品を
もう1回作ってちゃんと売れたい」
時代を超える普遍性を
時代を切り取るメッセージを
ローリングピアノマンの
新たな旅の出発点『Hello!』
前回インタビュー('16)

Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「いや~前作の『Hello!』も相当よかったですけど、今のリクオさんはまさに油が乗った状態。何と言っても新作『グラデーション・ワールド』のリード曲『オマージュ - ブルーハーツが聴こえる』が本当にすごい。ここにきてこんなアンセムを書いちゃうなんて、インタビューで“’19年を代表する1曲”と言ったのも決して大げさじゃない名曲ですよ。“死ぬまで生きる 我らの掟”→ソウル・フラワー・ユニオン『死ぬまで生きろ!』(’10)、“大人だろ 勇気を出せよ”→RCサクセション『空がまた暗くなる』('90)など、自身の音楽人生に影響を及ぼした名曲を巧みに引用しながら、50代だからこそ感じる想い、見える景色、社会から目をそらさずに放ったメッセージに、何度も奮い立たされます。やっぱりこういう歌、聴きたいですよ今は! 音楽の力を信じたいですもん。他にも、“思い通りにならないのは 思い続けてきたから”(『千の夢』)というワンフレーズは、さりげないんだけどめちゃくちゃいろんな感情が込められていて、こんなに短いセンテンスで、こんなにも人生の悲喜こもごもを描けるのが素晴らしいし、『夜更けのミュージック』なんかは洗練された大人のポップスでお見事だし。“歌うように語りたいし、語るように歌いたい”というリクオさんのスタイルが確立された、キャリアを飾る重要作で代表作になりました。でも、ライブはこれよりいいんですよ、恐ろしいことに(笑)。バンドセットなんか極上ですよ。ただ幸い、リクオさんは全国津々浦々で年中ライブをしています。もしまだ観たことがない人は、あなたの街でぜひ一度最高の音楽体験をしてみてください!」