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「これからこのアルバムに出会ってくれる“誰か”を喜ばせたい」
これがROTH BART BARONの新たなシグネチャー・サウンド!
渾身の『HEX』に至るまでの3年間の闘争の記憶を巡る
三船雅也(vo&g)インタビュー&動画コメント

 “インディペンデント”=独立した、自主の、自由なetc…いったいそのスピリットを本当に体現できているアーティストは、いったい日本にどれほどいることだろう? サブスクリプションやクラウドファンディング、自ら立ち上げたオンラインサロン“PALACE(β)”など、音楽シーンに広がる新たなプラットフォームを巧みに駆使し、DIYで活動する2人組フォークロックバンドROTH BART BARON(ロット・バルト・バロン)から、3年ぶりのニューアルバム『HEX』が届いた。自然界に唯一存在する幾何学模様である蜂の巣のハニカム構造を表す、ヘキサゴン=六角形、ドイツ語で“魔法”の意を持つ今作は、ヒューマニティーとテクノロジーが有機的に響き合うサウンドプロダクションと、現代社会を生き抜く2人のミュージシャンの3年間が結晶となって刻まれた1枚だ。なお、収録曲『HEX』『SPEAK SILENCE』のミックスは、かのチャンス・ザ・ラッパーらを手掛けたグラミーウィナーである、シカゴのサウンドエンジニアL10MixedIt(エルトンミックスエディット)が担当。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotch(vo&g)をはじめ、アーティスト/リスナー問わず多くの称賛の声が贈られたそんな話題作について、ソングライティングを手掛ける三船雅也(vo&g)が語ってくれたインタビュー。“僕らは いつか きっと どこかで出会うだろう/なんの前触れもなく”。『HEX』の冒頭で記された一節が、現実になることを切に願う。世界を視野に本気で悔しがり、貪欲に自分を変えていく。タフで愛すべき音楽家の3年間の闘争の記憶をここに――。

 
 
“これが僕のやりたかったことだ”みたいな嘘偽りのない気持ちを
どう自分の心を透き通らせて見つめるか
 
 
――まさか前作から3年も空くことになるなんて。
 
「本当に(笑)。出せるものなら早く出したかったんですけど、自分たちのイベント『BEAR NIGHT』をやったり、フジロックやライジングサンに出たり、アジアツアーもやったり、イギリスで音源も作った。ずっとアルバムのことは頭にあったんですけど、全力でやってたら3年も経っちゃってたんですよね」
 


――『ATOM』('15)で出し切った感とかはあったの?
 
「当時、『ATOM』で表現したかったテーマと向き合って…出し切ったと言うより、それにすごいエネルギーを注いじゃったので、自分の心のコップにまたインプットが溜まるの待ってたというか。その間に曲も120曲ぐらい作ったし、こそこそロシアに旅に行ったり(笑)、国内は車でどこかに出かけたり、1人でジタバタしてましたね」
 
――そのコップに水が溜まるまで、120曲も書いたということは=ある種のスランプというか。
 
「スランプではあったと思います。ロシアに行ったのも作曲をするためで、ちゃんとピアノがある宿を選んだり、かつてラフマニノフが泊まっていた場所に行ってみたり、ちょっと自分探しみたいな感じもあったけど、身にはならず(笑)。そもそも格安航空券を衝動買いして、スケジュールがちょうど空いてるタイミングで無理矢理行った感じなんですけど、ヨーロッパにはいずれ行くことになると思ってたんで、ロットじゃ行かない、資本主義じゃない国に行ってみたかったんですよね。バンド名のルーツのチャイコフスキー(※ROTH BART BARONはバレエ『白鳥の湖』に登場する人物名)がいた国でもあるし、一応最初に宇宙に行った国だし、ソ連時代のあの独特のデザインとか建物も好きなので、ちょっと違うOSで動いてる国を1回見ておこうかなと思ったんですよね」
 
――刺激があって然るべき場所に身を置くと。
 
「そうですね。景色も美しいし、ヒッチハイクとかも楽しかったんですけど、まぁちょっといろいろ…身の危険を感じることもありましたけど(笑)」
 
――そうまでしても、120曲書いても、自分が感動できないってちょっと絶望的というか、この袋小路からどうやったら抜けられるんだっていうのは。
 
「でも、いろんな人にこういう話をすると、“普通は曲自体ができなくて悩むんだよ”って言われますけど(笑)」
 
――120曲書いてて、何がスランプだよと(笑)。でも、自分のOKラインを超えてこないってことだもんね。
 
「そうなんですよね。あと、曲をたくさん作っていく中で、“お客さんに届ける意味”というか…ただ自分がやりたいだけじゃ、何だかエゴになっちゃうというか、世界と、自分と、聴いてくれるお客さんと…絶妙なバランスで歯車が噛み合う瞬間に確信が持てる気がして。『ATOM』は当時感じてたことを曲にしたんですけど、じゃあ今の人たちに対してCDをいまだに作る意味があるのか? レコードにする意味は? 配信の世界で何曲あればお客さんがいい感じで聴けるのか? それに俺がどう聴きたいのかもあるじゃないですか。何かそういうことをずーっと考えてたけど、考えてるだけじゃダメだったんですよね。だから実際に動いてセッションもしてたし、ライブでいろんな街に行ったりして、釣りで糸が引くのをずっと待つみたいに、“これだ!”って思える瞬間を、どう自分が掴むのかという」
 
――自分がビビッと来るのを待ちながら、それがなかなか来ない3年間だった。
 
「自分の中で揺るぎない、“これが僕のやりたかったことだ”みたいな嘘偽りのない気持ちを、どう自分の心を透き通らせて見つめるか、ずっと向き合っていて」
 
――ここ2~3年は音楽の聴かれ方の変革期でもあったし、自ずと考えることになったのかもしれないですね。
 
 
みんなが競ってる形骸化したロックのレールに
僕らが乗る必要は全くないと気付けたのが、結構大きかった
 
 
――今作に至るまでの間に、二度のクラウドファンディングの一環でイギリスに行ったことも、刺激をもたらすにはもってこいの出来事でしたけど。
 
「フィーダーのタカ・ヒロセ(b)さんの紹介もあったんですけど、イギリスに来ないかって言ってくれる人がいて。行きたいと思う自分がいる反面、ただ行くだけで何も残さずに帰ってくるのはイヤだなと思って。そんな矢先にCAMPFIREがすごい協力的だったのもあって、いろんな思惑が一致したんですよね。だったら、ロットが世界に出て何を掴もうとしてるのかを、お客さんにも一緒に見てもらおうと思って。でも、クラウドファンディングって今でも、“ロックバンドがそういうことをやるなよ”って思う人も結構いると思うんですよ」
 
――ヘンな話、自分の創作物を金をねだって作るのか、みたいな賛否はちょっとあるもんね。
 
「だからそれを自分たちがやる意味として、モノを売ったりお返しするより、その人の記憶とか遺伝子に刻めるようなこの先に残る体験を、クラウドファンディングしたらいいんじゃないかと思ったんですよ。形のないものは信用できないかもしれないけど、お金より揺るぎないものがあるという証明を、お金=信頼の形のクラウドファンディングでやるのが超矛盾してるんですけど(笑)、それが逆転の発想でできたら面白いなって。このことでロットを嫌いになる人もいると思ったんですけど、それはもう覚悟の上というか」
 
――それよりも、ロットの新しいプロセスに懸けてみるというか。
 
「さっきの賛否の話じゃないけど、いわゆる“ロックバンドがクラウドファンディングなんてダサい”とか、“ロックバンドはこうあるべきだ”っていう価値観を誰が決めたのかなってすごい考えて。これすらも50~60年代に生まれた価値観かもしれないですけど、ロックバンドって僕が思うに、常に何かを破壊して新しく構築していった人たちだし、昨日までこっちだった価値観を突然違うものにしてくれる音楽がロックだと思ってたから。カッコつけのためにロックバンドをまとうんじゃなくて、みんなが競ってる形骸化したロックのレールに、僕らが乗る必要は全くないと気付けたのが、結構大きかったのかなと思って。その価値観が手に入ったからこそ、一度目のことをちゃんと経験にして、二度目のクラウドファンディングではさらに羽を伸ばせる方法を考えながらやってみた感じですね」
 
――内心、ロットがクラウドファンディングなんて大丈夫かと思ったけど、成功して逆にビックリするという(笑)。
 
「いや、これはもう俺たちもドキドキして(笑)。いや、本当に感謝ですよ」
 
――参加・支援してくれた人たちは、多分今までもCDを買ってくれてたりライブに来てくれてた人が多いと思うけど、一気に輪郭がハッキリしてくるというか。本当にフォロワーがいてくれたんだなって改めて感じるよね。
 
「何かもう目に見えてくる。そもそも自分が好きな映画とか、誰かが新しいアイデアで何かモノを作りたいみたいなときに、自分もクラウドファンディングでちょこっと参加してたんですよ。アメリカの友達がクラウドファンディングでレコードを作ったときも、参加してる感がちょっと嬉しい自分がいて。そういう経験も大きかったなぁと思います。その手応えというか実体験があったから、自分たちがどうすべきかが見えたのもあるし…要はお客さんの目線が分かってたんですよね。クラウドファンディングに参加する快楽というか心地よさが。だから、“もっとどうなったら俺は嬉しいだろう?”って考えてたところもあったし」
 
――やっぱり、三船くんは実体験至上主義者だね(笑)。
 
(一同笑)
 
――実体験至上主義である一方、形のない音楽というファンタジーに夢を託すその両極が、三船くんという音楽家を作っているのを活動方法にも改めて感じます。
 
「そうですね。形のないものを信じたいとも思ってるし…たまに裏切られたりするんですけど(笑)。何かでも…実体験至上主義は本当にそうだわ俺(笑)。そう思う」
 
 
やりたいことをどんどんやっていかないと、あっという間に死ぬなと思った
 
 
――イギリスに行ったとき、MVの撮影当日にマンチェスターのアリアナ・グランデのライブ会場でテロが起きたりもしてたけど、そういうことも含めてなかなかない貴重な経験になったよね。
 


「日本じゃそんな物騒なこともあんまりないじゃないですか。でも去年、一昨年とかトランプがアメリカの大統領になりたての頃とか、ヨーロッパでも移民の問題とかでわちゃわちゃしてて、日本でも憲法改正でYES/NOみたいなこともあったり、お前はそっち? こっち? みたいに、いきなり白黒ハッキリさせられる状況になってきて」
 
――今すぐ右か左か決めなきゃいけないみたいなね。
 
「そうそう。いやいや、グレーゾーンもいっぱいあるでしょみたいな世の中で、準備もできてないうちに突然答えを求められることがすごく多かったなと思って。何だかんだアルバムを早く作りたいとは言いながら、アメリカやカナダ、アジアにも行った経験はあるけど、ヨーロッパにはまだロットとして行ってないっていうのが…言ったらイギリスはロックが誕生した地でもあるし、そこを見ずして次のアルバムを作るのは…まぁそれもまた“実体験”して(笑)」
 
――そう思った(笑)。そこを片付けないと次に行けないんだなって。
 
「それを1回通った自分と通ってない自分は絶対に違うし、20代のうちにそういったものを全部見ておこうという気持ちもあって、ロシアにもイギリスにも行ったところもあるんで。全部を通った後の目で、ちゃんと音楽を作って世に出したいなっていうのはありました。その肌感覚って日本に住んでるとやっぱり分からないし、単純にそれを“知りたい! 行きたい!”っていういつものやつなんですけど(笑)」
 
――三船くんがやってることって、ただ音楽を作ってる感じじゃないもんね。その時代の空気をちゃんと感じた自分が、何をクリエイトするのかを自分に問う行為。海外でライブやレコーディングするのが目的でもあるけど、それだけじゃなくて自分を変えに行くというか。
 
「たまにメンバーと、“人間は新しいことを習得することでしか喜びを得られない、幸せを感じることができない”っていう話になったりするんですけど、やっぱり自分を“拡張したい”というか。子供の頃は、うまく歩けるようになったとか、蝶々結びができたとか、新しい漢字が書けたとか、あるじゃないですか?(笑) 10代になると、今までに着たことがない洋服を着られたとか、さらに新しい体験が増えてくるけど、大人になってそのブースターのエンジンが切れたら、後は慣性である程度は進むけど割とフラットになってくる。新しいことを覚えられたあの快感みたいな感覚を、自分がいくつになるまで、いかに取り入れられるだろうかということには、いつも意識的でいるというか、挑戦してますね。自分の手が届く範囲のものだけで、“これでもう安心、新しい友達もいらないです”みたいな生き方は、何か違うなと思ってて。何で自分がそうなったのかもよく分からないですけど(笑)」
 
――この3年間に三船くんが受けた他のインタビューを全部読んだけど、三船くんもやっぱり人並みに30代になる憂いとか迷いが訪れたんだろうなって、個人的には思ったけど。
 
「いわゆる30歳になりたての“アイデンティティ・クライシス”には、なりました。何だか自分がよく分からなくて。若くも見られないし、年寄りでもないし、そこにすごいフラストレーションがあって。でも、成長し切れてないムカつく具合は10代の頃にもあったなと思うと、あんまり変わってないなとも(笑)、最近はそこも人並みに抜けた気がするんですけど、これが世に言う30代か…と思いましたよ」
 
――三船くんともあろう人でも、やっぱり惑ったんだなと思った(笑)。でも、それで然るべきだと思うし、そこを抜けたからアルバムできたというか。思考もシンプルになっていくし、30代はこれから絶対に面白くなっていくから。
 
「そうなんですよ。何かもう本当にだんだん物事がシンプルになっていって。だんだん自分がやるべきことしかやらなくなるというか、削ぎ落とされていくというか。何だか面白いなと。言い方を変えると、世界の歩幅と自分の歩幅が、リズムがズレちゃって、“あれ〜?”とか思ったんですけど、“あ、こうか”ってまた戻ってきたのか、新しい乗り方を掴んだのかは分からないですけど。だから今、すごい楽しいんですよ」
 
――イギリスに行ったことは音楽的にもちろん血肉になったと思うけど、それよりももっと発想とか捉え方とか、人生的なところも大きい気がしますね。
 
「自分の予想を超えられない自分にすごいジレンマがあったし、そこでどうやって自分を変えていくのかいろいろ試したんですよ。炭水化物を一切摂らなくするとか(笑)、ひたすら走るとか、ドイツ語を勉強し始めるとか、面白そうなことは全部やったんで。自分がだんだん歳を重ねるのもあるし、ロットのプロジェクトがもう2~3年単位で物事を進めるようになってきてるから、今までだったら“あ、また冬が来た”でただ楽しかったはずなのに、これはやりたいことをどんどんやっていかないと、あっという間に死ぬなと思ったんですよね。もう終わりが確実に見えるし、この先“ああしとけばよかった”って思うことが絶対に増えていくから、できるだけたくさん本も読みたいし、人の笑顔も見たいし、会ったことがない人に会ってみたいし、行きたい国にも行きたいし、作りたい曲もいっぱいあるし、やりたいジャンルもまだまだある。それこそ映画『死ぬまでにしたい10のこと』(‘03)じゃないけど、自分が死ぬまでにやりたいことリストをバーッ!って書き出して、“時間が全然足りねぇ!”みたいな(笑)」
 
 
メロディと、自分の歌いたいことと
タフネスがその曲にあれば、何をしようが響く
 
 
――そんな中でもずっと曲は書きながら、『HEX』(M-4)ができたから全てがつながった。アルバムに関して言うと、本当に突破口になった曲だよね。
 


「そうですね。ロンドンから帰った直後ぐらいにできたんですけど、(サポートkeyの)西池(達也)さんのピアノのサンプリングをチョップしまくって、自分でもちょっとピアノを足したり、ボーカルもナチュラルに録った音をデジタル処理でわざとぐしゃぐしゃに劣化させて、それをまたカットアップして…写真のコラージュみたいに作っていくというか、人間が鳴らす音と機械のそれとの境界線を曖昧にしていく楽曲作りを始めたんですよ。言わば、今までは鉛筆とか筆で絵を描いてきたけど、それだと自分のタッチでどういう絵ができるのかも分かっちゃうから、あえてエラーを起こすようにしたというか。“これは見たことがない色が出てきた!”みたいなね(笑)。いろいろと新しいソフトウェアを試して自分に合うものを見付けたら、ただプログラミングでバグらせるだけなのにまるで楽器のように扱えることが分かって、これは超面白いぞと。1つの新しい領域を見付けたというか、“これだ!”って思ったんですよね」
 
――なるほどね。その閃きというか発見が、このアルバムに導いたと。
 
「ただ、何だかんだ言ってもそれは手段でしかなくて、目的はいい曲を作ることで。僕はやっぱり歌がある曲が好きだから、メロディと、自分の歌いたいことと、タフネスがその曲にあれば、バグらせようが何をしようが響くことに気付けて。だから、このアルバムではいろいろやってるけど、結局そういう曲が10曲入ってるだけという」
 
――昨年1月のフリート・フォクシーズの来日時に、三船くんがロビン・ペックノールド(vo&g)と“サウンドのテクスチャーどうこうじゃなくて、ソングなんだ”っていう話になったのが、ここでつながってくるのかと。
 
「『HEX』に参加してくれた岡田拓郎(g・ex.森は生きている)くんとかとも、だいぶ前からその話をしていて。プロダクションありきの音楽より、いかにいい曲を書けるか。“自分の人生を何かいいことに使えるのはそこしかないかもしれない”みたいな話を、僕らは照れ屋だから冗談半分で言ってたりしたんですよ(笑)。その後にロビンと話したときもそんな会話になったから、感じてることはもしかしたらみんな一緒なのかもしれないと思って」
 
――様々な技術が発達したり、コミュニケーションの手段も増えて、いろんなものが可視化されていく中で、結局曲だよねっていう、形のないものに戻るという。今ではロットのプロダクトやライブも含めて関わってくれてる、同世代の盟友である岡田くんの存在が刺激になったり、自分の中で何か変わったりはした?
 
「すごく変わったと思うし、同年代であれだけ古い音楽に精通していて、言ったら自分と同じような方法論で音楽を作っている人って…あそこまで物事をちゃんと観察して、それを自分の音楽に落とし込めて作曲できる人って結構いないと思ってて。例えば、“こういう素材の洋服が映画の衣装に出てきたから、それを再現したいんです”って言うと、ありもので何とか済ませようとする人って割といるんですよ。そこでまるで違うマテリアルを用意されちゃうと、“それって偽物じゃない?”って思っちゃうところを、あいつはちゃんと観察してて、予算がなくても立ち向かって行くし(笑)、どうやってそれに近付けるかを工夫する。それは音楽をたくさん聴けばいいわけじゃなくて、それを感じ取るセンスだと思うんですよ。それってやっぱりすぐにはできなくて、すごく向き合わなきゃいけないし、研究しなきゃいけない。これだけYouTubeとかが発達してタダで見られるようになっても、そこまで観察してる人ってなかなかいないのが現状で。でも、センスは磨けるんで、みんなやろうと思えば全然できるはずなんだけど、彼ほどの人にはなかなかお目にかかれないというか」
 
――まずセンスがあることも1つだけど、それを磨けるかどうかは確かに。
 
「最初に出会ったときは彼もバンドをやっててお互い忙しかったし、意識はしてるけど当時はいわゆる“東京インディ”とかひと括りにされるのもすごいイヤだったんで、“馴れ合いたくないね”って言い合ってたというか(笑)」
 
――今ではそういう括りからも脱して、いちミュージシャン同士として。
 
「そうですね。あと、僕は岡田くんが20代のうちにアメリカに連れて行きたいなと思ってるんですよね。これは勝手な世話焼きなんですけど、ナッシュビルに連れて行ってトラウマを植え付けたいのはあります(笑)」
 
――行ってほしいよね、実体験至上主義者としては(笑)。
 
 
ちゃんと日本で鳴らすオリジナルな音楽になるように
 
 
――あと、『JUMP』(M-1)とか『Homecoming』(M-2)とか、こういうバンド感がある楽曲が『HEX』と並んで入ってきたのも面白いなと。
 

 


「それも『HEX』という曲ができたから、いろんな曲の多様性を許せるようになったというか。さっきのソングの話じゃないけど、このアルバムにはもう中心が、タフネスがあるから、振り幅があっても揺るがない確信があったんで。今までだったら、“ロットっぽくないからボツ”みたいな曲もいっぱいあったんですけど、今回は自分が元々聴いていたピクシーズとかニュートラル・ミルク・ホテルとか、アコースティックギターを武器のように掻き鳴らすカッコいいロックバンドに憧れてた10代の自分を思い出してたら、全然いけるじゃんと思って」
 
――京都でやった全曲試聴&トークライブでも“『Innocence』(M-3)のビート感はまっちゃん=(中原・ds)が得意だから作った”みたいな発言があったり、こういうバンドっぽい話にロットがなるのも珍しいなって。
 
「コンピューターで人間っぽさを消す作業をやったけど、結局、音を鳴らすのは人間だし、僕は喉を震わせてるだけだし、そもそも音楽は振動だし、みたいな。このアルバムではそこに自分が行き着いたというか、バンドで鳴らすよさみたいなフィジカルとデジタルが両方混ざってるなってすごい感じますね。バンドをやり始めたときは、ニュー・オーダーとかジョイ・ディヴィジョンとかはドラムが比較的簡単だったんで、ライブもせずにひたすらそういう曲を練習して、楽しいなぁとか言いながら3年ぐらい経ってたんで(笑)。そこが元々ルーツにあったはずなのに、ロットをやる上ではいわゆるギター、ベース、ドラム、みたいなことはやりたくなかったから、自分たちでオリジナルのドラムのパターンとかを考えることに専念し過ぎてて。プリセットがあるようなものをなるべく避けてたんですけど、そこもちゃんと自分たちで昇華できるようになったんですよね」
 
――アルバムの構成においては、エレクトロな要素を大胆に導入した『JM』(M-8)から、ソウルなアプローチで聴かせる『SPEAK SILENCE』(M-9)の流れはやはり新鮮だったけど、『SPEAK SILENCE』に関して言えば、ブラックミュージックをリスペクトするがあまり、今までは安易に近付けなかった作風だったとも。
 
「最初のコーラスから割と教会っぽい感じはイメージしてたんですけど、それを日本語で歌う僕たちが、“これはブラックミュージックです”みたいな顔をして盗むんじゃなくて、ちゃんと日本で鳴らすオリジナルな音楽になるようにすごく意識して作りましたね。そもそも日本人とはリズムの取り方も全然違うし、向こうでどっぷり学ばないとできないジャンルぐらいに思ってるんで。まだまだ自分たちのものにはならなくて、1から近付けないのは分かり切ってるんですけど…だからこそリスペクトしてるし、それに対抗する日本人独特の“何か”を作らなきゃなって。J-POPじゃない方向でね。それをどう生み出すのかを自分たちなりにずっと考えてきたから、ある種、今までロットがやってきたことは、ブラックミュージックというジャンルを超越するためでもあったし」
 
――思った以上に、三船くんの中には絶対領域がいっぱいあったんだね。
 
「ルールというかリスペクトというか、好き過ぎてそうなっちゃうという(笑)。もちろん聴いて楽しむのは大好きだけど、どんな想いで彼らがそういう音楽を作ってきたのかとか、いろんなものを犠牲にしてチャートをちゃんと駆け上がって、自分たちの居場所を音楽で作っていった人たちだから、その覚悟にはそれ以上の倍返しをしないと勝てないですよ。彼らに負けないような音楽をやることは、僕にとって非常に切実な問題だったんですけど、じゃあ悩んでる僕に付き合ってくださいっていうアルバムには絶対にしたくなかったんで(笑)。自分がやりたいことを追求するのは快楽であると同時にすごいタフなことだけど、風通しがよくて軽やかに流れる、あっという間に終わる10曲にしたかったから、それが築けただけでもだいぶよかったなと。バンドであるがゆえに周りには常に人がいるから、逆に自分と向き合う時間も増えたと思うし、そういうところを抜け出してようやくアルバムがお店に並んでるの見たときは、3年かけてきたこれを、みんながどう聴いてくれるだろうかとか、いろいろ考えましたけど(笑)」
 
 
自分たちのシグネチャー・サウンドを、どの国に行っても作れると思った
 
 
――あと、今回は『HEX』と『SPEAK SILENCE』のミックスを、チャンス・ザ・ラッパーらを手掛けるシカゴのエンジニア、L10MixedItが行ったのもトピックで。
 
「特に『SPEAK SILENCE』なんかはL10MixedItに合うなと思ったし、彼だったら絶対にこの曲の枝葉をもっと伸ばして成長させてくれると思ったんですよね。ここ近年、シカゴの音楽シーンが自分の中ですごく響いて。それはとても自由な発想で、世界的にもチャンス・ザ・ラッパーを筆頭に盛り上がっていったんだけど、僕はチャンスの音楽をヒップホップだとはあんまり思ってなくて。さっきの話に戻るけど、いい“ソング”だと思ってるんですよ。今のアメリカは大変だけど、悩んでないでちゃんと音楽を表現できてる人たちがいる。言わば、日系アメリカ人のSEN MORIMOTOくんとか、L10MixedItもチャイニーズ・アメリカンでそうですけど、ジャンルとか人種を超越してシカゴにコミュニティを作って、非常に軽やかに今のシーンに一石を投じてる。120曲作ってもピンとこない自分がいたとき、シカゴで起こってることが、自分のフィールにとても近かったというか…その人たちと音楽を作りたいと思ったんですよね。大企業がお金を投資するんじゃなくて、音楽ができたそのときにネットにアップしちゃって、それがいいねってどんどん広がっていくような、今一番何かが動いてる世界の中心点にシカゴがあると思った。あと、ヨーロッパだとベルリンで何かが起きそうな予感がしてるんですけどね。だから今一番行ってみたいのがシカゴとベルリンなんですよ。実体験至上主義ですよまた(笑)」
 
――とは言え今回のアルバムは、しれっと国内レコーディングで(笑)。それもちょっと意外でしたね。今まではフィラデルフィア、モントリオール、ロンドンと海外でやってきたのに。
 
「アメリカ、カナダ、イギリス…いろんなところを回ってきたけど、そこで培ったものをちゃんと日本に持ち帰ってもできるようになったというか、もうどこにいても、僕らは大丈夫だって。『HEX』を作るにあたって、自分たちのシグネチャー・サウンドをどの国に行っても作れるなと思った。ある種、留学期間が終わったというか(笑)、国に依存されない、負けない体力が付いたんですよね」
 
――改めて今回の音源を聴いて、ロットにしか鳴らせないものの存在を改めて感じますね。
 
「いろんな流行り廃りとか傾向がある中で、自分たちがそこに寄せたり、それをバカにするんじゃなくて…これからこのアルバムに出会ってくれる“誰か”を喜ばせたい。だったら、自分たちの心にどう素直に向き合って音楽を作るのか。今回はそういうところをすごく自然とできたし、今後それをやっていける確信になったというか。いろんな扉を開けちゃったし、3年分溜まったものがドバッと出てきたから、他のインタビューでも“三船さん、生き急いでますね”とか言われたんですけど(笑)」
 
(一同笑)
 
「今はやりたいことが溢れちゃってダダ漏れなんですよ(笑)。蛇口がずっと開けっぱなしになってるみたいに。だから、ぶっちゃけ家で曲をどんどん作りたいんですけど、ツアーもまだまだ回らなきゃいけないしね(笑)。次はもう3年も待たずにすぐにでも出したい。ずーっと音楽の渦の中に埋もれていたい。それが今でも一番楽しいんですよね」
 
――最後に。この3年間は、三船くんにとってどんな時間でした?
 
「いや~タフでした! けど、楽しいことも多かったな。ただ、超言えないけど、イギリスは相当大変でした(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) 残すツアーで、『HEX』が現場でどう変化を起こしていくのか、楽しみにしてます!!
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
 




(2019年1月10日更新)


Check

Movie

新譜にライブに大阪への特別な想い
三船雅也(vo&g)からの動画コメント

Release

SNSや各メディアでも称賛の声
3年ぶりの3rdフルアルバムが完成!

Album
『HEX』
発売中 2500円(税別)
felicity
PECF-1163

<収録曲>
01. JUMP
02. Homecoming
03. Innocence
04. HEX
05. Hollow
06. Venom~天国と地獄〜
07. GREAT ESCAPE
08. JM
09. SPEAK SILENCE
10. HAL

Profile

ロット・バルト・バロン…写真左より、中原鉄也(ds)、三船雅也(vo&g)。東京を拠点に活動する2人組フォークロックバンド。『ROTH BART BARON』(‘10)、『化け物山と合唱団』(‘12)という2作のEPを経て、’14 年にはアメリカ・フィラデルフィアにて制作した1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を、’15年にはカナダ・モントリオールで現地ミュージシャンとセッションを重ねレコーディングした2ndアルバム『ATOM』をリリース。ライブではホーン隊やビザールインストゥルメント等様々な楽器を演奏するマルチプレイヤーが演奏をサポート。活動は日本国内のみならず アメリカ、アジアにも及ぶ一方、国の重要文化財である山形・文翔館での公演も成功させるなど、独創的な活動内容とフォークロックをルーツに世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。また、『SUMMER SONIC』『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも出演し、’17年には『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』のボヘミアンステージにて、地元ミュージシャンと共に11人編成で圧巻のパフォーマンスを披露し最終日のトリを飾る。同年、イギリス・ロンドンの現地プロダクションからのオファーをきっかけに制作したEP盤『dying for』をリリース。そして、’18年11月7日には、3年ぶりとなる待望の3rdアルバム『HEX』を発表し、多くの音楽メディアにて年間ランキングにランクイン。また、バンドとリスナーがつながる新しい場所を作る“P A L A C E (β)”プロジェクトを立ち上げるなど、精力的に活動している。

ROTH BART BARON オフィシャルサイト
http://rothbartbaron.com/

Live

2月まで続くツアーでついに大阪へ!
弦楽四重奏やアジカンとの共演も

 
『ROTH BART BARON
 HEX TOUR 2018-2019』

【宮城公演】
▼11月10日(土)仙台 メディアテーク
1階オープンスクエア
【京都公演】
▼12月8日(土)UrBANGUILD
[共演]キツネの嫁入り
[オープニングアクト]マチュピッチュ
【東京公演】
Thank you, Sold Out!!
▼12月9日(日)Shibuya WWW
【石川公演】
▼12月22日(土)puddle/social
[共演]noid
【富山公演】
▼12月23日(日)高岡 若鶴酒造“大正蔵”
[共演]Robin's Egg Blue


【熊本公演】
▼1月12日(土)蔦屋書店 熊本三年坂
【福岡公演】
Thank you, Sold Out!!
▼1月13(日)福岡・UTERO
[オープニングアクト]hoppe
【山口公演】
▼1月14日(月・祝)岩国 ロックカントリー
[共演]原田侑子
[オーニングアクト]なみやん@LOVEGUITAR
【愛知公演】
▼1月18日(金)JAMMIN'
 

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード129-864
▼1月19日(土)18:00
アメリカ村 CLAPPER
スタンディング3500円
[オープニングアクト]mona
SMASH WEST■06(6535)5569
※小学生以下は保護者同伴に限り2名まで無料。

チケット情報はこちら


【広島公演】
▼1月20日(日)福山 Cable
[共演]空中ループ/Oz
【北海道公演】
▼2月2日(土)SOUND CRUE
[共演]chikyunokiki/BENBE
▼2月3日(日)札幌・Curtain Call
[共演]chikyunokiki/BENBE
【静岡公演】
▼2月10日(日)舘山寺
[共演]五味岳久


【東京公演】
『Strings』
チケット発売中 Pコード137-865
▼2月13日(水)19:30
Shibuya WWW
全自由4000円 学生3000円(要学生証)
[出演]ROTH BART BARON/成山剛/tuLaLa/須原杏(vl)/銘苅麻野(vl)/梶谷裕子(va)/林田順平(vc)/エミリオ(perc)/Shizuka Kanata(key)/西池達也(key)
info@rothbartbaron.com

チケット情報はこちら


【山形公演】
『肘折国際音楽祭 2019』
▼3月2日(土)肘折温泉 折いでゆ館
ゆきんこホール
[出演]青葉市子/KUDANZ/Siv Jakobsen/友部正人/ROTH BART BARON/他
 

Pick Up!!

【大阪公演】

『ASIAN KUNG-FU GENERATION
 Tour 2019「ホームタウン」』
一般発売2月9日(土)
Pコード未定
▼3月29日(金)18:45
なんばHatch
1Fスタンディング5500円
2階指定6000円
[オープニングアクト]ROTH BART BARON
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※3歳以上はチケット必要。小学生・中学生・高校生は当日会場にて1500円返金。中学生・高校生は要学生証、小学生は要身分証明書。

【東京公演】
『ASIAN KUNG-FU GENERATION
 Tour 2019「ホームタウン」』
▼4月9日(火)Zepp Tokyo
[オープニングアクト]ROTH BART BARON


Column1

「こういうバンドが日本に1組
 いてもいいじゃないかって」
音楽への執念も表現者のプライドも
インディペンデントなスピリットも
時代の空気と共に刻んだ
異端の新作『ATOM』を語る('16)

Column2

雪解けは、近い――
ROTH BART BARON全国侵攻中!
話題の2人組がシーンに提示する
美しきレベル・ミュージック
『ロットバルトバロンの氷河期』と
バンドのストーリーを紐解く
初登場ロングインタビュー('14)

Comment!!

サポートkey西池達也さんの
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「ROTH BART BARONに出会ってから早7年が過ぎようとしていますが、バンドとしてようやく1つの形が見えてきたように感じている3rd アルバム『HEX』のタームです。三船雅也が考えている“音楽”、 “ライブ”、“表現”みたいなものが輪郭を帯びて具体的にアウトプットできるようになってきたように思うここ最近。具体的には、バンドの音楽はロックミュージックの歴史の上で成り立っていて、クリエイターとして世界中の創り手や聴衆に誠意を持って作品作りに当たれている確信が得られるようになってきたこと。ライブが躍動感、感動、祝祭感、斬新さ、また集う民衆の歓喜みたいな感情の集合体であることをリアルで共有する大切な時間としたい、ということを実践できるようになってきたことが挙げられます。話は変わりますが、昨年末、実家に帰って70歳を越えた義理のお父さんが紅白歌合戦を見ながら、次々に出演するアーティストを見て“分かんねえんだよな〜”とボヤいていました。また昨年の12月9日、東京・渋谷で行われたロットの単独ライブにママと一緒に見にきてくれた少年たちがいました。ロットの音楽が夏祭りの花火大会のような、家族や友達と過ごすクリスマスパーティーのような、そんな世代や民族を越えて無条件で楽しめる音楽コンテンツにならないものか、と試行錯誤しながら日々彼らと共に生きています」