「新しいアルバム出ますから買ってね~ というテンションではなくて、 今回は“買ってくれ!”と(笑)」 集大成的な新作をリリースした ラッパー、BASIインタビュー!
ヒップホップ・バンド、韻シストのフロントマンとしての活動と並行し、2011年から自身のレーベルを立ち上げ、ソロMCとして年1枚のペースでこれまでに4枚のアルバムを発表してきたBASI。そこから約2年半という、彼としては長めの制作期間を経てじっくり完成させた、通算5枚目となるアルバム『LOVEBUM』が4月5日(水)リリース。練り込まれたストーリー性の高いリリックと心地よいトラックを極めて、本人が「BASI第一期集大成」と言い切る傑作に仕上がっている。時間をかけて1曲1曲の完成度を高め、キャリア19年目のスキルと深みが細部にまで行き届いた珠玉のメロウ・ヒップホップ全15曲で紡がれた“捨て曲ナシ”の新作について、BASIに語ってもらった。
今回は作っていく過程がまったく違った
――これまでほぼ1年ごとに4枚のソロ・アルバムを出してきて、今回の作品は約2年半ほどじっくりと時間をかけてのリリースとなったわけですけど。
「そうですね。1年に1枚出すというのが自分の中で自分に課しているミッションとしてあったんですけど、そこへの楽しみがまずひとつなくなったというか。これ以上1年に1枚ペースで行ったところで、聴いている人は純粋に音楽を聴きたいというだけで、そういうペース配分やストイックな姿勢はもともと求められていたものではないし自分もそうやから、もうちょっと1曲1曲を大事に作っていこうかなと。自分で縛りや締め切りを設けることなく、目の前の1曲をもっとイイものにということで進めていくうちに、トータルで2年近くかかったなというのがありますね。1曲1曲に対するこだわりの水準が高まったと思います」
――その通りで、今回のアルバムは全曲がシングル・カットされてもおかしくない水準と独立した求心力を持っているいうか。もちろん今までも捨て曲というのはなかったんだろうけど、1曲1曲の立ち方や作り込まれ方が違うなと。
「例えば、“この曲に映像を付けるならどんなんになるんかな?”とか、“この1曲だけで推していった時にリスナーはどんなリアクションをするかな?”というのを、実は全ての曲ごとに考えていたんですよ。1曲1曲をホンマに大事に作っていたので。なので、アルバムを通して聴いてもらった時には、1曲1曲のリリックに対するこだわりとか費やした時間までも感じ取ってもらえる作品が出来たかなという気持ちはありますね。捨て曲ナシというのは毎回そうなんですけど、今回は作っていく過程がまったく違ったというか。今までは単純に遅い曲があったら速い曲も作ろうかとか、暗い曲があれば明るい曲も作ろうかとか(アルバム全体の)バランスを見て作ってましたけど、今回は周りは関係なくこの曲が何を求めているかということだけを考えて、それが完結したら次の曲、という感じだったので。曲順を考えるのに時間がかかりましたけど」
――それでいて、トータルな統一感に欠けるという感じではなく、一貫したムードやテイストでちゃんと最後まで持っていく安定感すらありますね。
「今もなおですけど、きっとこれからもこんなモードなんやろうなと思ってますね。また速度を上げて作るというよりは、この『LOVEBUM』の制作フォームが自分の中で定着したし、こうすればイイものが出来るというか自分の好む1枚が作れるとわかったので、今後もきっとこういうタイム感だとは思うんですけど」
――1曲1曲の楽曲に求める水準がこれまでよりも一段上がった?
「楽曲に求める水準と、自分自身のジャッジ・ポイントを上げているというか。今までならコレでOKやったけど、もう1コ新しい要素はないかとか、足すものや引くものはないかということを丁重に考えるようになりましたね」
――合格点は充分に超えてるけど、まだもう一歩高いところへ行けるみたいな。
「そうですね。で、“(完成まで)あと一週間イケます?”みたいな感じで、ちょっと寝かした上でまた聴き込んで、その一週間後に自分が何を思うかを待ちたいとか。そういうこだわり方かもしれないですね。やることは早いんですけど、聴き込むとか、ちょっと一旦聴き続けてみますねという時間を取ることが全曲を通して多かったと思います」
――ちょうど1年くらい前の段階で、収録されている「Fallin’」や「たゆたう」はすでに配信で発表されていたので、新しいアルバムも間もなくかなと思っていたんですけど。
「今までのペースならそうでしたよね。ビデオを公開したら、そこに合わせてアルバムを出すというのがありましたけど、今回は「Fallin’」を出してから随分と経ちましたね。でも、長かったですけど「Fallin’」から(アルバムからの先行曲としてPV公開された)「みたせど」くらいまではしっかりと集中力を切らすことなくやり切れたなと」
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日常的なものであり、かつ音楽として楽しめるもの
――全体を通した曲のモードやテーマみたいなものはあったんですか?
「一貫してあったのは“あたたかいもの”ですね。そこは自分の中のテーマとしてあったし、レコーディング・ワークスの中でもエンジニアや周りのスタッフに言葉を選んで伝えていたと思います」
――生音や声ネタを多用したトラックにもリリックにも、人間味みたいなものがこれまで以上に強く出ている気はしましたね。オーガニック風とか、表層的なものではなく。
「日常的なものであり、かつ音楽として楽しめるもので…。とにかく、いろんな要素を全部出し切った感じがします。ラップのスキルもみせたかったし。でも、例えばご飯を食べながら聴いていて、言葉の語調の強さに思わず箸が止まるような、人がマイナスに思ったり誰かを蹴落とすようなワードとかディスとかは一切排除しています。こう言うと表現がダサいんですけど、子供からオトナまで楽しめるものというか。でも、自分たちのライブに足を運んでくれているお客さんというのが、ここ最近ではお婆さん、娘、孫で来ましたみたいなことも増えてきていて。子供と一緒に写真を撮ったり、ホントに幼い小~中学生にサインしたりすることも多くなってきているので、この子たちにも伝わる言葉で、なおかつ昔から20年も追い続けてくれているリスナーまで考えると、やっぱり“あたたかいもの”とか、“日常的なもの”となっていきましたね」
――最新のトレンドを取り入れるといった作り方ではなく、もっと普遍的な楽曲としての良さを追求して作られたアルバムという感じは強くしました 。
「確かに、いろんなシーンやいろんなブームというのは世の中にあると思うんですけど、結局のところ自分は“じゃあ、10年後もコレをやってるんか?”と訊かれたらコレをやっていたいですし、となると流行を追うよりも“10年後もやっている曲ってどんなんかな?”と考える時間の方が多くなりましたね」
――日常的なことをストーリー性の高いリリックで、なおかつメロウだけどあくまでもそれをラップ/ヒップホップの手法で表現するというのは、BASIのソロ作として最初から揺るぎなくあったテーマだと思うけど(※過去のインタビュー記事を参照)、今回の『LOVEBUM』はそのひとつの頂点を示したような印象がありますね。韻シストから始まって19年のキャリアを重ねてきて、辿り着いた到達点というか。
「ただ、それは、今だから出来たというのはありますね。あと少し先でも前でもまた違ったと思うし、今出して、今聴いておいてもらいたい1枚というか。最近のライブのMCでもよく言ってるんですけど、“新しいアルバム出ますから買ってね~”というテンションではなくて、今回は、“買ってくれ!!”と(笑)。というか、“聴いといてな”って。オレはこれからまた次に変化していくから、今コレを聴いといてやって気分でもあるんですよ。20年というのは、自分の中である種の折り返し地点だと思っていて、次の20年はどうやって過ごすんやというフェイズに入ったと今は自覚していて。ここまでずっと進化をしてきて、この先は変化も楽しんでいくという想いもあるので、その前にはコレを絶対に通っておいて欲しいんですよね」
――なるほど。それくらいに集大成的な1枚になった?
「うん。今出せるものを全部出すという意識でやってましたね。次があるしなぁという余裕ではなくて、全部出し切るにはというところに重きを置いていたので」
――これまでのソロ作の延長線上でより深まったアルバムなんだけど、どこか作品としての重みすら感じたというか。作り込み具合がちょっと違うなと思いました。
「次の作品がどうなるかはわからないですけど、この1枚に関しては重みがあると言えますね。もしこの先々で出会った人たちが“いやー、7枚目イイですね”“ボクは8枚目がねー”と言おうものなら、いやコレを一回聴いてくれと。そこからの変化も楽しんでくれてる?と言いたくなるような作品ですね。ホントにBASIの一回目の集大成がやってきたというか、そこにこの1枚を置いておくという気分です」
――そんな決定的なアルバムを完成させての発売記念ライブは、6月3日(土)に東心斎橋のCONPASSで予定されていますが、どんな感じのセットになりそうですか?
「まだ今年から始めたばかりのBASI&THE BASIC BANDでのバンド・スタイルと、今回の『LOVEBUM』でも2曲トラック提供と1曲スクラッチで参加してくれているISSEIのターンテーブルとのセットの2つを軸に、1本のショウを作れたらと思っています」
――韻シストとはまた違った流れで、ソロでもBASI&THE BASIC BANDを始動させたのは、さっき話していた次のフェイズにすでに向かっていることを予感させますね。
「もともとはバンドをやるというのが目的ではなかったんですけど、BASIというひとつの商品をさらに研ぎ澄ませるために何があるかな?と考えた時に、ソロでは今までになかったパターンのバンドがいいんじゃないかということで始めたんです。みんなで音を出したり、みんなで曲順を考えたりして1本のライブに挑むまでの道のりやテンションは、やっぱり楽しいし、好きなんですよね。でも、一方でターンテーブルというヒップホップのフォーマットもなくすわけではなく、ISSEIと何ができるかをこれからも考えながらやっていくでしょうし。ISSEIはビートボクサーでもあるところが強みなので、普通のDJやターンテ―ブリストでは出来ない武器を使う時間も作りながら、やっていければと」
(2017年4月 5日更新)
Check
Release
キャリア19年目の集大成 渾身の5thアルバム
Album 『LOVEBUM』 発売中 2400円(税別) BASIC MUSIC <収録曲> 1. relax 2.Cool like that 3.たゆたう (Album mix) 4.The Love 5.WINTER ft.AFRA 6.SING ALONG AGAIN ft.ISSEI 7.Fallin’(Album mix) 8. BLUE 9. スイッチ 10. GOD 11. B-BOY LOGIC 12. 花束 13. みたせど 14. NICE 15. fin
Profile
ばし…1998年にヒップホップ・バンドの韻シストを結成し、そのフロントマンとして活躍を続けながら、2011年に自身のレーベルである「BASIC MUSIC」を設立。本格的にソロ活動をスタートさせ、これまでに『RAP AMAZING』(11年)『VOICERATION』(12年)『RAP U』(13年)『MELLOW』(14年)と4枚のアルバムを発表。今年に入ってからはBASI&THE BASIC BANDとしての活動もスタートさせ、4月5日には通算5枚目となるソロ作『LOVEBUM』をリリースした。先行して配信リリースされていた最新作にも収録された「Fallin’」は、i-Tunesの邦楽ヒップホップ・チャートで1位を獲得した。BASI オフィシャルサイト http://basic-music.org/
Live
豪華ゲストを迎えた 新作リリースライブ!
「LOVEBUM Release Party」 ▼6月3日(土)18:00 心斎橋CONPASS 前売3000円 当日3500円 (ドリンク代別) 出演: BASI -cast- ISSEI THE BASIC BAND AFRA WATT a.k.a. ヨッテルブッテル ISSEI SEX山口 HALFBY 東里起 (Small Circle of Friends/STUDIO75) 5-ISLAND peko HASKEY 問い合わせ CONPASS■06-6243-1666
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