リラックスしたムードで
“メロウ”な空気感を追求した
ラッパーBASI、新作インタビュー
ヒップホップ・バンド「韻シスト」としての活動と並行して、2011年に自らの主宰するレーベル“BASIC MUSIC”を立ち上げ、ほぼ1年に1枚のペースでソロ作を送り出してきたラッパーのBASI。ソロ4作目となる最新作『MELLOW』では、前々作『VOICERATION』と同様にトラック・メイカーには全曲でSmall Circle Of Friendsの東里起を迎え、タイトル通りにメロウでリラクシンな心地よい音世界を追求。“3部作”と呼べる多様性をみせたこれまでの3枚の作品を経て、よりスムースながらも深みを増した新たなモードへと突入したことを伝える新作について、BASIに語ってもらった。
――ほぼ1年1枚ペースでの4枚目のソロ作となりますが、前3作とはまた違ったタッチで来たな、と。
「今回は過去の3枚と切り離して、モードも狙っていくところも新しいものを提示したいという想いが強かったですね。前作の『RAP U』はラップだけで50分強の、アルバムとしてもフルと呼べるものを作りたくて。1枚目からそこまでで3部作とは後付けで言ってたんですけど、今回の『MELLOW』を作り始めた時に、やっぱりあの3枚で全部出し切ってるわ、と改めて思えて。3部作として完結していたんだということが、強い確信に変わりましたね。それで今回のアルバムの制作に向かっていった感じです」
――タイトルは『MELLOW』ですが、“メロウ”というのが作品全体の大きなテーマとしてあったんですか?
「そうですね。『RAP AMAZING』『VOICERATION』『RAP U』の3枚は、それぞれにこういう作品ですと言葉で説得できるラップ・アルバムという感じだったんですけど、今回の『MELLOW』はもっとメロウな空気感とかムードというか。最高のBGMとして、慌ただしい生活の中にちょっとでもメロウな時間や空気が流れる作品になればいいなというのがまずあって。後追いで言葉を追ってもらっても、そこに揺るぎないライムを置いておきたかったので、言葉の方も緩めてはいないですね」
――なるほど。確かに、とてもスムースに心地よく聴き通せるアルバムになっているけど、ラップはラップで言葉選びなどもしっかり研ぎ澄まされていて、メロウといっても単にユルくはなってないのがイイというか。
「音としてはエエけど言葉はイマイチやなとは言わせたくなかったから、そこのラップとしてのクオリティやスキルは絶対に落としていないですね。ラップに関しては、響き(の良さ)を前面に出したというのはありましたね」
――メロウなラップというと歌メロを挟んだり、みたいなイメージがありますけど、そういう安直なやり方とは対照的な“メロウさ”で貫かれているなと思います。
「昔からヒップホップのアルバムでも、大半がハードな曲で言葉もめちゃくちゃ力強くて首振ってなんぼみたいな作品の中に、1曲か2曲だけすごくメロウな曲が入っていたりするじゃないですか? 例えば、M.O.P.(注:ハイテンションなラップで知られるNYの2人組)でも「ANTE UP」のような曲がクラシックとして評価されていますけど、「WORLD FAMOUS」みたいなものすごくメロウなトラックの上にハードなライムを乗せている曲もあって。そういう曲が、自分の中では昔からとても相性が合うんですよ。以前に自分で好きな曲を集めてミックス・テープを作っていた時にも、そういう曲ばかりを選んで1本にまとめていたことを『RAP U』を作り終えた後に思い出したりして、好きなものを再確認したというか。で、メロウというのは自分の代名詞でもあるし、この世界観ならきっと自分らしさも出るわと思って、今回は“メロウ”という言葉を、ひとつのジャンルのようにタイトルに持ってきたんですよ」
――BASIくんが最もベーシックに好きな世界観=“メロウ”だったというか。それは、全曲のトラックを手掛けている東さんにも伝えたんですか?
「東さんには、メロウでいきますということは伝えなかったですね。東さんが好きなように作った、まだデモ未満の状態のトラックを100曲ほど聴かせてもらって。その中から“コレでいきます”と選んだものをまた構築してもらいました。同じ東さんとのコラボでも『VOICERATION』の時はもっと実験的なものを出したいというのがあったので、自分の中ではちょっと奇抜な部分を出したつもりなんですけど。今回は素直にイイもの、単純にエエ音やな~みたいなものを選ばせてもらいましたね」
――で、メロウという言葉も、単純にメロディアスという意味だけではなくて。
「そうですね。辞書にも載っているんですけど、「芳醇な」とか「柔らかい」とか、酒を飲んで音楽を聴くという意味もあって。そこにも忠実に当てにいった感じですね」
――リリックの内容には、全体的なテーマ性みたいなものはあったんですか?
「最初は、ひとりの人物が朝起きて、メシを食いに出かけて、夕方に仲間と会ってクラブに移動して…みたいな、音で聴くショート・フィルムのようなものにしたいとは話していましたね。最初の方に出来た4曲目の「キーマカレー」という曲が映像っぽかったので、コレを軸に他の曲もいろいろと書いていったんですよ。でも、制作していると、そういう縛りがある方が不自由やなって思えてきて。一旦その縛りを外してみたら、その瞬間に自分がすごく“メロウ”になれたんですよ(笑)。そこから自分が思っていることを書くようにしていったら、だんだんと柔らかくなって。メロウをコンセプトに作っていこうと決まってからは、わりとフリーに作っていけましたね」
――でも、結果的に今回の14曲の曲の流れには、すごく1日感があるなぁと感じましたよ。
「ありますね。「キーマカレー」の後半で仲間と合流して、次の「STEELO feat.NAGAN SERVER,CHAKRA,HIKING aka TAKASE」ではその仲間たちとラップして楽しんでいると繋げたつもりですし。曲順は自由に自然に選びましたけど、そういう繋がりは他の曲の繋がりにもあるし、1曲1曲にこの曲はこういう部分がメロウというのは自分の中にありますね」
――これまでの作品も改めて聴き直して思いましたけれど、BASIくんのアルバムはどれもそういった1日感のようなものが共通してありますよね。
「あ~、でも、日常的なことを表現しているということは、1998年に韻シストを始めた時から言われ続けていることで。それはもう自分から出てくるものや表現するもの自体がそういうことで、それがどんどん太くなったり燻し銀になっていったりすればいいなと思っていますね。自分が経験したことや頭に思い描いていることしか表現できないんですよね、たぶん。生活している中で起こったこととか、友達が話していたこととか。変な言い方ですけど、それが題材であり、自分の表現の仕方はそうなんだと思います」
――そこはもう韻シストの初期から一貫していて、揺るぎない部分というか。
「あとは、なんでそこをこだわって一生懸命に歌ってるの?みたいな。例えば、『RAP AMAZING』に収録した、ひたすら耳のことだけをラップした「耳」とか、今回なら箸使いのマナーのことだけをラップした12曲目の「箸使いのNG」とか。なにかひとつのことに特化して表現するというのも、韻シストの頃からずっとありますね。やっぱりユーモアもないとイヤというか、クスッとなってピースな気持ちを抱く部分の良さも僕は信じていますね」
ーーシンプルでリラックスしたタッチの中に、ラッパーBASIの本質が心地よく詰まっている14曲だと思います。
「次のアルバムはまだどうなるかわからないですけど、まだ『MELLOW』のモードが残っている気がするので、コレの延長線上でもっと深いところへ行ってみたいというのが今はありますね」
取材・文 吉本秀純
(2014年6月26日更新)
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