何かが始まるその前に――高揚と恐怖、期待と不安 孤高のOGRE YOU ASSHOLEが捜し求める“違和感”とは? オウガの新たな独壇場『ハンドルを放す前に』を語る 出戸学(vo&g)インタビュー&動画コメント
日本のロック~ポップミュージックシーンにその軸足を置きつつ、オルタナティヴな音像・姿勢でそれらを更新せんとするバンド、OGRE YOU ASSHOLE(オウガ・ユー・アスホール)。現在も長野県諏訪郡原村を拠点とし、空虚かつメロディアスなサイケデリアを滲み響かせている。彼らにとっての1つの到達点となった傑作『ペーパークラフト』(‘14)から2年。1stアルバム以来となるセルフプロデュースで制作された『ハンドルを放す前に』は、歌がより前面に押し出されつつ、実験的な試みも加速させた、彼らの新たな志向を感じさせる意欲作だ。ポップや違和感、奇妙さが同居する今作について、フロントマンの出戸学(vo&g)に話を聞いた。
このアルバムの中では、何も起こっていない
――『homely』(‘11)『100年後』 (‘12)『ペーパークラフト』(‘14)という3部作を経ての今作となります。中でも『ペーパークラフト』は、オウガにとって1つの到達点とも言える作品となっていました。
「今回のアルバムは仕切り直して新しいことをやっているように見えると思うし、実際そういう部分もあるんですが、一方で気分としては、(3部作から)そこまで断ち切った感じもなくて。3部作を作り終えた達成感はあったけど、また新しいことをやろうと思ったときに、セルフプロデュースでやること=自分たちとしては思い切ったことだったんです。そこで十分な変化がつくだろうと思ったので、それ以外はあんまり決めずに始めました」
――『homely』は“居心地がよくて、悲惨な場所”、『100年後』は“終末観”、それらを受けて『ペーパークラフト』は“ペラペラだけど綺麗に取り繕われたもの”というコンセプトで制作されました。今作を制作する上で、こういったコンセプトは設けましたか?
「最初はコンセプトを立てずに曲を1曲1曲作ってたんですけど、結局、ある期間に作っていったものなので、後で歌詞を読み返したりしてると、通底してあるものが自分の中でも見えてきて。それがタイトルにもなっている『ハンドルを放す前に』なんですけど」
――不穏さというか、予兆のあるフレーズです。
「放棄するちょっと前とか、何かが始まるちょっと前の感じが全体的にムードとしてあった。何も起こっていない、でも緊張感はある。そういうアルバムだなって」
――歌詞も全て現在形ですもんね。
「例えるなら、注射を打たれたときの痛みよりも、打たれる前の方が恐かったり、遠足だったら、行く前日の方がワクワクしていたり。そういう感じのアルバムだなって。このアルバムの中では、何も起こっていない。ハンドルを放してもないし、何らかのアクションを起こしているわけではないですよね」
――そこへフォーカスしていったのは、何かきっかけはあったんですか?
「今、自分が思っていることとか時代の雰囲気から感じたこととか、いろいろあると思います。いつもだったら、まずコンセプトを立てて、そこに集中して書いていくんですけど、今回はバーッと書いて、後で自分の中から浮かび上がってきた感じですね」
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自分たちなりの音楽に対するマナーがあって
――今作は、これまでよりも歌に焦点が当たっている一方で、音響面での実験的な試みも組み込まれています。しっかりと音響的にも聴けるし、ラジオから流れてくる感じにもフィットしていてと、そのどちらにも焦点が当たっている状態は、まさに“ポップミュージック”だなと感じました。
「その意識はありましたね。3部作は自分でも正座して聴く感じがしたというか(笑)、聴き手側から取りにいかないとクエスチョンマークだけで終わるようなところがあったと思うんです。それはそれですごく好きなんですけど、そこで身につけたことをうまく使って、今回は少しニュアンスを変えたものを作りたかったんで」
――それが歌に焦点を当てることだった?
「歌に焦点を当てるというよりも、無機質で表情がない演奏の上に、妙に人懐っこくて生々しいボーカルが合わさったときの違和感というか、そのちょっとした気持ち悪さを意識して作りましたね。違った素材なのに無理矢理くっつけてる感じがいいかなと」
――ボン・イヴェールの『22、ア・ミリオン』(‘16)とは方法論は違えど、目指す方向は同じだなと感じました。歌と実験性が共振するというか。同時期にリリースされたものなので、時代性もあるのかなと考えてみたり。
「自分としては今回、歌に対して何か特別なことをしたって感覚はないんです。ミックス作業のときに意図的に少しだけボーカルを上げたくらい。歌がポンッと前にあって、後ろにバックの演奏があるっていうのが、(オウガとしては)今までになくて。もっと全体に溶け込んでいるようなミックスだったので」
――それは誰の発案だったんですか?
「エンジニアの中村さん(※)が、“ちょっと(歌を)上げてみないですか? このままだと暗い感じがする”って言ってて。やってみてもらったら、妙に不気味で新鮮で、そっちの方がおもしろいんじゃないかって感じたんです。歌と演奏を馴染ませてみたら、“この感じは知ってる”って思ったので」
(※=中村宗一郎。ゆらゆら帝国や坂本慎太郎、BORISらを手掛けるレコーディングエンジニア。OGRE YOU ASSHOLEは『しらないあいず しらせる子』(‘08)以降、エンジニアに迎えている)
――“奇妙さ”、“違和感”というのは、自分たちの好みとしてずっとあるものなんですか?
「と言うより、例えばレゲエとかサイケロックとかをちゃんとやってる人たちって、生き様とか生活スタイルもそれ一色に染めてる感じがあるじゃないですか。森に生きる動物のマーキングみたいなものと一緒で、そっちの方に進んでいくと、レゲエの人たちがマーキングしてる匂いがしてきて、縄張りに深入りしたら怒られる、みたいな(笑)、自分たちなりの音楽に対するマナーがあって」
――そこへのリスペクトがあるからこそ、ですよね。
「もちろんそうですね。レゲエのグルーヴとかを内包する分にはいいんですけど、完全にそれになっちゃったら失礼だし、“なんちゃって感”も出るじゃないですか。 一音一音、音色とかリズムとかメロディなんかに気を付けて、いわゆる“○○っぽい”感じにならないように探りながら散策していく中で、自分たちのフィールドみたいな場所を見つける。そこにあるのが“違和感”という部分だったりするのかもしれません」
放しちゃったら、もう先がないんで
――ジャケットのアートワークも出戸さん作ですが、これもまた曲同様、不穏で。
「シーンとしては完全に飛び込むしかない雰囲気なんですけど、まだ誰も飛び込んでない。何か起こりそうな雰囲気のまま止まっている状態。ピサの斜塔みたいな感じというか。倒れるんだろうなっていう予兆があるけど、今はまだ倒れてない、というか。『ハンドルを放す前に』もそういう感じで、投げ出す前、だけどまだ投げ出してない、っていう。(歌詞にしても)この文脈で言うなら、3部作はハンドルを放した状態だったんですよね。諦念というか、ある種の諦めのような感覚をピックアップし過ぎたんで、もう1回ハンドルを掴むところから始めてみようかなって(笑)。放しちゃったら、もう先がないんで」
――『OGRE YOU ASSHOLE ニューアルバム リリースツアー 2016-2017』もスタートしています。オウガのライブは、音源にあるような平熱感とは打って変わって、より肉体的に、快楽的になりますが、今回のワンマンではどういったライブになるでしょう?
「今回のアルバムの抑制された感じをライブでやって、果たしておもしろいのかっていうのは実験のしどころで。バーンって派手にやるのは最近できてきてるし、そのよさも分かってきたんだけど、抑圧された、一見退屈なビートをライブでやるとどうなるのか? そういう部分と今までの快楽的な部分と、両方をもっと極端にして落差ができたらいいなとは思ってるんですけど。それがうまくいくかどうかは、自分でもまだ分からない。大阪はツアー終盤なので、新しいものができていると思います。ライブを観て、感じてもらえたら嬉しいです」
Text by 中谷琢弥
GREENS西林昌江さんからのオススメ!
「オウガを知って'17年で10年になりました。10年間、ずっと好きです。変わらず好きです。何か変な感じで、何か浮いてて、常に変化があるところが好きです。好き好き言い過ぎて気持ち悪い気がしますが(笑)、ハマると抜け出せないのがオウガの魅力だと思います。そして何と言ってもライブがよい! ゆらゆら揺れているといつもあっという間に終わってしまう…。毎回もっと聴きたい、次のライブはいつだ!って思ってしまいます。ホントにあの空間は体感してほしい!! 1月22日(日)には久々の大阪ワンマンです。皆さん是非AKASOへお越しください!」
(2017年1月 5日更新)
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新譜のこだわりに無理やり関西話(笑) 出戸学(vo&g)からの動画コメント
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Release
違和感を音にした唯一無二の快楽 オウガここにありの最新作!
Album 『ハンドルを放す前に』 発売中 2600円(税別) P-VINE PCD-26067 <収録曲> 01. ハンドルを放す前に 02. かんたんな自由 03. なくした 04. あの気分でもう一度 05. 頭の体操 06. 寝つけない 07. はじまりの感じ 08. ムードに 09. 移住計画 10. もしあったなら
Profile
オウガ・ユー・アスホール…写真左より、出戸学(vo&g)、清水隆史(b)、勝浦隆嗣(ds)、馬渕啓(g)。‘05 年にセルフタイトルの1st アルバムをリリース。’07年前後から、大型ロックフェス出演やメジャーシーンのオルタナティヴバンドとのツアー、海外有名アーティストのサポートなどで知られるようになり、’09年にはシングル『ピンホール』でメジャーデビュー。『homely』(‘11)『100年後』(‘12)『ペーパークラフト』(‘14)というアルバム3部作のリリースを経て、’15年6月には初のライブアルバム『workshop』をリリース、7月には活動10周年記念ワンマンライブを各地で開催。’16年11月9日に最新アルバム『ハンドルを離す前に』をリリースした。バンド名の由来は、敬愛するモデスト・マウスのライブの際、サイン代わりに“OGRE YOU ASSHOLE”(=怪物のバカ野郎との意)とメンバーの腕に書かれたことによる。現在も地元・長野県を拠点に活動を続ける。OGRE YOU ASSHOLE オフィシャルサイト http://www.ogreyouasshole.com/
Live
年をまたぐツアーも折りかえり地点 異次元のライブをぜひAKASOで!
『OGRE YOU ASSHOLE ニューアルバム リリースツアー 2016-2017』【宮城公演】 ▼11月26日(土)仙台Hook【埼玉公演】 ▼11月27日(日)HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1【北海道公演】 ▼12月03日(土)BESSIE HALL【長野公演】 ▼12月09日(金)ネオンホール【石川公演】 ▼12月10日(土)金沢vanvanV4【山梨公演】 ▼12月11日(日)桜座【岡山公演】 ▼12月16日(金)YEBISU YA PRO【広島公演】 ▼12月17日(土)広島・4.14【福岡公演】 ▼1月14日(土)Fukuoka BEAT STATION【鹿児島公演】 ▼1月15日(日)鹿児島SRホール【愛知公演】 ▼1月21日(土)名古屋クラブクアトロ
Pick Up!!
【大阪公演】
チケット発売中 Pコード312-988 ▼1月22日(日)18:00 umeda AKASO オールスタンディング3600円 GREENS■06(6882)1224
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【長野公演】 ▼1月28日(土)松本ALECX【東京公演】 ▼2月04日(土)LIQUIDROOM
Column
続いていくことへの恐怖 終わっていくことへの希望 デッドマンズ・ハイの終末感を 描いた美しきアルバム『100年後』 '12年のインタビュー