続いていくことへの恐怖、終わっていくことへの希望
デッドマンズ・ハイの終末感を描いた
OGRE YOU ASSHOLEの美しき最新アルバム『100年後』
出戸学(vo&g)インタビュー&動画コメント
このバンドは、何処まで行ってしまうのか――。もはやロックバンドとカテゴライズするのは不可能。得体の知れない強烈なエネルギーを発していた前作『homely』を経て辿り着いたOGRE YOU ASSHOLEの最新アルバム『100年後』は、拍子抜けするほど優しく、軽やかで、美しい。ベーシストの脱退を経て、3人体制でイチから制作に臨んだ新作は、音数が意識的に抑えられているものの、そこから伝わってくる情報量は限りなく多い。どこまでも広がる景色の端にある確かな終わりを見るような、脳内シネマを喚起するメロウでドリーミーな世界観。少年性の残る歌声と全編に漂う浮遊感の奥に潜むひとひらの狂気のジャストなさじ加減は、リスナーをトリップさせるに十分な中毒性を放っている。そこで、同作に伴う全国ツアーもクライマックスを迎えるOGRE YOU ASSHOLEの首謀者・出戸学(vo&g)に、物事の“終末感”を描くに至った『100年後』を解明するインタビューを敢行。続いていくことへの恐怖、終わっていくことへの希望。固定観念を骨抜きにするような自由でポップなサウンドに到達した道筋を、たっぷりと語ってもらった。
出戸(vo&g)からの動画コメントはコチラ!
――前作『homely』('11)とはちょっと毛色が違う作品になりましたよね。今回の取材のために『100年後』を聴いてから、一応戻って『homely』の曲を聴いてみたら、何かスッゲェ疲れました(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
――やっぱり『homely』はアルバム全体に緊迫感とか緊張感があるというか、音楽から発せられるエネルギーがスゴいんで、聴く側にもちゃんとパワーがないと聴けないような…。今作の『100年後』では前作とのそういう音色の違い、世界観の変化があったと思うんですけど、そこに辿り着いたいきさつをまずは聞きたいなと。
「テーマは“終末感”なんですけど、『homely』にもその要素は少しありつつ、どっちかって言うと、その終わりに向かってちょっと抗うようなエネルギーもあったアルバムだったんで。今回はそれを経て、もう生命力のないようなアルバムにしようって(笑)」
――“生命力のないアルバムにしよう”って、そんなこと言うアーティスト聞いたことないよ(笑)。
(一同笑)
――なぜそうしようと思ったんですか?
「何ですかね…“終わり際”みたいなモノを作りたいなぁって。例えば死に際って気持ちよくなる瞬間があるとか言うじゃないですか。何かが終わっていくときのちょっとした麻痺状態じゃないけど、走馬灯が流れるようなああいうニュアンス。追い詰められて終了していくときの気持ちよさみたいなものを、アルバムにしたら面白いだろうなって」
――まぁランナーズ・ハイじゃないですけど、“デッドマンズ・ハイ”というか。出戸くんぐらいの若さだとまだ親は大抵生きてるし友達も元気とかになると、死とか終わりって想像し難いがたいものだと思うんですけど、何でそこに目がいったんですかね。
「確かに70~80歳の人が持ってる終末感のリアリティとは絶対的に違うと思うんです。僕の場合はリアルにそれを体現しているものよりも、どっちかって言うとそういうフィーリングのモノを聴きたくて、そういう作品を作りたくなった感じかな」
――終末感そのものを描くというよりは、終末感から得たフィーリングを音楽にすると。それは例の震災あってのムードなのか、自分の中で常にあったモノなのか。
「このアルバムを作っていて、言葉を選んで、このフィーリングは元々子供の頃から自分の中にあるモノだなぁって思いましたね。やっぱこういうテーマだけあるし、自分としては震災とはくっつけたくないんですけどね。今はどんなテーマで歌ったとしても、それと関係あるんじゃないかって言われるくらいなんで。今の世の中、すぐそっちに吸い寄せられるのは分かってても今回は作りたかった。そこは覚悟しつつもやってるというか」
――今回は音数も減って、サウンド的な密度も変わったじゃないですか。それは終末感というテーマによって?
「そうですね。あと終末感の中でも“天国感”みたいな音を作りたかったんで、そういった意味でも減らしましたね。どっちにしても音像的にも変えたいのもあったし、前作は音数が相当多くていっぱいいっぱい音が入ってたんで、増やすというよりは減らす方向でっていうのもありました。ただ曲作りの前は、次の一手に何を打てばいいのかと、結構悩みましたね…。今回が5枚目のアルバムなんですけど、同じことはやりたくないのもあるんで。ホントに作れば作るほど、ドンドンやれることが減っていく」
(一同笑)
――技術と経験とネットワークが広がってやれることが増えていくのが定石なのに、ドンドン狭まっていく(笑)。それこそ自分で自分の…。
「首を絞めてるんです(笑)。やっぱ過去の作品をちゃんと自分たちも批評とか批判して前に進んでいかないと、何かちょっと気分が悪いというか」
――終末感の行き着く1つのきっかけとして、“無限に続いていくモノへの恐怖”があったということですが、例えばそれをどんなときに感じますか?
「えー…宇宙見てるときとかですかね(笑)」
――え~そうなん!?(笑)
「星空を見てるときとか。あと合わせ鏡とか超怖いじゃないですか(笑)」
――アハハハハ!(笑) でも、例えば空を見上げても、大きいなぁとかキレイだなぁと思うことはあっても、それに恐怖を感じるっていうのはなかなかない発想だと思うんですけど。
「何か…そわそわしないっすか? だって…無限なんすよ!?(笑)」
――まぁ(笑)絶対に全てを知りうることは出来ないというか、得体の知れなさはありますよね。
「そういう魅力と終わり際の魅力も、トリップ感という意味では何か近い気がするんですよね」
ちょっとルーズな部分とかハプニングが起こってる方が
聴いていてワクワクする
――終末感というコンセプトが閃いてからの作業はスムーズにいったんですか?
「逆にコンセプト決めても常にそのことばっかり考えてるわけじゃないんで、脱線していくこともあるんですよ。そうしたくなったときに、それを抑えなきゃいけない難しさはあります。1つの世界観の中で1曲だけなら作れるんですけど、それが8曲となってくると…1つの大きい塊にするのは、なかなか難しかったですね」
――前作は製作途中でメンバーの脱退劇がありましたけど、今回は3人体制で完全に最初から作り始めたと思うんですが、それによる変化はありました?
「今回はギターの馬渕(啓)が全曲ベースも弾いてるんですけど、前作は作業の途中でいなくなったから、やっぱり急にベースを弾いた感じだった。けど、今回は最初から弾く気で挑んでるので本人的にもだいぶ違ってて、やっぱり音もベーシストらしい音になってる。ギタリストなんですけど(笑)」
――今作は音の隙間が多いんでよく聴こえるのもあるんですけど、ベースがいいですね~。
「そうなんですよ。今回のアルバムはベースがスゴく効いてる。けど、ベーシストが弾くベースではなくて、ギタリストが考えるフレーズだったりベースラインだから、そういった意味でも特徴のあるベースだと思うんですよね」
――そこでツアーのサポートされてる方であったり、曲に合ったベーシストを呼ぶ発想ではなかったんですね。
「そうですね。曲作りも俺と馬渕で結構作ってたんで、そういうニュアンスが完全に分かってる中でやろうと」
――でもよく考えたら馬渕さんの作業はほぼ倍になるみたいな(笑)。しかもそんな単純なフレーズでもないし。
「ですね(笑)。難しいフレーズ弾いてますからね。うんうん」
――聴いてて思うんですけど、今作は音数の少なさと隙間はあるんですけど、かと言って緊張感がないとも思わないんですよね。密閉感はあるんだけど、圧が緩いというか…。ある種の完全なる開放感ではない“いびつさ”がオウガ独特の音楽だなぁって気がしたんですけど、それは自分たちで作っていてどう思いますか?
「やっぱ今みたいにデジタルになってくと、どうにでも整えていけるじゃないですか。僕の中ではそういうちょっとした歪みが魅力だと思ったりするから、整理されたカチッとした感じは、あんまり好きじゃなくて。ちょっとルーズな部分とかハプニングが起こってる方が、聴いていてワクワクする。そこが音楽の旨味でもあると思うし。そういう部分は、スゴい意識はしてますね」
――音色的には明るく感じるし聴きやすくもなっているけど、その中に潜む狂気のさじ加減が抜群にいいなって。パッと食べたら分かんないけど何だろう?この味みたいな、そういうヒントが絶妙な感じがしましたね。
「ありがとうございます。確かにそういう部分はスゴい考えてます。あまり行き過ぎないというか、どちらにも触れ過ぎないという」
――うっすらだけど、確かにある違和感みたいな。俗に言う世の中の今の曲がメッセージが強いとかよく言われてますけど、この感覚的なそれがオウガなりのメッセージというかね。
1つの終わりを象徴する言葉として
“100年後”という言葉が僕の中で1番フィットした
――『100年後』というタイトルについて教えてもらえますか?
「今から100年後の未来の話じゃなくて、やっぱりコンセプト通り終わりのことについて話したくて。今から100年後って僕もいないし、今目の前にある物とかもないわけじゃないですか。今目に映るものがほとんどなくなって、もしくは形を変える。そういった意味での“100年後”というか、“絶滅”とか“世界の終わり”とかだと、ちょっとドラマチック過ぎる。そういう僕のニュアンスをどうすれば伝わるのかを考えたら、1つの終わりを象徴する言葉として、“100年後”という言葉が僕の中で1番フィットしたというか」
――スッと出て来たんですか? この言葉。
「いやぁ~もうアルバム全部録り終わって、“タイトル早く! 早くください!”って散々言われながら(笑)」
――この言葉が出たとき、“これだ!”って思いませんでした?
「めっちゃいいとは内心思ったんですけど、逆に分かりやすくて何か言われるかな?とも思いました(笑)。常に自信持って出せないんですよ。タイトルって自分の裸みたいなもので、ニュアンスとピッタリなモノを出せたとは思ったんですけど、それはただ裸を見せてるだけだから、それに対して皆にイイとかキモイとか言われても…みたいなところはあります(笑)」
――ふふふ(笑)。今作に伴うツアーに向けては何かあります?
「レコーディングってやっぱり繊細な作業で、ホントに音色1つで曲全体が変わっちゃったりするんですよね。そういう細かい作業の積み重ねなんで、ホントに映画を撮ってるようなニュアンスで。ライブはそういう繊細さよりもホントに僕らの気迫だったり、今この状況で何が起こってるか分からないぐらいのうねりとか、そういうモノの方が目立ってくるというか、重要になってくる。だいぶ違いますよね、同じ曲を演奏したとしても取り組み方が」
――あれだけ緻密な作品を作れるバンドでありながら、逆にライブではそっちに振り切れるというか、ある種違うベクトルとして割り切れるのも、なかなか難しいことだと思うんで。
「そこは割り切って、ちゃんとその場の特性を活かした音を発しないと、伝わるモンも伝わらない気がするんで」
――そしてツアーの最後は東名阪でシメると。
「ツアーを重ねれば重ねるほど、アレンジとかもいろいろ試しつつでやっていくんで、多分その頃には1つの完成形を観せられる時期だと思いますね」
――今回のアルバムは、ライブではどんな役割を果たしているんですか?
「ライブでやってみたら、思ったより曲にガッツがありましたね。アルバム自体はホントに力のないアルバムなんですけど(笑)」
――力のないアルバム(笑)。前作みたいな緊迫感のある濃いアルバムがあって、まぁ今作みたいな力のないアルバムを作ったら(笑)、次はどうなっちゃうんでしょうかね?
「もう自分でも分かんないっす(笑)」
――それはビビるね(笑)。まぁでも自分たちに課したテーマとしての自分超えというのがあって、今作によってまたいびつで美しいモノが出てくればなぁと、こちらも期待して待ってますんで。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2012年11月16日更新)
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