約1年のインターバルで発表されたアルバム『SHISHAMO 3』。前作はメンバー全員へのインタビューであったが、今回は宮崎朝子(g&vo)のみ。それもあり、SHISHAMOというバンドを宮崎がどう考えているか、より深く聞けたように思う。何よりも宮崎のすごいところは、誰よりもSHISHAMOを客観的に、俯瞰的に捉えているところ。作られる音楽に対しても、そのスタンスは変わらない。自分を優先するのではなく、聴く人を優先するという徹底的な考え方が、SHISHAMOをここまでの人気バンドにしたのだろう。そして、いわゆるファン層の若者だけでなく、筆者の様な40手前の男まで惹かれてしまうほど、丁寧に丁寧に考えて音楽を作っている。そんな3人の初の関西アリーナ公演『SHISHAMO NO OSAKA-JOHALL!!!』が、いよいよ6月25日(土)大阪城ホールにて開催される。このインタビューを読んでいただければ、SHISHAMOが多くの人に愛される理由が分かってもらえるはずだ。
「去年の夏に『熱帯夜』(‘15)(M-8)という夏シングルを出したんですけど、その前くらいから考えてはいましたね。でも、『熱帯夜』自体、いろいろと考えないといけないシングルでした。一昨年、『君と夏フェス』(‘14)というシングルを出して、あれでSHISHAMOの夏シングルというイメージが出来たんですね。だからこそ、次にどんな夏シングルを出すかが難しくて…。でも、『熱帯夜』が出来て、アルバムでもいろいろ出来るかなと思いましたね」
――それぐらい、『熱帯夜』は重要だったわけですね。
VIDEO
「『熱帯夜』自体は何となく作ったんですけど(笑)、ただ夏シングル=夏フェスのイメージがあるので、夏フェスでこういう曲をやるのは挑戦だし、怖いなと…。夏フェスって、みんな騒ぎに来ているので、不安でした。でも、去年の夏フェスでセットリストの真ん中に入れたら、メリハリが出て気持ちよかったんです。ライブで育った曲だと思いますけど、私がやりたかったのは、まさにそういうことなんで。“あの曲、本当にいいな~!”と夏フェスで聴いた人に思ってほしかったので。でも、前からSHISHAMOが好きだった人が『熱帯夜』を好きになってくれるかは、本当に不安でした。とにかく、ちゃんと好きになってくれてよかったです」
――今はどうしても、フェスが主体の活動になっていて、若者たちへの聴かれ方も、フェスでいかに騒ぎやすいかというところに焦点が当てられているような気がします。
「個人的には、フェスはもっと自由だったらいいのになと思います。今のはちょっと違うかなと。でも、それも時代なんで。偶然この時代に私たちは生まれただけで、SHISHAMOで騒ぎたいと思っている人って、そんなにいないと思うんですよ。ただ、バカ騒ぎしたくてフェスに来た人にも、SHISHAMOの音楽が届いたら一番いいですよね。そういう人たちを見捨てるのではなく、じーっと見て、“こっちだぞ~!”と訴えかけています(笑)」
――(笑)。その訴えは必ず届いていると思います。というか、音楽がしっかりと届いていると思います。
「何にしても、SHISHAMOが一番優先したいのは音楽、曲なんです。ただ、騒がせるのが最優先のバンドもいるし、“バンドとはこうあるべき”ではなく、いろんなバンドがいるから、バンドって楽しいのかなと」
――夏フェス=騒ぎに来るお客さんが多いという点で、悩んだり迷ったりするバンドも多いけど、(宮崎)朝子ちゃんはそういう感じはないですね。
「はい、迷ってないです。大事なのは曲なんで、その曲を聴いてもらうやり方を考えるだけですね。そして、何よりも一生懸命やるのが一番なんで。悩んだところで出来ることは限られているので」
――そして、そのスタンスでちゃんと武道館に到達しているのもいいなと思っています。
「元々、特に“武道館やろうぜ!”みたいな思い入れもなくて、いつも通りでした。目標を定め過ぎると、そこに到達すると終わっちゃうと思うんです。だから、目標は常にないですね。今まではライブハウスでやってきて、クアトロやZeppの延長という感じでした。もちろん、大きいところでやりたいとは思っていいましたけど」
――よく“武道館には魔物がいる”なんて言いますけど、朝子ちゃんには見えなかったでしょ?(笑)
「魔物…いなかったです(笑)。だけど、非常にやりやすくて、気持ちがいい場所でした。普段は、ライブは楽しいというより“全うする”ことを考えているんです。でも、武道館は楽しかったですね。ライブハウスじゃ出来ない花道を作ったりして、歩いたりしましたし。そういうところをお客さんに観てもらえたのも嬉しくて」
――この1年は、本当にいろんなことがありましたね。
「この1年は、アルバムを作るにあたっても大きかったですね。テレビにも出ましたし、今までのSHISHAMOと違うというか。だからこそ、もっと作品のレベルを上げないといけないと思っていました。去年はワンマンツアーが2回あって、フェスにも出て、そんな中でアルバム作りを同時進行でやっていたので、切り替えは難しかったですね。でも、そのギリギリな感じが今回はよくて、結果充実していましたね」
VIDEO
自分たちが自分たちの曲に感動しないと、寄り添わないと、伝わらない
――今作は作詞が全部朝子ちゃんですが、何か理由はあったりするのかなと。
「吉川(ds)の歌詞がダメとかじゃなくて(笑)、特に理由はなくて。今回の一番いい形が私が全部書くということだっただけで、特に何の意味もないです!」
――(笑)。相変わらず歌詞がよくて、変なエゴがなくて、俯瞰的にいろいろな人の物語を描いていますよね。
「メッセージ性がないバンドなんで(笑)。特に伝えたいことはないんです。自分のために音楽をやっているわけじゃないし、それはやりたいことじゃないので。いい曲を、そのまま楽しんでほしい。私自身が曲を聴くときも、その人の伝えたいことを知りたいわけじゃなくて、“この曲、いい曲だな~”っと思って聴いている。好きだから聴いている。漫画、小説、ドラマと同じで、ストーリーで単純に楽しんでほしい」
――よく分かります。ただ、こうやってインタビューすると、ちゃんと伝えたいことがある人だと思うんです。でも、音楽が軽くなくて、本当に心から楽しめる楽曲を作れる。そこが不思議というか…単純にすごいなと思います。
「それは、私が楽しんで作っているからだと思います。自分のことだと、楽しんで作れないので。私、考えるのが大好きなんですよ。だから、自分のことを楽曲にするなら、考えなくてもスラッと出来る。だって、自分のことなんて、自分が分かっているじゃないですか。見たこともない知らない女の子のことを考えて、楽曲を作る方が楽しいですね。髪型は? 気持ちは? 住まいは? そうやって考えて、楽曲を作る方がモチベーションが上がる」
――『ごめんね、恋心』(M-1)が大好きなんですけど、完全に朝子ちゃんの頭の中にいる女の子の物語なのにリアリティがあるし、音も何だか生々しいんですよ。
「極端にデフォルメしていますね(笑)。“こんな女の子ダメでしょ!”と思いながら書いていました(笑)。いきなり曲も速くなりますしね! いい意味で生々しいかもですね」
――ただ単に曲調が速いからというだけでなく、やっぱりSHISHAMOの音って、ちゃんと生々しさがあるんですよ。
「まぁ、別に楽器も上手くないですからね。だから、まだまだだとは思っています。だいぶ、形になってきたとは思いますが。曲を多くの人に伝えるには、演奏しないといけない。演奏だけが大事なわけじゃないけど、曲を伝えるには演奏力も必要ですからね。別に超絶ギタリストやドラマーが必要なバンドでもないですけど。例えば、小中学校の頃に曲を聴いているときは歌を意識していて、楽器を意識しているわけじゃないですよね。大人になったって、そういう人は多いと思うんです。歌が大事なんで。歌を邪魔する楽器なら、いらないので。だから、メンバー2人への指示も多いです。ただ、ライブで女の子が泣いたりしているときがあって、そういうのを見ると、自分たちが自分たちの曲に感動しないと、寄り添わないと、伝わらないと思います」
――そういう3人の関係性も好きなんですよね。
「必要以上に仲良くすることもいらなくて、バンドメンバーであることが一番なんで。不満は常にありますしね。もっと1つになれるはずなんで。別に仲良くなくてもいいんですよ、3人が一生懸命ならいいんです。もっと出来る。(他のバンドも)みんな、不満を持っていますか?」
――すごいバンドは、どのバンドも誠実で 、いい意味でバンドに不満を持って、もっと磨いていこうとしています。
「ですよね」
今回のアルバムは全体的に好きなんですよ。そういうのは初めてですね
――あと、伺いたいのは、今までもアルバムの中で1曲は自分のことを書いた曲があるという話なんですが。
「あ~、今回だと『旅がえり』(M-9)ですかね。1曲くらいなら忍ばせられるんです。そういう曲って偶然いい曲になっちゃっていて、入れざるを得ないんです。仕方ないんです。でも、今回のアルバムは全体的に好きなんですよ。そういうのは初めてですね。今までって、私が好きな曲ってお客さんに受けないんです。でも、今回だと『中庭の少女たち』(M-2)はもうバンドを辞めてもいいと思えたくらい好きで、それなのにお客さんにも受けて、人気曲になったんですよ。私も好きで、お客さんも好きなのが嬉しいですね」
VIDEO
――自分が好きじゃない曲があるというのも、ある意味すごいですね。
「曲は曲であって、私ではないので、独立しているんです。自分の好きなことだけをやるのもいいですが、私はやっぱり多くの人に聴いてもらわないと意味がないと思っているので。誰も好きになってくれないと、曲がかわいそうなので。私が作りたい曲は、みんなに聴いてもらえる曲なんです。だから、自分がリスナーだとして考えたら、好きじゃない曲も今まではありました。でも、今回はリスナーとしても好きな曲ですし、好きなアルバムです。今までの2枚は友達から借りるレベルだけど、今回は自分で買うという感じですね(笑)。でも、毎回私が好きな必要はなくて、だた偶然にも今回は自分も好きで、それはよかったなと思います」
――本当にいいアルバムだと思います。次はどうなっていくんだろうと楽しみです。
「次はどうしましょうか? ずっと考えていて。何をしたらいいんですかね!?」
――僕に聞かれても(笑)。
「(笑)。でも、やることは今までと変わらないと思います。今までも、やりたくないことはしていませんから」
――SHISHAMOは、このまま自然に突っ走るんだと思います。
「ありがとうございます! まだまだ先だと思ってた大阪城ホールも、だんだんと近付いてきていて、少しドキドキもしてきましたし。でも、昔からライブをしてる大阪での大舞台なので、やる曲を考えるのもとても楽しくて、不安もあるのですが、やっぱり大阪城ホールでみんなに会えるのが楽しみですね。SHISHAMOにしか出来ないライブになるよういろいろと準備してるので、是非たくさんの人に遊びに来てほしいです!」