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「出てきた欲求とか好きなことを全部やったアルバム」
2ndアルバム『AROUND the CORNER』を
約2年振りにリリースしたsugar meがカラフルで
ポップな本作品の秘密に迫るインタビュー&動画コメント

 かわいいモノやキラキラしたもの、ちょっとイビツなものも混ざった、好きなモノだけが入った宝箱のようなアルバム――それが、女性シンガーソングライター、寺岡歩美のソロプロジェクト、sugar meの2ndアルバム『AROUND the CORNER』だ。デビュー作でもあった前作『Why White Y?』リリース後、イトケン・吉津卓保・青葉聡希・大和田ようこによるサポートバンド、その名もsugar meバンドが結成され、彼らを率いてライブを行うのと並行して、弾き語りによるソロや堀江博久(pupa、the HIATUS)とのアコースティックツアーを経験。新作では、バンドとして楽曲制作に取り組むことや、レーベルメイトでもあるドイツの男女デュオ、イッツ・ア・ミュージカルのもとで海外レコーディングも実施。時間を忘れて聴き続けてしまうほどに肌なじみが良いのに、どの曲にもちょっとした翳りや毒っぽさが感じられ、それが結果的に唯一無二のsugar meポップスの色や味となっているのがわかる。みずからの世界も広げつつ、未知の世界に続く扉を開けることにも成功した純度の高いカラフルでポップなこのアルバムを携え、3月には大阪でバンドセットによるライブも決定。センシティブな音楽性と、ナチュラル&清楚な見た目以上にタフなスピリットを持った女性シンガーである。


――1曲目の『Rabbit Hole Waltz』が聴こえた瞬間、アコースティックな印象だった前作とは一味も二味も違った、ファンタジックな物語世界を感じました。寺岡さんの中で、今回のアルバムはどういうものにしたいという思いがありました?

「1stを出して以降の約2年間、弾き語りと並行する形でサポートバンド(=sugar meバンド)と一緒にライブをやるようになったり、堀江博久さんと2マンでアコースティックツアーをやる機会にも恵まれて、これまで1人でやってきた自分が、誰かと音を合わせる楽しさとか、他の人からの刺激をたくさん頂いた日々だったんですね。そういう中で必然的に“2ndはバンドサウンドでやりたい”と思うようになって。前作はアコースティックサウンドを基調にすごくきれいなアレンジで整えられた、私が大好きな音に仕上がっていたんですが、そこから一度冒険に出るというか、前作とは違うサウンドでやってみたいという気持ちがあって。全8曲のうち4曲はsugar meバンドのメンバーと一緒にアレンジ&プロデュースをやり、他にBabiさんという女性アーティストと、前作を通じて知り合った石崎光さん(cafelon)にアレンジ、プロデュースでお世話になりました。Babiさんは、一昨年にAu Revoir Simone(オ・ルヴォワール・シモーヌ)の来日公演のサポートアクトで一緒になる機会があって知り合ったんですが、とにかく彼女のステージが衝撃的で。もともとクラシックをやられていた方で、CMの曲もたくさん作曲されているんですが、誰の真似でもないオリジナルなアレンジやサウンドを鳴らす方で。特に『Rabbit Hole Waltz』は、日常ではないファンタジックな要素を入れたかったのでBabiさんにお願いしたのは大正解でした」

――sugar meと同じRallyeレーベルから作品をリリースしているドイツの男女2人組、イッツ・ア・ミュージカルのロバートも2曲に参加されていますね。

「『Emily』(M-2)、『Spider WEB』(M-8)でロバートにドラムを叩いてもらいました。イッツ・ア・ミュージカルはこれまで2~3回来日しているんですが、音楽の趣味もわりと近いし私の声も気に入ってくれていて、“いつか一緒に何かやりたいね”という話はしていたんですね。前回来日した時に、私がアルバムを作っているという話をしたら、ロバートが、“ベルリンに来てくれればいつでも叩くよ!”と言ってくれたので、じゃあ行こうと」

――身軽ですね(笑)。

「そうやって草の根的というか、会社とか大きな組織間のつながりじゃなく個人で交流して、音楽的に良いと思える仲間と一緒にものを作ることが出来るのがいいなと思ったんですね。それも、今回のアルバムを作る上での目標の1つでした。サポートバンドのメンバーと、“せーの”で演奏して録りたいとか、海外レコーディングをしてみたいとか、この2年間に自分の中に出てきた欲求とか好きなことを全部やったアルバムですね(笑)」

――バンドで“せーの”でやってみていかがでした?

「ずっとソロだったからバンドに対する憧れみたいなものもあるし、私は楽器がアコギしか出来ないのでフレーズとかはいろいろ考えるんですけど、アレンジメントに関してはあまり自信がなくて。私の場合、1人で黙々とDTMで全部アレンジを固めていくタイプではなくて、最初はギターと歌だけの状態だったものをアレンジャーさんとやりとりしながら曲に仕上げていくことが多いんですけど、今回はそこに自分もコミットしてバンドと一緒に作っていくことをやってみたくて。そうすることでもっと作品が自分のものになるんじゃないかという期待もあったし、そこで自分がどういう風に成長できるかチャレンジしたいという気持ちもあって」

――なるほど。

「実際にやってみたら、1人でやるのとバンドでやるのは全然違って、たとえばどの楽器を使うかどんなフレーズを使うかとか、自分が迷ってる時にメンバーに“これ、どうかな?”って聞いたら、“いいんじゃない”って答えてくれる人がいる。それだけでも、すごく力になるんだなぁというのを感じて。ソロで活動する身として、自分でいろんな判断をしてやって行かなきゃいけない瞬間もありますけど、今のバンドの形で今回の作品を残せたのは良かったなぁと思いますね。特に4曲目の『watch your back』は最初のデモとは全然違ったものになっていて、持って行ったデモをバンドで合わせたら今ひとつしっくりこなくて。ギターのフレーズも1から考えて作り直すことになったんですけど、最終的にこの曲はこれを求めていたんだな、と思えるところに着地出来て、自分1人だけでやっていたらこういう曲にはならなかっただろうなって」

――7曲目の『If I Could Tell』はOLDE WORLDEが楽曲を提供されているんですね。sugar meとOLDE WORLDEは音楽的にも距離が近いように思うので、楽曲の相性もこんなに良いのかなぁと。

「ライブでご一緒する機会もあったんですけど、声も素晴らしいですし、沼田(荘平=OLDE WORLDE)さんの曲のセンスが洋楽的で、スケールが大きい曲が書ける方なんですよね。今回、音的な面では“天井が広い感じ”を意識していたところがあって、自分でバラードを書くとたぶんすごく暗くなるんですけど(笑)、この曲のようにスローテンポだけど空が広い感覚になれるものを欲していたんですね。ただ、アレンジはたぶん全8曲中、この曲が一番難航したと思います(苦笑)。バンドでやったんですけど、自分の引き出しに近いようで遠いところにある曲で、普通にアレンジするとスタンダードっぽく聴こえるものになってしまうというか、自分の色をどれだけ出せるかが一番大変だったのかな。飛び出す絵本みたいな曲がたくさんあるアルバムの中で、この曲はとてもプレーンに聴こえるけど、音の質感はかなりこだわりましたね。大変だった分、出来上がってみると感慨深いというかやり切った感は大きいですね」

――その、サウンド的に“天井が広い感じ”というのはアルバム全体の音作りにも言えますか?

「そうですね。私個人の好みとしては、もともとつるんとした音よりも、ガサッとしたロウファイな音が好きなんですけど、今回それは思い切って排除して。宅録で音源を作ることをベッドルームレコーディングと言いますけど、今回は室内よりも屋外というイメージで、スタジオできっちり録るということも1つの挑戦でした。たとえば3曲目の『La Nuit Secrete』だったら、もっとくすんだ印象にも出来たんですけど、この曲はクリアに録るほうがいいと思ったんですね。今回の8曲は、どの曲もかなりたくさんの音が入っているんですけど、エンジニアさんのおかげもあって音がとても整理されていて、特に1曲目はかなりたくさんの音が入っていて、普通だとガチャガチャして聴けなくなるぐらいの情報量なんですね。曲を作ってくださったBabiさんは通常、打ち込みで作って打ち込みのまま完成に持って行かれるんですけど、私はリアルな音が好きなので、頂いた曲を“生で録り直したい”と伝えたらすごくびっくりされて。音数も多い分、生音にすると音がリッチになり過ぎちゃうから、“これまで成功した試しがない”って(笑)。それもチャレンジだったんですけど、エンジニアさんがとても丁寧にミックスしてくださって。心地よく仕上げて頂いたので、普通に聴いている分にはあまりわからないかもしれないんですが、匠の音というか、エンジニアさんの技が光る曲なんですよ。アルバムを聴いてくれた方から、“ずっと聴いていても全然疲れない”というリアクションを頂いた時は、さすがだと思いました」

――効果音的にいろんな音がちりばめられていますが、ごちゃごちゃしている印象はまったくなかったです。

「今回、ボーカルとアコギは全部、自分の家で録ったんですよ。歌に関しては、自分で納得のいくまで時間をかけて録りたかったし、メンタル的にも自分のペースで出来たほうがいいなと思って。だからまさにベッドルームで、機材はお借りしてエンジニアさんのアドバイスに従って、吸音とかも一個一個聞いたりして。最小限のシンプルな設備で録ったんですけど、出来上がったものを自分で聴いた時に、他の音と比較しても遜色がなかったので良かったなぁって。思った以上にきれいに録れたので、次のアルバムはそういう感じにしようかなとか構想も芽生えたりして(笑)」

――『Lu Nuit Secrete』(M-3)は歌詞が日本語とフランス語、英語がミックスされていて、他の7曲は全部英語詞。以前にも、歌詞に関しては日本語にこだわらずに曲に合う言葉を選びたいと言われてましたね。

「『Lu Nuit Secrete』は最初はフランス語で書こうと思ったんですが結局、英語+フランス語+日本語のスタイルがいちばんしっくりきて、それが曲が持っている音に合うんだなと。『watch your back』はもともとテーマが決まっていて、堀江博久さんとツアーを回っている時に、“大人になったら悪いことできないよね”って話をしたことがあって、それを歌にしたらおもしろいんじゃないかって。自分が悪いことをしていると、それが自分に返って来るから“後ろに気をつけろ”と(笑)。『Spider WEB』(M-8)も可愛らしくハジけた感じの曲になってるんですが、このタイトルは“蜘蛛の巣”という意味で、そこにインターネットのwebもかけていて、そこにハマッちゃうとがんじがらめになっちゃうよ、というちょっとした皮肉っぽい曲になってるんですね。それを日本語で表現しようと思うと、なかなか難しいですけどね(笑)」

――あらためてアルバムの出来栄えについてはいかがですか?

「前作がモノクロだとしたら今回はカラーを意識して作っていったんですね。『AROUND the CORNER』というタイトルは“角を曲がれば”という意味なんですけど、その角を曲がったら、次に何が出てくるかわからないっていう期待感とかワクワク感を表したかったし、前作は1枚通して世界観を作っている感じでしたけど、今回は1曲ごとにそれぞれの世界観があるものになったと思います。この2年間の成長の記録でもあり、自分の本能の赴くままに好き勝手やって作った趣味のカタマリみたいなアルバムですけど、1stとはまた違う場所に行けたような気がしました」

――3月には大阪でライブがありますが、今回はバンドスタイルですね。

「弾き語りの時とバンドの時では、歌い方も聴かせるポイントも全然違うぐらい別物で、他のシンガーソングライターの方はどうやってるんだろう?とよく思います(笑)。sugar meバンドのみんなとのやりとりとか堀江さんとの出会い、旅をしながらライブをするようになったこととか、この2年間に培ったものを活かせるライブにしたいと思うし、前作も今作もどちらのアルバムが好きな方でも楽しめるライブになると思うので、是非観て頂きたいです!」



text by 梶原有紀子




(2016年2月18日更新)


Check

Movie Comment

彼女の空気感が伝わる動画コメント
最後には素敵な歌声も!

Release

カラフルでポップsugar meの
“今”が詰まった2ndアルバム

Album
『AROUND the CORNER』
発売中 2160円(税込)
RALLYE
RYECD232


<収録曲>

1.Rabbit Hole Waltz
2.Emily
3.La Nuit Secrete
4.Watch Your Back
5.I Don’t Know Why
6.To Be Alright (sugar me band ver.)
7.If I Could Tell
8.Spider WEB

Profile

シュガーミー…寺岡歩美のソロプロジェクト。Milkやnumber0の作品へのゲスト参加やCMソングの制作、歌唱を経て、‘13年にミシェル・ゴンドリー監督の映画『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』の公開記念EPを制作。その後、同年12月に発売された1stアルバム『Why White Y?』には、小山田圭吾(コーネリアス)や梅林太郎(milk)らが参加。曲によって英語やフランス語を使い分けた透明感のあるボーカルや、ドリーミーかつサイケデリックなサウンドが高い評価を得る。その後、堀江博久との2マンによるアコースティックツアーや、Curly Giraffe、坂本美雨らとライブで共演、’15年夏には出身地である北海道で開催されている『RISING SUN ROCK FESTIVAL』などの大型フェスにも出演。’15年9月に発売されたquasimodeの須永和弘のソロアルバム『MIRROR』にゲストボーカルとして参加し、リリースツアーにも参加。’15年11月に発売した2ndアルバム『AROUND the CORNER』は、イトケン(Dr)、元number0の吉津卓保(g)、青葉聡希(b)、大和田ようこ(Key)によるsugar meバンドをはじめ、ライブ共演がきっかけで出会ったユニークな音楽活動で知られる女性アーティスト、Babiや石崎光(cafelon)、OLDE WORLDら確かな音楽性と個性を持ち合わせたミュージシャンがゲスト参加。前作以上にポップでカラフルな音楽世界を作り上げた。

sugar me オフィシャルサイト
http://keishitanaka.com/
 
RALLYE LABEL オフィシャルサイト
http://keishitanaka.com/

Live

リリースライブは心斎橋のカフェ
digmeout ART&DINERで開催

Pick Up!!

【大阪公演】

sugar me “AROUND the CORNER” RELEASE PARTY
TONE FLAKES Vol.92

チケット発売中 Pコード288-363
▼3月19日(土)18:30
digmeout ART&DINER
前売2800円
[共演]AYNIW TEPO
digmeout ART&DINER
■06(6213)1007

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


ROTH BART BARONとの
教会でのライブも決定!

チケット発売中 Pコード284-023
▼4月9日(土)17:30
天満教会
自由席3500円
[出演]ROTH BART BARON/sugar me
ONE Music Camp運営事務局■070(6928)1812

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Column

2年の日々を費やし作り上げた
1stアルバム『Why White Y?』
corneliusらクリエイターが集った
歌声の魔法とルーツを語る
sugar meインタビュー

Comment!!

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 キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル、スザンヌ・ヴェガ、エヴリシング・バット・ザ・ガール、ジュリアナ・ハットフィールド、Rhye、Moonchild等、時代も流行も問わない良作を届けてくれるアーティストたちとほどよく近距離にいる、sugar me。何時間も繰り返し聴いてしまう心地よさや、ふんわりした歌声が醸し出す柔らかい雰囲気ももちろん良い上に、そういう音楽を生み出す寺岡歩美自身が、清楚な見た目以上にがっつりと音楽に貪欲で、真ん中には揺るがない確かな芯が通った音楽家であるということがとても頼もしい。