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sugar meとしての私、寺岡歩美としての自分
2年の日々を費やし作り上げた1stアルバム『Why White Y?』
コーネリアスらクリエイターが集った歌声の魔法とルーツを語る
sugar meインタビュー&動画コメント

 Chocola&AkitoやYeYeをはじめ国内外の良音楽をリリースすることで定評のあるRallyeレーベルより、昨年12月に1stアルバム『Why White Y?』をリリースしたsugar me。本名の寺岡歩美として活動してきた日々は一旦お休み。本人の言葉を借りれば「自分に合う表現は何だろう?」と模索しながら、シンガーソングライターとして新たに音楽制作の道を歩み始め、昨年はドイツの人気デュオ、イッツ・ア・ミュージカルのアルバムへの参加や、ミシェル・ゴンドリーの映画『ムードインディゴ~うたかたの日々』とのコラボによる楽曲を発表。2年の日々を費やして作り上げたアルバムには、ビートルズの『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』やドノヴァン『メロー・イエロー』など、60年代のサイケデリックなポップスにも通じる幻想的で重厚な曲もあれば、軽快なテンポに合わせステップを踏みたくなるチャーミングな曲も収録。ゲスト参加したcorneliusや、MOOSE HILLやNaomi&Goro、原田知世らとの仕事でも知られる梅林太郎(milk)らによる透明感溢れるサウンドの中に、くっきりと強い印象を残すsugar meの歌声…。インタビュー中に彼女は「自分の音楽のアイデンティティはボーカルだと思っている」と語った。やわらかで心地よく、それでいて聴き手の気分や感情をもすっぽり包み込んでしまうしなやかな強さを持った彼女の歌声を色に例えるなら、どんな色も一瞬で塗り替えてしまえる白と言えるだろうか。優しい魔法にかかったような『Why White Y?』とのひとときを、インタビューと共にお楽しみください。



いくらグルーヴを学んで自分の表現として咀嚼しようとしても
本物にはかなわないと思ったんです



――アルバム、すごくよかったです。初めて耳にしたのに、ずっと前から知っていたような親しみやすさもありました。元々音楽に目覚めたきっかけは何だったんですか?

 

「母親がフォーク世代だったこともあって、家にギターがあったんですね。母が弾き語りをしてくれたり、ギターに合わせてみんなで歌う時間みたいなものが家庭の中にあって、それが原体験になるのかな。私は北海道の田舎の方の出身なんですけど、周りに音楽が好きな人もそんなにいなくて、バンドもやってみたかったけどそういう環境じゃなくて。だから大学進学で上京したときには、“大学では絶対にバンドやりたい”と思っていましたね」

 

――今の話を聞いていて、アルバムに流れている心地よさの源がわかったような気がしました。暖かい部屋の中でギターが聴こえて、音楽が鳴っていて…そんな心地よさに包まれる感じがアルバムにもありました。

 

「北海道の生まれ育った家の感じが出ちゃっているかもしれないですね(笑)」

 

――学生時代はどんな音楽をやっていたんですか?

 

「その頃私はジャズが好きで、コピーバンドの軽音楽サークルに所属しながらジャズのボーカルを習っていて(笑)。ジャズバーでアルバイトをして、時々ステージに混ぜてもらって歌ったりもしていたんですけど、ジャズってベースには黒人音楽があって、いくらグルーヴを学んで自分の表現として咀嚼しようとしても、本物にはかなわないと思ったんですね。それから自分のオリジナル曲を作り始めて…それが大学の後半ぐらいです。これまで本名の寺岡歩美として活動していた時期もあるんですが、ソロでアルバムをリリースするのは今回が初ですね」

 

――レーベルメイトでもあるmilkの梅林太郎さんがほぼ全面的に参加されていたり、『monsieur le démon』(M-4)にはcorneliusがギターで参加されていますね。

 

「ソロのアルバムなんですけど、いろんなミュージシャンの方に協力頂いた結果、豪華なアルバムになりました。歌とメロディ、そこにコードが付く弾き語りの形態はすごくミニマムな形で、その良さが活きる形でバンドアレンジをしたい。そう考えたときに、同じRallyeレーベルから作品を出しているmilkの梅林君のセンスに目を付けて、“絶対、一緒にやって!”とお願いしました(笑)。彼はそういう作り方がとてもうまくて、一緒にsugar meの音楽世界を立ち上げてくれましたね」

 

――corneliusの小山田さんとは面識があったんですか?

 

「レーベルメイトの宮内優里さんが最新アルバム『トーン・アフター・トーン』(‘12)でcorneliusとコラボレートしていて、そのつながりで一度お会いしたきりです。最近はSalyuさんや青葉市子さんなど女性シンガーと小山田さんが共演されていることも多いから社長が打診してみたところ、ラッキーなことに気に入って頂けて。一聴してcorneliusのギターだって分かるオリジナリティのある音ですよね。この曲はmilkの作曲なんですが、corneliusのサウンドとはまた全然違うところから生まれてきた現代風シャンソンで、小山田さんがいつも演ってる音楽とはちょっと毛色が違うと思うんですけど、すごくいい化学反応を起こすことが出来たんじゃないかな」

 

 

“ソロ=何もかも全部自分で100%作る”というよりも
他からの刺激を受けてアウトプットするという形がいいかなと

 

 

――『1,2,3』(M-2)は昨年公開されたミシェル・ゴンドリー監督の映画『ムードインディゴ~うたかたの日々』をイメージして書かれたんですか?

 

「この曲と『don’t say so (Why White Y? ver.)』(M-5)は、映画とのコラボ企画で誕生した曲で。元々ボリス・ヴィアンの原作も大好きだったから、映画化されると知ってどんな風になるのかな?って期待も不安もあったんですが、素晴らしかったです。『1,2,3』はmilkが曲を書いてくれて、『don't say so』は私が作詞作曲しました。物語の前半のカラフルでハッピーな世界観と、後半に従ってダークサイドに堕ちていくところを2曲に分けて描いていて、『1,2,3』は主人公のクロエとコランが出会って恋に落ちる幸せなところまでをイメージして、恋をしたときの高揚感やハッピーな感じを盛り込めたらと思って。逆に『don't say so』は詞のトーンもちょっと暗いですね」

 

――『don't say so』は4曲目までと明らかに世界が違いますね。それもあって曲にグッと引きこまれます。

 

「クロエの病気が進行するにつれて、コランはどんどん落ち込んで混乱していく。クロエは自分の最期を悟っているんだけど、最後まで“大丈夫よ”ってコランを励まし続ける。私は女性なので、女性目線でクロエを見た場合、落ち込んでいくコランを見て彼女はすごく辛かったと思うんですね。でもそれを言葉にはしないで、辛い気持ちや哀しみを心の内に秘めたまま…その気持ちを歌にしてみようと思ったんです。ちょっと斜めな感じの発想だから分かりにくいかなとも思うんですけど、“愛している”って言われると辛くなるから、『言わないで』っていうタイトルなんです」

 

――なるほど。『couleur café』(M-3)はセルジュ・ゲーンズブールのカバーですね。

 

「さっきのボリス・ヴィアンとフランスつながりで(笑)。この曲は、Rallyeレーベルと京都の恵文社が企画したカフェと本をテーマにしたコンピレーション盤『Rallyes Book Store & Cafe』(‘12)に提供した曲で、今回アルバムに収録するにあたって“アレンジを変えたい”とわがままを言ってドラムとベースを足してみました。フランス語で歌ってるんですけど(フランス語は)大学のときに少し勉強しただけなのでカタコトなんで、難しいことは考えずサウンド的に心地よかったらいいかなって(笑)。大げさに聴こえるかもしれませんけど、自分自身のアイデンティティみたいなものと自分の持ち味、カバー曲を入れる意味みたいなものを考えたときに、この曲だったら自分自身の表現が出来るんじゃないかなと思って選びました」

 

――私はそのコンピレーション盤の存在を知らなかったんですが、この曲を聴いたときに、好きな本を読みながら何時間も聴いていたくなるような、いつまでも一緒に過ごせるような曲だなぁと思ったんですよ。

 

「願ったり叶ったりですね(笑)。あとは美味しいコーヒーがあれば完璧ですね」

 

――そうですね(笑)。くつろいだ、豊かな時間を過ごせる曲だなぁって。

 

「『morning of the world』(M-6)は、3フィンガーを憶えたばかりの頃に嬉しくて作った曲です(笑)。Rallyeレーベルに声をかけてもらったとき、最初に“こんな音楽をやりたいです”ってこの曲を渡して聴いてもらったんですね。なので自分でもこの曲には思い入れがあります。私のやっている“アコースティックギターで弾き語り”っていうのはどこにでもよくあるスタイルなんですけど(笑)、音楽における自分のアイデンティテイみたいなものは、ボーカルに重きを置いてるんですね。なので、他の方に曲を書いて頂いたものもあるし、カバーもあるし、いろんなアーティストともコラボしていて、“ソロ=何もかも全部自分で100%作る”というよりも、他からの刺激を受けてアウトプットするという形がいいかなと思ったんですね。“ボーカル=自分”という一本筋の通ったものになっていれば、あとは曲が良いものになるならどんな風味が加わってもいいかな、と」

 

 

アルバムが出来るまでの2年間に
徐々にsugar meと寺岡歩美が1つになっていった気がしていて

 

 

――アルバムが出来上がってみていかがでしたか?

 

「最初はあまり実感がなかったんですけど、CDショップの店頭に自分のCDが置かれているのを見てようやく、“私、アルバムを出したんだ”って実感して(笑)。年明けからオ・ルヴォワール・シモーヌの来日公演のサポートアクトとしてライブをやらせてもらっているんですが、その中でも少しづつ実感が広がってる感じですね。アルバムが完成するまでに2年かかっているんですが、その間にRallyeレーベルの所属アーティストやリリース作品も増えて、リリースのお祝いだったり発売記念ライブがあったりすると“いいなぁ”と思っていて(笑)。なので、私のアルバムリリースでレーベルのみんなにお祝いしてもらったときに、“仲間なんだな”って実感が出来たのもうれしかったですね(笑)」

 

――1枚の作品を作り上げた達成感もあるんじゃないですか?

 

「そうですね。こう見えてわりと下積みの日々があったりしたので(笑)。その分、アルバムへの思い入れも強いし、満足出来る作品になりました。Rallyeレーベルに所属する前は弾き語りで日本語のポップスをやってたんですけど、曲を作ったりライブを重ねていく中で、“これは本当に自分のやりたいことなのかな? 自分自身の表現なのかな?”って迷ったり行き詰まりを感じるようになっていって。ちょっと活動をお休みしようと思ったときにRallyeの方に“一緒にやろうよ”って声をかけて頂いたんですね。それからは、ストックしてあった曲を一旦封印して“自分に合った表現”を探しながら1から曲を作り始めて制作していったんです。今思うと、Rallyeレーベルに所属が決まって、sugar meと名乗り始めたときはまだ、sugar meと寺岡歩美がイコールじゃなかった部分もあったと思うんですけど、アルバムが出来るまでの2年間に、徐々にsugar meと寺岡歩美が1つになっていった気がしていて。長い日々でしたが、必要な時間だったのかなって思います」

 

――“sugar me”という名前も素敵ですね。

 

「70年代に活躍したイギリスの女性シンガーソングライター、リンゼイ・デイ・ポールの曲名から付けました。新しく名前を付けようと思ったときに“白いもの”を名前の中に入れたくて、幾つか単語を書き出して考えていて。そんなときにちょうどリンゼイの『sugar me』を聴いて、語感もいいしsugarって白いし(笑)、いいなって。この『sugar me』って曲自体も可愛い感じもありつつ三角関係のドロドロしたことを歌っている毒気のある曲で(笑)。そのバランスがおもしろいなと思って」

 

――ブログでも、好きな本やロン・セクスミス、エリオット・スミスの曲などを紹介されていますね。

 

「エリオット・スミスは自分の好きなアーティストベスト3に入りますね。ギターと歌が真ん中にあって、後期はバンドサウンドでもやっていましたけど、すごくいいメロディとシンプルなコードの中にギュッと凝縮されている世界があって、それに惹かれるんですよね。……曲は暗いんですけどね(苦笑)。私自身は暗い曲はすごく好きなので“最高!”と思いながら聴いています。ニック・ドレイクも好きですね」

 

――ニック・ドレイクも暗めですね(笑)。ベスト3のうち他の2人は誰ですか?

 

「ジョン・レノンとビリー・ホリデイかな。父親がジャズが好きだったのでいろんなアルバムが身近にあったんですが、最初にハマったのがビリー・ホリデイで。特別歌が上手いわけでもないけど、他の人とは違う彼女ならではのオリジナリティみたいなものにすごく惹かれました。ジョンは泥臭いというか、パーソナリティが曲に出るタイプの人だと思うのと、聴いていて自分の中にグーッと入ってくるのは、ポールよりもジョンの作る曲が多い気がします」

 

――シンガーとして、これからどういう音楽を作っていきたいですか?

 

「メロディとコード、その2つの軸がしっかり通っているところに、サウンドとして今の空気や新しいものが乗るとおもしろいと思いますし、自分のアイデンティティであるボーカルを中心にしたポップなものや、今の時代の音楽を作っていきたい。今回は英語詞、フランス語詞の曲ばかりですけど、たまたま今、自分がやりたい音楽にフィットする言葉の響きを探していたら、英語やフランス語だったんですね。日本語で歌わないと決めているわけじゃないので、これから日本語の響きの面白さや、意味の面白さで自分が表現出来るものがあればやってみたいですね」

 

――12月にFLAKE RECORDSであった弾き語りライブも、とてもいい雰囲気でした。今度はぜひバンドでもライブをやってください。

 

「もちろん! 本当にいいアルバムが出来たので、1人でもたくさんの人に聴いてもらいたいし、届けたい。私自身も北海道に住んでいて、CDショップに行ったり、ライブに行くのも簡単ではない環境にいたので、自分と同じような方にもこの作品を届けられるような活動をしていきたいですね。そのためにはいろんな場所でライブもしたいし、こういうインタビューもどんどんガンバっていきたいなと思っています(笑)」

 

 

Text by 梶原有紀子




(2014年2月 5日更新)


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嗚呼! sugar meからの
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Release

2年の歳月を費やして作り上げた
待望にして傑作1stアルバムが完成!

Album
『Why White Y?』
発売中 2000円
Rallye Label
RYECD-180

<収録曲>
01. summer queen
02. 1,2,3
03. couleur café (serge gainsbourg cover)
04. monsieur le démon
05. don’t say so (Why White Y? ver.)
06. morning of the world
07. as you grow
08. sometimes lonely

Profile

sugar me…寺岡歩美のソロプロジェクト。’10年頃よりシンガーソングライターとしての活動を始め、’12年にsugar meとして本格的な活動を開始。同年、milkのデビューアルバム『greeting for the sleeping seeds』に、オ・ルヴォワール・シモーヌ、サリー・セルトマンといった海外のアーティスト共にボーカリストとして参加。’13年にリリースされたドイツの人気デュオ、イッツ・ア・ミュージカルの『サマー・ブレイクEP』に彼らの代表曲でもある『テイク・オフ・ユア・Tシャツ』のカバーで参加。さらに、ミシェル・ゴンドリー監督の映画『ムードインディゴ~うたかたの日々~』の公開を記念し限定販売されたCDで は、同映画をイメージした楽曲を提供した。また、リリースがない段階にも関わらず、人気ブランドのチュチュアンナや花王リセッシュなどのCMの歌唱を担当するなど、各方面から高い評価と話題を集めている。

sugar me オフィシャルサイト
http://www.sugar-me.com/


Live

NEIL&IRAIZA、the HIATUSの
堀江博久とのツーマンライブが大阪で

『HIROHISA HORIE × sugar me
 We’ll meet again
– SOLO ACOUSTIC TOUR 2014 大阪公演』
一般発売2月8日(土)
Pコード224-378
▼4月13日(日)18:00
Bar MUSZE
スタンディング3500円
(ドリンク・フード代別途要)
[出演]堀江博久/sugar me
FLAKE RECORDS■06(6534)7411

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