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“歌いたいことがなかったら音楽なんてやってない”
時代の空気と皮膚感覚を頼りにメッセージを風景として描く
優しきレベルミュージック!
アナログフィッシュ『最近のぼくら』インタビュー&動画コメント

 もしあなたがいつもヘッドフォンで音楽を楽しんでいるなら、アナログフィッシュのニューアルバム『最近のぼくら』は是非、部屋でちょっと大きめの音で聴いてみて欲しい。ベースとドラムだけの線描にも似た音を背に軽くステップを踏むようなボーカルだけが響くタイトル曲『最近のぼくら』(M-1)や、ライブで聴いたら確実に両手を挙げて踊ってしまう色鮮やかなダンスチューン『There She Goes(La La La)』(M-2)などが、スピーカーを通して部屋に広がっていく様は本当に心地いい。誰もが漠然とした不安を抱え持っているけれど、美味しいものを食べれば喜びを感じ、好きな人と一緒にいれば幸せが続きそうな気もする。それが日々の暮らしで、全部が本当の気持ち。『最近のぼくら』に詰め込まれた曲達は、そういう何気ない日常にしっくりとなじんで寄り添って、時には癒してくれさえもする。今年で結成15年目を迎えたアナログフィッシュの、瑞々しくも豊饒なる音楽精神の1つの頂点とも言えるこの作品について、11月22日(土)に行われるツアーの大阪公演について、下岡晃(vo&g)に話を聞いた。鋭い視点と穏やかな眼差しを併せ持つ独特の詞世界についても語ってくれた。

 
 
タイトな音と、日常を描写した歌詞
 
 
――全11曲どれもが誰の日常にも当てはまるサウンドトラックというか、どんな人でも頷ける情景や、感じ入るメッセージのかけらがアルバムのあちこちに用意されているように思いました。下岡さんやアナログフィッシュにとっての“最近のぼくら”かもしれないけど、聴き手にとってのそれにも成り得る作品かな、と。アルバムを作る上で最初に、どういう作品にしようというイメージがあったんですか?
 
「『はなさない』(M-4)をまず最初に録ったんですが、結構いい感じにレコーディングが出来たんですね。アルバムを作ろうとなったときは最初にサウンドのことを考えていて、とにかく音数を減らして、1ループに3ピースのバンドサウンドだけの、本当にタイトな音にしたいっていう話をしました。その1ループは、シンセみたいなループが乗っかるか、ギターかベースがループするかは分からないんですけど。歌詞に関しては、前作『NEWCLEAR』(‘13) 、前々作『荒野/On the Wild Side』(‘11)では“メッセージをメッセージとして歌う”っていうことをやっていたけど、『はなさない』が出来た頃から、前作までとは違うやり方がないかなと思い始めて」
 
――と言うと? 
 
「今の風景をそのまま書いてみよう、と思ったんですね。タイトな音と、日常を描写した歌詞を書く。最初にイメージしていたのは、それぐらいですかね。それを1年ぐらいかけてちょっとずつレコーディングして、その時々に、詞や曲を作ったときの自分が素直に反映されればいいなって。だから本当に“最近のぼくら”っていう感じの作品です」
 
――『NEWCLEAR』『荒野/On the Wild Side』でのちょっと硬派なメッセージとはまた違って、例えば井上陽水の『最後のニュース』(‘89)や忌野清志郎の『ニュースを知りたい』(’92)という曲の中でも、直接的な言い回しではなくじんわりと残る余韻の中でふと疑問を抱かせてくれたり考えるきっかけをくれますが、今回のアルバムはそれらに近い感触があるように思いました。
 
「今、名前が出た2人ともすごく好きで、自分の音楽がそういう風に出来ていたら嬉しいですね。僕自身、メッセージをメッセージとして歌うのは好きだし、そういう音楽を聴くのも好きで、自分もそれをやりたいと思ってるんです。けど最近は、そのやり方で本当に聴いている人にちゃんと届くのかな?と思って。いろんな時期があると思うんですけど、今この時期にそれをやることに疑問みたいなものもあって、今回は『荒野/On the Wild Side』『NEWCLEAR』の頃よりも日常に根差した書き方というか、“メッセージ”という感じで歌うんじゃなく、メッセージを風景として描くという書き方をしたんですよね」
 
 
“イヤだ”とか“全部ブチ壊したい”という気持ちに駆られて音楽を作る
そういう気持ちを消化するために作り出した曲が
すごく優しいものになっていたりする
 
 
――『公平なWorld』(M-6)から『Moments』(M-7)『Wednesday』(M-8)への流れがとても心地よくて。その心地よく穏やかな曲から聴こえてくる詞の中にも、不安や怒りや哀しみは常にあって、聴いている自分の気分も上がったり下がったりを繰り返すんですが、そういったことを全て癒したり、包んでくれるような優しさが、このアルバムにはあるようにも感じました。
 
「僕自身はずっとレベルミュージックが好きで、いつもレベルミュージックを作ろうと思っているんですね。今回もそう思って作ったアルバムなんですけど、そのレベルミュージックのあり方…例えばクラッシュでもレゲエでも何でもいいんですけど、全てすごくカッコいいんだけど、実際に自分がそれをやるのは本当に難しい。今、自分が本当に“コレだ”と思うもの、聴けるもので、尚且つ人に聴かせられるレベルミュージックが、今回はこういう形だったっていう感じですね」
 
――何かに対して抗う気持ちや、“ひっくり返してやろう”っていう気持ちが常にある?
 
「そういう気持ちや、そういうことをしたいという希望があります。あとは、“イヤだ”とか“全部ブチ壊したい”とか、そういう気持ちに駆られて音楽を作ることが結構多くて。そういう気持ちを消化するために作り出した曲が、すごく優しいものになっていたりするんですよね」
 
――“壊したい”という気持ちそのままの、いわゆるパンクみたいな曲にはならない?
 
「そう。楽曲的にビリッとしたものが出来るときもありますけど、作ってみたら案外、優しかったり綺麗だったりする。尚且つ自分の気持ちはちゃんと消化されているんですよね。優しい感じのものであっても、自分の気持ちや感情が薄まっているわけでは全然なくて。だから出来上がってみていつもすごく不思議。いつもそんな感じなんです」
 
 
歌詞でどこまで言っていいかは時代によって変わっていくし
ここ2~3年でもすごく変わってきてる
 
 
――佐々木健太郎(vo&b)さんがボーカルを務める『Kids』(M-5)を聴いたとき、下岡さんが書かれる世界に近い印象を受けましたが、普段2人で歌詞の話はする? 
 
「たまに話すことはあるんですけど、今回の僕の歌詞は、さっき言ったみたいに風景を歌うというようなテーマがあって、それは健太郎に伝えていたんです。だから、僕は『Kids』みたいなものを書かなかったけど、健ちゃんがこの詞を書いてきたときに、“あぁ影響し合ってるんだな”と思いました、お互いに」
 
――それぞれの世界を持つ全く違うタイプのソングライターが2人いることが、改めてとても強力な武器だなと。
 
「健太郎はひたすら歌が上手いですからね。俺は結構、雰囲気ものですけど(笑)」
 
――(笑)。10月に東京と神戸であったアコースティックライブ『town meeting』で『Nightfever』(M-3)を歌われたときは、下岡さんはステージを下りて客席の方へと歩きながら歌ったり、会場の外へも出たりしていましたね。
 
「“やろう”と思い付いちゃったら、そのときやるのが一番面白いんですよ。けど、やった後が恥ずかしい(笑)」
 
――(笑)。あのとき、“この歌は生き物だなぁ”と思いました。それまで家で聴いていたときとは違う印象を抱いたし、まさにあの場でしか得られない体験で、それがライブの醍醐味だなと。
 
「それならよかった。思い付いたアイディアをやっちゃうということに関しては、歳を取っていくにつれて年々自由になってきましたね。昔はなかなか出来なかったけど、思い付いたことをその場でいきなりやっても、そんなに悪いことにはならないんだなって分かってきたというか」
 
――その『Nightfever』の、“僕らはなんで空を飛べないんだ あなたはなんでここにいないんだ”のくだりで感じたのが、下岡さんの詞の中には必ずと言っていいほど、“君”とか“あなた”とか他者がいて、その他者との距離や、その人との間にあるあたたかさみたいなものが強く感じられたんです。自分だけではない世界を書かれていますよね。
 
「時には“あの人”と歌っていてもそれが人ではない場合もありますけど、詞には“君”とか“あなた”とかをよく書きますね。自分だけで完結させないというか、“あなた”という対象があることで、曲や詞に普遍性を持たせることが出来ると思うんですね。僕が『Nightfever』で一番気に入ってるところは、その“僕らはなんで空を飛べないんだ”へと続くところで。何かを歌おうとすると歌詞ってある程度論理的に進んでいくものですけど、僕は人が書いた歌詞を読んでいてもそうなんですけど、論理を超えてジャンプしてるところが好きなんですね。その飛躍する感じって、必ずしも全部の曲に持たせられるわけじゃないんですけど、曲を書くときに必要な要素ではあると思っていて。この曲は、その前のフレーズから“僕らはなんで空を飛べないんだ”ってところへ飛躍し過ぎぎず、低過ぎず、いい感じのジャンプ感があって、それでいてキュッと締まっている。そこがすごく気に入っています」
 
――『Moments』の“その瞬間を永遠に”というところも、世界がサァーッと押し広がって飛躍していく感じがありました。音も宇宙を連想させるような雰囲気で。
 
「そうかもしれないですね。この曲はタイトな鍵盤のループがあってドラムも割と細かく鳴っていて、曲の最後をウォーッて盛り上がる感じに持っていくことも出来たんですけど、そこでエクスタシーを感じて終わっちゃうと何か違うんだよなと思って。最終的に、演奏としてはひたひたと持続的に行く感じにしましたけど、そこは最後までどっちにしようか悩んでましたね。“ドーン!”とやった方が盛り上がるんだろうけど、それをやっちゃうと曲の意味が変わってきちゃう気がして。まぁでもライブでは“ドーン!”とやろうと思うんですけどね(笑)」
 
――音も言葉もリアルに響いてこなければ耳を通り過ぎていくし、反対にあまりにも具体的、直接的なメッセージは何度も聴きたいとは思わない。『最近のぼくら』は、その微妙なところを見事にクリアした歌であり詞であり、メッセージになっていますよね。心地よく聴かせてくれながら、同時にいろんなものを残してくれる歌ばかりで。
 
「そこはいつも不安はあるんですけどね。僕自身、今回は特に音的にも気に入っているし、歌詞でどこまで言っていいかは時代によって変わっていくし、ここ2~3年でもすごく変わってきてる。僕の感覚が人と同じとは限らないけど、自分の皮膚感覚を頼りに、“こうやったら響くんじゃないか?”ってところを目指してやってきたものが、今言われたみたいなものになっていれば、それはすごく嬉しいですね」
 
 
みんな音楽が好きだから
 
 
――あと、アナログフィッシュは今年で結成15周年なんですよね。おめでとうございます!
 
「ありがとうございます。15年、よくやったなとは思いますけど、特にそんな実感はなくて。健太郎は小学校の頃から一緒ですけど、いまだに2人で呑んだりもするし、中学生の頃と同じノリで話したりもするし、だからまぁ…ヘンな感じですね(笑)」
 
――ツアーも始まって、11月22日(土)には心斎橋JANUSでライブがありますが、関西のお客さんはいかがですか?
 
「『荒野/On the Wild Side』ぐらいから、ライブにおけるお客さんと僕らの関係性が変わってきた感じがしていて、特にここ3年ぐらいのライブはすごく良いんですよね。自分でも“何があったんだろう?”っていつも思うんですけど(笑)。今回もいいライブになると思います。JANUSも大好きな会場だし」
 
――アナログフィッシュはアコースティックスタイルでのライブもあり、下岡さん、佐々木さんのソロもありますが、これからも全部並行してやっていく?
 
「みんな音楽が好きだから、それで忙しくなるのは全然いいことで。僕のソロはたいしたことないけど(笑)、健ちゃんのソロはいいし、バンドセットも素晴らしいですよ。アコースティックセットのアナログフィッシュに関しては、健ちゃんを中心に引っ張っていってもらう形でやっていこうと思っていて。僕は会場を歩きながら歌ったり好きなようにやらせてもらいます(笑)」
 
 
Text by 梶原有紀子



(2014年11月18日更新)


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Release

油に乗ったバンドのクリエイティブが
隅々にまで発揮された最新アルバム!

Album
『最近のぼくら』
発売中 2500円(税別)
felicity
PECF-1106

<収録曲>
01. 最近のぼくら
02. There She Goes(La La La)
03. Nightfever
04. はなさない
05. Kids
06. 公平なWorld
07. Moments
08. Wednesday
09. 不安の彫刻
10. Tonight
11. Receivers

Profile

アナログフィッシュ…写真左より、佐々木健太郎(vo&b)、下岡晃(vo&g)、斉藤州一郎(ds)によるツインボーカルの3人組。’99年に地元である長野県喬木村で佐々木と下岡により結成。上京後、’01年よりサポートドラムを加えて都内でライブを開始し、翌’02年に斉藤が加入し現在の編成に。インディーズより2作リリースしたアルバムを完全コンパイルした『アナログフィッシュ』と、ミニアルバム『Hello Hello Hello』を’04年にメジャーレーベルよりリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN FES.』『SUMMER SONIC』など幾つものフェスやイベントに出演しつつ、フジファブリックやクラムボン、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやMO’SOME TONEBENDERや小谷美紗子、髭など多彩なバンドと対バンライブ、ツアーを敢行。’08年に斉藤が病気療養のため脱退。同年に発売したアルバム『Fish My Life』には、GRAPEVINEの亀井亨や100sの玉田豊夢をはじめ7人のゲストドラマーが参加した。’09年10月、新木場スタジオコーストで開催された結成10周年記念ライブのステージで斉藤が再びバンドに合流。’12年5月にSoundCloudとYouTubeで『抱きしめて』を発信。震災以前に書かれた楽曲にもかかわらず、震災以降の疲弊や不安をまとった空気に温かな光を差し込むような曲が話題に。高い評価を得た『荒野/On the Wild Side』(’11)『NEWCLEAR』(’13)に続く、今年10月8日発売の最新アルバム『最近のぼくら』には、DE DE MOUSEらの作品にも参加しているトラックメーカーのドリアンや、佐々木&下岡と同郷の若手バンド、GLIM SPANKYの松尾レミ、KETTLESのオカヤスシズエなどの女性ボーカルがコーラスで参加している。

アナログフィッシュ オフィシャルサイト
http://analogfish.com/

Live

リリースツアーもスタート!
大阪公演はなじみのJANUSで

 
『TOUR「最近のぼくら」』

【仙台公演】
チケット発売中 Pコード241-609
▼11月15日(土)18:30
PARK SQUARE
オールスタンディング3500円
ノースロードミュージック仙台■022(256)1000


【福岡公演】
チケット発売中 Pコード241-653
▼11月20日(木)19:00
The Voodoo Lounge
オールスタンディング3500円
BEA■092(712)4221

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Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード241-534
▼11月22日(土)18:00
心斎橋JANUS
オールスタンディング3500円
清水音泉■06(6357)3666
※小学生以上は有料、
未就学児童は入場不可。

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【名古屋公演】
チケット発売中 Pコード241-434
▼11月23日(日)18:00
池下CLUB UPSET
前売3500円
ジェイルハウス■052(936)6041

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【東京公演】
チケット発売中 Pコード242-324
▼11月26日(水)19:00
CLUB QUATTRO
立見3500円
ホットスタッフ・プロモーション■03(5720)9999

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