「自分としては突破口だと思ってるんですよね、この世界観が」
三十代の焦燥も痛みも情熱も美しくかき鳴らす
アナログフィッシュ佐々木健太郎が初のソロアルバムで導かれた
AORとバンドとソロの未来を語るインタビュー&動画コメント
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昨年11月にリリースした先行シングル『クリスマス・イヴ』で聴かせたドリーミーポップなサウンドメイクで、リスナーに心地いい驚きを与えたアナログフィッシュの佐々木健太郎(vo&b)が、キャリア初のソロアルバム、その名も『佐々木健太郎』を完成させた。3.11以降の世界に強烈なメッセージをポップミュージックに乗せ放ち続けるアナログフィッシュの最新作『NEWCLEAR』(‘13)では、“日本語を操る天才型リリシスト”と佐々木も称賛するツートップの下岡晃(vo&g)が存分に機能。活動15周年を前にアナログフィッシュは確固たる立ち位置を確立したが、今回のソロ作ではソングライター・佐々木健太郎の溢れる才能が爆発! ソウルフルなボーカリゼーションと感動を増幅するハーモニー、洗練されたメロディやアレンジメントにはAOR(=Adult Oriented Rock)なフレーバーがそこはかとなく漂う、珠玉のポップ・ロック・アルバムに仕上がっている。全ての楽器演奏を手掛けたワンマン・レコーディング、歌心溢れるソングライティングが冴え渡る、47分間のポップクルージング。バンドとは、ソロとは、生きるとは、音楽とは。現実を知る35歳の男だからこそ、夢を見る。優しきロマンチストの、旅立ちの声明をここに――。
自分の手腕で、自分の領域で、音楽で食べていく
――ちょくちょくソロで弾き語りライブをしていたここ数年の動きがあって、これは意図的にそうしていたもの?
「ここ2~3年はそうなんですけど、意図的ですね。弾き語りで歌って、そこで得た刺激をバンドにフィードバックするところもあるし、単純に旅が楽しいというのもあるし」
――それを形にするアイテムとして、まずはソロ初アイテムとしてシングル『クリスマス・イヴ』(M-9)がリリースされて。クリスマスはテーマとしてはポップソングの1つのお題目ではあるけど、今日びそれを真っ向からテーマにすることってそんなにないというか。
「セルアウトしたんじゃないかとか言われるんですけど、全然違うんですよね。ホントに書きたくて書いたんですよ。聴いてくれた人の反応は結構“ほっこりしました”とかが多いんですけど、作ってるときの心境としてはもっと重いものだったんです。この曲が出来たときに一番言いたかったのは、“傷だらけの世界が/今夜だけは癒されていくみたいに街も華やいでいく”っていう部分で」
――逆に言うと、この世界観を伝えるために最も適した題材が、クリスマスだった。
「そうですね。お祭りとかイベントごとって…昔の人が何でお祭りを作ったのか考えたんですけど(笑)、飢饉とか病気とか年貢とか、そういう日常の苦しみから解放されたいがためにあったみたいなので。クリスマスのいつもとはちょっと違う非日常感も、それに近いものがあるのかなと」
――その話を聞いてたら、根底に流れてるものとしてはアナログフィッシュが3.11以降のここ数年やってきた表現と通じるというか。ソロアルバムを聴いたときにまず思ったのは、アナログフィッシュの近年の代表曲の1曲とも言える『Good bye Girlfriend』と今作が、すごく地続きな感じがして。あの曲が今回の一連の動きに繋がってる気がするんやけど、実際のところはどうなのかな?
「もう、全くその通りです。あの曲の“AOR感”というか…自分としては『Good bye Girlfriend』にはちょっと手応えがあって。俺はこの領域にこれからの自分の活路があるんじゃないかって考えてる。それは自分の中では次のアナログフィッシュに繋がってくる部分でもあるし。これはどこでも話してない。初めて話しましたね」
――『NEWCLEAR』における『Good bye Girlfriend』は、震災以降のプロテスト・ソングの中にポッと存在して、全く別のところに連れて行ってくれる曲というか…。あのアルバムの中の救いであり、ある種下岡(vo&g)くんにとっての救いでもあり、アナログフィッシュの救いでもある。それは=佐々木健太郎の存在そのものでもあるというか。
「震災起きてからみんな価値観が変わったでしょう。(下岡)晃もホントにそうで。誰もが引き摺ってると思うけど、僕も曲を作るときはいまだにあります。でも、プロデューサーの吉田仁さんに、“震災のことに言及して希望を書くんじゃなくて、もっと普遍的なことを歌って希望を書け”って言われたんですよ。もっと日常のことを書いても、絶対に希望を持てるはずだからって。下北で朝5時までベロベロに呑んでその話をしてたんですよね(笑)」
――“AOR感”はソロの起点にもなってるけど、確かにあの世界観をバンドでアウトプットしてるグループってあんまりいないかも。
「まぁ年齢的なものもあるし、下岡晃とやっていく中での…自分としては突破口だと思ってるんですよね、この世界観が。僕が持ってる、無理なく出来る世界観の中で」
――それって今までアナログフィッシュのフレーバーとしては見せてなかったやんか。突然変異で生まれたのか、そもそも持っていた部分なのかで言うと?
「いろんな先輩たちの影響も大きいですね。僕は今Clingonもやってて、メンバーはみんな40ぐらいで、平泉(g from COUCH)さんは専門学校で音楽を教えてるような人だし、もう自分の手腕で、自分の領域で、音楽で食べていくってことをやってる人たちなんですよ。COUCHは音楽的なレベルもすごく高いし、周りの目を気にしないモードも気持ちいい。かと言って、周りを軽蔑してる自己完結感がない。周りのいいミュージシャンが弾いたフレーズとか、そういうことから受ける影響の方が多いですね。だって今って、デビューしてはメジャーの宣伝力だけで一時ポッと出て、メジャーが見限って宣伝しなくなっちゃったら売れなくなるようなヤツらばっかじゃないですか。いや、売れるだけいいんですけど(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「僕はもっと自分の音楽で、自分の出来る範囲で、ちゃんと食べてる人を知ってるんですよ」
――そう考えたら、アナログフィッシュとして歩んできた人生があって、今の自分の年齢と音楽との接し方というかも関係あるね。
「きっと、晃と(斉藤)州一郎(ds)も、そう思ってると思う。多分もう売れようが売れまいが、俺たちが、アナログフィッシュの3人でやってることが楽しいから。誰も聴いてなくても、俺たちが3人で音を出して楽しめればいいっていうところがあるんですよ。それって高校生のときに、音を出してるだけですげぇ楽しいみたいな感覚に近いというか。原点回帰なのかもしれないですけど…ってすごいカッコつけましたけど(笑)」
――いや、めっちゃいいこと言ってるよ(笑)。
「アハハ(笑)。いや、でも、でも僕はやっぱり、音楽で食べたいです。でも…自分の裁量で稼ぎたい。自分の実力で昇りたい。それが出来てるかは分からないですけど、そうしたい」
『クリスマス・イヴ』も『STAY GOLD』も
ホントはアナログフィッシュでやりたかった
――その先行シングルの『クリスマス・イヴ』はサウンド的にも華やかで、王道のクリスマスソングと言っていいくらい徹底したサウンドメイクをしてるやん。ある種面白がってるとも言えるくらい。それこそ山下達郎のそれを彷彿とさせるというか。
「これはプロデューサーの仁さんのアイディアも結構入ってて。実はBPMもほぼ一緒なんですよね」
――アナログフィッシュの一連の作品を手がけてきた吉田仁さんも、よりアクセルを踏んでる感じがしたんやけど。
「もう50代半ばくらいの方なんですけど今の音楽も聴いてるし、知り合った頃はヴァンパイア・ウィークエンドとかを夢中になって聴いてて、本当に音楽が好きな人で。僕の人となりも分かってくれてるし、そのやり方を僕も知ってるから、安心して毎回毎回フルスイングで歌えるんで」
――クリスマスの特別な思い出ってある?
「10代とか20代前半とかは、華やかなイメージが全くなくて、だいたいクリスマスは1人で過ごしてて(笑)。でもやっぱり、ちょっと日常から離れて高揚する、そういう雰囲気はずっと昔から好きでしたね」
――孤独だけど、世間のムードは嫌いじゃないと(笑)。あのちょっとした高揚感は、音楽にも通じるかもね。ライブもそうやけど、日常ちょい脇の非日常というか。最初からソロ曲として書こうと思ったん?
「いや、最初はアナログフィッシュでやろうと思って作ったんです」
――それが何で佐々木健太郎になったんですかね?
「僕は『クリスマス・イヴ』も『STAY GOLD』(M-1)も、ホントはアナログフィッシュでやりたかった。でも、ここ2~3年のアナログフィッシュの流れって、下岡晃の確固たる世界観みたいなものがあるじゃないですか。僕もそういう見え方をアナログフィッシュではすごく意識してるし。当時は『NEWCLEAR』を出した後だったんで、次はどうしようかなっていうか、むしろ“アナログフィッシュをちゃんとやらなきゃ”ってずっと思ってて。でも同時に、その世界に入らない曲が増えてきて、それも動機の1つではありますね。周りの人が“ソロをやってみたら?”って言ってくれたタイミングとそれが重なったんで、じゃあ全部ソロでやっちゃおう!って。いざ始めてみたら新しいことがいっぱいで、本当にやってよかったなと思ってるんですけど」
――ヘンな話、その提案がなかったなら、いずれアナログフィッシュで発表していた?
「でも、晃の今思っている世界観とは違うから、結局は発表出来なかった可能性もすごくある。『STAY GOLD』が出来て、僕はすごくいいなと思ってバンドに持っていったんですけど、メロディはいいけど内容がパーソナルなことなので、それをアナログフィッシュとしてやるのはどうなんだって、1回ボツになったんで。そういうことがあるから難しいですよね。じゃあ僕はこれから何を歌えばいいのかっていうところでもあるし」
――じゃあやっぱりさ、ソロは渡りに船だったんだよ。その話がなかったら、『クリスマス・イヴ』も『STAY GOLD』もまだ人目に触れてなかったかもしれないわけだから。アナログフィッシュでは表現し切れないというか、ちょっと違うテイストのものがそれだけ溢れ出してきて、その収容場所というか…人から“ソロアルバム作りなさいよ”って言われるまで何も考えてなかった?
「そうですね…ホントにどうしようかなと思ってたんですけど(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「下岡の書く世界観って、本当にすごいと思っているんで。手前味噌ですけど、日本の若い層の中でも、すごいリリックを書くヤツだと思ってるんです。震災後に『抱きしめて』っていう曲をリリース出来たのは、アナログフィッシュとして胸を張っていいことだと思ってるし。やっぱり今のアナログフィッシュはそういう流れできてるから、そこで僕がどういうことを歌うのかを、今はすごく考えていて」
――それだけ下岡くんのことをソングライターとしてリスペクトするからこそ、もう1人のソングライターである自分は、何を表現するのかと。
「そうですね。それを超えるくらいのものがないとダメだなっていう気がしていて」
――そう考えるとやっぱり、アナログフィッシュのカウンターじゃないけど、それがあってのこのアルバムやね。
「そうですね、ホントに。今のアナログフィッシュがやろうと思ってる世界観では出せないこと…やっぱり僕は僕で、やりたいことがあるんですよね。やっぱり僕はソングライターなんですよ。ソロアルバムは、もう完全に自分のやりたいことを爆発させる場所ですね」
(2014年3月12日更新)
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