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「シンガーソングライターのシーンを作る」
愛とポップスを厳選焙煎した新作『それを愛と呼べる日が
来るとは思わなかったよ。』、渾身の弾き語りフェス『SSW14』
大柴広己の決意表明たるインタビュー&動画コメント

 ミュージシャンの誰もがブチ当たる挫折と葛藤を、日々を生きる全ての人に突き付けられる人生の岐路を、遠回りに遠回りを重ねた12年のミュージックライフを語った前作『BANK』における感動のインタビューは、彼を知っているリスナーはもちろん、現状を打破出来ずにいる同業のシンガーソングライターから、夢破れて二度目の夢を見るバンドマンまで、SNS上で大きな反響をもたらした。あれから1年。大柴広己は溢れる創作意欲もそのままに、ニューアルバム『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』を完成させた。今作には、前作におけるお金をテーマとした『BANK』、臓器提供をモチーフとした『ドナーソング』のように、センセーショナルな話題を提供する楽曲はないだろう。そこにあるのは、哀しみも喜びも経験という名のフィルターで丁寧にろ過した言葉の数々と、初めて楽器を手に取り何かが出来る気がしたあの日のように、瑞々しいバンドサウンドをしっかりと焼き付けた楽曲群だ。そして、そんな彼がよく口にする「シンガーソングライターのシーンを作る」という言葉を遂に具現化したのが、マイク一本の弾き語りフェスティバル『SSW14』だ。彼の志に賛同したのは、andymori解散後、初ライブにこの場所を選んだ小山田荘平をはじめ、大石昌良、井上ヤスオバーガー、石崎ひゅーい、岩崎慧(セカイイチ)、片平里菜etc、彼が1人1人現場を共にしてきた戦友=シンガーソングライターたち。彼はインタビューで、こう語る。「ヒットチャートの上位にシンガーソングライターがバンバン入ってくる時代が、また必ず来るって信じてた。でも、10年待って来ないんだったら、この先10年来ないなぁって思った。いつ来るか分からんのやったら、もうやるしかない。これは今やるタイミングなんやって」。音楽に生きる力をもらったのは、あなただけではない。大柴広己、職業シンガーソングライター。人生のピークは、いつ来るか分からない。

 
 
人が音楽に対しても疑うようになってるなって思った
 
 
――大反響を呼んだ、あのインタビューから。
 
「ね。早1年という。いろんなミュージシャンの涙を誘った(笑)」
 
――シンガーソングライターの生き字引のような。しかもね、順風満帆にいったバージョンじゃないヤツ(笑)。音楽人生12年ぐらいを振り返って。
 
「意外とシンガーソングライターよりも、バンドマンからものすごい反響もあって。初めてやもんね、あんな風にインタビューしてもらったりしたのが。そう考えたら俺、去年まで何してたんやっていう(笑)」
 
――(笑)。12年。12年です。
 
「ホンマやで。ようやく去年、CD屋さんにCDが並び出したんで(笑)」
 
――逆に言うとそれ以降、今年にかけてはまぁ動いてるよね。
 
「(主宰レーベル)ZOOLOGICALも軌道に乗ってきて、ヒグチアイのリリースもあったりして。だんだん実が付いて、だんだんだんだん花を咲かせ始めたなぁみたいな」
 
――前回のインタビューでも話したけど、4年ぐらい音源も出さずに引っ張り続けていたのが、『さよならミッドナイト』(‘12)『ソングトラベル』(‘12)をいざ出したら、去年は1年のブランクで『BANK』(‘13)、今年もまたニューアルバムと。音源制作に関してもすごいアクティブになったね。
 
「やっぱね、前回も話したけど、『さよならミッドナイト』『ソングトラベル』で全てを出し切ったのはデカかった。気持ちがいいぐらいね、過去との決別がちゃんと出来たから。それまではずっと自分のことを振り返ってばかりやったんやけど、今は自分の今の立場を冷静に見られるようになったのは、アレがすごく大きかった」
 
――だからこそ『BANK』が出来て、だからこそ『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』が出来た。
 
「『BANK』は自分のことから抜け出して、自分の周りのあることを歌うっていうのが1つのテーマだった。で、今はもう抜け出してる状態やから戻れへんやん!って(笑)。じゃあ次は、道を作っていかなアカンわけ。次はどういうアルバムにするのか、具体的に何を歌っていくのか、そういうことをずっと考えたここ1年みたいな」
 
――抜け出せた=ゴールではないもんね。もう抜け出し切っている今、今度はどこを向いて歩いて行くかが問われてる。そんな中で、このアルバムにどうやって照準が定まっていったのか。
 
「やっぱね、地方を廻っている内に、ちゃんと人の話を聞こうっていう技術がだんだんと…(笑)」
 
――アハハ!(笑) この年になってようやく。
 
「何かね、昔よりも随分と人と仲良くなるようになって。仲良くなったらね、人の本質とかをいろいろと聞けるようになったり。あと、世の中の流れとかもあってさ。例えば昔は、テレビに映るもの、ラジオから流れてくるものが=今流行ってる音楽っていうのがあったけど、今の人ってそんな風に音楽を聴いてへんやん」
 
――家にテレビやラジオがないとか、ザラにあるしね。
 
「ここ数年で人が“疑う”っていうことに対して自覚的になったというか…“テレビに映るものは、どうせ誰かが操作してるんでしょ?”とか、“広告やから出てるんでしょ?”とか、“正しいのかな? これってホントかな?”って、みんなが臆病になったと思うねん。もう不安で仕方がない」
 
――かつてないほど、何もかもちゃんとしてないんじゃないかって思っちゃうような、不安な世の中やもんね。人もそうやし、政治もそう。みんなそんなことを心配することなく生きてこれたのに、今はもう…考えざるを得ないことが、目に入り過ぎるよね。
 
「そう考えるとさ、人が音楽に対しても疑うようになってるなって思ったのよ。それは広告がどうとかじゃなくて、音楽の本質的なところを、もしかしたらみんな疑ってるんじゃないかなって。“音楽って、実はすごいことじゃないんじゃないか?”って。何となく自分もそういう気持ちになっていってる気がして、それもイヤやった」
 
――自分で歌っていながらも。
 
「そうそう。それこそ自分が好きやった70年代とかの音楽には、ちゃんと物事の本質を突いて、表現するっていうことに、ちゃんと責任を持ってモノを作ってたなぁって。そういう音楽に感動した自分がいたから、音楽を始めたし。やっぱりリスナーに音楽を疑って欲しくなかった。いろんなグチャグチャの中でまとめられてしまって、音楽さえも疑われてしまうのはイヤだった。だから自分はそういうところに対して、“ちゃんと音楽って素晴らしいんだよ”って思って欲しかったというかね」
 
 
いろんな人にダサイって言われるかもしれんけど
これは自分が感動したことやから、ホンマの気持ち
 
 
――今作のタイトル『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』に顕著なところだけど、このテーマにたどりついたきっかけはある?
 
「今年の1月ぐらいに、大阪の京橋のくっさい飲み屋で呑んでたとき(笑)、たまたま隣に座ったオジさんと仲良くなって。その人は給食の調理人らしくていろいろ話してたら、“1つだけ質問をしてもいいですか?”って言ってきて」
 
――何や、この髭モジャハット野郎はと(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) それが“あなたにパートナーがいたとして、その人が才色兼備、お金も身分も地位もあって、性格もいい。ありとあらゆるものが完璧。でも、それを補って余りある一番大切なことが愛だと思う。ズバリ愛とは何ですか?”みたいに聞かれて、俺は答えられへんかった。そしたら、“それは健康です”って言われたの。俺はもう衝撃で! この人は愛=健康だって言ってる。俺の中では全くなかった発想やけど(笑)、ビックリするぐらい納得して。それってホントに当たり前だからこそ、全然見えてなかったことだった。こんなことすらも俺は忘れていたのかって、ちょっとね、事件だったの、その日は(笑)」
 
――愛=健康って発想は、なかなかすぐには出てこないよね。
 
「ないない! “そこ!?”みたいな。それぐらいの衝撃だったの。でも、それにすごく感動してる自分がいて。こういうことを人に歌いたいなって。自分が涙するほど感動した音楽って、アホらしいほど愛をまっすぐに歌った歌やったなぁとすごく思って。もうこれは、愛をテーマにしたアルバムを作るしかないって思った。そこを疑ったら、もう終わりやなと思ったし。いろんな人にダサイって言われるかもしれんけど、これは自分が感動したことやから、ホンマの気持ちやから。これを作りたいと思った」
 
――だってまぁ、“ミュージシャンが愛を歌う”って、そうやって言葉だけ聞くと、まぁ普通のことというか。
 
「“2014年、愛を歌う”。ダッセェ~!みたいな(笑)」
 
――でも、大柴は廻り廻ってそこにたどり着いた。今回のアルバムって、ようやく過去も抜け出すとかも関係なく、フラットに作れたというか。
 
「そういうこと。だからタイトルが『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』。“それ!? ここにずっとあったやん!”みたいな」
 
――そんなテーマのせいか、今作はサウンド的にも突き抜けたものがあるよね。
 
「そうなのよ。だから、アルバムのテーマが見付かった時点ですぐレコーディングしたかった。『さよならミッドナイト』『ソングトラベル』はバンドでスタジオ録音、『BANK』はスタジオを使わずに、自分の家とかライブハウスを借りて、イレギュラーな場所で録音。何だかんだいろんなやり方でレコーディングが出来るようにはなってたからさ。今回は愛をテーマに作ろうってなったときに、まず家で録るのはないなと。アコギでしっとりと愛を歌うのも違う。やっぱりね、愛をバーン!と歌うときって、音がデカくて、いっせーのででドーン!ってやらないと、全然ダメだなと。もう自信満々で、大音量で、“LOVE!!!!”っていう状態を作らないと(笑)、誰も感動しないわと思って。それでも、レコーディング初日は一応ね、ひと通り機材を持ち込んでみんなでスタジオ・セッションして。でも、“明日からもうこいつは…持って帰るわ!”って、アコースティックギターは封印(笑)。全部エレキでいいよねって」
 
――だって、『ぬくもり』(M-5)は弾き語りやけど、エレキやもんね(笑)。
 
(一同笑)
 
「そうそう(笑)。ようやくバラードが来たかと思ったら、結局エレキやん!みたいな(笑)」
 
 
愛は周りを囲っているもので、その中身があって初めて愛なんやなぁって
 
 
――タイトル曲の『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』(M-2)の歌詞って、何となくなおぼろげなものじゃなくて、自分が愛しいと思ったり、愛を受けたことを実感してないと書けない言葉やなぁと。
 
「書けないよね。でも、もう健康すらも愛になるのなら、俺の作る歌は全部愛やんかって思った(笑)。愛って言葉に対して俺は、やわらかくなったから」
 
――それこそいろんな人と仲良くなれるようになったのも、その人の愛をキャッチ出来るアンテナが出来たのかも。
 
「そういうことなのよ! ずっと愛は本質にあるもんやと思ってたら、愛って全然本質じゃない。愛は周りを囲っているもので、その中身があって初めて愛なんやなぁって。俺はもう、何でも愛になると思った」
 
――だからこういう歌詞が書けるようになったんやなぁ。しかもこういう曲をアップテンポでやっちゃう(笑)。
 
「そうなんですよ、鋭い(笑)」
 
――この辺も、今回に制作におけるクリエイティブが油に乗ってる感じがするね。
 
「それは今のメンバーに出会ったのもデカいと思ってる。この編成自体も去年~一昨年ぐらいからやねんけど、この3人で初めてレコーディングしたのは自分の作品じゃなくて、ヒグチアイのレコーディング(笑)。オギノメリョウ(b)は『さよならミッドナイト』から、『BANK』でも弾いてるんだけど」
 
――もっと前からのイメージがあるけど、案外最近や。何か意外。
 
吉本ヒロ(ds)「出会ったときにはもう、『BANK』のレコーディングがほぼ終わってて。だからまだ2年経ってない。一緒にやろうぜって言われたのは、忘れもしない去年の1月6日で、“次ベース呼ぶわ”っていうのが26日(笑)」
 
――そうなんや(笑)。大柴はそれぞれのプレイヤーを観て、この組み合わせでやったらおもしろくなるじゃないかって思ったんやね。
 
「もう、この編成でやってなければ、このアルバムは出来てなかったと思う」
 
――大柴の今までのツテを使って、著名なプレイヤーとかバンドマンに弾いてもらうのも1つの手やし、その方が話題性も高くなる。でも、そうじゃなくて、愛を歌うときに、このコンボでやる良さはやっぱりあったよね。
 
「あるある。やっぱね、歌は最高の楽器やなって思うけど、ヒロはずっとボーカリストをやってたし、オギノメも歌えるし、そう考えたら、みんながちゃんと歌うことが出来る。何かみんながひと塊になって弾き語りしてる感じというか。この編成で俺はギターも弾いてるけど、今回はギターやベースやドラムがどうこうというよりは、単純に“歌がいいなぁ”って言ってもらえるアルバムになったと思う」
 
 
“愛”っていう重いテーマのはずなのに
アルバムを通して聴くとすごくライトに聴ける
 
 
――そういうドンとした愛があるからか、余裕も感じられるし、素晴らしいベースラインが鳴っている『WHY?』(M-4)でも、愛を歌い上げちゃえる今の状況というか。“死ぬまで 愛させて おくれよ”とか、言うか!?(笑)
 
(一同笑)
 
――さっき話に出た、エレキ弾き語りの『ぬくもり』も、“大切なのはぬくもり”と言い切れるところとかもね。
 
「俺、大切なのが“愛”だったら、超ダサイと思う。でも“ぬくもり”っていう言葉の外側にはちゃんと愛があって…何だろうね、コロッケみたいなね。衣=愛(笑)」
 
(一同笑)
 
――それこそ前回のインタビューで、『さよならミッドナイト』ぐらいまでは、人のために、君のためにって歌ってるけど、結局は自分のことを歌ってたからミスマッチだったっていう話もしたけど、今では本当に人を想い、歌えるようになったなぁと。
 
「だから、パッと聴き暑苦しく聴こえるかもしれないけど、実はものスゴくクールに歌い上げてて。『さよならミッドナイト』とか『ソングトラベル』は、想いが強過ぎていまだに聴けないぐらいで(苦笑)。そう考えたらこのアルバムは、車とかでもずっと聴けちゃうのよね」
 
――何かいい意味での“軽さ”があるというか、ライトな感じがするよね。
 
「そうそう! “愛”っていう重いテーマのはずなのに、アルバムを通して聴くとすごくライトに聴ける。尚かつ、今回のアルバムでは5分超えてる曲が1曲もない」
 
――前作では臓器提供をテーマにタブーに切り込む『ドナーソング』とかトピックになるような曲があって。今回はそういうセンセーショナルなものはないんだけど、敢えて取り上げるとするなら、『ミュージシャンと付き合っても』(M-6)かな(笑)。
 
「アハハハハ!(笑)  これは去年のplaneとのツアー中に、15分ぐらいで出来た曲で」
 
――それをコミカルかつシニカルに、歌謡のビートとロックンロールに乗せることで聴かせてしまうという。どうなんやろ? ミュージシャンと付き合うのはオススメ出来るんかな? 俺は出来ないと思うんやけどね(笑)。
 
「音楽いいなぁ、友達になりたいなぁっていうミュージシャンほど、ウンコみたいなヤツが多いからね(笑)」
 
――(笑)。まぁ、それもこれもこうやって笑い飛ばせちゃうっていうね。あと、前作にもありましたが、今回の『妄想疾患■(やみ)ガール』(M-7)は、ボカロPのれるりりへの提供曲のセルフカバーみたいな感じ?
 
「そうそう。こういう風にネジ曲がった愛の形が、れるりりの『地獄型人間動物園』っていうコンピレーションにたくさん入ってるんですけど」
 
――大柴も歌詞にあるようなこういうネットスラングを、ちゃんと使いこなすんやなぁ。
 
(一同笑)
 
オギノメ「そうなんですよね。しかもこれね、作ってるときにちょうど家に集まってたの覚えてる? 朝まで呑んでて、でも、その翌日にはちゃんとこんなのが出来てる。何やってんだ!?って(笑)」
 
――この曲はアーバンでエロな肌触りがおもしろくて、そんな中“「グレッチ」グーグル検索 ヒット お茶の水 YEAH YEAH“と、“「マーシャル」グーグル検索 ヒット 新大久保 YEAH YEAH”のくだりが、唐突な気がしたんやけど。
 
「この曲は“こじらせ女子”って呼ばれてるような人たちに向けて書いたんだけど、俺の中で統計を取ってみると、だいだいこじらせてる人に好きなミュージシャンを聞いたら、椎名林檎とかCoccoとか、鬼束ちひろが好きとか(笑)。だからこれはね、某椎名林檎のオマージュ(笑)。『丸の内サディスティック』の歌詞に、“グレッチで殴って(ぶって)”とか、“リッケン620頂戴 19万も持って居ない 御茶の水”とか出てくるんだけど、実際は新大久保でギターを買ったらしい、みたいな(笑)。そういう裏話を微妙に添えてね」
 
 
今回は、1曲1曲テーマがある感じじゃなくて
アルバム1枚で1つのピース
 
 
――『「 」(かぎかっこ)』(M-8)もね、多くを語らず繰り返し聴かせるミドルバラードで。
 
「アルバムの最後にどんな曲を入れようか話をしてて、たまたま携帯のメモ帳を見てたんですよね。そしたら、最初のフレーズが書いてあって(※とても悲しい出来事を 忘れたり慣れたりすることは きっとあなたがその日より しあわせになったということ)。これを見た瞬間に、このアルバムの最後のピースはこれやって思った。それをそのまますぐ曲にして、こんな曲やねんけどってメンバーに聴かせたら、“大柴くんこれ、今年の3月11日にTwitterでつぶやいてたヤツだよね?”って言われて。“え? そうなの!?”って。俺は覚えてなかったけどオギノメが覚えてて」
 
オギノメ「何か次のキーワードになるのかなぁと思って、ふぁぼっておいたんです」
 
――これこそ愛よね。3.11以降の不穏な世の中で、いかに前を向けるかという。
 
「『BANK』を出して以降、被災地とか東北に行くことが増えて、実際にこの曲を持ってこの間も宮古とか磐城とかに行ってきたの。もう全然響き方が変わって、すごくね、喜んでもらえたと思って」
 
――その顔を見て、自分の歌い方も変わる。ホントに音楽の循環というか、意味が深まっていくというか。
 
「自分がここに来る意味、自分がこの歌を書いた意味がちゃんとあったんやなって、確かられた気がする」
 
――でもね、結局この曲ではこのアルバムは終わらないという(笑)。『ありのまま』(M-9)って、“アナ雪”で話題沸騰のキーワードが(笑)。
 
(一同笑)
 
――最後の曲になるはずだった『「 」』の後にくるくらいだから、この曲にはちょっとドラマがあるよね?
 
「これはね1曲目の『ビューティフルライフ』のレコーディングのためにセッティングしてるときに…」
 
吉本「スタジオのスタッフの方がちょっと手間取って、まだレコーディングに入れる状態じゃないということで、少し時間が空いちゃって」
 
「そのときにギターを何となく弾いてたら、“アレ? ちょっと待って!”って。俺、レコーディングのときにいろんなテーマを探りながらスタジオに入るのよ。そのときに、全てが“愛”っていうテーマに向かっていく感覚があって。パッと弾いた瞬間にメロディが降ってきて、ものの15分くらいで形になっていく過程をエンジニアさんが見てて、“これはとんでもない曲が降りてくるかもしれない”って。それを一旦iPhoneで録って、スタジオで完成させて、じゃあ1回一緒に録ってみようかって言った、その一発目のテイクがこれ(笑)。だからクリックも聴いてないし、歌もそのままスタジオのブースの中で、普通にライブで使ってるようなマイクで」
 
吉本「だから重ね録りじゃないんですよ。これ奇跡的ですよ(笑)」
 
――マジック起きてるねぇ。
 
「今回は、例えば前作みたいに『ドナーソング』で臓器提供、『BANK』でお金とか1曲1曲テーマがある感じじゃなくて、アルバム1枚で1つのピースなのよ。“こういった曲を聴いてくれ”じゃなくて、“こういったアルバムを聴いてくれ”ってところなの。要は衣を作って、衣の中に何を入れるのか? コロッケを作ることはもう決定してるから(笑)。だからそこに何を入れるかっていうところで、一番肝になる最後の部分がこの曲で。“きみを愛してく”っていう言葉がここに入ったことが全てだと思うし、最後にビシッと“愛”という言葉を使ってるのもそういうことなの」
 
――あと、この曲が『SSW14』のテーマ曲的な、あの野音で歌ってる絵がすごい浮かんだ。多分、毎年これを最後にみんなで歌うようになるのかなとか(笑)。愛のことを歌ってはいるけど、もうホントに、シンガーソングライターとしてどう生きていくのかともイコールであるという。
 
「やっぱり俺は、シンガーソングライターの音楽に感動して生きてきたので。だから“一人きりの空を 突き破れ”っていうフレーズも入ってる。みんな1人だけど、そこから大きくなって、いろんな人が集まって…ちゃんと1人っていう言葉を入れたかったのよね」
 
 
これは俺が昔出たかったフェスなのよ。ずーっと思い描いていたフェスなのよ
こんなフェスがあったら出たいって思うフェスを、自分で作ろうと思った
 
 
――というわけで、10月26日(日)大阪城音楽堂では、シンガーソングライターによるマイク一本の弾き語りフェス『SSW14』が初開催されると。特設サイトには声明文もあって、“いまや全国に広がりを見せる大小さまざまな夏フェス。バンドにはそれぞれ大きなステージが用意されているのに、なぜ弾き語りというだけで小さいアコースティックステージに押し込まれるのかということが今までものすごく疑問でした”ってもう、このことは前回のインタビュー時には言ってて。そこから『SSW』は始まってたんやなぁって。しかもそれを誰もが知ってるシンガーソングライターではなく(笑)、大柴が始めるっていうのも、すごいことやと思いますけど。この構想はいつからあったん?
 
「もう10年以上前からずーっと。俺は、シンガーソングライターの音楽は、世界中に誇れるような、世の中を席巻する音楽やと思ってギターを始めたから。ヒットチャートの上位にシンガーソングライターがバンバン入ってくる時代が、また必ず来るって信じてた。でも、10年経っても来ないじゃない、残念ながら(笑)。10年待って来ないんだったら、この先10年来ないなぁって思った。いつかはこんなことしたいなっていうのはあったけど、いつ来るか分からんのやったら、もうやるしかない。これは今やるタイミングなんやって。弾き語りのみで素晴らしいミュージシャンを集めて、ここでやったら気持ちいいんじゃないかっていうステージを作ろうって。とりあえず、俺はヤルぞと(笑)」
 
――去年末のumeda AKASOのワンマンで開催が発表されてね。シーンの流れを待ってても、自分がいい時期にそれが起きるかも分からない。だから、やりたいことは自分でやりなさいと。
 
「そういうこと。俺はまだ世の中に出てない人間だと思うし、もっと諸先輩方がさ、そういうのをやってくれればいいわけよ。でも、絶対やらないじゃない?(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) まぁ先輩方も忙しいし、もう売れてるからね(笑)。
 
「でも、バンドシーンってさ、ちゃんとタッグを組むじゃない? お互いのことを認め合う文化があるというか。このバンドと仲良いってことは、多分このバンドも好きだろうとかいうのは、CDショップ的にも展開しやすいと思うし。でも、シンガーソングライターがそういう風にお店で展開されてるのをあんまり見たことがないし=人には全然伝わってないことなんやなって。バンドシーンにはそういうつながりみたいなものがあって、お互いのことを認め合えてるのに対して、シンガーソングライターはそうじゃない。シンガーソングライターにもそういう場所がないと、これは何も変われへんなって。それを作りたかったのもある」
 
――なるほどね。ちょっと前の大柴やったら、他人なんかそう簡単には認めなかったやろうになぁ(笑)。
 
「俺こそ、俺こそ、俺こそ!ってね(笑)」
 
――キャスティングの判断基準というか、どういうつながりで呼んでいったん?
 
「もちろん規模もそこそこ大きいし、出て欲しい友達もいっぱいいるけど、いろんな意味を含めた上で、本当に自分が“この人をこの場所で観てみたい”って思う人を、今年は呼んでいった感じかな」
 
――共演してない人もいる?
 
「意外にいる。でも、飲み友達だったりとか(笑)。ようやく一緒に出来るなぁ、然るべきステージを用意出来たなぁ、みたいなところはあるんだよね」
 
――サブステージもあって、こちらは前途有望なアーティストを、しかもTwitterで推薦も受け付けたり。そういうのも面白い試みよね。
 
「これもね、普通は自分で応募するじゃない? でも、シンガーソングライターって自分が好きな人たちばっかりやから(笑)、今回は他薦にしました。自分じゃ応募出来ない=推してもらわないといけない。そうすると、まず自分のことを上手く人に説明して、巻き込んでいかないといけない。そういう今まで自分になかったスキルをしっかり使ってもらうのもおもしろいと思ったし、実際に推される人もおもしろかったしね」
 
――今回決まってるラインナップと、何かエピソードはある?
 
「このイベントを企画するとき、去年の秋に『ぼくたちシンガーソングライターズ vol.1』っていうイベントをやって(※『MINAMI WHEEL 2013』の深夜帯にエクストライベントとして開催)。それに出てくれた大石昌良とかが、素晴らしいパフォーマンスをしたと。でも、盛り上がり過ぎて苦情が来たと(笑)」
 
――それによって、一番年長の井上ヤスオバーガーが、すごい明け方にアンプもマイクも使わずガチで生で歌わされるという事件が(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) でも、素晴らしかったじゃないですか。あのときに、“あ、もうこれはやろう”と思った。あのイベントがきっかけ。こんな素晴らしい音楽が、たかだか100人ぐらいしか聴いてないっていうのは、やっぱりちょっともったいないと。みんな感動してたしね」
 
――あのイベントはホント良かったよね。
 
「こんなにいいミュージシャンが集まってる場所が…そらやらなアカン!って思うじゃないですか。それに、そこが憧れられるステージにならないとダメだし。人って何かに憧れて事を始めたりするじゃない? 例えば、サマソニに出るっていっても、どのステージになるかも分からへん。イメージ出来る、分かりやすく目指せる目標みたいなものがあれば、人の意識なんて変わっていくと思うし。そういう憧れの場所っていうのがあればね」
 
――大石くんとバーガーは、言わば立会人よね。他にも、若手のニューカマーから(岩崎)慧(セカイイチ)くんみたいな旧友までと、幅広く出演して。あとは、遂に発表されましたが、小山田荘平(ex.andymori)くんも出てくれると。これはトピックよね。
 
「飲み友達なんですけどね(笑)。部屋で一緒に藤井フミヤとかを歌ったりはしてたけど(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) andymori解散後、最初のステージに『SSW14』を選んでくれたのは嬉しいよね。
 
「嬉しい。“大柴のイベントだったら出るよ”って言ってくれたんで。まぁこの日はとりあえず出演者全員素晴らしいから、いいフェスにはなると思う。あと、“私も、俺も出てみたい”って言うシンガーソングライターがすごいおったのよ。そういうのって、やっぱいいなぁって。乗っかろうとするにも、乗っかる舞台がないと始まらないからね」
 
――大柴は最初はそれを待ち続けたけど、結局その舞台を作っちゃうところまで来たね(笑)。
 
「だから、これは俺が昔出たかったフェスなのよ。ずーっと思い描いていたフェスなのよ。こんなフェスがあったら出たいって思うフェスを、自分で作ろうと思った。それも、周りに力強い仲間がいてくれたんで。俺1人じゃ出来なかったなぁって」
 
――そういういろんなピースが集まって出来た『SSW14』。いやぁ当日、晴れたらいいなぁ。
 
「晴れる晴れる!」
 
――これをやることで新たに見える景色もあるだろうし。動き出すかもね、シンガーソングライターのシーンが。
 
「あとはこれを毎年続けてね」
 
――どんな光景が生まれるのか、楽しみにしてます。それじゃ当日に!
 
「ありがとうございました~!」
 
 
Text by 聖槍爆裂奥“ボウイ”昌史



(2014年10月24日更新)


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Movie Comment

大柴広己からの動画コメントは
同席していたメンバーも交えて!

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Release

充実の6thアルバムは愛がテーマの
軽やかなグッドミュージック!

Album
『それを愛と呼べる日が
 来るとは思わなかったよ。』
発売中 2000円(税別)
ZOOLOCATION/Cloud Cuckoo Land inc.
ZLCT-1001

<収録曲>
01. ビューティフルライフ
02. それを愛と呼べる日が
来るとは思わなかったよ。
03. 好きになる↑嫌いになる↓
04. WHY?
05. ぬくもり
06. ミュージシャンとつきあっても
07. 妄想疾患■ガール
08. 「 」
09. ありのまま

Profile

おおしば・ひろき…’82 年8月27日生まれ、大阪府枚方市出身。印象的な天然パーマ、ハット、あごひげが特徴。ニックネームは“もじゃ”。 ‘06年アルバム『ミニスカート』でデビュー。卓越したギター、誰にも似ていない歌声、思わずドキッとさせられるセンセーショナルな歌詞を持ち味に、ギターと旅行鞄を携え1年の1/3を旅の中で過ごす、“旅するシンガーソングライター”。ニコニコ動画においても“もじゃ”という名前で活動しており、代表曲『さよならミッドナイト』『ドナーソング』『彼の彼女』『聖槍爆裂ボーイ』などの楽曲再生回数は500万回をゆうに超え、中でも『聖槍爆裂ボーイ』はオリコンウィークリーチャートで最高位2位を記録(りぶ『Riboot』収録)。現在までにアルバムは5枚発表されており、’13年に発売された5thアルバム『BANK』は自身で最高の売り上げを記録。近年では、ミュージシャンによるレーベルZOOLOGICALを主宰し、多数の作品を発表するなど、自身の活動と並行して、マルチな活動を行っている。

大柴広己 オフィシャルサイト
http://oshibab.wix.com/oshibahiroki


Live

主宰の弾き語りフェスがいよいよ開催
年明けには大阪ワンマンも!

『SSW14』
チケット発売中 Pコード230-883
▼10月26日(日)14:30
大阪城音楽堂
自由席3000円
【メインステージ出演】大柴広己/大石昌良/片平里菜/岩崎慧(セカイイチ)/近藤晃央/石崎ひゅーい/井上ヤスオバーガー/
ダイスケ/小山田壮平(ex.andymori)
【サブステージ出演】作人/谷口貴洋/
コレサワ/金木和也/徳久望/オカダユータ
/トミタショウゴ/SETA
DAICHU■090(6665)9255
※雨天決行。未就学児童は無料。但し保護者同伴に限り入場可能。小学生以上は有料。

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『大柴広己 6th Album「それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。」リリース
ツアーファイナルワンマンライブ~大阪~』
一般発売11月8日(土)
Pコード245-695
▼2015年1月23日(金)19:00
umeda AKASO
自由席3000円
umeda AKASO■06(7897)2454

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Column

ニコ生、さよならミッドナイト
お金、地方、音楽で食べていくこと
“旅するシンガーソングライター”
大柴広己の12年。音楽を信じ
音楽で夢を見る、大反響を呼んだ
前作『BANK』インタビュー