雪解けは、近い――ROTH BART BARON全国侵攻中!
話題の2人組がシーンに提示する美しきレベル・ミュージック
新作『ロットバルトバロンの氷河期』とバンドのストーリーを紐解く
ロングインタビュー&動画コメントが到着
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『化け物山と合唱団』(‘12)から、その予感は始まっていた。音楽に魅了された人間は時に、出会ったことのない感動に巡り合えたとき、希望にも似た何かを託そうとする。新世代の2人組バンド、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)の1stフルアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』は、きっと多くのリスナーにとってそうなるべく瑞々しい可能性ときっかけを秘めた1枚だ。神々しい歌声と幾層にも折り重なるコーラスワーク、壮大にしてファンタジックなサウンドスケープは、レベル=反骨のイズムを隠し味に世界中の様々な食材を咀嚼し、ここでしか食べられない料理をそっと差し出す極東の名店のように、時に頑なとまで言えるこだわりとストイックさで見事に調理されている。そこで、現在はこの注目作を携え全国を旅するROTH BART BARONの2人に、結成から彼らの音楽を形成するに至った歩みとアティチュード、そして、海外レコーディングを行った新作制作秘話に及ぶまでをインタビュー。出会って欲しい。日本が、いや世界中の人々が、この名店に行列を成す日はそう遠くないのかもしれない――。
小さな夢が叶う機会が増えてきて
そういう欠片みたいなものをちゃんと集めようと思ってます
――ROTH BART BARONの環境もこの1年で如実に変わってきたというか。
三船(vo&g)「すごいですね。もう毎週、毎日、目線が変わるというか」
中原(ds&key)「目まぐるしかった。目標がどんどん変わっていく」
――Twitterとかで検索しても、いちリスナーからメディアまで、いろんな人がロットに注目してくれてる感じが。
三船「それが感動してる余裕が意外となくて(笑)。今年頭にフィラデルフィアでレコーディングして帰ってきて、そこからまたアートワークとかをいろいろやって、全部の作業が地続きのまま、発売日にやっとそれが終わって。作ってる最中にコレはすごくいいぞって自信というか手応えみたいなものはあったけど、いざこうやって発売してみると、ジョージ・ルーカスも『スター・ウォーズ』の上映直後は布団に潜ってた、みたいな感じというか(笑)、不安になるのも少し分かるかなぁって」
――とは言え、みんな肯定的というか、ウェルカムなムードも嬉しいよね。
三船「もう褒められ慣れてないからビックリ(笑)。でも、僕らはもう5~6年やってるしずっと変わらないというか」
――ね。それは音源を聴いてホントに思った。今作は記念すべき1stアルバムやけど、この1年での劇的変化が刻まれた、とかではなく、あくまで2014年におけるロットの音楽というか。より知られるきっかけになっただけで。
中原「そう、地続きなんですよね。たまたま今回が1stアルバムで全国流通盤になったけど、今までやってきたことをちゃんと積み重ねてステップアップしていけた意識はあって」
――それこそ去年は何がバンドにとって大きかったと思う?
三船「前作『化け物山と合唱団』(‘12)を出したことが大きかった。去年はそれで気付いてくれる人が少しずつ増えていって、ライブに呼ばれるようになったり、僕らがずっと憧れていた
ドードーズの前座になれたり、少しずつ小さな夢が叶う機会が増えてきて、いろんないい人に出会えましたね」
――それも、ロットが良くも悪くも、この人が今勢いがあるから仲良くなっておこうとか、この人はフェスを仕切ってるからとか、シーンの重要人物だしっていうことじゃなく、ホントに純粋に音楽で繋がっていってるというか。
三船「そういう風にやろうと思えば出来ると思うけど、それで良い状況に立てて勘違いしたくないのはあります。ドードーズもそうだったけど、憧れのバンドのライブを観に行って“聴いてください”って言うのと、ちゃんと同じ目線に立ったときに“ずっと好きだったんだよ”って伝えて、同じステージで共演するのとは絶対的に違う。絶対にそっちの方が確信を持てる出会いだなぁと思いました。そういう欠片みたいなものをちゃんと集めようと思ってます」
音楽だったら何か出来るんじゃないかという予感が
多分どこかにあるんですよ
――ロットのバンドのスタンスって、いろいろあって痛い目にも遭って、30過ぎて俺たち気付きましたじゃなくて、もう今の段階で達観してる感じは何なんだろうっていう(笑)。
三船「たまに言われる(笑)」
中原「僕らはバンドを始めてすぐコンテストに残ったのもあって、いわゆる大人の人が初期から来てくれたんで」
三船「ライブハウスに出るのはめっちゃお金がかかると思ってたから。コンテストだとタダじゃないですか?(笑) 出始めて2回目ぐらいで、“君たちイイね”みたいになって」
――すごいなぁ!
中原「でも、結果的になかなか上手くいかなくて、去年からサポートに西池(key)さんに入ってもらってストレスなくやりたいことをやるようになってから、上手くいき出したんですよ。バンドを始めたのは決して早くないんですけど。むしろ遅い。大学を卒業するぐらいなんで」
――その辺のルーツの話だけど、2人が最初に出会ったのは中学時代のテニス部だということで…めっちゃテニス部っぽい! ポロシャツ似合いそう!(笑)
三船「アハハハ!(笑) でも、スクール・カーストでは、サッカー、野球で、テニス? 何それ? みたいな(笑)」
――高校、大学は別々?
中原「そうですね。高校時代もお互いに最初はテニスをやってたんですよ。で、練習試合で一緒になったり(笑)。僕はテニス部を引退するときに燃え尽きた感があって、また熱くなれるものを見付けるためにバンドを始めたんです。ただ熱くなりたいのがきっかけ(笑)」
――何でドラムに?
中原「もうそれは単純な理由ですよね。ギターボーカルがいて、ベースがいた(笑)。あと、幼稚園から高校受験前まではピアノを習ってて。家にアップライトピアノがあったんで、そこからは独学で自分の好きなショパンとかワルツを弾いてたんですよ」
――じゃあ素直に鍵盤で良かったんじゃ?(笑)
中原「まぁ当時組んだバンドがミッシェル(・ガン・エレファント)とかブランキー(・ジェット・シティ)とか、ガレージ/ハードロック寄りだったんですね。そこになかなかキーボードっていう概念がなくて」
――三船くんは、何で音楽に傾倒していくわけ?
三船「ビーチ・ボーイズとか、アメリカとか、ハンブル・パイとか、母が音楽好きだったのもあるし、小学校の頃に通っていた個人塾の先生が、いわゆるビートルズやストーンズが好きな人で、塾の壁一面にCDとレコードみたいな。レコードをかけながら授業とか、ギターを弾きながら授業とか(笑)。当時はゆずが流行ってて、クラスメイトがコード譜を持ってきて先生に教わってたりしてたから、僕もちょっと教えてもらって。でも、指が痛くなるからすぐに辞めちゃったんですけど。そこからはテニスをしばらくやってたんですけど、高校が合わなさ過ぎてだんだん行かなくなって(笑)。そのとき何もやることがないとヤバいと思ってギターを買って、レコードやCDを掘り始めて」
中原「その頃に偶然会ったことがあって。僕の高校にはテニスコートがないから、近くの広い公園に自転車で練習しに行ってたんですよ」
三船「会いたくなかったなぁ~あのときは(苦笑)。俺はもうニール・ヤングみたいな髪型してて(笑)」
――アハハハハ!(笑) 枝分かれになっていた2人がちゃんと再会したのは?
三船「共通の友だちとご飯を食べに行こうよっていうときに久々に会って、“俺も音楽やってて1人で宅録してるんだ、だからスタジオに入ろうよ”っていう流れで遊びに行くようになったんですよ。彼の家にはピアノもアコースティックギターもあるし、一緒にピクシーズのドキュメンタリーDVDを観たりとか(笑)」
中原「実家が一軒家だったんで、三船だけじゃなくて中学時代の同級生も僕の家に集まって、ちょこちょこ音楽を通して遊ぶようになって」
三船「バンドを組もう!というより、ゆるゆる遊ぶために音楽をやっていて。最初はトリプルギターで、下手だからみんな同じコードを弾くっていうすごいバンド(笑)」
――そこで最終的に残った2人、みたいな感じやったんやね。2人ともテニスをやってて、いざ再会したら両方音楽をやってたわけでしょ? おもしろいもんやね。
三船「でも、中学時代は2人でペアを組んで勝負していたわけじゃないですか。僕のせいで負けたとか、彼のせいで負けたとか、僕がケガをして出られないとか、すごく高揚したとか、この一球で勝てたとか、そういう経験を一緒にしてきたから、そのテンションがどこか残っていて(笑)。音楽をやるにもヘンに勝負事だと思ってる節がちょっとある。勝ち負けじゃないんだけど、今日サボっちゃったら負けるとか、ヘンにストイックなところが今でもある。あのときは良い結果を残せなかったけど、音楽だったら何か出来るんじゃないかという予感が、話し合ったことはないですけど、多分どこかにあるんですよ」
――アウトプットは文科系なのに流れる体育会系の血(笑)。
フィーリング、直感
そういう感覚は大事にしているというか、信用しているかもしれない
――ただ、ミッシェルだのゆずだのから、この音楽にはならないよね?(笑)
中原「ならない(笑)。だから彼を尊重している部分が当然あって。ハードロックだったりガレージはもちろん自分の根底にはあるし捨ててはいないんですけど、ロットに関しては彼が持っている土着的なフォーク・ミュージックに乗っかっている感じなんですよね」
三船「それに僕も自分の想定外のもの、自分が考える範疇の外から来るアイディアが落とし込まれたときに反応するし、それこそバンドの醍醐味というか。僕は結局、自分だけで音楽を作ることに満足出来ない、それじゃあ足りないって思ってる人間だから」
――やっぱりバンドに希望というか、マジックを見出してる。
三船「そうなんですよ。2人の間にあるものみたいな」
――ROTH BART BARONの名前の由来は、三船くんが幼稚園の催し物で演じた『白鳥の湖』のロット・バルト男爵だと。よくそんな昔のこと覚えてたね(笑)。
三船「他の子たちは2役2デイズだったのかな? でも、僕だけ悪役で代役がなくて(笑)」
――汚れ役を2日連続担当(笑)。それをバンド名を付けるときに、ふと思い出した?
三船「何か自分の中に残ってたんですよね。分かりにくい名前だし読めないとか散々言われてきたけど、
テレヴィジョンが来日していたときにトム・ヴァーレイン(vo&g)と話せて、“いい名前だ”って言ってもらえた(笑)」
――ロットって、ツテのないところに結構行くよね?(笑) フィラデルフィアでのレコーディングも、三船くんがスタジオを調べ倒して直接メールを送る、みたいな。
中原「僕らもバンドをやってて、全然知らない人でも直接メールくれて“一緒にやりたいんです”って言われたら、やっぱり嬉しいですから。その時点で知らなくても、やっぱり直接連絡をくれたら行動を起こしますよね、何かしら」
――『化け物山と合唱団』とそれ以降のライブにリアクションもあって、じゃあ次の作品を、それをしかも海外で録ろうよってなったのは、どういう流れで?
三船「『化け物山と合唱団』のツアーで京都に行ったときの帰りの車中で、自分の音楽に正直になった結果こうやっていろんな人が反応してくれているから、自分たちが作りたい音をちゃんと作ろうって話になって。“じゃあどこか海外に行ってみる?”みたいな話をしたら、もう驚く程盛り上がって、何かもうそこでアルバムが良くなる予感がしたんですよね。次の日からスタジオの候補をブワァ~ッ!って出して(笑)」
中原「そのときは今のレーベルも全然決まってなかったし、自費でもとにかくやりたいことをやろうみたいな」
三船「こう言っちゃ何だけど、人に何かしてもらおうとか思ってなかったし」
――でも、結構バンドって人に何かしてもらおうと思ってるよね。
中原「そうなんですよ!」
三船「割とね、何とかなる(笑)。お金で物を考えちゃいけない」
中原「お金で考えちゃうと、そこで制限するじゃないですか」
三船「だからもう先にメール送っちゃいましたもん。元手も何にもないのに(笑)。ダメだったらダメでいい、1泊でもいいじゃんとか、最悪ドラムだけ録れればとか、いろいろ大風呂敷を広げたんですよ。でも、それを広げ切れないまましまい込んじゃう人が多過ぎるから。自分たちもそういう経験があるし、まずは広げ切ってみようっていう」
――ロットは“これはいいレコーディングになりそうだ”とか“ワクワクする”とか、そういうプリミティブな衝動をすごく大事にするね。
三船「自分の中で何か…胸が震えるじゃないけど、魂で感じ取る部分には正直かもしれない。そこでピンときて、ポーン!と先が見えるフィーリング、直感。そういう感覚は大事にしているというか、信用しているかもしれない。奥さん(=筆者)とかもそうだけど、最初に会った瞬間にだいたい“あ、この人は良いな”って何となく分かるんですよ。“この人とは長いな”とかね」
(2014年5月28日更新)
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