雪解けは、近い――ROTH BART BARON全国侵攻中!
話題の2人組がシーンに提示する美しきレベル・ミュージック
新作『ロットバルトバロンの氷河期』とバンドのストーリーを紐解く
ロングインタビュー&動画コメントが到着
(2/2)
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万人が良いと言わなくても
僕たちが良いと思う音を探せばいいんじゃないか?って
――とは言え、海外レコーディングの実現までには、1年かかったんやね。
中原「結局、最後まで払える見込みがつかなくて、“今ちょっとレーベルが決まりそうで…”とか濁しつつ(笑)」
三船「あと、日程もなかなかハマらなくて…僕らの最終日にはもう、次のキャロルっていうエレクトロポップバンドが北部からホンダの車でガーンッ!て乗り付けてましたから。人が寝てるのにドラムバカバカ叩きやがって(笑)」
――向こうで実際にレコーディングしてみてどうでした?
三船「音楽に対する接し方は、確かにちょっと違う感覚があって。向こうのバンドって、家で演奏するからドラムセットもアンプも持ってて、隣家との間隔も広いし、音楽をやることが身近で、日常の中にある。日本だとやっぱりエイッてステップを踏まないとバンドってなかなかやれないし、ちょっと特殊なことじゃないですか」
――スタジオに行かなきゃリハも出来ないもんね。
三船「もうその時点で違う。以前から日本のスタジオの内装とか蛍光灯のあの感じとか、そういう感覚をCDに、レコードに落とし込みしたくないなって思ってたんですよ。1時間オーバーしたら幾ら取られるとか、ホントはイヤなのにエンジニアさんのスケジュールがあるからこのテイクで決めなきゃいけないとか、ドンドン視野が狭くなっちゃって、そういうことまで残っちゃうレコードに後悔があって。だったら自宅で録った方がいいってずっと思ってた。あとはドラムの録り音で気に食わないところが日本ではあったし、外国に行ったことがなくていい加減妄想ばかり膨らませてたんで(笑)、そろそろ実際に体験してみようと思って。やっぱり音楽がすごく身近にある国の人たちだから、良くも悪くもカジュアルなんですよ。僕が今録ってるのに、エンジニアがスタジオの切れた電球を換えてたり(笑)。あと、“良い音”の基準って、実はないんじゃないか?っていうか…結局、自分たちが良いか悪いかでしかなくて。万人が良いと言わなくても、僕たちが良いと思う音を探せばいいんじゃないか?って気付いたときにすごく楽になったし。僕らが好きな外国のミュージシャンたちは、決して日本で売れる種類の音楽をやってるわけじゃないけど、向こうでは裕福ではないにしろツアーを廻れて、ライブが出来てるから。あとは何より楽しそうだなって。そういう姿には背中を押してもらった感はありますね」
――せっかく音楽をやってるのに、楽しくないのは単純にイヤよね。
三船「そうなんですよ。自由なはずなのに何でこんな窮屈な想いをしなきゃいけないんだ?っていつも思ってたし」
――向こうでライブもやってみてどうでした?
中原「まず、環境が全く違う。設備は全然充実してないんですよ。ドラムはあるけどシンバルは消耗品だから自分で持ってこいと。アンプも基本は自分でっていうスタンスなんですよ。その代わり出演したらギャラは渡すぞって」
三船「ノルマもないしね」
中原「場所と環境は提供するから、コレをどう活かすかは自分次第みたいなスタンス。そういう環境で育った人たちは、全然違うんですよ」
三船「お前らバンドでしょ? ライブで商売してんでしょ? みたいなことをポンッと突き付けられた感じ。向こうの人たちはサウンドチェックですら、“アーアーアー、声出るな。OK”みたいな(笑)。リハーサルがしたいなら早く来てもらってもいいけど…みたいな(笑)。いざ本番が始まって、もうちょっとモニターで自分の声を聴きたいなぁと思って、PAに“上げてくれ~”って言ったら呑みに行っちゃっててその場にいなかったり(笑)」
――アハハハハ!(笑)
中原「その代わり、入場料も6ドルとかそんなもんで、言わばBARありきのライブ会場なんですよ。このエリアより先はお金を払ったら入れるよ、みたいな」
――生活の中における音楽の立ち位置が全然違う。
三船「週末に呑みに行けば何かやってるっていう、そういうライフスタイルなんですよね。社交場感がすごくある。日本の居酒屋で言う流しが近いかもしれないです。スタンス、価値観の違い。どっちが良い悪いじゃなくて、体験しておいて良かったなぁと」
僕は日本で生まれて、日本で育ったから、日本語で歌うのが自然
――あと、ロットが引き合いに出されるアーティストは圧倒的に海外のミュージシャンが多いし、音的に英詞でも違和感はないと思うけど、日本語詞であるのには何かある?
三船「ビョークとかもそうですけど、ものすごいアイスランド訛りで歌うじゃないですか。何の恥ずかし気もなく歌ってるその感じが、逆にちょっと神秘的だったりする。だったら、日本語ってすごく可能性があると思うんですよね。日本人が歌う英詞でも“これが新しい日本のワールドワイドな音楽だ”って言えるんだったらいいけど、胸を張れてる人ってあんまりいないよなぁと思ったり。ファッションっぽいと、英語を母国語にしてる人たちに対してちょっと失礼だなぁって思っちゃうんですよ。英語で歌うんだったらちゃんと英語圏のことを知りたいし」
――さすがMr.ストイック(笑)。
中原「あと、彼が作ったメロディを僕らがちょっと口ずさもうとしてみると、実はなかなか難しいんですよ。こんなところに言葉をはめるんだって。僕が思う日本人の平均的な感性とはちょっと違うというか。彼は携帯とかで写真もよく撮ってるけど、目線がちょっと日本人離れしてるというか、ヘンな感覚があるなぁとは思っていて。自然にやってることだとは思うんですけど、彼が平均値を取るやり方は、違うなって」
三船「自分のこの身体と喉を通して伝えられるものだったら何語でもいいと思う。だけど、僕は日本で生まれて、日本で育ったから、日本語で歌うのが自然だし。逆に、“(この音楽性で)日本語で歌ってるからすごい”って言ってくれる人もたまにいるけど、そもそもそこはあんまりこだわるところじゃないんじゃないか?と思っちゃったり。でも、僕のルーツというか何となく好きなのは、昭和初期とか大正の小学校唱歌で、滝廉太郎の隅田川の歌(=『花』)とか。日本の節回しって結構長いから、そういうところはどことなく影響を受けているかもしれない。小学校とか幼稚園の頃から歌うことは好きだったし。中学校ぐらいになると合唱ってみんな恥ずかしがるけど、僕は友達と“ガンガン歌っていこうぜ”みたいな謎の同盟を組んでて、卒業アルバムでもすごく褒められてました(笑)」
――ファルセット、コーラス、三船くんは歌唱法も独特だとよく言われるやろうね。
三船「昔から声がデカいくせに高いから、パートも高音域をやらされたりして。でも、自分の話し声は好きじゃなくて、もうちょっと低い声になりたいなぁと思ってたんですよ。ニール・ヤングとか全然カッコいいし、このヘロヘロなのがいいじゃんって思えるようになったとき、“あ、僕も歌っていいんだ”ってちょっと思えたというか(笑)」
――音楽がいろんなことをGOしてくれてるよね。お前の声でOK、日本語でOK、ワクワクすればOKなんだよって。
三船「そうなんですよね。洋楽っぽいとか言われるけど、自分の音楽のことをこれこそ日本の音だと思ってるんですよね。極めて真っ当なことをやってるつもりなんです」
音楽を作っていて良い悪いの判断を他人に任せちゃったりすると
絶対にしっぺ返しが来るんですよ
――あと根本的に思うのが、ロットには反骨のイズムをすごく感じるのよね。音楽からも、人からも感じる。“そう簡単にお前の思い通りにはならねぇぞ”じゃないけど、それは何か意識的なものなのか、自分の性格からくるものなのか。『氷河期#2(Monster)』(M-2)の、“僕らに託された望みは/全部叶えてやるもんか”とか、『氷河期#3(Twenty four eyes / alumite)』(M-3)の““救い”なんていらないんだよ”とかもそうだけど、当たり前に享受される事象に疑念を抱くところ。この世のイエス/ノーに対し鵜呑みにせず、1回自分で考えてから決めるというか。
中原「それはありますね。周りに流されない。自分の中にダムがあって、まず自分でせき止めるというか」
三船「まぁ面倒くさいヤツなんですよね(笑)。でも、嘘はつかないようにしたい。音楽では」
――三船くんは“自分が思っていることに素直でいようとするスタンスがすごくある”と。
三船「自分にとって思わしくないことに相槌を打って流してしまったとき、そのしっぺ返しが絶対に自分に降りかかってくるんだろうなって、多分本能的に感じてる。逆にそういう荷物を降ろしてみたら、もっと楽に生きられて楽しいかもしれないな。でも多分、まだしばらくはこの感じが続くと思う(笑)」
――何なんだろうね。何のレーダーが働いてるんだろう?
三船「まぁでも僕はドロップアウトして、無敵神話だった大人たちの世界がある種瓦解したんで」
――レールに乗れてたらOK、じゃないことを突き付けられたわけやもんね。
三船「そういう生き方も当然あると思うし、そうやって周りの8~9割ぐらいの人間たちが正攻法で進んでいく中で、期待に沿って生きられなかったコンプレックスは絶対にあるし。でも、音楽もそうだけど、いろんなところにいろんなことをやってる人がいていいはずなのに、何でこんな後悔してるんだろうとか、悲しいんだろうとか、意外と楽しいんだろうとか思うと、確かにそういうところはあるかもしれない。自分が良いか悪いかの嗅覚でしかないというか、元々そういうところはあったんですよね。結局、最後はそこなんだって。音楽を作っていて良い悪いの判断を他人に任せちゃったりすると、絶対にしっぺ返しが来るんですよ。ヘンに体当たりで真面目過ぎるんだと思うけど、自分が苦しまないための工夫が、これしかないんです」
戦わない美徳がもしかしたら新しいスタイルなのかもしれないけど
健康的にひっくり返せれば楽しい
――今のシーンや時代に対して思うところはある? 『帰還(Cheap Fall)』(M-7)の“今夜、僕らこの夢から覚めてしまおう”もそうだし、『春と灰(Ashspring)』(M-4)の“ねえ僕ら後どれだけの時間を生きていられるだろう?/どれだけの時間を耐えて行けるだろう”とか、“氷河期”という言葉自体そうかもしれないけど。
三船「ロックミュージックって元来僕らぐらいの世代のもので、それを大人たちが煙たがって理解出来ないのが伝統だとしたら、割と今はおじさまの方が元気で(笑)。今の僕らの世代ってみんないいヤツで、シャイで、不器用で、どんくさい。エネルギーはあるんだけど出し方が分からなかったり、出したところで大して効果は及ばないのをちょっと分かっちゃうというか。戦わない美徳がもしかしたら新しいスタイルなのかもしれないけど、健康的にひっくり返せれば楽しいなって、今は思ってますけどね」
――そもそも万人に好かれる音楽なんてないしね。
三船「そうなんですよ。僕らが19~20ぐらいでバンドをやり始めたときって、魔法とかを題材に映画も作れたけど、今は魔法が使えないというか、ファンタジーが書けないじゃないですか。目に見えないものを信じる余裕がないのは感じますよね。元々1つの石にも魂があると言うような民族が、ここまで形のないものを信じられなくなる時代があるのかと。超現実主義。形あるもの、目に見えるもの、お金で買えるものの価値が高い。心の豊かさがないところに、みんなちょっと疲れてる気もするし。最新のスマートフォンを持ってるのに、何でそんなに表情暗いの?って」
――そういう意味でもね、今回は“レベル・ミュージック”だと思った(レベル=反逆の意)。時代に対する疑問点とかも含めて、自分たちの音楽を鳴らしながらそういう機能を果たしている感じがする。あと、アルバムの最後の『オフィーリア(Ophelia)』(M-9)だけ、ちょっと違う肌触りを感じたんやけど。
三船「コレは一発録りなんですよ。ちょっとミスとかもあるけど、ホントにいいテイクで録れたからコレしかないねって。ヘンな音ですよね?(笑) ただ最初からみんなの要望として、寒いときに外に出て手がかじかんじゃって、ストーブに手をかざしたらあったか冷たい、あのジーンとした感じをやりたい、みたいな話をしていて(笑)。本当に山小屋でストーブを焚きながらせーので録ったんですけど、何とも不思議な、あの場所あの時間じゃなかったら録れなかった曲になりましたね」
――この曲では明確に色恋のことを書いてるけど、何やねん! 素直になれや!って思っちゃったけど(笑)。“僕は君と恋になど落ちるもんか”って、また捻くれてる(笑)。
三船「もうどうしようもない男ですね(笑)。じゃあもうちょっと、次のアルバムでは素直に。捻くれ過ぎて真っ直ぐになるかもしれない(笑)」
国境を越えることを苦にせずいろんな場所で演奏したいし
レコーディングもしたい。今度はあったかいところにも行きたい(笑)
――今回のアルバムには、何かが始まる躍動感とか高揚感、1stアルバムという高ぶりがちゃんとあるよね。
三船「ちゃんと血が通ってますよね。このワクワク感、高ぶり感…すごくいいライブをしたときって、全身の毛穴がブワァーッ!!って開く感じがあるんですよ。そういう感覚にちょっと近いかも。あと、今回はいろんな出会いもあって。同じスタジオで偶然出会ったバンドが、“ホームパーティーで演奏するから来てよ”って言うから行ってみたら、都会のド真ん中に4階建てぐらいの家があるようなスーパーお金持ちのお嬢様で」
中原「バスルームが4 つ(笑)」
――スゲェ!(笑)
三船「到底向こうでしか観られないような、カントリー/ブルーグラスのものすごいテクニックの2人組が演奏してたり、お母さんの手作りケーキを食べたりして。もう普通の旅行じゃ絶対に経験出来ない(笑)。ホントにそういう意味ではいいタイミングだったのかなぁ。行くべくして行ったというか」
――ロットの今後の野望として、自分たちのスタジオ作って、それこそ海外からレコーディングしに来るぐらいになって欲しいとも言ってましたね。
中原「まぁ環境さえ整えば、日本の方が楽じゃないですか(笑)」
――ロットはD.I.Yの姿勢がずっとあるよね。自分たちでやるんだっていう。
三船「ウェブサイトからロゴ、ジャケットもアートワークも、一応全部僕たちが作ってますからね。凝り性なんですよね。やりたがりじゃないけど、自分たちの手の届く範囲のことは、ちゃんと僕らで目を通して作りたい。自分たちが手に持って楽しいものを作り続けたいなぁって」
――ちなみに、写真を手がけるカメラマンの池上諭さんとはどういう関係?
三船「大学の同級生で、僕に写真を教えてくれたりしていて。彼は山に登りながら写真を撮るんですけど、『化け物山と合唱団』のジャケットもそうで。今回も一緒にレコーディングついてきて撮ってもらったりして。暇な日にはメトロの端の駅までずっと歩いてたりしてましたけど(笑)。“1人で向き合う時間”みたいな切り取り方がすごく好きで、いつもピンとくる写真を撮ってくれる。素晴らしいですね」
――ちゃんと出会ってきてるよね、ロットは。
三船「ホントに恵まれてる。バンドをやってて良かったなって思える瞬間が、1つ1ついいタイミングで摑めてきたから今まで続いたと思うし。いろんな国に行けたり、いろんな国のバンドと一緒に演奏して、今ではタイとかドイツとかスウェーデン、フランス、イギリスとかに“来てくれよ”って言ってくれる人たちがいる。レコーディングを機に運良くアメリカに行けてツアーも廻れたけど、国境を越えることを苦にせずいろんな場所で演奏したいし、レコーディングもしたい。今度はあったかいところにも行きたい(笑)」
――やることがまだまだあるね(笑)。リリースツアーでも変わるやろうし。楽しみ。
三船「このアルバムがせっかくこうやって日本全国で買えるようになって、どういうことになるのかをしばらく見守りながら、日本中を廻りたいなぁと思ってます!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年5月28日更新)
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