“あなたの一番大事なものは何ですか?”
タイムレスなゼロ年代フレーバーが心地よく身体を蝕む
SCARLETの3年ぶりのアルバム『Addicted to Love』!
林束紗(vo&b)インタビュー&動画コメント
浅井健一、レミオロメンの藤巻亮太らのサポート・ベーシストとしても活躍中の林束紗(vo&b)、橋本洋介(vo&g)、宗村ツトム(ds)による3ピースバンド、SCARLET。’11年に結成10周年を迎え新たなスタートをきった彼らが、オリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなる3rdアルバム『Addicted to Love』を昨年12月にリリースした。メランコリックなメロディと浮遊系ツインボーカルで描き出すビートナンバーの数々は、どこか懐かしいゼロ年代のロックフレーバーを醸し出す。決して多作とは言えないリリース、あくまでマイペースな活動は、シーンの流れとはまるで別のスピードで時を刻んでいる。そこで現在は、同作のリリースに伴う全国ツアー『SCARLET Tour 2013 “LOVE ADDICTION”』の真っ只中にいるSCARLETの紅一点、林束紗にインタビュー。職業病とも言える腱鞘炎のため、SCARLETと並行して動いていたHINTO、THE GIRLから脱退。バンドの内側と外側を最も知る彼女が、SCARLETの12年で見た景色とは? 強い主張なくともいつの間にかリスナーを仕留める、恐るべきサイレント・スナイパーの本領発揮の1枚が導くストーリー。インタビューは自ずと、彼女にとって、バンドにとって一番大事なものを浮かび上がらせることとなった。
林束紗(vo&b)からのうっとり動画コメントはコチラ!
――’11年に結成10周年を迎えて、今ってすごくマイペースに活動してるじゃないですか。その中で、オリジナルアルバムを作ろうというモチベーションってどうやったら出てくるんですか?
「多分、逆にモチベーションがなかったから3年も空いちゃって。作品として残すというよりも、“何か新しい曲やりたいね”“こんな曲出来たよ”みたいな中で、やっとアルバム分の曲が溜まるのに3年かかったっていう感じで(笑)」
――ゆったりやな~。このままいくと次も3年後でしょ、だって(笑)。
「そうですよ~(笑)。次回はちゃんとしたいなと思ってます(笑)」
――まぁでもこの3年の間に10周年のベスト盤とかもあって。何かしら自分たちのやってきたことを振り返る時期だったと思いますけど、何か思うことはありました?
「それこそ’04年に1枚目のアルバムを出して、次の年にもう次を出して。あの頃はスゴい頻繁に作ってたんだな~って思ったのと(笑)、当時は結構お金かけてもらっていろいろやってたのに、全然そのありがたさが分かってなかったなって。そこに若さを感じました(笑)」
――今の時代、インディペンデントでやるようになってそういうことに気付かされてね。でも、音楽的な印象としては変わらないというか、ブレないものも同時に感じたんじゃないですか?
「曲の感じとか3人のクセとか、好きな雰囲気は全然変わらないな~って思いますね」
――今回のアルバムを聴いたときに、こういうゼロ年代前半感みたいな音って、今はあんまりないなと思ったんですよね。ひたすらマイペースにやり続けてきたSCARLETが、あの時代のあの空気をそのままアップデートしていて。かえって新鮮に聴こえましたね。隙間も割とあるし。
「ありがとうございます。打ち込みを入れることもなく、メンバーが増えることもなく10年以上経ったので。そこはちょっとゆとりが出来た感じがしますね。“隙間埋めなきゃ!”みたいな感覚はなくなった」
――その“間”がこのアルバムではすごく機能してるなと。この3人での久々のレコーディングはどうでしたか?
「これが意外とすんなりいって。エンジニアさんとの相性もすごく良かったし、スタジオの音の鳴りも良くて。この3年の間にライブで演奏していたのが結構大きくて、3回くらい演奏すればOKテイクが録れる。昔は7~8回録ってたので、レコーディングってこんなに疲れるものなのかと思ってたんですけど(笑)。3人の意識が共通してあると、すんなりいくもんだなって」
――久々に新譜を録るのって、テンション上がったりするもんですか?
「私は他のバンドもサポートもやってたり、レコーディングもやってたりでしたけど、ツトムくん(=宗村(ds))と洋ちゃん(=橋本(vo&g))は本当に久しぶりのレコーディングだから、口では言わないけどスゴい張り切ってる感じが伝わってきて、かわいいなって(笑)。それこそデビューしたての頃は、もうちょっとこういう曲が欲しいとか、この曲はこの部分をこうして欲しいみたいな注文をつける人がいたから、何となく不本意ながら形にしていたような部分があったんです。でも、メジャーを離れたら離れたで、最初に自分たちで作ったときは、とにかくどれだけコストを抑えられるかみたいになって、ちょっと妥協しちゃった部分もあって。今回はいろんな面でようやく、自分たちの納得のいくフルアルバムが録れましたね。誰にも何も言われずに、メンバーだけで曲を選んで、3人ともがとにかく自然なプレイをして、無理をしない曲ばかり。自分たちにスッと入ってきて、ライブでも演奏したいと思えるような曲。どうせ3年出してないんだから、好きなことやってよくない?みたいな(笑)」
――前作と変えようとか、こういう時代の空気だからとかも関係なく、自分たちが本当にやりたいものを。
「どうせここまでマイペースな活動をしてきてるんだし、マイペースながら解散することもなさそうだし(笑)、続ける方向でやろうみたいな空気がすごくあって。続けるってどういうことかなって思ったら、無理なくやることかなって。好きなことをやる。10周年を越えて、そういう方向になった気がします」
――やっぱり同じ時代に活動していたバンドも解散もするし、脱退もするしっていう中で。
「同期のバンドはほとんどがスゴく売れたか、解散したかなんですよ。SCARLETはメンバー間でも結構“うちら奇跡的だよね”って言ってます。“売れてもいないのにこんだけやってるってスゴくない?”みたいな(笑)」
「そうそうそう(笑)。だからイマヤスさんもすごくかわいがってくれるんですよ、SCARLETのことを(笑)。ここまできたら“続ける”っていうことをバンドのカラーにするしかないなって」
SCARLETを辞めるっていう選択肢は全くなかった
――ちなみに、今までに解散の危機はなかったんですか?
「解散の危機は…なかったですね」
――大概がみんな音楽活動と仕事を並行してやっていて、その仕事の都合とか、家族が出来たら家族の都合とか。それは仕方のないことですけど、物理的に続けられなくなったりすることも多いのに珍しいですよね。
「本当にお恥ずかしい話なんですけど、今3人とも東京で実家暮らしなんですよ。それが多分スゴく大きくて(笑)」
――ライナーノーツに東京生まれ東京育ちで田舎がないっていうくだりがありましたけど、その利点が(笑)。あと、メンバーみんなのテンションが同じなんでしょうね。もっとSCARLETを世に知らしめたい性急な野心がある人と、マイペースでいこうよっていう人がいたら、また足並みが崩れるし。
「私だけ8年くらい実家を出てたんですけど、その頃はバイトでスーパーのレジ打ちをしていて。レジのリーダーみたいなのが女子大生で、私はもう24~25とかだったのにその娘にめっちゃいじめられてて(笑)。それで“もうこんな生活辞めたい、もっとSCARLETで売れようよ、頑張ろうよ”って2人にスゴい訴えかけてた時期もあったんです。そしたらそのガツガツした感じが周りにも伝わったのか、浅井健一さんのサポートの仕事の話がきて、いじめられてるバイトも辞めて(笑)。だから、苦労するのも必要だなとは思いますね」
――そもそも浅井さんから声がかかったのは何でだったんですか?
「SCARLETが昔いた事務所の方がブランキー周りの仕事を手伝ってて、浅井さんのマネージャーさんともスゴく仲良しで。“女の娘のベースを探してるんだよね”“イメージと全然違うと思うけど心当たりが1人いるから、一応ライブ観に来たら?”みたいなやりとりがあって、たまたまその日のライブが結構ロックな感じで出来のいいライブだったんですよ。それで、“1回浅井健一とリハ入ってもらえませんか?”“浅井健一ってあのブランキーの人!?”みたいな(笑)」
――サポートすること自体にも慣れてないのに、最初の現場がそんなにデカかったら普通に緊張しますね(笑)。とは言え、今はいちベーシストとしても活躍していて。自分のバンドだけでは見えなかった世界というか。印象的な経験はありますか?
「全部印象的ですけど、初めて浅井健一さんのサポートで外のお仕事をして、“バンドって根本的に一緒なんだな”ってスゴく思ったんですよ。ブランキーみたいなすごいバンドをやって、SHARBETSとかJUDEとかもやって、今はソロになって。サポートメンバーということで私たちは呼ばれてるけど、結局浅井さんはバンドで音を出すことがスゴく好きな人で。ソロ名義なのに、一番最初のライブからサポートの立ち位置をちょっと後ろにズラすのとかをスゴい嫌がったんですよ。ちゃんとバンドとして見てくれているんだなって。あと、浅井さんはめちゃくちゃ練習する人なんです。とにかくずーっとギターを弾いてるし、もちろんツアーのホテルにもギターを持ち込む。そういうのを洋ちゃんに押し付けた時期があって。“全然頑張ってない”みたいなことをワーワー言った時期はありましたね」
――浅井さんがやってるのに何でやらねぇんだ!みたいな(笑)。その歯がゆさはなくなったんですか?
「その後、いろんなお仕事をさせて頂いて、2010年からはHINTOとかTHE GIRLっていうバンドも組んで発散のしどころがあったから、SCARLETにワーってなることもなくバランスよくやれてて。そしたらSCARLETの2人は、“束紗はSCARLETがなくてもいいんじゃないの!?”みたいな」
――そうですよね。周りから見ていたらそうなるんじゃないか、っていうのは。
「3年間アルバムも出してなかったし、それで若干2人が寂しそうだなっていうのを感じて。そうこうしてる内に私が腱鞘炎になっちゃって、ちょっと活動を減らさないとキツいな、ベースが弾けなくなったら嫌だなって。でも、そのときにSCARLETを辞めるっていう選択肢はなかったんです。“SCARLETと、あとは何をしよう?”って考えた。そのときに、“あぁ私はSCARLETが一番大事なんだな”って自分の中で気付いて」
――そのときに“SCARLETを辞める”っていう選択肢も当然あるわけですからね。
「あるし、何なら一番活動もゆったりしてる。簡単に言うと、売れてなくてお金にならないバンドだし、SCARLETを辞めるのが本当は一番…(笑)」
――アハハハハ!(笑) 今となっては錚々たる人たちのサポートをしていて、プレイヤーとして生きていくのも1つの道だし、パーマネントなバンドとして選ぶのも、勢いで言ったら他のバンドの方がある。その中でもやっぱりSCARLETを選んだ。束紗さんにとって思った以上に大事なバンドだったというか、絆があるんだなって思いました。
「ね。私も自分で思いました。そうなったときに」
――迷わなかったんですか?
「全く迷わずに。SCARLETは最悪“ちょっと手が痛いから今日はリハを休ませて”とかも言える。でも、他のバンドに対しては良くも悪くもそういうことを言えるとは思えないし。SCARLETを辞めるという選択肢はゼロでしたね」
――それはスゴいことですね。
「何かね。今喋ってて思いました(笑)」
――2人がこのインタビューを読んだとき、“おっ”って思うだろうな~。“何か…あれ…読んだよ”、みたいな(笑)。
「アハハ!(笑) でも言わなさそう~(笑)。言うかな~。スゴい優しかったりしたら、読んだんだなって思おう(笑)」
長く続けていると、人の縁ってスゴく面白いなと思う
――サポートや他のバンド活動の経験ってSCARLETに、自分にどう返ってきてます?
「浅井さんのサポートが決まったとき、言ってもベースを始めてまだ4~5年とかだったんですよ。本当に下手だし、最初は私でいいのかなって不安で。でも、“お前は見た目がカッコいいし、プレイスタイルがいいからいいんだよ”みたいに自信をつけてくれて。じゃあちょっと勢いだけじゃなくて、上手くなろうと思ってめちゃくちゃ練習しましたね。それで見てくれる人も増えて、SCARLETを知ってくれる人も増えた。あれから5~6年経ってるのに、今でも“浅井さんのライブで観たんです”って言ってくれる人も多くて。私が今ベースを続けられてるのって、浅井さんのサポートがあったからだなって、スゴく思ってます。でも、浅井さんのサポートをすることになったきっかけはやっぱりSCARLETだから。結局、自分の原点はSCARLETだし、全部SCARLETから始まってる。だから、SCARLETだけは辞める気がしないというか。SCARLETを辞めるときは音楽を辞めるときかな、みたいな」
――めっちゃキレイやん!
「アハハ!(笑)」
――それだけ続いてる3人に運命に近い“何か”があるんでしょうね。普通続かないと思いますから、やっぱり。
「そうなんですよね」
――あと、橋本さんのブログでも、“悪く言えば時間をゆっくりと使い過ぎてきたバンドです。よく言えば誰かの体調、気持ちに歩調を合わせてきたバンドです”とあって。これはスゴく今のSCARLETを表わしているなと。年月を重ねる良さも、今は感じてるんじゃないですか。
「あ~それはありますね。長く続けていると、人の縁ってスゴく面白いなと思う。8年ぶりにこうやって直接インタビューしてもらってるのもそうだし」
――巡り巡ってまた会うもんですねって。お互い辞めてなかったから。
「それが面白くて辞められないっていうのもありますね。あと、メンバーがお互いを思いやるようになったと思う」
――思いやりって大事ですよね。今はそれに尽きる気がします。それがあんまりない時代だと思うから。
「相手が優しくしてくれるとこっちも優しくしたくなる。でも昔はそれが頭では分かっていても出来なかったなぁって。それがちゃんと出来るようになってきた気がします」
これを機に“活動してるよ!”っていうところを
見せ付けなくちゃって思いましたね(笑)
――今回のアルバムのタイトル『Addicted to Love』は、今まで話を聞いてきた風通しのいい作風とは一転、パンチのあるタイトルに思えるんですけど。
「これは、歌詞に“おぼれる”っていう単語がよく出てきているような気がして。恋愛の曲が多いし、アルバム自体はサラッと聴けるから、それくらい重いタイトルを付けちゃっても、タイトルなんて記号みたいなもんだからいいんじゃない?って。実際に3人とも、曲とかアルバムのタイトルに全然こだわりがなくて、デビュー時の4曲入りCDも『scarlet EP』だし(笑)」
――アルバムが出来たとき、達成感みたいなものはありました?
「サポートや違うバンドで活動していて会った人たちに、“SCARLETって、まだやってるんだね”って言われることが本当に多かったので、これを機に“活動してるよ!”っていうところを見せ付けなくちゃって思いましたね(笑)。“活動休止中なの?”“あまり活動してないけど、休止はしてないです”みたいな(笑)」
――休止したこともないんですよね。
「ないんですよ、実は」
――スゴいわ。メンバーも変わらず、休止もせず。
「だから活動してるアピールをこれからはしていこうっていう低い目標です(笑)」
――今回のツアーに向けてはどうですか? SCARLETとしてのライブは。
「1本1本をスゴく大事に思うようになりましたね。昔も思っていたとは思うんですけど、ダメな日といい日の差が結構激しくて。最近はステージに立ってみて、もし“今日ダメかも”と思っても、気持ちで負けたら絶対にお客さんにも見えちゃうし、そしたらそのお客さんは2度とSCARLETのライブを観に来てくれないかもしれないと思うと、出来ることをやろうって気持ちになって。バンドって誰か1人がスゴい頑張ってたりすると、“よし俺も頑張ろう!”みたいになってくるんです。その逆もあるし。私が“ダメだ~っ!”と思っても、ツトムくんとか洋ちゃんが負けないように頑張ってると、私も負けてる場合じゃないって思える。最近は本当にライブも自然体でやれるようになってきました」
――今のSCARLETは3人が本当に気持ちよく、音楽にフラットに向き合える場所というか。でも、もうちょっとがっついて欲しい気もしますけど(笑)。
「ハハハハ!(笑) ね~ホントですよね」
――変わらないのかな、このペースは。いつかそうなるときが来るのだろうか(笑)。
「私も常々そう思いながら(笑)。でも確か5年前くらいに、私が“SCARLETで売れたい。2人にもっと頑張って欲しい”みたいなことをワーワー言ってたら、洋ちゃんが“辞めたい”って言ったことが1回だけありました(笑)」
――コワいよ~!(笑) ガラスのハートを持ってる。
「アハハハ!(笑) 多分そのときの私の言い方とかも悪かっただろうから。私がうまい具合にお尻を叩ければいいんだろうなって。最近、当時マネージャー的なことをしてくれていた人とまた会うようになったんですけど、“こんなに続くと思わなかった”って言われて。“でしょ!?”みたいな(笑)」
――じゃあ次は3年後にならないことを期待しつつ(笑)。
「ホントに!(笑)」
――本日はありがとうございました~!
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年4月 9日更新)
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