「クラシック音楽は時代の中でどうあるべきかを考えながら」
若きマエストロが語るオーケストラと作品
指揮者・角田鋼亮、大阪フィル定期演奏会デビュー
(2/2)
◆大阪フィルは“ツボ”を見つけて鳴らす快感がすごくあるオーケストラなんです ー 角田
■前半にコルンゴルトの協奏曲が置かれていますが、このあたりにプログラムの妙が感じられます。
角田:以前から、いずれマーラーの1番をやるんだったら前半はこのヴァイオリン協奏曲をやりたいというアイディアがありました。こういうプログラミングは私にとっては仕事であり、趣味でもあり、アイディアを活かせる機会を常に探っているんです。この曲はアルマ・マーラーに献呈されているということとか、それから今はチェコ領ですけど、マーラーとコルンゴルトがオーストリア帝国の出身だとか、ニ長調つながりだとか、そういったところに面白さを感じて選びました。コルンゴルトは今年生誕120周年、没後60周年の作曲家で、もともとウィーンで活躍していたんですけれども、この作品はその時代の空気とか香りとかをすごく漂わせていて、さらに映画音楽で磨かれた色彩の豊かさとか音の艶やかさみたいなものがオーケストレーションに感じられます。全体的に美しい詩的な夢を見ているような作品です。
■近年、非常に取り上げられる機会が増えて来ている作曲家、作品ですね。
角田:もともと評価が高かった作曲家ではあるんです。マーラーは彼の9歳くらいのカンタータを聴いて「大天才だ!」って絶賛していますし、ツェムリンスキーも「神童だ!」って称賛している。ウィーン時代には20代で『死の都』という私も大好きな素晴らしいオペラを作曲しています。ところがそのあと、彼の作品が演奏されない時代が来てしまって、世の中から忘れられていたんですけど、その間、アメリカに亡命して映画音楽を書いていました。最近になってジョン・ウィリアムス(注②)がコルンゴルトからものすごい影響を受けているっていうことがわかってきて、そこからまた注目されて来たという流れがあるんです。個人的にはこのコンチェルトの、第2楽章の「ロマンツェ」とタイトルがついているところが非常に好きで、ソロのヴァイオリンの使い方が素晴らしい。ヴァイオリンの重心が高いんですよね。
■「重心が高い」とは…?
角田:漂っていているような、夢を見ているようなふわふわした世界なんです。音域でいうとピッコロが演奏しているような音域をフルートとかの温かみとかオーボエの艶やかさで演奏しなきゃいけない難しさがあるんですね。その高い音域がとげとげしくなったり、キンキンしては絶対にいけないんです。そうした美しい世界がどういう風に竹澤恭子さんと一緒に創れるか、楽しみにしています。
■竹澤さんとは初めての共演ですか?
角田:初めてです。でも彼女は愛知県大府市出身の方で、私も名古屋市がもともとの出身で、小さいころから憧れのような方でしたから。今回ご一緒できるのが本当にうれしいです。
■これは答えにくい質問かも知れないんですが、大阪フィルを振っていて「自分はもっとこう振りたいんだ」っていうような欲求が出てくることはありませんか?
角田:もちろんあります。大阪フィルは良くも…多分、いい点なんですけども(笑)。個性が強いので、「指揮がしやすいオーケストラ」とは言えないと思います。「私がこうやります」っていう思いを単純に100パーセントぶつけても、うまくいくとは思えないので。でもそれは決して悪いことではなくて、オーケストラとアイディアとかイメージを共有しながらいかに自分もぶつけつつ、お互いに昇華できるかっていうところがいつも問われているんだと思います。私自身の側を変化させていっている部分も、もちろんあります。
■そこはお互いに実践を重ねながら、ですか?
角田:そうですね。例えば同じプログラムで何回も演奏会があるような時もありまして、その時は自分自身もそのあたりの指揮の仕方を微妙に変化させながら、こういう場合だとこうなる、いうのをいろいろと試しながら指揮をしています。同じプログラムが続く時には、劇的に変えるってことはないんですが、手首の1センチ、1ミリの動きとかの違いでやっぱり音が変わりますので。
■変わるものですか?その違いを実感できるほど。
角田:それはオーケストラがすごいんだと思うんです。指揮の違いをを感覚的に感じているわけですから。意識的には捉えられていないほどの差かも知れないですが、確実に音としては変わるので、どこかにここを押すとこうなるっていう、大阪フィルの”ツボ”というものがあるんですね。ただ大阪フィルの場合、個性がすごく強いので、そのツボが最初はちょっと見えないっていうところがあるんです。だけどそこを押したら本当に全部がひとつの塊になってすごい音になるっていうツボなので、それを見つけて「ここだ!」ってやる快感がすごくあるオーケストラだと思います。そのあたりを去年と今年、たくさんの演奏会で経験させていただいて来たので、1月の定期演奏会でいい形で見せられるといいなと思っています。
■ご自身の近い将来のビジョンをどのように描いていますか。
角田:私が尊敬している指揮者に、クラウディオ・アバドと、サイモン・ラトルのふたりがいます。ふたりともベルリンフィルの監督を務めた方で、アバドはもう亡くなりましたが、音楽を音楽で聴かせるっていうよりも、社会とか文化の中で音楽がどうあるべきかということがまず根底にあり、オーケストラのあるべきイメージを明確にもって活動されている方たちなんです。私も「自分の音楽はこうです」ってやることはもちろんいいんですけども、今は時代の中でクラシック音楽はどうあるべきかということを絶えず考えながら、やっていきたいと思っています。もう少し自分が経験を積んで余裕が出てきたら、そういったところに、意識を置いて活動していきたいなっていうのが大きな夢と課題としてある感じです。あとはオペラ作品をもっともっと、採り上げていきたいと思っていますね。
■今お話をうかがって、それこそ『死の都』の指揮など期待したくなりました。今回はその第1歩ですね。
角田:大好きなオペラです。そうなれるように、がんばります。
〔取材・文・写真:逢坂聖也/ぴあ 大阪市西成区岸里 大阪フィルハーモニー会館にて〕
注①:アルマ・マーラー(1879-1964) マーラー夫人。マーラーとアルマの結婚は1902年3月9日。
注②:ジョン・ウィリアムズ(1932-) アメリカの作曲家、指揮者『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』シリーズなど、大作映画の音楽を数多く手がけたことで知られる。
(2017年12月 7日更新)
Check