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「クラシック音楽は時代の中でどうあるべきかを考えながら」
若きマエストロが語るオーケストラと作品
指揮者・角田鋼亮、大阪フィル定期演奏会デビュー (1/2)

2016年4月、大阪フィルハーモニー交響楽団指揮者に就任した角田鋼亮。以来、ソワレ・シンフォニーVol.8、Vol.9や大阪4大オーケストラの響宴〔2017〕ほか、数々のステージに登場してきた彼が’18年1月18日(木)、19日(金)に行われる第514回定期演奏会でいよいよ定期演奏会デビューを果たす。プログラムはマーラーの交響曲第1番『巨人』とコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。19世紀末から20世紀中葉の爛熟の時代の雰囲気に溢れた選曲である。そこにはまた、第3回マーラー指揮コンクール、ファイナリスト〔2010〕でもある角田のマーラーへのこだわりも滲む。大阪フィル初の定期に臨む抱負、3年目を迎えるオーケストラとの関係ほかを、若きマエストロに聞いた。

◆マーラーの作品は知れば知るほど、彼の私小説に見えてくる ー 角田

■大阪フィル指揮者就任のあとに一度お話を聞く機会があって、その時に後期ロマン派がご自身の一番追求したい音楽だとおっしゃっていたのが記憶に残っています。
 
角田:そうですね。作曲家でいうとブラームス、ワーグナーからマーラー、リヒャルト・シュトラウスあたり。このあたりの大曲をきちんと緻密に構築していくっていうことが非常に好きだし、作品に同化できる感じがすごくあります。これが例えばモーツァルトとかバッハとか指揮をする時には、もうちょっと客観的な造形や様式感を重視しなきゃいけないので、”没入”っていう感じにはならないんですが、後期ロマン派になると向こうもすごく自我をもった作品だし、そこに自分を投影させていかないと音楽に説得力が出てこないので、意識的に自分がその作品の中に入っていくっていう姿勢を作りますし、それを見せようと思っています。ですので、もしかしたらそういう作品が今の自分には合っているのかも知れないです。
 
■そうすると今回の定期はまさに後期ロマン派の円熟期。角田さんにとって得意な作品を持っての定期デビューとなりますね。
 
角田いや、自分で得意とは申し上げにくいです(笑)。ですがこれは本当に指揮者とオーケストラが時間をかけて練り上げて、お客さまに提供する演奏会ですから、それぞれの真価が問われる演奏会ですよね。指揮者人生の全てをかけて取り組むべき演奏会だと思っているので、非常に気合が入っているところです。プログラムさせていただいたマーラーとコルンゴルトの時代はオーケストラの可能性が広がっていった時代で、スコアを読み解く面白さっていうのがすごくあるんですよ。事細かにいろんな情報がスコアの中に書き込まれていて、これが本当に複雑な謎解きのようでもあるし、特にマーラーの場合は背景を知れば知るほど彼の私小説、自伝的な風にも見えてくるんですね。一方でとても絵画的でもあって、本当にこのシーンは森の情景を見ているような、絵画的な雰囲気もあります。
 
■絵画的というのはどういうところが?
 
角田:例えばここは〔スコアの第1楽章冒頭を見ながら〕澄み切った夜のシーンから始まるんですけど、激動の感情をぶつけたような“作品全体の見た目”とは全然違いますよね。うっすらとした感じがあって、遠くにうごめくものがこのあたりにあって、耳を澄ましてみるとトランペットのファンファーレが遠くから聴こえてきて、カッコーが鳴いて。それが私には絵のように見えるんです。例えばここには地面があってとか、動物が出て来てとか、そういったようにもこのスコアが読み取れます。『第1番』は失恋体験が基になっている作品でもあるんですけども、そこから受けたマーラーの心の動きとかが見て取れます。それから細かな情報ですね。文字情報がいろいろありまして、それも指揮者によってどういうふうに解釈するのかが非常に変わってくるんです。
 
■マーラーの場合は、しつこいくらいに指示を書いてあると聞いたことがあります。
 
角田:そうなんです。でもしつこいくらいに書いてあるのもいろんな受け取り方があって、例えば「そんなに速すぎず」ってドイツ語では書いてあるんですね。速くなくなるのか、それともある程度速いんだけれども行き過ぎないように、なのか、その文字ひとつの読み取り方によっても結構指揮者によって差が出ると思うので、そのあたりをどのように創っていくか、練りこんでいくかというのがすごくおもしろい作曲家です。
 
■失恋の体験とおっしゃいましたけど、アルマ(注①)との結婚前ですね?
 
角田:そうです。それまで3人の女性といろいろあったんですが「第1番」に関係してくるのは主にカッセル州立歌劇場のヨハンナ・リヒターという歌手ですね。歌曲集『さすらう若人の歌』などにも影響を与えた女性ですが、彼女との失恋体験が大きなもとになっています。マーラーという作曲家は自分を隠さずに外側にさらけ出すことのできた作曲家で、楽譜を読み込めば読み込むほど、驚くようなことが書いてあります。後の作品になると例えばアルマの不倫現場を目にした、その時の気持ちがスコアにあるところもありますし、自分の気持ちとか、あったこととかを赤裸々に告白しています。誇張ではなく、彼としては本当に全力で、自分の気持ちを全部スコアに書き記していると思うし、そういった姿勢には私たちも見習うところがあるのかなと思いますね。
 
■マーラーの場合、あとの方に行けば行くほどその赤裸々なものが煮詰まった形で出て来る感じがするんですが、第1番の場合は聴いていると若々しさがあるというか、まださわやかな感じがありますね。
 
角田:そうですね。方向性がひとつですよね。ベートーヴェン的ですけど、苦悩から歓喜に向かうとか、いろいろな気持ちを背負いながらも未来を目指していくとか、そういった方向性があります。後期になるとそれが“そこに救いはない”とか“やっぱり最終的には死というものが待っている”とか、行き場のない思いに立ち戻る感じが出てくるんですが。この作品は1896年にベルリンで4楽章の交響曲第1番として初演されています。この時マーラーは36歳。実は私は今37歳になったばかりなんです。
 
■現在の角田さんと共振するようなところもある?
 
角田:そうなんです。やはり彼がベルリンで大勝負に出て「交響曲第1番」と銘打って初演したということと、私は初めて大阪フィル、大阪という地で定期演奏会を持つっていうところとを重ね合わせた、っていうとおこがましいんですけど、でもそういったところに近いものを感じて、採り上げたというのが選曲の理由のひとつなんです。
 
   ⇒大阪フィルは“ツボ”を見つけて鳴らす快感がすごくある… ー 角田(次のページへ)



(2017年12月 7日更新)


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大阪フィルハーモニー交響楽団
〈第514回定期演奏会〉

指揮:角田鋼亮


ヴァイオリン:竹澤恭子 photo Tetsuro Takai


大阪フィルハーモニー交響楽団(C)飯島隆

●2018年1月18日(木)・19日(金)
19:00 フェスティバルホール

A席-6000円 
B席-5000円 C席-4000円
Pコード 333-996 チケット発売中

【プログラム】
コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲
           ニ長調 作品35
マーラー:交響曲第1番 ニ長調『巨人』

【問い合わせ】
大阪フィル・チケットセンター
■06-6656-4890


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