インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 【コラム】 ドキュメンタリーが嘘をつく?  『トットてれび』から『FAKE』まで、 リアルとフィクションの関係性を探る

【コラム】
ドキュメンタリーが嘘をつく? 
『トットてれび』から『FAKE』まで、
リアルとフィクションの関係性を探る

満島ひかりが、黒柳徹子を演じているテレビドラマ『トットてれび』(NHK総合)の第1話で、こんなやりとりがあった。笠置シズ子が主演するミュージカル仕立てのテレビドラマで、通行人役を務めることになった徹子。だが、すんなり通り過ぎようにも、歌っている笠置シズ子が気になって仕方がない。溜まらずカットがかかり、局のディレクターは「テレビジョンというのは“普通”に…!」と注意すると、徹子は「カメラの前で女の人が歌っていたら、誰だって立ち止まって見てしまうでしょ」と返す。時代は、テレビ草創期の昭和28年。徹子はそのとき、テレビが演出する嘘の世界と、自分が暮らしている現実の世界の違いが分からず、混乱していたのだ。
 
それから64年が経った2016年、森達也監督の映画『FAKE』が公開された。いわゆる「ゴーストライター騒動」の張本人・佐村河内守氏に密着したドキュメンタリー作品だ。「手がけてきた数々の作曲は、実は新垣隆氏によるものだった」という長年の嘘がばれて、さらに自身が抱える難聴障害も疑わるようになった。本作で、テレビ番組関係者が、佐村河内氏の自宅を訪れ、特番に出演して欲しいと頼み込んでくる場面がある。時の人である佐村河内氏を番組に担ぎ出せば、高視聴率は間違いない。「難聴であることなど、佐村河内さんの口から本当のことを語って欲しい」とテレビマンたちは何度も頭を下げる。だが出演を拒否すると、後日、手のひらを返すように、その番組は佐村河内氏をコキおろす内容をオンエアしたのだ。
 
世間の興味をひくためには、本音だけではなく、嘘や方便もたれる。もちろんそれは、佐村河内氏本人にも当てはまったことである。森監督は、佐村河内氏に「彼らには信念や想いが全然ないんです。(番組に)出てきた人をどう使って、おもしろくなるか。それしか考えていない」と言う。だがテレビマンたちにとっては、それが課せられた仕事であり、番組を作る上での“真実”である。テレビはいくらでも嘘をつく。何より、森監督自身も、劇中で佐村河内氏にかける言葉の数々が、本音かどうか怪しいものである。
 
オーストラリア人監督が、「ヘルシー」とされる健康食品の中に大量の砂糖が含まれており、それを食べ続ける危険性について、自らの身体で証明する映画『あまくない砂糖の話』(2016年6月18日公開)。健康的な飲み物として知られるスムージーの中には34杯分の砂糖が使用されているものもあり、食生活にまつわる嘘と本当が映しだされている。なぜそんな嘘をつくのか。糖尿病などの患者が増えれば、製薬メーカーや医者が儲かる。その癒着で、食品会社も巨額を手にすることができる。
 
すべてがそうとは言えないが、しかしこういったシステムは海外に限らず、どこにでも転がっている話である。テレビがそのあたりをあまり報道できないのは、CMなどのスポンサーが関連し、つっこむにつっこめないゾーンだからだ。“現実”という薄皮を一枚はがせば、何を信用すれば良いのか分からないドロドロの社会が広がっている。そんな風に思わせるドキュメンタリーである。
 
かつて森達也作品の影響を受けていた、松江哲明監督のテレビドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京系列)は、「ドキュメンタリー=リアル」という一般的な思い込みを手玉に取った作品だ。ドキュメンタリーと言っても、映画やテレビである限り、そこには構成や粗筋があらかじめ用意され、撮影された映像は見やすくするために編集が行われる。他者の手が必ず加わる。そもそもカメラがそこにある時点で、すべてが“リアル”ではないのだ。『その「おこだわり」』は、松岡茉優、伊藤沙莉が、さまざまな人たちのこだわりをナビゲートする、バラエティー番組風の物語。だが、そういった嘘から溢れ出る“本当の部分”に毎週驚かされる。
 
特に第3話では、伊藤が、ゲストの漫画家・大橋裕之と良いムードになり、カラオケボックスの中で熱烈なキスをする。それを目の前で見た松岡は、思わず身体を背けて、手で顔を覆う。しかしこのとき、視聴者の誰もが松岡と同じような反応をとったのではないだろうか。正直、このドラマはユルい。しかし、誤摩化さずにガッツリとキスをする伊藤と大橋。しかも、大橋は俳優ではなく、漫画家だ。TwitterなどSNSでは伊藤ファンの憤る声もあった。さらにその次の回で、手を繋いでロケ現場にやってくる伊藤と大橋の姿には、妙な生々しさがあって不気味だった。塗り固められた嘘の中からあぶり出されるリアルは、視聴者を本気にさせる。
 
私たちの目に触れるテレビや映画は、ドキュメンタリーであっても多くの嘘をついている。だからこそ楽しめるし、また、すべてを信用せずに、疑問の目を持って世の中を見渡す必要性も感じる。ただ一つ言えることは、観る人の目に「これは本当のことなんだ」と焼き付いたならば、その人の世界の中ではそれが“真実”になる。
 
 
Text:田辺ユウキ
 



(2016年6月16日更新)


Check

『FAKE』

©2016「Fake」製作委員会

●第七藝術劇場にて上映中、6月18日(土)より、神戸アートビレッジセンター、7月2日(土)より、京都シネマにて公開

【公式サイト】
http://www.fakemovie.jp/

★『FAKE』森達也監督インタビュー
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2016-06/fake.html


『あまくない砂糖の話』

©2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

▼6月18日(土)より第七藝術劇場、7月23日(土)より神戸アートビレッジセンター、以降、京都みなみ会館にて公開

【公式サイト】
http://amakunai-sugar.com