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「どんな話かと聞かれると、悲しい男たちの話だと答えています」
両手両足を無くしたヤクザを主人公に、裏社会でもがく人間たちの
姿を描く衝撃作『木屋町DARUMA』榊英雄監督インタビュー

 過激な内容がタブー視され、大手出版社が軒並み刊行を拒絶したという、丸野裕行の同名発禁小説を『捨てがたき人々』等の映画監督で俳優の榊英雄がメガホンをとり映画化。子分が起こしたトラブルにより、両手両足を無くしたヤクザの男を主人公に、裏社会でもがく人間たちの壮絶な生き様を描く。ハンディキャップを背負い車椅子で凄む強烈な演技を披露するのは怪優・遠藤憲一。ほかにも、三浦誠巳や寺島進、武田梨奈、木下ほうから強烈な個性のぶつかり合いにも注目だ。そこで、榊英雄監督に話を訊いた。

――以前、『捨てがたき人々』のときにさせていただいたインタビューで、榊監督は作品ごとにテイストが変わるというお話をさせていただいたんですが、その理由として「そのときに興味のある題材を撮っていったらバラつきが出ただけ」とお答えいただきましたが、『木屋町DARUMA』とは、どのように出会われたんですか?
2013年の正月ごろだったか、丸野くんがいくつか小説を書いてるけど、なかなか出版できないもんだから「自分で会社を立ち上げて電子書籍化しました」とFacebookに書いているのを見て、その小説を読んでみたら面白かったので「面白かったよ!」ってコメントして。
 
――ということは以前からのお知り合いですか?
いえ。もともと面識はなかったんですけど、渡辺謙さんと高橋克典さんが主演を務めた『新・仁義なき戦い/謀殺』(2003年/橋本一監督)に、ぼくも俳優として出演していて、それに対して詳しくておもしろい評論的なコメントをたまたまいただいたのをきっかけにFacebook上でつながっていて。彼は京都在住なので、ぼくが撮影で大阪と京都に行くタイミングにでも1回会おうかという話になって大阪で会ったんです。それで、「映像が目に浮かぶし面白かったよ。出版が難しいなら映画化して現状を打破したらどう?」ってちょっとたきつけたんです(笑)。丸野くんは「いやぁ映画なんて…」と言っていましたが、「やろうよ! ぼくも協力するし!」って。それが始まりです。
 
――榊監督は原作を読んだ時点で映画化したいと思われたということですね?
もちろん、原作を「面白い!」と思ったからご本人とお会いしました。そこからはお互いが動いて、プロデューサー兼監督みたいなことをして。今回は木下ほうかさんがキャスティングプロデューサーをしてくださったので、少しずつチームのメンバーを増やしながら進めていきました。奇遇な出会いですよね。
 
――原作を読んで「面白い」と思ったポイントはどの辺りでしたか?
両手両足のない男が債権の取立てをしている、という設定の時点でまず惹かれました。「昭和30~40年代に実際そういう人を見た」という方の話を聞いて、丸野くんは小説の題材にしたようです。なので、実話に近い部分もあるかもしれないですね。それに昔の東映ヤクザ映画のようなテイストが入ってくるところも面白いと思いました。でも、それだけではなく、主人公の“男としての生き方”に感じる“哀愁”にぼくは惹かれたんだと思います。どんな話かと聞かれると「悲しい男たちの話です」といつも答えていますからね。
 
――発禁本の作品を映画化するってだけでいろいろと大変そうな気がしますが…。
チャレンジングではありますよね。でも、映画の方が自由だと思ったんですよ。出版できなくても映画ならできるはずだと信じていましたし、それが映画化に向けてのぼくの“動力源”でもありました。
 
――京都の木屋町で撮られていかがでした?
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撮影は2年前なんですが、高瀬川で撮ったラストは本当にいいシーンになったと思いますね。川って、いろいろなものを流してくれるじゃないですか? 桜の花びらのような綺麗なものも流れるし、立小便も流れていく。そういうところに人間が落ちていく、というかそこからまた這いずり上がっていく。この映画が、立小便から始まるのもそういうところでのこだわりでした。
 
――2年前の撮影時、武田梨奈さん、木下ほうかさんの最近の活躍っぷりを予想できました?
武田さんはどんどん出てくるだろうとは思いましたが、ほうかさんはホント想定外ですよ(笑)。大好きな先輩ですし、もちろん嬉しいことですけどね。バラエティー番組でよく見る顔になるなんて驚きです。でもね、実は“ダルマ”という言葉が「放送自粛用語」らしくて、テレビで使えないらしいんです。テレビで宣伝することだけがすべてだとは思いませんが、ここに来てタイトルが問題になって宣伝面で壁にぶつかるとは…。撮影から公開までに2年もかかってしまったのも、“ダルマ”という言葉が、問題のひとつで上映館がなかなか決まらなかったからなんです。「題名を変えてくれたら…」という劇場もありました。発禁になった本を映画化するというところで、撮る前にも「やってやろうじゃないの!」という気持ちになりましたが、この件で映画が完成してからもまた「壁をぶち破れ!」という気持ちを思い出しました。観てもらえれば、分かると思うんですけどね。
 
――じつは、この映画を観て、三池崇史監督の傑作『殺し屋1』を思い出しました。ヤクザ映画に介護が絡んでいくのも面白い展開ですし、三池監督がお好きそうだなとも思いました。
ありがとうございます。最高ですね! 『殺し屋1』大好きです。三浦誠己さんが『極道大戦争』の撮影時に、三池監督に『木屋町DARUMA』の話をしたら「面白そうだな」と言っていたそうです。
 
ーー三浦誠己さん、どの映画でも本当素敵なんですが『木屋町DARUMA』での三浦さんも本当素敵です。
本当イイですよね。歳重ねてこれからもどんどんいい顔になっていきそうだし。
 
――遠藤憲一さんのキャスティングはすぐに決まったんですか?
はい。丸野くんと主演を誰にするか話したときに、「遠藤憲一さんでいきたいな」と話したら、丸野くんも「イイですね!」と言ってくれたので、その場でエンケン(遠藤憲一)さんに電話して。そしたら「いいじゃん。面白そうじゃん!」って、その場で決まりました。ぼくの長編監督デビュー作『GROW 愚郎』(2007)にも出てもらっていて、そのときに「また何か一緒にやりましょう!」って話して、それから7年も経ってしまいました。常にお忙しい方ですけど「スケジュールぬってでも出たい」と仰ってくださって。
 
――この映画でのエンケンさんの演技、さすがですね。
凄まじいですよね。エンケンさんが(主人公の)勝浦を本当に愛してくださっていましたし、生きるパワーみたいなものが出ていると思います。
 
――エンケンさんの手足はCG処理をされているんだと思いますが、手足がない状態での動きについてかなり研究された様子でしたか?
これね、実はCGを使ったのは本当に一部だけで8~9割はCGを使っていないんですよ。オープニングで体を小さくゆらゆらと揺らすアイデアはエンケンさんからでした。肘や膝を真っ赤にさせながら、本当にノリノリで演じてくださいました。それで、撮影がすべて終わった後、「面白い映画が出来そうだね。自分を信じて編集して」ってメッセージをいただいたときは、男泣きしてしまいました。
 
――エンケンさんが楽しんで演じているのは映画を観ていても伝わってきました。というか、キャストのみなさんが楽しんで演じているように思いました
そうなんですよ。(木下)ほうかさんにキャスティングの相談をしたときに、「京都が舞台なんだから関西弁がネイティブな人で固めた方が世界観が深まるよ」とアドバイスをいただいて。ほうかさんには出演兼キャスティングディレクターをお願いして、素晴らしいキャストが揃いました。本当にみなさん、熱く楽しく演じてくださって、“役者の演技が光る作品”になったなと自負しています。
 
――吉本興業の芸人さんがたくさん出演されているのはそういう流れからですか?
ほうかさんがまずキム兄(木村祐一)を呼んできて、梶原雄太(キングコング)さん、高山トモヒロ(ケツカッチン)さんは、そのときほうかさんが吉本興業創業100周年記念の公演『吉本百年物語』って舞台に参加されていて、その繋がりなんです。
 
――監督自身が出演するという話にはならなかったんですか?
自分が監督する作品には出ないと決めているんです。『捨てがたき人々』にチラッと出ましたけど(笑)。たかだか1シーンでもやっぱり大変なんですよね。監督として冷静に観れなくなっちゃって…。とか言いつつ、今回も実は出てるんです。目だし帽かぶってキレッキレのアクションしてるのがぼくですから(笑)。
 
――それは分からなかったです(笑)。でも、さすがお得意のアクションを披露しているんですね! ご出演された『VERSUS〈ヴァーサス〉』(2000年)でのアクションとか、また観たいですね。撮る予定はありますか? ジャンル問わずですもんね。
アクションも撮りますよ! 実はピンク映画を撮って、全国60館で10月から順次公開されます。『木屋町DARUMA』より公開館数多いです。ぼくの最高傑作かもしれません。大阪でも公開されるはずなのでご期待ください! あと、地方で連ドラも撮る予定です。いろんなことに挑戦して、何か壁にぶち当たっても引かずに前進したいんです。
 
――「壁にぶち当たっても前進したい」ってイイですね。
『木屋町DARUMA』も発禁の小説だからこそ前進の気持ちで撮りました。『捨てがたき人々』も予算が集まらない中でも撮影しました。自分がどう進めばいいかやっと見えてきたときにピンク映画も撮って。映画の偉大さも少しずつ分かってきました。人と人が作る素晴らしい総合芸術だなと思いますね。
 
――最後にこの映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いいたします。
本当に観てもらえれば面白い映画だって分かってもらえると思うんです。どうしても男向け、マニア向けと思われがちですが、どんな人でも楽しめる内容だし。最初は引き気味で観ても、話が進むうちに登場人物に感情移入してしまったという人も多いんです。とっつきにくいように見えるかもしれないけど、入ってみると楽しいよ~! 是非、劇場へお越しください!



(2015年9月29日更新)


Check

Movie Data




©2014「木屋町DARUMA」製作委員会

『木屋町DARUMA』

<R15+>
●10月3日(土)より、
 第七藝術劇場、京都みなみ会館、
 元町映画館にて公開

監督:榊英雄
原作・脚本:丸野裕行
出演:遠藤憲一
   三浦誠己/武田梨奈/木下ほうか
   寺島進/木村祐一/ほか

【公式サイト】
http://kiyamachi-daruma.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/165849/

Event Data

京阪神で舞台挨拶を実施!

[京都] 京都みなみ会館
日時:10月4日(日)
  10:00の回上映後/12:40の回上映前
登壇者(予定):遠藤憲一/三浦誠己/
       武田梨奈/木下ほうか/
       榊英雄監督
日時:10月9日(日)20:50の回上映後
登壇者(予定):榊英雄監督

[大阪] 第七藝術劇場
日時:10月4日(日)14:25の回上映後
登壇者(予定):遠藤憲一/三浦誠己/
       武田梨奈/木下ほうか/
       榊英雄監督
日時:10月9日(日)14:25の回
登壇者(予定):榊英雄監督

[神戸] 元町映画館
10月4日(日)17:10の回上映後
登壇者(予定):遠藤憲一/三浦誠己/
       木下ほうか/榊英雄監督
日時:10月9日(日)17:10の回上映後
登壇者(予定):榊英雄監督

※詳細は劇場ホームページをご確認ください。