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思いもよらない学生からの質問にどう答える!? 
主演の森山未來と山下敦弘監督が
100人の学生を前に特別講義を実施!
『苦役列車』大阪芸術大学イベントレポート

 第144回芥川賞を受賞した西村賢太の自叙伝的同名小説を、『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』などを手掛けた山下敦弘監督が映画化した『苦役列車』が梅田ブルク7ほかで公開中だ。日雇い労働でその日暮らしをする19歳の青年・北町貫多役に森山未來を迎え、貫多の同僚、日下部役に実力派俳優の高良健吾、映画オリジナルのヒロイン・康子をAKB48の前田敦子が演じている。本作の公開を記念し、山下敦弘監督の母校である大阪芸術大学内の映画館で学生限定上映の後、主演の森山未來と山下敦弘監督が100人の学生を前に特別講義を行った。

 

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 学生からの拍手の中、主演の森山未來と山下敦弘監督が登場。学生からの質問に対して森山と山下監督が答えるスタイルでイベントは始まった。

 

学生:北町貫多を演じることになった経緯について教えてください。

 

森山未來(以下、森山):最初にもらった脚本では、もっとどうしようもない感じだったので、正直どうしようかと思ったんですが、山下監督とずっと一緒にやりたかったので、そこが出演の決め手でした。『苦役列車』の中での日々の生活は酒を飲んで、煙草を吸って、管を巻くという自堕落な生活だし、『モテキ』の時は漫画を読んでいるか、CDを聴いているか、ネットサーフィンをしているという、こっちも自堕落な生活だったので、同じように自堕落な生活を続くことに対して、抵抗はありました。でも、貫多が自分が気に食わない時に攻撃的になって人にあたり散らすような、自分の中の劣等感というかコンプレックスの整理がついていない状態には身に覚えがありました。ただ、それも皆さんぐらいの19歳とかだったら若気のいたりで許されることでも、20代半ばになってくると若気のいたりでは済まされないし、自分の周りから人が離れていっているような気がしていたので、そういう生活を変えたいと思っていた時に『モテキ』や『苦役列車』という作品の話が来たので、そういう風に感じていた自分の感情を作品に昇華させた部分はあったかもしれないです。

 

山下敦弘監督(以下、山下):森山くんとは一度短編で一緒に仕事をしたことがあったんですが、本当に短くて台詞もほとんどない作品だったので、いつかちゃんと森山くんとやりたいと僕も思っていました。それに、正直、北町貫多は相当特殊な19歳なので、実際に19歳で探してもいないし、早々に諦めた時に森山くんしかいないと思いました。

 

学生:いつもと違うスタッフとの撮影で、新たな発見はありましたか? また、前田敦子さんはどんな感じでしたか?

 

山下:スタッフに関しては、以前に仕事をしたことのある方や面識のあった方が多かったんですが、前田敦子さんとは初めてでしたし、現役アイドルとお仕事をしたのが初めてだったので、自分の中では賭けの部分もありましたが、結果的には良かったと思います。前田さんに演じてもらった康子は特殊なキャラクターだったし、僕の中でアイドルだから、色々断られるんじゃないかという偏見もあったんですが、全部引き受けてくれたので良かったです。

 

学生:高良さん、前田さんと共演された感想を教えてください。

 

森山:高良くんと共演するのは3回目なんですが、ここまでしっかり芝居をするのは初めてだったので、自分の世界観をしっかり持っている、表面だけでは芝居をしない高良くんと共演できて楽しかったです。お互いの微妙な振動やせめぎ合いの按配がすごく心地よかったです。

 

学生:煙草を吸うシーンの描写が印象的でした。煙草のシーンについてのこだわりがあれば教えてください。

 

山下:原作者の西村さんが打ち合わせの時に「あの頃は、めしを我慢しても煙草は切らさなかった」と言っていたので、そこは徹底して描こうと思っていました。80年代って今よりも煙草を吸う人は遥かに多かっただろうし、男の人はほとんど吸っていたと思うんですが、現場ではそこまで煙草吸ってとは森山くんに言ってなかったと思うんです(笑)。基本的に、森山くんが現場でずっと煙草を勝手に吸ってたんです。その結果の弊害で、19歳なのに風俗行って、煙草吸って、お酒飲んでいるので、中学生以下は観られない(R-15)になったんです(笑)。

 

森山:現場で、小道具のハイライトを3箱ぐらい吸っていました(笑)。僕は煙草を吸うので、映画でもドラマでも、吸う設定であれば何とか煙草を映りこませようとしています(笑)。

 

学生:明らかに相手の方が悪いのに、貫多が喧嘩に負けてしまうことに“なんで?”と思いました。やっぱり、勝ってほしかったんですが、なぜ貫多は殴ったりできないし、勝てないんでしょうか? 優しい人だからですか?

 

森山:貫多はすごく劣等感を抱えている一方で、自分の持っている文学の知識みたいなものに対する優越感も持っていて、それがぐちゃぐちゃになっていて、中卒でひとりで3畳一間で本を読むか酒を飲むか煙草を吸うかという生活をしていて、人とのコミュニケーションに飢えていたと思うし、それは今でも25年前でも変わらないと思うんです。でも、2012年の3畳一間には必ずパソコンか携帯があるので、本当に3畳一間で完結してしまいかねないんですよね。携帯やパソコンでのコミュニケーションで満たされたような錯覚に陥ってしまうので、それだと崩壊してしまうと思うんです。逆に25年前は、何かを買うにも外に出ないといけないし、人と対面して絡まないといけなかったんです。勝つとか負けるというのはわからないですが、そういう人と絡みたいという渇望が『苦役列車』では描かれているんじゃないかと僕は思います。そんな貫多のエネルギーが映し出されていると思うので、今の人が観た時にどう思うのかは興味がありますね。

 

山下:ざっくり言うと、この映画って自業自得の男の話なんですよね(笑)。俺は、どのシーンでも貫多が悪いと思うんです。あれだけふてくされて仕事してたら、向こうもいらっとするだろうし、飲み屋のシーンでもリモコンを折ったりしてますし(笑)。監督としては、どっちが悪いというよりは、貫多は自業自得な奴なんだけど、貫多は最後まで言い訳しないし、女々しいこと言わずにひとりで生きていく奴なんだということを描いたつもりです。

 

学生:映画を観ていて、北町貫多にすごく不快感を覚えたんですが、貫多を演じたり演出するにあたって、どのようなことを意識していましたか?

 

山下:僕が注文しなくても、毎日現場に酒飲んでくるし、どうやら風呂にも入ってないような匂いもしたし、その辺は森山くんが作ってきてくれていたので、貫多についての演出は最初の頃にディスカッションしたぐらいでした。森山くんがそういう環境を作って貫多になってくれていたような気がしています。

 

森山:トイレはあるけど、風呂はなくて共同シャワーっていう3畳一間の民宿から現場に通っていました。そこに着替えを少しと横溝正史とワンカップを持ち込んでという生活をしていたんですが、それだと部屋にずっとひとりでは居られなくなっちゃうんです。生活事態がだらっとしているので、酒を飲まずに寝ようとすると嫌な夢を見たりして、そうすると自ずと外に飲みに行ってしまうし、現場には顔をむくませて行けば行くほど誉められたので、それも拍車をかけて浴びるように酒を飲んでいました(笑)。貫多は、どう考えてもそんなに頻繁にお風呂に入る生活をしているとは思えなかったので、近くの銭湯に3、4日に1度は行ってたんですが、そういう身体や顔や服装をしていると、昼間に歩きたくなくなったり、昼間に歩くとしても陰になっているところを歩くようになるんです。撮影中はそういう生活をしていました。

 

学生:おふたりが表現するうえで心がけていることはありますか?

 

森山:ダンスや芝居、インスタレショーンなどパフォーマンスでも色々あると思うんですが、そこから何が見えてくるのかというと、その人の人となりでしかないと思うんです。表現したことには、その人の生活がそのまま透けて見えてくると思うし、それを人が見て魅力的だと思うかどうかですよね。だから、僕が心がけていることは、自分がどういう生活をしているか、ということです。

 

山下:最初は、映画が好きで、この大学に入って映画を作り出した延長線上に今があるし、映画以外に趣味がないので、映画を作ること以外何も考えてないようなものなので、社会人としては全然ダメだと思うんです。

 

森山:社会人としてはダメですよね(笑)。こういう職業の人ってだいたいダメですよ。

 

山下:それしかないと思えるように自分を持っていくのかどうかですよね。これがやりたいというよりは、それしかないと思う方が強いんじゃないかと思うし、無理矢理この映画に繋げるわけじゃないですが、貫多は小説を書きたいと言ってるんですが、結局はそれしか残らなかったんだし、そういう貫多は強いと思うし、それが貫多の表現の原動力になっているんじゃないかと思います。

 

 思いもよらない学生からの質問に、「難しいなぁ」と言いながらも考えに考えて話していた森山と監督の姿が印象的だった。それでも、普段の映画記者からの取材のような質問ではなく、本質に迫るような質問に対して普段の取材では聞けないようなコメントも飛び出したイベントだった。森山と監督のコメントを踏まえて映画を観ると、また違った目で主人公の貫多を見られるはずだ。




(2012年7月24日更新)


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Movie Data



(C)2012「苦役列車」製作委員会

『苦役列車』

●梅田ブルク7ほかにて上映中

【公式サイト】
http://www.kueki.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158405/

『苦役列車』山下敦弘監督インタビューはコチラ!
http://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2012-07/kueki.html

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http://kansai.pia.co.jp/invitation/cinema/2012-07/kueki.html