インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 2回目を迎える『KYOTO EXPERIMENT 2011』について プログラム・ディレクターの橋本裕介氏にインタビュー

2回目を迎える『KYOTO EXPERIMENT 2011』について
プログラム・ディレクターの橋本裕介氏にインタビュー
(3/3)

―― 10月7日(金)・8日(土)にはブラジルから新世代のコンテンポラリーダンスを上演するデモリションInc.+ヌークレオ・ド・ディルソル『マタドウロ(屠場)』がありまして、10月10日(月・祝)には笠井叡さんの『血は特別のジュースだ。』が行われます。
 
橋本「笠井叡さんは、日本のコンテンポラリーダンスの先駆けのような方で、現在御歳69歳です。日本では、舞踏というジャンルは1964年ぐらいに始まったと言われているんですが、その創始者が土方巽という人です。笠井さんは土方さんの一番弟子に近く、土方さんと一緒に作品作りを始めた人なんです。その中から麿赤児さんとか、山海塾とか、いろいろと枝分かれしていくわけですけど、彼は枝分かれするよりもうちょっと、土方巽さんと一緒にやっていた人です。で、今もバリッバリに踊るんです」

―― なんと69歳で。

橋本「はい。ちょっと異常です(笑)。ダンスをどうしていくかということはずっと、業界の中では悩みというか、テーマにあって。まあ、きたまりみたいに若手で頑張っている人もいるけれども、全体としてはちょっと停滞気味なんですね。そういう意味でも笠井さんにちょっと喝を入れてもらおうかという気持ちで今回、お呼びしました。『KYOTO EXPERIMENT』は攻めていく気持ちでやっていくフェスティバルなので、若者よりもよっぽど攻めているよと。先を行こうとすることが重要で、それには年齢は関係なく、気持ちが大事だと。それで新作をお願いしました」

―― なるほど。今のお話を聞くと、このタイトルもなんだかリアルに感じられますね(笑)。そして10月14日(金)~16日(日)に行われるヤニス・マンダフニス/ファブリス・マズリア『P.A.D.』。こちらはヨーロッパの新世代ダンスの騎手と謳われているお二人ですね。そして千秋楽を飾るのが10月16日(日)、石橋義正さんと京都創生座による番外編『伝統芸能バリアブル』です。

橋本「キュピキュピ主宰の石橋義正さんが、能を始めとするいろんな伝統芸能の方々と一緒に舞台をするんです。しかも演者はすべて女性だけです」

―― 異色の組み合わせですね。

橋本「伝統芸能の方々が、キッチュでポップな感じの衣裳を着て舞台に立たれるんだと思います。そして、能を石橋さん流に解釈して、オムニバス的な感じで上演されていくのではと。春秋座という劇場でやるので、石橋さんならではの特殊効果を駆使して、ベースは日本の伝統芸能ですが、演出効果は派手なものになると思います。で、女性に特化しているので妖艶な感じになると思います」

―― この舞台はどういう経緯で実現したんですか?

橋本「京都創生座のプロジェクトはずっとあったんですが、ここまで大胆にするのは初めてですね。京都市がやっている事業に、このフェスティバルと創生座とがあって、それぞれ別々だったんですが、今年は京都の文化が盛り上がるので、できるだけ集中してやった方がいいだろうという話がありました。基本的には、創生座は伝統芸能を現代に生かしていくというプロジェクトなので、根っこの思想には実験的な要素があると。だったら一緒にやりませんかということになり、普通に伝統的なことをやるのだったら、ちょっとここには入らないですねと。じゃあ、どんな人に演出していただいたらいいだろうと創生座の方と相談して、京都に縁のある演出家にお願いしましょうと。それで、石橋さんだ!ということになりました」

―― アートも技術も演出も最先端の石橋さんと伝統芸能、そして女性だけという組み合わせですが、この舞台がどういうものになるのか、未知なる世界ですね。

橋本「ええ、僕もドキドキします」

―― 見逃すともったいないと、お話を聞いているだけでも思いますね。

橋本「そうですね。こういう組み合わせはいつでもある企画じゃないですからね」

―― では、最後に、京都芸術センターのギャラリーで9月23日(金・祝)から10月16日(日)の期間中に展示されます高嶺格さんの『《ジャパン・シンドローム》~step1 球の裏側』について教えて下さい。

橋本「高嶺格さんとは3年プロジェクトで、そしてブラジルとも3年間、一緒にやっていきます。ブラジルのフェスティバルで、すごく頑張っているところがあるんですね。『KYOTO EXPERIMENT』2回目の僕が頑張っていると言うのもアレなんですけど(笑)、お互いの国のアーティストを交換して、日本でブラジルのアーティストを紹介し、新しい作品を作っていく。ブラジルにも日本のアーティストが滞在して作品を作っていく。で、3年後に完成をしたものをお互いの国で見せ合うということを目標にしています」

―― ます、高嶺さんについて教えてください。

橋本「高嶺さんは、先ほどお話したDumb Typeというアーティスト集団のメンバーでした。途中で彼は外れて、個人の美術家として仕事をされています。インスタレーションや映像作品を作ったりしていて、ここ5年ぐらいでまた舞台の方に戻ってきて、演出をされるようにもなっています。いろんなジャンルで仕事をしていて、横浜や広島、鹿児島の大きな美術館で個展をされるくらい、美術家としても成果を上げられていますね」

―― 作品の特徴はどんなものでしょうか?

橋本「高嶺さんは、実際にご自身が体験したことのプロセスを含めて紹介する作品が多いです。たとえば京都の北の方に、丹波マンガン記念館というマンガン鉱山跡地を利用した記念館があります。そこは去年、閉山したんですが、第二次大戦のときに朝鮮から人を連れてきて強制労働をさせていたという歴史があるんですが、高嶺さんはそこに住み込んで取材をして、いろんな作品を作って展示をされています。そういう、体当たりな作品を手掛ける方ですね」

―― なるほど。では、なぜ高嶺さんに今回、お声をかけられたんでしょう。

橋本「日本も今、こんな状態なので、どういう形で世の中と向き合っていくのかしっかり考えている作家の作品を紹介したいなと思っていたんです。ただ、震災がある前から声はかけていたので、偶然、高嶺さんの活動とつながったということでもあるんですが、ブラジルという国との交流で、現地に行って何かやるとしたら高嶺さんが一番いいと思ったんです」

―― ブラジルという国を選んだ理由は?

橋本「このプロジェクトをするには、出来る限り遠い国とつながりたいと思いました。一応、このフェスティバルは国際フェスティバルなので、見たことのないもの、知らなかったことに出会えるものにしたいと思っていて、その一つに物理的にも距離を遠くしてみるということはどうだろうと、安直ではあるんですが考えました。で、もう一つが、これは国際的なアートの状況に関わるんですが、今でも中心は基本的にパリかニューヨークなんです。世の中のアートをそこにいる人たちが仕切っているんです。で、彼らの価値観によって選ばれているということがあって、それも何かちょっとな…と思ったんです」

―― その歴史はずいぶん長いですよね。

橋本「はい。やっぱりそれに対して一矢報いたいという思いがあります。ブラジルは、日本よりも経済成長が遅くて、10年、20年前はまだ多くの国民が貧しかったので、アーティストが活動するにはとにかくヨーロッパに行くしかないという感じだったんです。フランスやオランダに行く人が多いんですけど、ようやくブラジルのアーティストも、そこで活動して成果を上げた後に、やはり自分のアイデンティティはブラジルだということで祖国に戻ってきて、ダンスの学校を作るとか、スタジオを運営するとかで、地元の人のために活動を始めたんです」

―― ここ数年くらいですか?

橋本「まあ10年くらいですね。経済の方も成長して、国や州、市がそういったアーティストにサポートするようになってきたのもここ最近の話です。で、なんとか自分たちのアイデンティティのもとで活動していくことを大事にしようと思っているので、そういう意味で日本とブラジルで挟みうちにしたらどうかなと」

―― そのブラジルのフェスティバルとはどんなものなんですか?

橋本「フェスティバルは、行政がつくったわけでもないですし、プロデューサーが作ったわけでもなく、振付家が今のブラジルのダンス状況を活性化させるために自分で作ったんです。今はもう、リオデジャネイロを代表するようなコンテンポラリーダンスのフェスになっています」

―― なるほど。それで高嶺さんにブラジルに行っていただいて、そこで感じられたことなどを3年後に京都とブラジルで発表されるということですね。

橋本「そうです」

―― ブラジルは日本人の移民政策もありましたし、社会的なつながりも古くからありますよね。

橋本「はい。サンパウロの日系人は今、140万人で京都市の人口と一緒です。そして最近は日系人が日本に働きに来たりして、人の行き気はすごいあるんですね。でも、僕たちがブラジルについて知っているのはサッカーとか、リオのカーニバルくらいで。これはよくないなと。もうちょっとブラジルを知っていく必要があるだろうなと思いますね」

―― その3年計画ですが、今年はどういったことをされるんですか?

橋本「今年は展示です。インスタレーションを作ります。パフォーマンスはしません。でも、来年、再来年にパフォーマンスをしていきます」

―― そうなんですね。それは翌年からも楽しみですね。それでは、インタビューは以上で終わります。今日はありがとうございました。

9月23日(金・祝)より、京都各地の会場で始まっている『KYOTO EXPERIMENT 2011』。最先端の舞台やアート、ダンスを楽しめるだけでなく、このイベントならではの取り組みなど、貴重なコラボレーションも多数行われる。巨匠から若手までが繰り広げる演劇、ダンス、アートと、これらにおなじみの方はもちろん、初見の方もぜひ、この機会に触れてみて!



(2011年9月22日更新)


Check

公演情報

〈KYOTO EXPERIMENT 2011〉

KUNIO
●9月23日(金・祝)~25日(日) 12:00
「エンジェルス・イン・アメリカ 第1部 『至福千年紀が近づく』」
●9月23日(金・祝)~25日(日) 17:00
「エンジェルス・イン・アメリカ 第2部 『ペレストロイカ』」
※9/24(土)公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。
京都芸術センター 講堂
一般-3000円(整理番号付)
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生、整理番号付)
高校生以下-1000円(整理番号付)
[原案・原作]トニー・クシュナー
[翻訳]吉田美枝
[演出][美術]杉原邦生
[出演]田中遊/澤村喜一郎/坂原わかこ/田中佑弥/松田卓三/池浦さだ夢/四宮章吾/森田真和
※16歳未満は入場不可。チケットぴあ前売り販売終了。

ザカリー・オバザン「Your brother.Remember?」
●9月23日(金・祝)~25日(日)
金土19:30
日15:00
ART COMPLEX 1928
一般-3000円
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[出演][構成][演出]ザカリー・オバザン
※9/25(日)公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。チケットぴあ前売り販売終了。

白井剛/京都芸術センター「演劇計画2009」
発売中 Pコード:413-904
「静物画-still life」
●9月30日(金)~10月2日(日)
金19:30
土15:00
日17:30
京都芸術センター 講堂
一般-3000円
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[出演][構成][演出][振付]白井剛
[出演]青木尚哉/鈴木美奈子/高木貴久恵/竹内英明
※9/30(金)公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。

地点「かもめ」
発売中 Pコード:413-909
●9月28日(水)~10月4日(火)・6日(木)~10日(月・祝)
月~木土日19:30
金17:00
※10/9(日)17:00。
京都芸術センター 和室「明倫」
一般/ユース・学生-2000円
高校生以下-1000円
※9/29(木)公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。

●10月13日(木)~16日(日)
木金19:30
土15:00/19:30
日15:00
ART COMPLEX 1928
一般-3000円
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[原案・原作]チェーホフ
[翻訳]神西清
[演出]三浦基
[出演]安部聡子/石田大/窪田史恵/河野早紀/小林洋平
※各会場とも未就学児童は入場不可。

平田オリザ+石黒浩研究室
「アンドロイド演劇『さようなら』」
●10月1日(土)18:00・2日(日)15:00
京都芸術センター フリースペース
全席自由-1000円
[劇作・脚本][演出]平田オリザ
[出演]ブライアリー・ロング/井上三奈子(アンドロイドの動き・声)
※公演終了後、ポストパフォーマンストークあり(10/1(土)〔出〕石黒浩、10/2(日)〔出〕平田オリザ)。前売り券完売。

デモリションInc.+ヌークレオ・ド・ディルソル
「マタドウロ(屠場)」
発売中 Pコード:413-906
●10月7日(金)19:00・8日(土)17:30
元・立誠小学校 講堂
一般-3000円
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[振付]マルセロ・エヴェリン
※16歳未満は入場不可。

KIKIKIKIKIKI「ちっさいのん、おっきいのん、ふっといのん」
発売中 Pコード:413-907
●10月9日(日)19:30・10日(月・祝)18:00
京都芸術センター 講堂
一般-2500円
ユース・学生-2000円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[出演][劇作・脚本][演出][振付]きたまり
[出演]野渕杏子/花本ゆか
※10/9(日)公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。

笠井叡「血は特別のジュースだ。」
発売中 Pコード:413-908
●10月10日(月・祝) 14:00
京都芸術劇場 春秋座
一般-3500円(指定)
ユース・学生-3000円(25歳以下・学生、指定)
高校生以下-1000円(指定)
[出演][構成][演出][振付]笠井叡
[出演]笠井禮示/寺崎礁/定方まこと/鯨井謙太郎/大森政秀
※公演終了後、ポストパフォーマンストークあり(〔ゲスト〕萩尾望都)。未就学児童は入場不可。

ヤニス・マンダフニス/ファブリス・マズリア「P.A.D.」
発売中 Pコード:413-911
●10月14日(金)~16日(日)
金20:15
土18:00/20:15
16:00/18:00
京都芸術センター フリースペース
一般-3000円
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生)
高校生以下-1000円
[出演][構成][演出]ヤニス・マンダフニス
[出演][構成][演出]ファブリス・マズリア
※10/16(日)18:00公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。

石橋義正/京都創生座 番外編「伝統芸能バリアブル」
発売中 Pコード:413-912
●10月16日(日)13:00/17:00
京都芸術劇場 春秋座
一般-3000円(指定)
ユース・学生-2500円(25歳以下・学生、指定)
高校生以下-1000円(指定)
[構成][演出]石橋義正
[演奏]杵屋勝欣次(長唄三味線)/杵屋勝浩菜(長唄三味線)/杵屋浩扇(長唄三味線)/上七軒さと幸(長唄三味線)/一風亭初月(浪曲・曲師)/田原由紀(和太鼓)/大谷加奈子(和太鼓)/依田美津穂(和太鼓)/小林杏里(和太鼓)/井上朋美(和太鼓)
[出演]青木涼子/尾上京/花柳双子/春野恵子/高原伸子/高橋千佳/皆川まゆむ
※10/16(日)17:00公演終了後、ポストパフォーマンストークあり。未就学児童は入場不可。

全公演ともチケットぴあでのセット券取り扱いなし。
[問]KYOTO EXPERIMENT事務局[TEL]075-213-5839

チケット情報はこちら!
http://p.tl/rqe9

KYOTO EXPERIMENT 2011 公式サイト
http://kyoto-ex.jp/