ホーム > インタビュー&レポート > 「NIKO NIKO TAN TANがまた新しく生まれ変わったと思ってる」 配信EP『!』にアニメ『ガングリオン』主題歌『ミラクル』… 国内外で勢力を拡大するNIKO NIKO TAN TANが駆け抜けた 飛躍の’25年を総括するインタビュー&動画コメント
『?』が自問自答してた中高生の頃だとしたら
『!』は気付き始めた大学生が社会に飛び出す前の時期
――9月に『NIKO NIKO TAN TAN『!』ONE-MAN TOUR 2025』初日の大阪公演を見させてもらいましたけど、過去最大曲数ながらブロックごとに見せ場があったり、最後まで途切れない高揚感と緊張感があって。以前とはまた違う盛り上がりというか、しっかりフォロワーがついてきた雰囲気がフロアにもありました。
OCHAN「それはめっちゃ感じましたね。お客さんの"楽しみにしていた感"が今までで一番あったツアーで、過去イチ盛り上がった印象です。ワンマンは何回もやってきてるんで、がむしゃらだけじゃない俯瞰したライブができるようになったのかなと。楽しかったですね」
――国内外の認知度も上がってきて、メジャーに行って良い方に変われましたよね。
OCHAN「音楽に関しては自分たちでコントロールしてるんですけど、他の見せ方とかアートワークは、イラストレーターのYUGO.とか周りのスタッフから、いい意味での"制御"があって。お客さんが求めることを全てやってたら、自分たちのコアな部分がなくなっていく。押さえるところは押さえて秘密にするところは秘密にする、みたいな加減がようやく分かってきましたね」
――昨年リリースされたメジャー1stアルバム『新喜劇』('24)では、日本語詞の使い方も含めて格段に聴きやすくなったし、やれることをきっちりやって世界が広がった。ただ、ハイスペックなアルバムだとは思いつつ、個人的にはニコタンの神髄とも言える1stデジタルEP『?』が、言わば元カノが忘れられないみたいな感覚で(笑)。あの純度や温度に近いフィーリングが、今回の『!』にはあるなと思って。
OCHAN「いい例やな~(笑)。もうめっちゃ分かってくれてる!」
――このまま『新喜劇』の先へ突き進むのもバンドとしては大正解なんだけど、"大事なもの、なくしてないよ俺たち"みたいな(笑)。EPだからこそ遊べるのもあってか、よりニコタンの核に近いものをここにきて感じました。
OCHAN「めっちゃ分かります。奥さん(=筆者)が以前『?』のインタビューをしてくれたとき、収録曲の『多分、あれはFly』を褒めてくれたじゃないですか?」
――「他の曲はちゃんと刺さるように設計されていて、時代を見越した着地点も感じるけど、この曲は単純に"音楽" で、これがNIKO NIKO TAN TANの真髄に感じた」と。整頓されてたら出てこない展開、おかしみ、衝動というか。
OCHAN「『!』ではその辺を改めて意識してましたね。『新喜劇』以降、『怪人』('24)とか『G00000W(ゴー)』('25)とかタイアップ曲の制作も多かったから、EPには既発のシングルは入れずにテーマ性を持って作ろうと。『Only Lonely Dance』('24)とか開いた曲は作ってきたから、振り幅という意味でも、原点の尖った曲を作るいいチャンスやなって。まぁ"尖った"って自分で言うと恥ずいんですけど(笑)、『?』のフィーリングをもう一回生かせるんじゃないかと思って。『?』が"自分って何なんだろう?"と自問自答してた中高生の頃だとしたら、『!』は気付き始めた大学生が、"俺は将来どうなるんだ?"と思う、社会に飛び出す前の時期かな」
――『?』の次にEPを出すとしたら、タイトルは『!』にすると何となく決めていたらしいですね。
OCHAN「シリーズ化というか、そういう遊びが好きなんで。『!』には"気付き"という意味もあるし、『新喜劇』というデカいアルバムは作ったけど、"NIKO NIKO TAN TANはこうです"、みたいなラベルを貼られるようなアーティストは目指してないので。"次は何を作ってくるのかな?"と思われたいし、"自分らでそこを決め付けるなよ"という"警告"の『!』でもありましたね」
『えいや (feat. Aki)』は今回のEPで特に達成感のある曲
――海外での活動は一つの夢だったと思いますけど、それが少しずつかなってきた影響は『!』にも反映されてるのかなと。海外のライブで感じたこと、分かったことはあります?
Anabebe「最近は、特に台湾には行き過ぎて、何かもう大阪に行くみたいな感じ(笑)。東京から4時間くらいで、そんなに時間もかからへんし」
OCHAN「やっぱりだいぶ揉まれますよね。日本のようにはできないから機材も絞って行くし、スタッフも全員行けるわけじゃない。NIKO NIKO TAN TANを始めた頃、ライブハウスの限られた環境でやってた感じに近いですね。某新宿のライブハウスに5~6バンドが出るイベントで、"(セット図の配置で)ドラムが上手になってるけど、真ん中でいいっしょ"って言われたのを思い出しました(笑)」
――転換がめんどくさかったんやな(笑)。海外でのリアクションはどうです?
OCHAN「めちゃめちゃ激しくて良かったですね。8月に台湾の『JAM JAM ASIA 2025』に出たときも、『Jurassic』('23)をやったらヘドバンしてる人もいてアガりました。ただ、1月に中国の海南で『R-day Music Festival』に出たときは、NIKO NIKO TAN TANのことなんて、みんなほぼ知らなかったんですよ。ただ、現地のPAさんの音がデカかったおかげか(笑)、"砂漠の真ん中でライブしてるのかな?"と思うような砂浜の会場にめっちゃ観衆が集まってくれて、不思議な気分になりましたね」
――『BOWWOW (feat. POPO J)』(M-4)で台湾のラッパーとコラボするまでになったということは、そういう経験が今作では血肉となってるわけですよね。
OCHAN「海外のアーティストとずっと一緒に作ってみたくて、最近はアジアツアーも多くなってきたし、一回そっち方面で調べてみようとYouTubeとかで検索して、いいなと思ったのがPOPO Jで。ちょうど台湾公演があったときに見に来てくれて仲良くなったんで、ラフに作り始めたという」
Anabebe「事前に犬派か猫派かも聞いてね(笑)」
OCHAN「"CAT!"って言ってたけどな(笑)。ちなみに僕も猫派でAnabebeだけが犬派なんですよ。『BOWWOW』のデモは作ってあったんですけど、"犬派か猫派か聞いてきて猫って言ったのに、何で犬の曲を送ってくんねん"ってなったら面白いかなと思って(笑)」
――にしても、知り合いでも紹介でもなくディグってつながったとは。
OCHAN「もう全部そう。『えいや (feat. Aki)』(M-5)のAkiちゃんもAmazonの広告で聴いて...普段なら飛ばすんですけど、いいなと思って聴き込んで調べたんですよ。そこからファンになってダメ元でオファーして、毛色が違い過ぎるから断られるやろうなと思ったら快諾してくれて...めっちゃ気合が入りました」
――あの声は耳が引き付けられる。絶対に"おっ!"ってなるもんね。
OCHAN「Akiちゃんにもいい曲だなと思って歌ってほしいじゃないですか。NIKO NIKO TAN TANどうこうじゃなくて、昔からこういうテイストの曲を作るのが好きで結構ストックがあるんですけど、その中でも早く世に出したかった曲ですね。2人だからこそ変幻自在に音楽ができるNIKO NIKO TAN TANも、最初はBotaniとフィーチャリングしたところから始まってるんで、この曲が最も原点を感じさせるのかなと。今回のEPで特に達成感のある曲ですね」
――その意図とうまくマッチしたからか、Akiさんにあて書きしたのかなと思うぐらいピッタリですね。
OCHAN「缶ビールを飲んでるとき、Akiちゃんから"めっちゃいい"って返ってきて。うれしかったな」
僕は同じことを繰り返せない人間なので
――インストの『LEAP ≠ ?』(M-1)が曲間でサンプリングされるのもノンストップでEPを聴かせるのに機能していますが、続く『FLY OUT』(M-2)では元々ギタリストだったOCHANのギターがついに解禁です。
OCHAN「僕は同じことを繰り返せない人間なので、『新喜劇』はシンセメインで作ったんで、今度は違う感じでいきたいなと。『Only Lonely Dance』ではODD Foot Worksの(有元)キイチ(g)にギターを弾いてもらって...演奏がうまい人にお願いすると、ギターってやっぱり使えるしいい楽器やなと思ったんですよね。しかも、『FLY OUT』では、メンバー募集でAnabebeと初めて会ったときに持っていたギターを、レコーディングやMVでも弾いてるんで」
――あのギターってアメリカ村のTOP THE GUITAR GENTLYで売ってるPGM? そこそこいい値段するよね?
OCHAN「さすがっす(笑)。30万ぐらいしたのをローンで買って。昔はあのギターとドラムでよくセッションしてたし、『FLY OUT』はたまたまギターで作った曲だったので、全部のタイミングがバッチリやなと思って」
――ギターソロもむちゃくちゃエモーショナルで。
OCHAN「『FLY OUT』は怒りとかフラストレーションを爆発させる曲なんで。普段はバッキングがあってリードギター、フレーズ、サビはもう少し華やかに、とか考えるんですけど、いろいろと曲を作ってきた反動で、シンプルなドラムとバキバキにコード弾きなギターでストレートにやってもカッコいいと思えたんで、あんまり装飾もなくて」
Anabebe「この曲はすごくやりやすかったというか...(シンセじゃなくて)ギターやから、ロックに叩けるし。あと、OCHANと付き合いはめっちゃ長いですけど、あんなに長いチョーキングを見たのは初めてです(笑)」
OCHAN「あざといぐらい弾きまくったろうと思って(笑)。僕はヴァン・ヘイレンの『ライト・ナウ』('91)のソロが世界一好きなんですけど、あれをオマージュする勢いで、"好き"を詰め込んで気持ち良く弾きました」
――『ASIAN WAVES』(M-3)では三味線が鳴ってたり、『多分、あれはFly』にも二胡の音が入ってたけど、ニコタンの曲に時折出てくるオリエンタルな風味は、ルーツとか趣味嗜好が関係してるの?
OCHAN「久石譲さんみたいに、メロディが良くて何だか懐かしくなるような感じが好きなのと、フォー・テットがクラブサウンドにオリエンタルな音をよく入れるのを聴いて、カッコいいなと昔から思ってたんで」
――今作ではさまざまな実験が行われてますけど、他にエピソードはあります?
Anabebe「それこそ『ASIAN WAVES』のスネアの音作りで、"バスッ"ていう低い音をもっとガシャガシャさせたくて、スタジオの方に相談したら銀のペール缶みたいなゴミ箱を持ってきてくれて、それをスネアの音にかぶせたんです。そうしたら、"実はこれ、刄田綴色(=畑利樹)さんも使ったんです"って」
――東京事変も使った名ゴミ箱(笑)。
OCHAN「『LEAP ≠ ?』に関しては、EPの頭にインストを入れたくて30パターンぐらい作ったのに、なかなかいいのができなかったんです。けど、明日が締切というときにふと思い付いて、妹に小さい子どもがいるんで、とりあえず"りーぷ"って言わせて声を送ってと電話して。それでできたのがこれです(笑)。めっちゃギリでしたね」
――子どもの無垢な声って、こういうインダストリアルな音像にぶち込んだら映えますね。
OCHAN「かわいいけど怖い、何とも言えない毒々しさみたいものを入れたいなと思って」
そのときの自分の疲れとか癒やしを求める気持ちが
『ミラクル』には全部入ってます
――でね、もう次の曲が出るって忙し過ぎやんという。新曲『ミラクル』はTVアニメ『ガングリオン』エンディング主題歌で、初のアニメタイアップということで。
OCHAN「この曲を作っていたのは春で、他にも来年公開される映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』の主題歌『Stranger』、CM曲の『G00000W』もあって、3曲ぐらい重なってたんですよ。そこに『!』の曲も書かなきゃいけなくなって...そのときの自分の疲れとか癒やしを求める気持ちが『ミラクル』には全部入ってます」
――シングルの中でも珍しくチルいというか、こんなに温かくて切ない曲になったのは、その心情がモロに(笑)。
OCHAN「監督からも、パッと見たアニメのビジュアルとは違って日々働いてる人の生活を描いてるから、そういう人に届くような曲にしてほしいと言われたのが自分と重なって。だからAメロの頭が、"もう疲れたね"っていう(笑)」
――ただ、タイトルは日常とはかけ離れたもので。
OCHAN「『ミラクル』というテーマでずっと曲を作ってみたかったのと、"日常の小さな奇跡"と言うとチープかもしれないですけど、僕みたいにひねくれてるヤツでも、これまでのいろんな出会いは奇跡だなと感じるし、疲れてるときはハナレグミとかを聴くんですよ。素直に泣きそうになるじゃないですか。自分が疲れたときに聴きたい曲、テンションで作ったら、そういうのも伝わるんじゃないかなと思って」
――ハナレグミの名曲『家族の風景』('02)とかは、静かだけどエネルギーがありますもんね。
OCHAN「マジで。ああいう曲は自分では作れなかったけど、今こそやってみたいなと」
――'25年=ニコニコイヤーということでしたが、多忙な一年を振り返ってどうですか?
Anabebe「ホンマに突っ走りましたね。"もう疲れたね~♪"(笑)」(と『ミラクル』の一節を口ずさむ)」
OCHAN「ライブもそうですけど、充実してましたね。DJセット=微笑坦々も始めたことにより、ありがたいことにライブのお誘いが来過ぎて、えげつないことになりました(笑)」
――それでは最後に、年末のごあいさつ的な一言をば!
Anabebe「今年はチャレンジの年でしたから、ドラムのプレイも磨いて、新しいこともやって。来年はさらに面白いことをやりたいと思ってるので、楽しみに待っておいてください!」
OCHAN「このEP『!』で、NIKO NIKO TAN TANがまた新しく生まれ変わったと思ってるので、アートワークにYUGO.も入ってくれたし、Drug Store Cowboy(Creative Director/Movie/Artwork)ともっとカッコよく、面白く、尖り散らしていきたいですね(笑)」
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2025年11月27日更新)
Digital EP
『!』
発売中
ビクターエンタテインメント
<収録曲>
01. LEAP ≠ ?
02. FLY OUT
03. ASIAN WAVES
04. BOWWOW (feat. POPO J)
05. えいや (feat. Aki)
Digital Single
『ミラクル』
発売中
ビクターエンタテインメント
<収録曲>
01. ミラクル
ニコニコタンタン…メンバーは、OCHAN(vo&syn)、Anabebe(ds)、Drug Store Cowboy (Creative Director/Movie/Artwork)。’19年結成。ジャンルを超越した音楽×映像×アートを創造する、クリエイティブミクスチャーユニット。『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』など大型フェスにも多数出演し、’24年8月にはメジャー1stアルバム『新喜劇』をリリース、全国6都市を回るワンマンツアーを完遂。’25年はニ(2)コ(5)にちなみ“ニコニコイヤー”と称し、国内外問わず活動の規模を拡大。CM・映画への楽曲起用など各方面から注目を集め、秋には自身最大キャパシティとなる『NIKO NIKO TAN TAN『!』ONE-MAN TOUR 2025』を大阪・東京・台湾・上海・北京で開催。10月1日には、TVアニメ『ガングリオン』エンディング主題歌『ミラクル』を配信した。
NIKO NIKO TAN TAN
オフィシャルサイト
https://www.nikonikotantan.com/
『NIKO NIKO TAN TAN
『!』ONE-MAN TOUR 2025』
【大阪公演】
▼9月22日(月)心斎橋JANUS
【東京公演】
▼10月3日(金)Spotify O-EAST
【台湾公演】
▼11月8日(土)台北 THE WALL Live House
【中国公演】
▼11月13日(木)上海 BANDAI NAMCO Shanghai Base
▼11月14日(金)北京 YUE SPACE
『無線遊宴
-おかげさまで4歳になりました-』
チケット発売中 Pコード309-193
▼11月30日(日)18:00
心斎橋JANUS
オールスタンディング4400円
[出演]DENIMS/
NIKO NIKO TAN TAN/浪漫革命
[DJ]DAWA/他
JANUS■06(6214)7255
※保護者同伴の場合のみ未就学児童入場可(小学生以上要チケット)。出演者が許可した場合を除き、写真撮影、録音・録画禁止。
「インディーズ時代に他メディアの取材で出会って意気投合、大阪でのワンマンライブには顔を出しつつ、動向を追い続けてきたニコタン。メジャー進出後のインタビューは今回が初とちょい久しぶりでしたが、いい意味で変わらない2人と異端であり続けながらもポップな楽曲に、改めて可能性を感じましたね。EPで実験して、アルバムという本筋にそれをどう持ち込むか/持ち込まないのか。この2本柱が並走するのは、アーティストとしては理想的な活動サイクルかもしれない。そして、アニメが世界に連れていってくれる時代に、『ミラクル』はどう響くのか。AmazonのCMをニコタン自ら手掛ける日も、あながち遠くないのでは? 年内最後の関西圏でのライブになるであろう、11月30日(日)心斎橋JANUS。お時間合う方はぜひ!」