ホーム > インタビュー&レポート > スーパー登山部 × 新東京が初の対バン 『T.B.O presents #長堀界隈 ver1213』ライブレポート
寒さ厳しくなった師走の大阪。忘年会シーズンかつ金曜日の夜で賑わう繁華街を通り抜け、会場の心斎橋CONPASSに到着すると既に大勢のオーディエンスが詰め掛けていた。
先攻は2023年に愛知県で結成されたスーパー登山部。彼らの結成の経緯や活動については、先日ぴあ関西版WEBに掲載した小田智之(key)とHina(vo)のインタビュー(前編、後編)をぜひ読んでいただきたいのだが、彼らはその名の通り、音楽と登山に活動の軸を置いている。7月の『#長堀界隈 ver0712』と、10月の『MINAMI WHEEL 2024』でもこのCONPASSに立ち、ミナホでは入場規制をかけたことからも、注目度の高さがよくわかる。
サウンドチェックから板付で始まったライブ。まずはメンバーが向き合ってセッション的に音を鳴らし始める。Hinaが指揮者のように手をひらりと振れば、それに合わせていしはまゆう(g)と梶祥太郎(b)、深谷雄一(ds)、小田が楽器を弾く。Hinaはまるで遊ぶように、お茶目に音を止めたり鳴らしたりして、和やかな笑いを起こす。メンバーも心底楽しそうで、バンドの空気感の良さが伝わってきた。やがて深谷の放つビートが確立し『頂き』へ。うっとりするほど透明感のあるHinaの歌声が会場を満たしていった。続いて清涼感のある鍵盤と軽快なビートが心地良い『風を辿る』。柔らかく澄んだハイトーンボイスとアンサンブルに、どこまでも連れて行かれそうな感覚に陥った。
MCでは小田が「私たち、スーパー登山部です!」と挨拶し「この中で登山したことある人!」と質問を投げかけるとフロアから元気よく手が挙がり、富士山や槍ヶ岳に行ったという声が飛ぶ。ノリノリのオーディエンスを見て笑顔を浮かべたHinaは「2024年最後のライブが大阪って嬉しいですね。今年はCONPASSにお世話になりました」と感謝を述べた。
中盤は雰囲気を変えて、どこかノスタルジックな『hatoba』、小田がメインボーカルを取った『秋の海藻』と、音の波に潜るような楽曲を連続で投下。Hinaのボーカリストとしての実力と存在感を感じると同時に、クラシックにルーツのある小田のメロディーメーカーぶりもありありと感じられた。楽器隊のアンサンブルも印象的で、長めのブレイクやドラムフィル、オルタナ色満載のギターソロ、緻密に練られたサウンドの運び方は面白く、"こんな表情もあるんだ"と思わせられた。
2度目のMCでは「今日が僕らにとって年内ラストライブということで、非常に気合いを入れてまいりました」と小田。Hinaは「今年は色んなところで歌わせてもらえるようになって。毎回緊張します。関西の方は目線や反応があったかくて、お客さんの目を見て歌えるようになったのは1年の成長なんですけど、大阪はそれがやりやすい」と微笑んだ。本当に演奏とトークにギャップがあるバンドだが、メンバーもそれを自覚済み。特に小田はMCが長くなりがちだそうで「ブラックホール」と言われたこともあると、会場を笑わせた。
暗めの赤い照明の中、Hinaのアカペラから始まった『火花』は、音に宿る温度と上質なメロディーラインが本当に美しく、彼女の歌声がまるでミューズのように感じられるほどで、癒しと慈しみの力に包まれるようだった。続く『樹海』『睡蓮の街』は山の神秘さと荘厳さ、奥深くに潜るような雰囲気に圧倒される。音源では決して感じることのできない豊かな音楽表現に酔いしれた時間となった。
まだまだ喋りたい小田は「ちょっといいですか」と話し始める。11月に1人で黒百合ヒュッテでライブをした際に天狗岳の頂上で新東京のグッズのドリップコーヒーを飲もうと取り出したところ、なかなかお湯が沸かず、結局コーヒーを飲めなかったというオチに、Hinaからすかさずツッコミが入る。そして「すいません、時間がないです!」と小田を止めたHinaは「今日面白いと思ってくれた人はワンマンに来てください。2024年ありがとうございました」と『意志拾い』へ。小田の叩くカウベルに合わせてコール&レスポンスで会場をひとつにし、最後はいしはまが原曲を手がけた『スーパー銭湯もある』をプレイ。Hinaといしはまのハーモニーがゆらゆらと気持ち良く、フロアも一緒にシンガロング。楽曲の良さはもちろん、表現力の幅広さや魅力を存分に提示して、とても心地良い温度感で、今年最後のライブを終えたスーパー登山部だった。
後攻は新東京。2021年4月に結成された、杉田春音(vo)、田中利幸(key)、大蔵倫太郎(b)、保田優真 (ds)からなる4ピースバンドだ。この日は大蔵が上手側、田中が下手側に、保田がボーカルの後ろという配置だ。11月にリリースされたEP『新東京 #5』から『Mirror』を杉田がゆっくり歌い始めると、田中の美しいピアノ旋律が鳴り響く。保田の変則的なビートが空間を満たし、大蔵の細やかなベースがボトムを支える。楽器隊のダイナミズムと杉田のミステリアスな雰囲気の歌声に、早速目も耳も釘付けになる。『Heavy Fog - Organic』に続く『New Dimension』では、一気にスピードを加速。流れるようなサウンドが気持ち良く、「皆さんノッてますか! よろしくお願いします!」との杉田の言葉に呼応したオーディエンスも前のめりに身体を揺らし、全身で音楽を楽しんでいく。そこからシームレスに『Escape』へと移行すると、そのあまりの鮮やかさにフロアは興奮し「フー!」と湧きまくるのだった。
MCで杉田は「今日は皆さんお集まりいただきありがとうございます。久しぶりの大阪、超楽しいです」と挨拶。大歓迎ムードで遠慮なくガヤを飛ばすオーディエンスに、メンバーは嬉しそうに笑顔を見せた。
ブルーのライトに包まれて始まったのは『Cynical City』。クラップで会場をひとつにしつつ、ライブならではのアレンジ満載で、静と動、緩急をダイナミックに織り交ぜ、フロアを音の洪水に巻き込んでゆく。最高の見せ場となった各々のソロは大迫力で、言わずもがなの盛り上がり。さらに『The Few』では美しくも予測不能な曲展開で楽しませる。テンポを落として『sanagi - Organic』で色気たっぷりにボーカルを聴かせた後は『さんざめく』を披露。ギターレスの彼らだが、大蔵が繰り出すギターフレーズのようなプレイは非常にクール。後半は一気になだれ込んだ。
杉田はMCで「今日ほんと素敵なツーマンですよね。僕もスーパー登山部をフロアでずっと見てたんですけど、マジでカッコ良かった。またやりたい。そしてさっきコーヒーをプレゼントしました。仲良くしてもらいたいですね」と瞳を輝かせてスーパー登山部に賛辞を送っていた。
ライブもあっという間に後半戦。『n+1』ではお立ち台に乗った大蔵のスラップが大音量で炸裂! 複雑で厚みのあるサウンドに牽引されて会場のボルテージはぐんぐん引き上げられる。『NTM』では田中も上半身を大きく揺らして演奏。保田の手数の多さ、大蔵の躍動するベースライン、杉田の憂いを含んだボーカル。どれをとってもカッコ良い。「次で最後です」という言葉にフロアからは「えー!」と声が上がり、惜しまれつつも『36℃』へ。切なくも美しいメロディーラインがじわじわと全身に染み渡り、ラストに向けて高まるエネルギーが素晴らしい躍動感と多幸感をもたらしてくれた。
すぐさまアンコールを求めるクラップが発生し、ステージにカムバックした4人。この日、田中がビッグカメラでVRゴーグル「Meta Quest」を買ったというエピソードや、宿泊先が保田の親戚宅であることを明かして盛り上げると、最後は『Morning』を披露。目まぐるしい展開とこれまでにない力強さで会場の熱を引き上げ続け、最高の余韻を残してライブを終えた。芸術性の高い演奏と洗練された表現力が存分に発揮された、極上の1時間だった。
2025年3月29日(土)には、梅田にあるBananaHall、Zeela、BANGBOOの3会場のライブハウスで"踊れるサーキットイベント"こと『梅田界隈 THE CIRCUIT '25』が行われる。スーパー登山部と、スーパー登山部のバンドメンバーに、Marimba、Flute、Percussionが加わったパラレルプロジェクトバンド「登山部experiment」の出演も決まっているので、ぜひ足を運んで、ボク踊おすすめの音楽たちに触れてほしい。
Text by ERI KUBOTA
Photo by ハヤシマコ
(2025年1月10日更新)
2024.12.13 Fri at CONPASS
スーパー登山部
01. 頂き
02. 風を辿る
03. hatoba
04. 秋の海藻
05. 火花
06. 樹海
07. 睡蓮の街
08. 意志拾い
09. スーパー銭湯もある
新東京
01. Mirror
02. Heavy Fog - Organic
03. New Dimension
04. Escape
05. Cynical City
06. The Few
07. sanagi - Organic
08. さんざめく
09. n+1
10. NTM
11. 36℃
EN. Morning
▼3月29日(土) 14:00
梅田BananaHall/梅田Zeela/梅田BANGBOO
全自由-5000円(ドリンク代別途要)
U-20(全自由)-3500円(20歳以下対象、ドリンク代別途要)
[出演]どんぐりず/Doona/Jairo/jean/QOOPIE/Redhair Rosy/S.A.R./スーパー登山部/Testa/登山部experiment/TRIPPYHOUSING/他
※小学生以下は保護者同伴に限り入場無料(保護者様1名につき1名まで)。Zeelaにあるリストバンド交換所にお越しください(13:30~交換開始予定)。開場・開演時間は変更となる可能性がございます。アーティストのキャンセルや変更等による料金の払戻しはございません。
[問]夢番地■06-6341-3525