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“山頂でのライブは、僕らにしかできない活動の形かもしれない”
音楽と山への熱き想い
スーパー登山部の活動を深掘り 前編

小田智之(key)が中心となり、Hina(vo)、いしはまゆう(gt)、梶祥太郎(ba)、深谷雄一(ds)の5人で2023年に結成されたバンド・スーパー登山部。名は体を表すと言うが、まさに彼らはその名の通り“音楽と登山”を組み合わせた活動をしている。今年6月から8月にかけて行われた、自身初のトラバース(=ツアー)『1st EP Release Traverse』のファイナルは、標高2,832mにある日本最大級の山小屋・白馬山荘。楽器や機材を歩荷(荷物を背負って山を登ること)で運び込み、大盛況でライブを終えた。今回は『MINAMI WHEEL 2024(以下、ミナホ)』の出演を終えたばかりで、ぴあ関西版WEB初登場の小田とHinaに、バンド結成の経緯から活動方針、最新シングル『頂き』、そして12月13日(金)に心斎橋CONPASSで行われる『T.B.O presents #長堀界隈 ver1213』についてじっくりたっぷり話を聞いた。“これを読めばスーパー登山部がわかる!”というロングインタビューを、前後編にわけてお届けしよう。前編では、山にフォーカス。メンバーの登山話や、山頂ライブ計画について、また白馬山荘ライブの感想を語ってもらった。

バンド名が導いた、活動の方向性



ーー結成のキッカケは、小田さんですよね。

小田「ベースの梶と"バンドをやりたいね"と話していた流れや、Hinaちゃんというボーカリストがめちゃめちゃ歌がうまいのに活動してなくて、やったらいいのにと思ってたとか、色々要因はあったんですけど、1番動くキッカケになったのは、僕がアーティスト契約をして活動していた愛知県・長久手市 文化の家を卒業するタイミングですね。ホール公演ができるとなって、バンドとオーケストラ編成の豪華なコンサートを開きたいと思って、その時演奏するバンドメンバーを探し始めたのがスタートです」

ーーお2人は大学の先輩後輩なんですよね。

Hina「そうです。大学の歌の試験で小田さんに伴奏をお願いをしたのが始まりで、そこからたまにお仕事をしたりという関係性が続いていきました」

ーー声楽科みたいなところに通われていたんですか?

Hina「もっとポップな、ミュージシャンになりたい人が楽器や録音、音響など色々学べるポップス・ロックコースに通っていました」

小田「自分はサウンドメディア・コンポジションコースです」

Hina「私は音楽に関する仕事をやりたいけど、歌を歌いたいかどうかはまだわからないなと思いながら大学に入って。サウンドメディアの勉強もしたけど全然興味が持てなくて、"普通に就職した方がいいのかな~"と思っていたんです。で、ちょうど大学3年生の終わりに小田さんに"バンドやってみない?"と誘われて。私の声はあまり遠くに飛ばないので、最初はバンドで歌うのも迷ったんですけど、小田さんの楽曲はクラシック的な要素のメロディーの作り方なのですごく歌いやすいし、自分の声質や特徴を最大限汲み取ってやってくれるかもと思って。1回そこに賭けてみたいなと思えるような魅力とセンスを感じていたので、2つ返事でOKしました」

ーーお2人ともクラシックがルーツにあるんですか?

小田「僕はヤマハ音楽教室育ちではあるんですけど」

Hina「私も。でも全然真面目にやってなくて、小学5年生でやめました」

小田「自分はだらだら続けてたけど、クラシックよりも自分で好きな曲を弾いたり、即興で演奏する方が楽しくなっていきました」

Hina「あと私は中学生の時に運動部と言われるくらいスパルタな合唱部に入っていて、そこで結構しごかれて。おかげでコーラスやハーモニーの面において耳が良くなりました。今も合唱曲を調べて聴いたり歌ったりするぐらい、合唱が好きですね」

ーー小田さんがHinaさんをスカウトした決め手は?

小田「直感です。試験の伴奏で合わせた時に、"何この歌! こんな近くにめちゃくちゃすごい人がいたんだ!"みたいな衝撃があって。度々楽曲提供の機会にボーカルをお願いしてたんですけど、もっとしっかり何かやれたらと思っていて、バンドを作ると考えた時に"Hinaちゃんだ"と思ってお声がけしました」

ーーどんなバンドにしようという構想はあったんですか?

小田「ベーシックなバンドスタイルがいいなと思って、ボーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラムの5人は必要だなと感じて、そのパートに合う人を探した感じです」

ーー結成時は、"登山部"という名前はまだなかったんですよね。

小田「そうですね」

Hina「でも小田さんが山大好きだというのは、全員知ってる状態で集まっていました。最初は名前を決めて活動するというより、とりあえず1回ライブをしてみようというお試しの気持ちだったので、初ライブにバンド名なしで出ようとしてたけど、運営の方にダメと言われて。LINEグループの名前が"スーパーバンド"だから、もう少しパンチのある名前にしようとなった時に、その話の流れでドラムの深谷さんが"じゃあスーパー登山部でしょ"って」

ーー小田さんは元々山と音楽がお好きだったんですね。

小田「山の上で鍵盤ハーモニカを吹く活動は、バンド結成前からずっとしていて。ただ"それはそれ、これはこれ"で、結成したすぐの頃は、2つの活動はそんなに結びついていなかったです。みんなで山に行ったり、1つずつ積み重ねた結果、気付いたら今の活動の形になっていきました」

Hina「でもスーパー登山部の名前にしようかとなった時に、小田さんが"1個確認ですけど、名前をつけたからには登ってもらいますからね"って(笑)。用具を揃えるにも費用がかかるので、初ライブの物販の売上でみんな登山靴を買って、初登山を迎えました」



"また登りたい"と思わせる山の魅力



ーー初登山が2,956mの長野県の木曽駒ヶ岳ですね。そこで皆さんも登山を好きになったんですか?

Hina「どうでしょうね(笑)。多分各々感想があって。私はすごい景色に圧倒されて、"こんなに澄んだ場所があるんだ"という感じだったんですけど、帰りに雷と雹に襲われ、石で滑ってお尻をぶつけて、"もうやだ"となって。それでも時間が経つと、"また登りたいな"と思う魅力があるのかも」

小田「木曽駒ヶ岳は天気の影響で3〜4回の予定変更ののちにやっと登れたんです。山に登っていれば急激な天気の変化は絶対起きることだけど、まさか初回で全部詰まるとは。良い部分も大変な部分も両方体験した上で、みんなが"また山に行こう"となってくれたので、"これはいけるな"と」

ーー高山病は大丈夫だったんですか?

小田「高所順応の時間も作ってゆっくり登っていったので、大丈夫だったかな」

Hina「初登山の時は"空気薄いな"ぐらいでした。2回目の登山は去年の天狗岳で、とんでもスケジュールで動いたんですよね」

小田「東京で初ライブ(2023年8月代官山UNIT)をする前に登山しようと言って、八ヶ岳の黒百合ヒュッテでの宿泊を目的に天狗岳に登って、次の日乗鞍のフェスを見に行ってそこで泊まって、次の日東京でライブをするスケジュールでした」

Hina「初めて山小屋に泊まったんですけど、私不安になって、寝てる時に動悸がすごくて全然呼吸できなくなっちゃって。結局何もなかったんですけど、小田さんだけ起こして、喋りながら呼吸を整えて。その時に"山頂で歌うことがあるかもしれないな"と初めて意識しました。その頃から白馬での話が徐々に出始めてましたよね」

小田「1年前に自分1人で白馬に登った時、すごく良かったんですよね。それで"白馬でライブできたらな"と思っていて」

Hina「ただ山頂で歌うとなると、酸素が必要で」

ーーそうですよね! 山頂は空気が薄いですよね。

Hina「薄いんですけど、"いつもより(空気を)吸えないな"とか"いつも伸びるフレーズが伸びないな"という感覚が強いです。だから酸素缶を持っていって、MCの間に吸っていました」

ーー酸素を吸わないと、やはりもたないんですか?

Hina「歌えるんですけど、呼吸ができないことはパニックになる要素の1つなので、なるべく冷静なまま終われるように、酸素缶を準備してます」

ーー12kgの荷物の中には酸素缶も入っているんですね。登山計画ならぬ、登山ライブ計画はすごく重要だと思いますが、山が相手だと日程を決めるのも難しいのでは?

小田「元々は前日に大雪渓ルートを登って白馬山荘に泊まって、ライブをしてもう一泊して、次の日に下山するという3日間の計画だったんですけど、今年は大雪渓ルートが通行止めで行程を変えなきゃいけなくて、4日間に変更して。かつ天気もわからないので、予備日を次の週とその次の週の計12日間空けてて。結果的には1回目で行けたんですけど」

Hina「2週目、3週目になると、スケジュールが怪しい人たちが出てくるんですよ」

ーーお客さんの予定もありますし、天候にもかなり左右されるので、開催自体がすごい奇跡ですよね。

Hina「本当に奇跡ですね」

ーー今の活動形態になって、"年に何回山でライブしよう"みたいなことは決めているんですか?

小田「決めてないです。多分1回はやると思うし(笑)。ライブ以外で体力維持のために月に1度はみんなで登山しようとは言っていて。ただ僕らフェスにも出たいし、それと夏山シーズンも被るので」

Hina「となると、ライブの前後に登山を入れることにもなりそうだなと。私はそれは心と身体的にちょっとキツいなと思いつつ、でも忙しくなったら仕方ないかな。プライベートだと1人で登ってくれて全然いいんですけど、小田さんは1人だと寂しいから。この前は1人で登ってましたね」

小田「実は僕ら、ミナホの2日前に山の上(岐阜 新穂高ロープウェイ 頂の森)でライブしてて。ミナホまでの中日で登山しようよとみんなを誘ったんですけど、"ミナホもあるしやめとくわ"って。だから僕だけ登ってきて」

ーー登山は小田さんのライフワークですね。

Hina「ほんとに。とんでもスケジュールでも、登る方が元気になると言うんですよ」

小田「本当にそうです。雄大な自然な空気や景色に触れたり、自分自身が動くことで活性化される。最近は山で出会う人との触れ合いもすごくあって。山好きが集まる場所なので、基本的にみんな誰とでも仲良くなるんですよ。この前も一緒に登ってた人と仲良くなって、ずっと一緒に行動して、ご飯を食べて星を見て。そういう行きずりの関係で時間を過ごすのも、すごく貴重な体験だなと。そこに魅力を感じて、隙あらば登りたいなと思ってます」



1年がかりで準備して、ようやく辿り着けた白馬岳の"頂き"



ーー8月の白馬山荘のライブ映像では感極まっておられる場面もありましたが、やはり喜びが大きかったですか。

Hina「初めて10時間半ぐらいかけて登ったので不安もありましたけど、達成感と喜びがありました。綺麗な夕日と雲海をバックにライブを見て感極まるお客さんの表情が本当にあったかくて、柔らかい表情をされていて、1曲目の『風を辿る』のイントロから泣いてる人もいて。普段地上のライブに来てくださるお客さんももちろんありがたいんですけど、十何時間もかけて同じ道を辿って、"来たよ!"と言ってくれて、自分の身を削るという共通の体験をしたことが、すごく涙腺にきましたね」

小田「僕らのライブを見るために登山を始めた人も結構いて。そのために筋トレしましたとか、近くの山を登ってついに白馬に来ましたという人もいたんです。"ここまで一緒に来てくれて本当にありがとう"という気持ちでした」

ーーチーム感が増している感じですか?

Hina「ひとつになってるなって。もちろん山荘や山があってこそなんですけど、お客さんがいてこその自分たち。良い意味での責任感というか、"ちゃんと良いライブを届けなきゃ"という気持ちで歌ってました」

ーー白馬山荘でのライブを終えて、バンドとして見えたことはありましたか?

小田「元々白馬山荘でのライブはトラバース(ツアー)に組み込んでいたけど、半分冗談だったんですよ。お客さんも大変だからわざわざ来ないだろうと思ってたし、自分らがまずそこでやることが大事だと思ってたんですけど、結果的には本当にトラバースファイナルにふさわしい形で終えることができました。山上でのライブの素晴らしさや、こんなに特別な時間になるんだということを、身をもって感じられて。これは僕らにしかできない1つの活動の形かもしれないと気付いたので、またやりたいです(笑)。ただ本当に大変なのも身に染みました。1年がかりで山荘さんや山の関係者と連携しながら準備して、ようやく辿り着けた"頂き"、かけがえのない時間でしたね」

Hina「今回は20人ぐらいのチームで登ったので、いつもとはまた違う雰囲気で、メンタル的にも安心感がありました」

後編に続く

Text by ERI KUBOTA




(2024年11月14日更新)


Check

Movie

Release

登山で感じる想いと景色を詰め込んだ7thシングル『頂き』配信リリース中!

【収録曲】
01. 頂き

MUSIC INTERVIEW

スーパー登山部【後編】

superclimbingclub-part2.html

Profile

スーパー登山部…2023年1月にキーボーディストの小田智之が中心となり結成。小田は音楽仲間だったベーシストの梶祥太郎と共にバンドメンバーを集め、5人編成のスーパー登山部が誕生。5月には名古屋のKDハポンで初ライブを開催し、チケットは即完売。これはバンドにとって大きな一歩となった。バンド名に「登山部」とあるように、音楽と登山を組み合わせた活動をしている。2023年7月、天候不順で何度も延期されたが、ついに木曽駒ヶ岳で初登山。8月11日の山の日には、初のシングル「風を辿る」を配信リリースし、同日には天狗岳の黒百合ヒュッテに滞在。翌々日には東京代官山UNITで2回目のライブを成功させた。その後、10月13日に今池TOKUZOで開催された2度目の自主企画ライブもソールドアウトし、着実にファンベースを広げた。2024年3月には、長久手市文化の家で結成一周年記念コンサートを開催。ゲストにMERLAW、TENDRE、中村佳穂(シークレットゲスト)が参加し大成功を収める。6月からはバンド初のトラバース(ツアー)「1st EP Release Traverse」がスタートした。このトラバースでは、下北沢BASEMENTBAR、名古屋JAMMIN’、大阪心斎橋CONPASS、そして白馬山荘という、都市と山を結ぶ全4公演が行われた。特に8月の白馬山荘でのライブは、標高2,832mでの壮大なフィナーレとなり、大盛況のうちに幕を閉じた。12月には「T.B.O presents #長堀界隈 ver1213」で新東京とのツーマンライブを行う。


Live

「T.B.O presents #長堀界隈 ver1213」

PICK UP!!

【大阪公演】

▼12月13日(金) 19:00
CONPASS
スタンディング-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]新東京/スーパー登山部
※未就学児童は入場不可。
[問]夢番地■06-6341-3525

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