――初なのにちゃんとホームでフォロワーがいるっていうね。振り返って他にも印象的なライブはあった?
カミヤマ「『DREAM DAZE』っていう、俺たちの周りをお客さんが取り囲む“ゼロ距離ワンマンライブ”は、相当刺激的な体験でしたね。お客さんがもはや観てるんじゃなくて一緒に演奏してくれてるような感覚を9月の1回目で掴んで、11月の2回目は実際にお客さんにも参加してもらったんです」
エンドウ「事前に
動画で叫んでもらう、歌ってもらう、手拍子してもらうとか内容を伝えて、実際に100人ぐらいで一斉に叫んで…負の感情とか全てを吐き出せたんじゃないかって思うぐらい、すごい光景だったよね」
カミヤマ「去年は他のバンドのツアーにも結構誘われたんですけどその体験が還元できたし、やっぱりこっちが示した分だけお客さんもちゃんと反応してくれるというか、“こっちがどれだけやるか”なんだって」
エンドウ「そこからお客さんとの向き合い方がすごく変わったんですよね。今までだったらちょっと一方的というか差し出して帰るみたいな感じだったんですけど、会話のような感覚をゼロ距離ワンマンで掴んだ気がします。詞の書き方にもすごい影響がありましたね」
カミヤマ「対バンライブではそれぞれのバンドにいいところがあって、全然違った武器を持ってるのを見て、逆に自分たちの武器が何なのかもだんだんと照らし出されるように分かってきて」
――今、改めてPELICAN FANCLUBの武器とは何だったと?
エンドウ「“二面性”ですね。ライブの最中にも“喜怒哀楽を音楽にぶつけよう”みたいなことを言ってるんですけど、“喜び”と“楽しさ”、“怒り”と“哀しみ”、そういう二面性のセットを僕たちの曲で反映して、お客さんがそれに合わせて感情を出してくれてるなっていうのは、観てて思いましたね、うん」
自分がどれだけその曲に感情移入できるかが勝負
――そんな中、リリース的にはフルアルバム『Home Electronics』を出した後も、新曲『Shadow Play』と『SF Fiction』の配信がありましたね。
エンドウ「『Shadow Play』はカミヤマくん、『SF Fiction』は僕が作った曲で。『SF Fiction』に関しては、『Home Electronics』以降の自分たちのポップさというか、今までやってきたことと新しさをミックスした1曲にしたいなと思って作った曲なんですよね。新生PELICAN FANCLUBを自分の中であざとく表現した感じです。歌詞に関しても『Home Electronics』では1曲1曲に主人公を置く書き方がメインでしたけど、その主人公を人じゃないものにして。だから、『SF Fiction』は“僕は空気”っていう歌い出しなんですけど」
カミヤマ「『Shadow Play』のデモ自体は『Home Electronics』を作ってるときからあって、“影送り”っていう現象を自分の理想像との対比みたいな感じにしたかったんですけど、歌詞にオチがなかったところにエンドウが“子供と大人”っていう時系列を付けてくれたことで、うまくまとまったなぁと。共作の面白いところが出たなと思います」
エンドウ「もらった歌詞に関しては、自分がどれだけその曲に感情移入できるかが勝負だと思ってて。だから“ザカリーやサーストン そんな風になりたい”っていうところは、実際に僕の憧れなんですよ。ザカリー・コール・スミス(ダイヴ・vo&g)とサーストン・ムーア(ソニック・ユース・vo&g)の名前を出すことによって、“エンドウはエンドウのままなんだ”っていう気持ちで歌える。今までも何回か共作してるんですけど、そこがなかなか上手くいかなかったんですよ。でも、この曲にある“小さい頃の自分が思い描いてた20歳って、もっと大人だったはずなのに”みたいな感覚って誰もが通るテーマだと思うんで、より一層感情移入できたのはありますよね」
――そもそも“影送り”ってどういう現象なの?
カミヤマ「晴れた日に自分の影をずっと見た後、空を見るとその影の残像が空いっぱいに映るみたいな現象なんですけど、昔ながらの遊びみたいな面もあるみたいで。だからタイトルもあえて『Shadow Play』=“影で遊ぶ”にして」
――それも配信だけじゃなく、『Shadow Play Kit』(『Shadow Play』のCDやステッカー、ポーチなどを同梱)としても販売したり、ペリカンはライブだけじゃなくリリースでも毎回創意工夫があるのが面白いなと。
エンドウ「僕はCDが好きなんで買いはするんですけど、仮に今中学生、高校生だとしたら、SpotifyとかApple Musicで聴いて、“盤なんてもう記念品だな”って思っちゃう。それを避けては通れないと思うんで、だったらいろいろと付録があったらどうなんだろうとか。“CDが果たして本当に必要なのか?”っていうところから、時代と見つめ合った結果みたいな感じなんですよね」
今思うと自分たちの引き出しを一番素直に出したアルバムが『ANALOG』
『PELICAN FANCLUB』で全然毛色の違う楽曲を
アルバムにぶち込む快感を覚えました(笑)
――そして、今年は早々に『ONEMAN LIVE 2018 “SPACE OPERA”』と称して、過去の作品を回顧する東名阪ワンマンシリーズが始まります。
エンドウ「前々から完全再現ライブをやりたいとは言ってたんですけど、去年やっとフルアルバムを出せて、自分たちの足元が固まって。今、改めてこの3作を演奏したらどうなるのか? 自分たちが自分たちにすごい期待してる、いいタイミングだなと思いました」
――その3作を順番に振り返っていきたいんですけど、まずは初日の大阪公演で再現する『ANALOG』('15)は、PELICAN FANCLUBにとってどんな作品だったと?
エンドウ「当時の自分たちのサウンドって結構クリーンなものが多くて、歪むと言っても飛び道具的な扱いで、サビがない曲も多かったんですね。むしろサビがない曲がカッコいいと思ってた時期だったんで。’15年時点でのベスト盤みたいな感覚で作ったのでセルフタイトルでもいいなと思ったんですけど、“連続性”という意味で『ANALOG』というタイトルを付けたんですよ。デジタルと違ってアナログの波形は連続してるので、自分たちは『ANALOG』以降も連続していく=“続いていくぞ、ブレずにいくぞ!”っていう」
カミヤマ「当時は曲作りもスタジオでセッション一発でやることが多かったので、今思うと自分たちの引き出しを一番素直に出したアルバムが『ANALOG』なのかなって。“素っぴん”みたいな感じですかね(笑)」
クルマダ「当時は音数が少ないUSインディーにのめり込んでたりもしてたんで、聴いてたものがそのまま反映されてる感じはしますね。その中でも、デス・キャブ(・フォー・キューティー)だったりはシンプルだけど曲としてまとまってるので憧れてたし、“できるだけ少ない音でどう作れるのか?”みたいには思ってましたね」
――いろいろやった後にそうなるんじゃなくていきなりその観点って。ビビるわ、新人の取材でそんなこと言われたら(笑)。『ANALOG』は今聴いても、ある種のPELICAN FANCLUB節みたいなものが感じられますよね。すごく濃い根っこみたいなのがこの時点でしっかりある。
カミヤマ「今、セッションで急に4人で曲を作れと言われたら、『ANALOG』に毛色が近い曲ができるのかなって。素のテンションでやったら多分こうだと思います」
エンドウ「当時は、コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザー(vo)の歌い方を僕はすごいリスペクトしてて…っていうかもうそのまんまの歌い方をしてるアルバムですね(笑)。次の『PELICAN FANCLUB』(‘16)で変わったというか、変えました。デモCDを出してたときって自分たちが実際に物販に立って売ってたんで、“この人が聴いてくれてるんだ”っていうのが目の前で分かる。でも、『ANALOG』を出したことによって全く知らない人も聴いてくれてると分かったときに、“もうちょっと掌で転がしてみたい!”みたいな気持ちが出てきて。『PELICAN FANCLUB』のテーマは、“表と裏”、“白と黒”みたいに、白かと思って見たら中身は黒だったとか、面倒臭いトリックを結構入れてて音数も多いんですよ。『PELICAN FANCLUB』はそういう“遊び”みたいなものがいっぱい詰まってたアルバムでしたね。でも、それを持って初めての全国ツアーを回って、ライブに対する意識が変わっていったんですよね」
カミヤマ「個人的には『プラモデル』と『Dali』がターニングポイントになってるというか。『ANALOG』は自分たちの素を出した感じだったんですけど、そこに1つ2つエッセンスを足したというか、その2曲って明らかに他の曲と違うじゃないですか。みんなそれぞれいろんな音楽を聴いてるんで、そういうところも見せたいなって。『PELICAN FANCLUB』で全然毛色の違う楽曲をアルバムにぶち込む快感を覚えました(笑)」
クルマダ「『PELICAN FANCLUB』もまだセッションで作ってた部分があったんですけど、みんなが『ANALOG』よりも幅を出そうとしていろんな曲ができたなって。『Chilico』でめちゃくちゃリバービーでドリーミーなサウンドをやってみたり、『プラモデル』のシューゲイザーっぽさもありつつ、途中でジャズっぽいフレーズやラップを入れてみたり、今までになかったよさが全部混ざっていく流れが、ここから始まった感覚はありますね」
シミズ「あと、全然違う曲が並んだなと思ったので、楽曲ごとに結構振り切ったミックスにして。例えば、さっきの『プラモデル』はドラムの音が結構遠くにあるんですよ。そういう音の距離感も立体的に表現できたのかなと」
カミヤマ「このアルバムからずっと采原(史明)さんが録ってくれてるんですけど、エンジニアによって全然変わるんだなっていうのを目の当たりにして、ものすごい勉強になりました。釆原さんはすごく面白い音の処理とか、僕らでは絶対に思い付かないアイデアをどんどん出してくれたのが嬉しかったですね」
『OK BALLADE』は自分の葛藤と悩み全てを発散したと同時に出来上がった
スッキリした感じのアルバムです。音も含めて
――続く『OK BALLADE』(‘16)は、PELICAN FANCLUBの音楽的な魅力に加えて、もう1つ歌詞という武器があることをハッキリ示したようなアルバムだなと。
エンドウ「そうですね。ただ、僕がむちゃくちゃ折れそうになってた時期で、『PELICAN FANCLUB』を出した後にすごい落ち込んでしまったんですよ。当時は大学生だったんで卒論とかいろんなプレッシャーも重なって、自分が作る曲に対しての自信のなさみたいなものも出てきて、歌詞を書いても“あ〜ダメだダメだ!”ってずーっと悩んでて。そこでメンバーに相談したら、“歌詞の原文=言いたいことをそのまま見せてくれ”って言われて。そしたら、この方がスッと入ってくるっていうことになって、それをそのまま歌詞にしようと作り始めたのが『OK BALLADE』で。『今歌うこの声が』が書けてからは短期間で一気に仕上がって、自分の葛藤と悩み全てを発散したと同時に出来上がった、スッキリした感じのアルバムです。音も含めて」
カミヤマ「音楽性の枝分かれがこの辺りからだんだん激しくなって、いろんな面を見せられたという面でも重要なアルバムだと思います。あと、
過去のインタビューでも言いましたけど、『PELICAN FANCLUB』を出した後のライブがきっかけになって生まれたアルバムだと思いますね。そのときのお客さんのレスポンスを受けて、意志を明確に持って作ったアルバムだったんで。そういう意味では、ちょっと“狙った”というか」
エンドウ「聴き手との距離がすごく縮まったアルバムだなと思いましたね」
クルマダ「歌詞の原文を見せてくれたことで僕らの感覚も変わってきて、“歌と歌詞で勝負できる”って改めて感じた上でそれぞれの楽器を入れてるんで、意識が全然違うのは音にも表れてると思います。あとは、さっきのエンジニアの方もそうですけど、スタッフにも事前に聴いてもらって意見をもらったり、作る段階でいろんな人の耳に入ってブラッシュアップされることが、『PELICAN FANCLUB』より増えたというか」
――逆にそれによってどうしていいか分からなくはならなかった?
エンドウ「いろんな人の意見があったからこそ、“自分はそうは思わない。やっぱり本当にやりたかったのはこういうことなんだ”って分かったのもあります。それが如実に出たのが『OK BALLADE』だと思いますね」
――メッセージが強いのに音楽的という絶妙なバランス感があって、『OK BALLADE』でPELICAN FANCLUBの見え方が変わった気がします。『M.U.T.E』とかは、今でもレパートリーの中では異質だし。
エンドウ「実は元々『PELICAN FANCLUB』に入れる予定だったんですけど」
カミヤマ「ちょっと強いカードを隠し持ってたみたいな(笑)。大富豪で勝つパターンですよね(笑)」
スタッフ「あと、アルバムごとに1曲ずつ曲数が増えてきたのもちょっと、ね(笑)」
――確かに『ANALOG』が6曲、『PELICAN FANCLUB』が7曲、『OK BALLADE』が8曲! 何そのこだわり(笑)。
クルマダ「全作ミニアルバムって言ってるんですけど、ちょっとずつ増えてる(笑)」
エンドウ「『OK BALLADE』は元々7曲にする予定だったんですけど、こんなに自分たちでやれる範囲があるんだったら全部見せた方がいいっていうことで」
クルマダ「どれも抜けなかったんですよ。どれを抜いてもバランスが悪いぞみたいな」
――いやでも、濃い歴史を聞いてきましたね。
エンドウ「自分がすごいなって思うのは、この3枚って’15年の1月〜‘16年の6月までのたった1年半の出来事だったんだなって。そう考えると、濃かった…“寿命縮まってんじゃねぇか?”っていう(笑)」
もう本当に来る価値しかないですから!
――今回の『ONEMAN LIVE 2018 “SPACE OPERA”』は、それぞれ第一部で過去作の完全再現、第二部で今の自分たちを観せるという構成で。
エンドウ「もう本当に自分たちの両極端を、完全再現してる自分たちと、今の自分たちの違いをハッキリ観せたいんで、演じ方というか曲への憑依の仕方も変わると思うんですよ。そこを楽しんでもらいたいなと」
――これは全ヵ所観たいと思う人もたくさんいるだろうなぁ。
エンドウ「僕はその3作の当時着ていたライブ衣装を引っ張り出してこようかなと思って」
シミズ「そして完全再現なんで、音もね」
エンドウ「そう。だから使う楽器も当然、当時のものを」
――そこまでやるんや!
クルマダ「やりますね。配置とかも戻して」
カミヤマ「俺、“髪の色をどうしよっかな?”って今思った(笑)」
エンドウ「戻す戻す!」
――髪の毛傷みそう(笑)。それぞれ何色だったの?
カミヤマ「完全再現はだいたい金髪で大丈夫ですけど、今の変な色の髪になり始めたのは去年ぐらいからなんで」
エンドウ「だから、第二部が始まる前に転換で今の色に染める」
――で、また次の公演のために終わったら金髪に戻す(笑)。
クルマダ「そう考えたら僕、メガネかけてましたね。ヒゲも生えてたし(笑)」
――ヒゲを生やして、転換で剃って、また次のライブまでに伸ばして、また剃って(笑)。
(一同笑)
カミヤマ「“完全再現”ですからね(笑)」
エンドウ「もう本当に来る価値しかないですから!」
――この企画の後に見えてくるものあるだろうし、次の制作に向けて過去の自分と徹底的に向き合うと。
エンドウ「多分、今後はなかなかできないと思うから、本当にこの瞬間を見逃してほしくないんですよ。平成最後の伝説を作りたいので(笑)」
(一同爆笑)
カミヤマ「出た! ビッグマウス(笑)。お客さんももちろん楽しみだと思うんですけど、僕ら自身のためにもなるライブだなぁと思ってて」
シミズ「過去を振り返ることによって今の表現もまた変わってくると思うんですよね。お客さんの反応も楽しみですけど、自分がどう感じるのかがすごい楽しみで」
クルマダ「当時、“何でこのギターを付けたんだろう?”みたいな感覚にたくさん陥ると思うんですよね(笑)。それを楽しみつつ、逆に“今の自分だったらこうするだろうな”みたいなところで活かしていきたいなって」
エンドウ「今までやってきたことに対しての自信というか、改めて“PELICAN FANCLUBってこんなにいいんだよ”って伝わればと思うんですよね。お客さんもそれぞれ僕たちを好きになってくれた時期が違うじゃないですか。そういうみんなに対しての“ありがとう”みたいな気持ちもありますね。だから…だからこそ、平成最後の伝説を(笑)」
(一同爆笑)
カミヤマ「もうプロレスっすよね(笑)」
エンドウ「アハハ!(笑) ちゃんと“PELICAN FANCLUBを好きでよかった”って思える、PELICAN FANCLUBにより一層ついていきたくなるようなライブにしたいですね!」
Text by 奥“ボウイ”昌史