バンドの怒涛の変動期を経て、昨年リリースされた2年半ぶりのニューアルバム『ねむらない』(‘15)。そのフォーキーでインナーミュージック的サウンドの延長線上で聴くと、いきなりぶっ飛ばされてしまう攻めのダンスロックチューンが表題曲となった『DEVIL'S ODD EYE』を5月に、さらに7月にはこれまた真逆のスウィートネスにキュンとくる『スターマイン』と、極端にタイプが異なる驚きのニューシングルを連続リリースした髭。どちらも新曲2曲に、最新モードにリアレンジされたセルフカバー1曲が収録されているのも聴き逃せない。待望の全国ツアーも控えるバンドのフロントマンにして鬼才、須藤寿(vo&g)に迫る!
――『DEVIL'S ODD EYE』と『スターマイン』というシングルが連続リリースされましたが、それぞれ極端にタイプが異なっていますね。髭の振り幅の大きさが感じられますが、どんなふうに作っていったんですか?
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「全然違う2曲だけど、5月盤の『DEVIL'S ODD EYE』(M-1)はインスピレーションでさっと作った感じですね。宮川(b)がリアレンジした『寄生虫×ベイビー×ゴー!』(‘07)のデモを斉藤(g)がエディットしていたときに、ベースラインがループしているのを聴いて、これで1曲書けそうだなと。そこに、カッティングギターを重ねて、メロディをつけていきました。ちょっとトリッキーな作り方でしたね。だから結果的に、今までの髭にはない新しい楽曲ができたなと。『笑ってない』(M-3)もベースはずっと同じフレーズで。『王様のその後も』(M-2)もそう。原始的な(反復する)音が鳴っていて、その上でメロディが変わったり、ギターやドラムが変わったりという展開にしようと。それが、『DEVIL'S ODD EYE』のコンセプトですね」
――そういう同じフレーズが延々と反復するプリミティブな感じって、60年代の(ローリング・)ストーンズとかに通じるものがありますよね?
「あると思います。ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』(‘68)とか大好きなんで。あの頃は今よりさらにエディットがしづらい時代で、あのビートで揺れ動くから、さらに悪魔的な感じがして。そういうところが僕も好きなんです」
――だからタイトルも“DEVIL'S”なんですか?
「いや、それは偶然です(笑)。何かシャウトしながら、“悪魔のオッドアイ”っていう言葉が浮かんで…。オッドアイって左右の目の色が違うことなんですけど」
――そういうタイトルや歌詞も含めて、すごく暗示的で引き込まれます。カップリングとして『王様のその後』(※旧題は『王様はロバのいうとおり』(‘05))をセルフカバーしたのは?
「この連動作では、1曲ずつリアンレジした旧曲を入れようと。ちょっと前の曲を今の自分たちが切り取ったらどんなふうになるんだろう?っていうことで、ライブでは2年ぐらい前からやり始めてるんですけどね。7月盤の方は、『スターマイン』(M-1)が『ねむらない』の後に書いた僕のフォーキーな側面の曲なので、それに合う世界観のセルフカバー曲がいいだろうなと思って、『ダブリン』(‘07)(M-2)をリアレンジしました」
――『王様のその後』は、原曲と比べるとかなりタイトなアンサンブルになってますね。
「純粋に今のモードでアイデアを詰め込んでいったら、こういう形になりました。前の方がオルタナティブでゆるいところも残していたけど、今回はあんまりリズム的にゆるいところがない。ボーカリゼーションには髭的なゆるさが出てると思うんですけど。(プロデューサーの吉田)仁さんの力もすごくあると思います」
考えてないから、普段考えていることの根っこの部分が出ちゃう
――『笑ってない』は髭特有の怪しい雰囲気に包まれていて(笑)。この歌詞はどのように書いていったんですか?
「最近は“即興出し”みたいなことをよくやります。後から書くと考え過ぎちゃうんですよ。カッコつけ過ぎちゃうというか…それよりインスピレーションで出た言葉の方がいいかなと。虚栄心とか何もないところから発する方が、自分のコアが出ると思うから。“笑ってるのに 顔が笑ってない”って歌っているのも、多分それは僕の中にある“ストレンジさ”なんだろうと」
――分かり過ぎるものより、不可解なものの方が、より頭から離れなくなりますよね。
「うん。ライブのMCでも、“あのときすごいこと言ってたよね”って言われても、“何言ってたっけ?”っていうぐらい何も考えないから。それですごいスベッちゃうときもあるんだけど(笑)。考えてないから、普段考えていることの根っこの部分が出ちゃうというか。そういうライブの即興のアジテーションに近い書き方が5月盤の『DEVIL'S ODD EYE』とか『笑ってない』かな。それに対して、7月盤の『スターマイン』や『DESPERADO』(M-3)はちゃんと考えていないと出てこないセンテンスですね。『スターマイン』の方は、前作の『ジョゼ』(‘15)とか『闇をひとつまみ』(‘15)のようにしっかりとしたソングライティングにしようと思って」
――ちなみに、『スターマイン』は花火のことですか?
「“打ち上げ花火”みたいですね。何年も前からこの言葉は知っていたんだけど、意味も分からず綺麗な言葉だなと思っていて。家で弾き語りしているときに、ふと出てきて。人を好きになったときの気持ちと、花火が打ち上がった感じが組み合さったらロマンチックな曲になるのかなと思って。そこからAメロの歌詞の世界観を作っていきました」
――どこか郷愁感も漂っていて。
「自分が家で聴くものに近いなと思いましたね。リラックスして楽しめると思います」
“こんな気持ちのとき、あるよね?”みたいな感じ
それを自分たちの曲やライブで表現できれば
――『DESPERADO』のフロア直結の踊れる感じは、『DEVIL'S ODD EYE』ともつながりますよね。髭が元々持っている90年代UKのマッドチェスター(=マンチェスターサウンド)的な世界観に近いように思いますが。
「ああ、そうですよね。歌詞の世界観もその辺を彷彿とさせますよね。自分のリアルタイムの音楽体験って、90年代だと思うんで。多分、そういうところが歌詞とか楽曲の作りにも色濃く出ていると思います。僕が90年代に好きで聴いていたイギリスとかヨーロッパ系の雰囲気が、ほのかに残っている感じはしますね」
――意識的にそうしようとしたのではなく?
「歌詞に関しては、この楽曲でロマンチックな言葉は合わないだろうなっていうぐらいの選択肢なんですけど。20代の頃の、“いったい何時まで遊んでいるんだ?”みたいな体験を今、歌詞にしてみた感じなんですよね。『テキーラ!テキーラ!』(‘10)の歌詞の世界観にちょっと近いかもしれない。あの頃はリアルタイムで本当に遊んでいたけど。今はこれから40代になろうとしてるときに、朝まで遊んでるなんてことはなくなっているけど、でもその頃の体験はなくならないんですよね。原体験として覚えている。そういう気持ちになりながら書いたというか」
――この曲を聴いた人にも、そういう体験が呼び覚まされるようなものにしようと?
「ああ、でも、こういう体験がない人でも、分かるんじゃないかな。例えば僕だったら、ドアーズの『ハートに火をつけて』(‘67)を聴いてると、ヤッバイ気持ちになるし、何か分かる気がするから。(聴く人に実体験としてなくても)“俺もそのとき、いたような気がする”みたいな気持ちになればいいかなと。“これヤバいだろ? 聴いてくれよ”、なんて気持ちは全然なくて。“こんな気持ちのとき、あるよね?”みたいな感じ。それを自分たちの曲やライブで表現できればいいなと思って」
――ドアーズや髭の音楽を今まで一度も聴いたことがなくても、共感できる何かがあると。
「うん。そういう人でも、きっとゾクッとくるものがあるはず。それは誰の日常の中にも隠れていることだと思うんですよ。だから、ロックとか音楽とか、全く聴いてないような人にも届けばいいなと思う。僕の場合はこんな表現になったけど、そこに共鳴してもらえるんだったら嬉しいし、俺が言いたいことは、“もっと夜中、遊べばいいのに”みたいな、そんな表面的なことじゃなくて…。例えば14歳ぐらいの水泳部の子がいたとして、その子の中にも鬱屈した闇ってあると思う。その闇を共有する方が何倍も嬉しい。だから、『笑ってない』とかの歌詞もそうですけど、何か表現し難いものになるんです。そういうセンテンスに触れて、“意味は分からないけど、何か分かるような気がするよ”ぐらいな感じでいいというか。これが自分のフィールドなんだと思います」
――そういう立ち位置の髭というバンドに、とても魅力を感じるんですよね。秋には全国ツアーがスタートします。どんなツアーになりそうですか?
「このツアーは割とペースがゆっくりしていて、ライブも土日祝に集中していますね。この2枚のシングルの新曲はやると思うし、その他にもできている新曲もあるし。あと、アルバムツアーじゃないから自由な選曲になると思います。今までのディスコグラフィからオールラウンドな感じでね。そういった意味でも、きっと楽しくなるんじゃないかな。これ(2枚のシングル)を取っ掛かりに、次のアルバムの制作をしながら全国を廻っていくので、ぜひみんなに楽しみにしてもらいたいなと思います!」
Text by エイミー野中