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「何も間違えてないのにそこにあるズレ、みたいなものを表現したい」
髭が誘う“なんて素敵でいびつ”なインナーミュージック
静かなる狂気をたぎらせた最新モード『ねむらない』を
須藤寿(vo&g)が語るインタビュー&動画コメント

 '12年のアルバム『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』以降、メンバーの脱退やマネージメントの独立、自主レーベルCreamy Recordsの設立といった怒涛の転換期を乗り越えてきた髭。そんな彼らから2年半ぶりに届いたニューアルバム『ねむらない』から流れ出すのは、メランコリックで鎮静作用のあるインナーミュージック。ラウドなドラムは影を潜め、フォーキーなムードも漂う。一見、穏やかな様相でありながら、その奥に潜む毒気やトゲ。一筋縄ではいかない創作の秘密を、フロントマンの須藤寿(vo&g)に語ってもらった。

 
 
この2年半に起こったことや環境の変化が歌詞や音に自然と出てきた
 
 
――前作から2年半を経て完成した新作『ねむらない』は、かなり異色な雰囲気になっていて驚きました。
 
「ドラマーが抜けたこともあって、シーケンスに随分比重を置いているし、アコースティック感もあって、確かに今までの髭とは違うサウンドメイキングになりましたね。メンバーの脱退をはじめ、マネージメントの独立やレーベル設立といった、この2年半に起こったことや環境の変化が歌詞や音に自然と出てきたんだと思います」
 
――偶然ラジオから流れてきた新曲を聴いたとき、すぐに髭とは分からなかったぐらいで。
 
「ギターの歪みとかラウドなドラミングが、髭の大きなパブリックイメージだと思うんですけど、『Chaos in Apple』(‘07)を作り終わった辺りから、静かなところにある狂気の方が尖ってるんじゃないか?って思うようになって。『Chaos in Apple』以降の’08年ぐらいを境に、髭はどんどん衣替えをしていったんじゃないかな。それの一番ハジけた感じが今回のアルバムなんじゃないかなって思いますね。あと、今作に関しては吉田仁さんのプロデュースも大きかったと思います」
 
――吉田仁さんは、須藤さんにとってどのような存在なのですか?
 
「僕のソロプロジェクト(=須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET)の1stアルバムは吉田仁さんプロデュースで、いつか髭でもやってもらいたいなと思ってたんです。仁さんはすごく品のいい方で、音も上品なんですよね。僕はサロンミュージック(=80年代から活動している吉田仁のユニット)のファンで、ずっと昔から聴いてたんで。そういった中で、ディスコード(=不協和音)が全く起こってないところに見える歪みの方が興味深いなって思うようになっていったんです。だから今作が、優しくなったとか、静かになったっていうのは表面的なことで、実は尖ってもいるんじゃないかな。でも、それは僕のエゴだから、受け取る側の方が正しいと思うんですけどね。ただ、僕自身はこの『ねむらない』を聴くときに、何かいい感じにトゲがあって、朝でも昼でも夜でも聴けるなっていう感じがありますね」
 
 
いつも自分たちって、どこにいるんだろう?と思います
 
 
――実際に今作の楽曲を作り始めたのはいつ頃から?
 
「今年に入ってからですね。ドラマーのフィリポが抜けてしまってから、闇雲にスタジオに入るんじゃなくて、これから何をやりたいのか、ゆっくり考えるべきだなと思ったんで。『なんて素敵でいびつ』(M-3)と『闇をひとつまみ』(M-10)は去年作ってたんですけど、正直その2曲はそのときの気持ちをただ曲にしただけで、アルバムのコンセプトみたいなものはまだ見えてなかったんです。それから、年末ぐらいに『ジョゼ』(M-1)と『ing』(M-7)のリハーサルが始まって、その4曲を並べたときに“ああ、自分は今、そこにいるんだな”と感じたんです。それを完結させるアルバムにしようと思ったのが今年の1月で、そのコンセプトが見えてからは早かったですね」
 



――そのコンセプトというのは具体的に?
 
「リラックスを助長するようなアルバムというか、うっとりして、目をつぶって静かにしてるんだけど、ザワザワしたりもしている、そういうインナーミュージックだと思います。そういったところを楽しんでもらえたらなって」
 
――例えば、“サイケデリア”を表現しているものでもあるのでしょうか?
 
「そうだと思いますね。サイケデリアは髭の根幹にあると思いますし、このアルバムもそこが見えなくなってるアルバムではないと思うから」
 
――髭というバンドは作品によって異なる表情があって、掴めそうで掴めない存在なんですよね。
 
「僕もです(笑)。いつも自分たちって、どこにいるんだろう?と思います。でも、この2年半の間にいろいろ出会ったり別れたりして、残った気持ちは結構“感謝”で。そういうものは歌詞にも現れているなと。ホントに純粋に、“ありがとう”という感情があるんです。出会った人たちも、ファンの人も含めて」
 
――最終的に残るのは、怒りや悲しみを昇華した感謝の気持ち?
 
「うん…例えば、学校なんかで先生に怒られて反省してるヤツを見ると、すごく笑えるじゃないですか? さっきまであんなにフザけてたのに(笑)。こっちはそれを見て神妙な顔をしなきゃいけないけど、つい笑いたくなるような。そのイタズラ心もすごく残ってて…。『ジョゼ』とか『闇をひとつまみ』ばっかりだったら恥ずかしいんですよ、僕…(笑)。だから、『檸檬』(M-6)とか『彼』(M-8)も入れて」
 
――それは何か分かります(笑)。
 
「スノッブで、スカしてる感じというか…そういう嫌味な自分もいて。そういうのを出さないとムズがゆいんです。『S.S.』(M-4)の歌詞にもそういう面が出てると思うんですけど、今回の10曲はそういうバランスも考えて入れてますね。だから、1曲目から10曲目までを聴いたとき、導入と結びは自分の誠実な面が色濃いと思うんですけど、やっぱり真ん中辺りの曲や歌詞で、それを打ち消すようなことを自然としてるんだろうなって。6曲目辺りで言い訳してる(笑)。“今のは嘘、嘘”みたいな(笑)」
 
――自分の中にある毒のような部分を全部浄化してしまうのではなく、髭らしい毒もちゃんと入ってますよね。
 
「これが間違いなく今の僕たちの姿だとは思うんですけどね。今回は音が外れないように、全部キレイに入っているものにしたくて。“何も間違えてないのにそこにあるズレ、みたいなものを表現したい”っていうことは、よくメンバーに言ってましたね」
 
 
何かヘンな音楽だけど気持ちいい
 
 
――そういう須藤さんの感覚を、より忠実に形にしたのが今作なのでしょうか?
 
「う~ん、そんなこともないと思いますけどね。ほとんどの作詞作曲は僕だけど、ホントに4人で作ってるものなので、4人の感覚がちゃんと入ってます。実際、僕自身は思いもよらなかったような、メンバーのナイスアレンジもすごくあって。例えば『ネヴァーランド・クルージング』(M-2)は斉藤(g)から出てきたギターのフレーズがよくて、それをリフレインしてもらってどんどん盛り上がっていったし。『テーマ・フロム・ダリア』(M-5)のモチーフを持ってきたのは宮川(b)くんだし。そこに僕がメロディを付けていったんです。『*イノセント(What's going on?)*』(M-9)もそう。僕は、だいたい曲のベースが出来たら斉藤の家に行ってデモ作業をするんですね。昼ぐらいに集まって、夜の9時か10時ぐらいまで作業するんですけど、途中でちょっとお酒を飲みながらやってるから、だいたいその頃になると斉藤くんのDJが始まるんですよ(笑)。そこで、彼がインド音楽とゴリゴリのジャーマンテクノみたいなものをミックスさせたときに、何かヘンな音楽だけど気持ちいいなと。これをモチーフに1曲書けるなと思って、その場で書いたのが『*イノセント(What's going on?)*』なんです」
 
――なるほどね。須藤さんが1人で作っていたら生まれなかったと。
 
「生まれないです! 『S.S.』もそう」
 



――『S.S.』はサーフロックみたいなテイストもあって。
 
「うん、あのサーフロックみたいなリフレインはメンバーのアイデアですね。元はフォーキーな曲だったんで」
 
――このアルバムは須藤さんのソロ名義の作品でもいいのでは?という気もするぐらいパーソナルな感じがしましたが、そういうお話を聞いていると、やっぱりバンドの作品なんだなと。
 
「いやもう、確実に1人では作れないと思う。今は結構燃えていて、『ねむらない』の次を早く作りたいなと思っています。ま、約束は出来ないですけど(笑)。もっと『ねむらない』から掘ってみたいと思うのか、もっと違うところに行きたいと思うのか、まだ分からないけど…。髭の新たな地平にどんどん進んでいきたいですね」
 
――現在は、このアルバムを引っ提げたツアー中ですね。
 
「『ねむらない』を余すことなく表現するつもりなので、このアルバムを聴いて気に入ってくれた方はぜひ来て欲しいですし、このインタビューを読んで、おもしろいことを話してるなと思った方は、まずはアルバムを手に取ってもらって、それをきっかけにライブに遊びに来ていただけたら、僕はホントに嬉しいです! 今までの髭を全否定してこのアルバムを作っているわけではないので、今まで通り楽しめるとも思いますし、コアなファンもビギナーの方も、『ねむらない』のライブということでは“初体験”になると思うので。楽しみにしていただきたいです!」
 
 
Text by エイミー野中



ライター・エイミー野中さんからのオススメ!
 
「2年前に髭のライブレポをさせてもらったとき、トリプルドラムの爆音を浴びせかけられ、その怪物的なパフォーマンスに只々圧倒されたのを覚えています。しかし、その頃とは打って変わって、新作『ねむらない』にはどこかメランコリックな浮遊感が漂っています。もちろん髭らしい遊び心も飛び出しますが、ラウドなロックでアドレナリンが出たり、アッパーなダンスミュージックでハイになっていくのとは違う。リラックスさせながらも、心の奥が研ぎ澄まされていくような感じ。ずっとずっと聴いていたくなります。今回、数年ぶりにインタビューした須藤さんは終始でやわらかで、にこやかでした。でも、やはりどこか掴めそうで掴めない稀有な存在でもあります。だからこそずっと追いかけたくなる…それが髭というバンドなのです!」

(2015年12月 1日更新)


Check

Movie Comment

バンドの現状と新譜を語り最後…(笑)
須藤寿(vo&g)からの動画コメント!

Release

サイケなベッドルームミュージックを
鳴らす2年半ぶりのニューアルバム!

Album
『ねむらない』
発売中 2700円(税別)
Creamy Records
XQLX-1003

<収録曲>
01. ジョゼ
02. ネヴァーランド・クルージング
03. なんて素敵でいびつ
04. S.S.
05. テーマ・フロム・ダリア
06. 檸檬
07. ing
08. 彼
09. *イノセント(What's going on?)*
10. 闇をひとつまみ

Profile

ひげ…写真左より、須藤寿(vo&g)、斉藤祐樹(g)、佐藤“コテイスイ”康一(ds&per)、宮川トモユキ(b)。’03年ミニアルバム『LOVE LOVE LOVE』でデビュー。’04年に『FUJI ROCK FESTIVAL』に初出演。’05年にアルバム『Thank you,Beatles!』でメジャーシーンに躍り出て以降、名だたるロックフェスに数多く出演。’12年、須藤寿のソロプロジェクト“須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET”としてもアルバム『The Great Escape』をリリースしている。’14年には、10th Anniversary Book 『素敵な闇』を発表。最新作は、’15年10月7日にリリースされたアルバム『ねむらない』。サイケデリックかつロマンチックなサウンドで、シーンを魅了し続けている。

髭 オフィシャルサイト
http://www.higerock.com/

Live

只今絶賛リリースツアー中!
大阪ワンマンが間もなく開催へ

 
『「ねむらない」TOUR』
【埼玉公演】
▼11月3日(火・祝)HEAVEN'S ROCK
さいたま新都心 VJ-3
【愛知公演】
▼11月20日(金)名古屋クラブクアトロ
【宮城公演】
▼11月27日(金)仙台darwin
【北海道公演】
▼11月29日(日)BESSIE HALL

【福岡公演】
▼12月2日(水)Fukuoka BEAT STATION

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード270-233
▼12月4日(金)19:00
梅田クラブクアトロ
オールスタンディング3800円
GREENS■06(6882)1224

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【東京公演】
▼12月9日(水)CLUB QUATTRO

ツアー後は須藤ソロX'masバージョン
と『RADIO CRAZY』で再び関西へ!

 
【大阪公演】
『須藤寿 Chirismas
 GATALI ACOUSTIC SET』
チケット発売中 Pコード278-449
▼12月25日(金)19:00
心斎橋JANUS
自由席4200円
GREENS■06(6882)1224

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
【大阪公演】
『FM802 ROCK FESTIVAL
 RADIO CRAZY』
一般発売12月5日(土)
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9509(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。
Pコード273-411
▼12月28日(月)11:30
インテックス大阪
1dayチケット8800円(オールスタンディング)
[出演]ORANGE RANGE/片平里菜/KANA-BOON/KEMURI/Ken Yokoyama/go!go!vanillas/SHISHAMO/シンリズム/cero/東京スカパラダイスオーケストラ/TOTALFAT/ねごと/The Birthday/back number/髭/the pillows/BLUE ENCOUNT/MY FIRST STORY/MONOEYES/UNISON SQUARE GARDEN/WANIMA/他
RADIO CRAZY公演事務局■06(7732)8787
※6歳未満は入場無料。出演アーティストは変更になる場合があります。その際の変更・キャンセルに伴う払戻しはできません。
 

Column1

「今年はライブで髭を
 再構築していこうと思ってます」
アイゴン、フィリポ脱退の真相
バンドの今後を占う変化と再生の
2014年を語る前回インタビュー

Column2

トリプルドラムで挑んだ狂乱の
ロックアルバム『QUEENS,
DANKE SCHÖN PAPA!』を語る
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