「今年はライブで髭を再構築していこうと思ってます」
アイゴン、そしてフィリポ脱退の真相
バンドの今後を占う変化と再生の2014年を語る
須藤寿(vo&g)インタビュー&動画コメント
髭にとって2013年は、インディーズでアルバムデビューを果たしてから10周年を迎えるのと同時に、バンドを根底から揺るがす変化を迎えた1年でもあった。初期からのプロデューサーで、’10年からはギタリストとしてバンドに参加していたアイゴンこと會田茂一(g)が脱退。さらには結成時からのメンバーである川崎“フィリポ”裕利(ds&per)もが脱退を表明したのだ(発表自体は今年1月)。’12年末に踊ってばかりの国の佐藤謙介(ds)がサポートで加わり7人編成とまでなったのが顕著だが、髭はこの10年の間に数々の変化を遂げてきたバンドだ。さらに、須藤寿(vo&g)の「メンバー7人中3人がドラムっておかしいよね?(笑)」との言葉以上におかしいのが、フィリポは佐藤“コテイスイ”康一(ds)と共に踊り、歌い、拡声器を手にフロアを煽りと、ドラマーらしからぬ非常に自由度の高いパフォーマンスを繰り広げてきたということ。髭という他に類を見ないバンドを音楽面で支えてきたアイゴンと、パフォーマンス面で際立たせてきたフィリポの脱退による変化を、須藤は「バンドの再構築」と呼んだ。その言葉を裏付けるかのように、このインタビュー前日に心斎橋JANUSで行われた自主企画『Party Mustache』での髭のライブは、すさまじい熱気をはらんでいた。変化を受け入れ、自らの鳴らすべき音楽に真摯に向き合う、須藤の言葉をここに記録する。
こんなに近くに感じているのに
別れなきゃいけないときもあるもんなんだなって
――昨年9月にアイゴンさんが年内で勇退されることが発表されて、年が明けて1月に今度はフィリポさんが2月いっぱいで脱退することが発表されました。
「全てのきっかけは僕だったのかもしれないな。去年の夏フェスが終わった辺りからみんなでいろいろ話していたんですけど、『QUEENS,DANKE SCHÖN PAPA!』(‘13)というアルバムは本当によく出来ていて、7人の状態もすごくよかったし、それをちゃんと作品に封じ込めることが出来た。それに続く全国ツアーも素晴らしくて、今でも覚えているけどファイナルの大阪はすごくいいライブが出来て、自分の中で何か1つやり切った手応えみたいなものがあって。そこからじゃあ次にどこに向かうのか?となったときに一番やりたくないのは、前と同じようなアルバムを作ることなんですよね。僕はこの3年ぐらいレコーディングでもほとんどギターを持たなくなっていて、音楽面で悩むこともほとんどなかった。何でもかんでもお任せするのが上手になっちゃって、“このままでいいのかな?”という気持ちがどんどん大きくなってきたんですよね。昔は毎回毎回壁にぶつかりながら進んでいってたし、それはとてもバンドらしかったと思う。そういったことを避けて楽をすることも出来るけど、諦めにも似た物分かりのよさで全てを収めてしまうのは絶対にイヤだった。もう少し自分で立ち止まって悩んで、ぶち当たるべき壁にはちゃんとぶち当たっていかなきゃダメなんじゃないかなと思ったんですね」
――そういう流れの中で、アイゴンさんの脱退が決まったと。
「このまま自分に出来ることだけをやっていく日々が続いたら、何も残らないというか…。そうやってある意味、初心に帰るとまではいかないけど真摯にやっていこうとなったときに、フィリポとコテイスイは特に感じるものがあったと思うんですよね。サポートメンバーとは言え、(佐藤)謙介の存在があるわけだから」
――昨年のインタビューで須藤さんは、“(謙介が加入したことで)例えフィリポとコテイスイがドラムを叩かなくなっても、2人がいないとバンドの根底が変わってくる”と言っていて。それだけの存在であるフィリポさんの脱退は、髭というバンドを揺るがす事態なのかなとも思うのですが。
「確かに、彼から“辞める”という決断を聞いたときは、ズシーンときましたね。でも、ただの友達じゃないしバンドは遊びでもないんで、彼が1人の人間として出した答えに、“フィリポがいなきゃ髭じゃないよ”って言うのは、それこそ甘っちょろい考え方だなと思ったんですね。彼は今後ドラムで参加しているバンド(テスラコイル)に専念するんですが、これからもフィリポとは友達だし、1人のミュージシャンとしてここで別れなきゃいけないんであれば、それが人生なんだなと思いました。だからこそ彼の決断を受け止めて、自分も切り替えて。彼にも僕を応援してもらいたいし、僕も彼を応援したいし、これからもずっとそういう関係でいたい。そうやってポジティブに捉えましたね」
――ただ、アイゴンさんが抜けてフィリポも脱退という状況に対して“髭が解散しちゃうんじゃないか?”という反応もあったんじゃないですか?
「うん。でも解散はないです。フィリポの脱退は、“どうすれば髭がよくなるだろう?”ってフィリポも含めたみんなで誠実に話していく中で見えた1つの結論だから。いつも応援してくれているファンのみんなには、突然の発表になってしまったことを本当に心苦しく思っているんですけど…。これまでは、他のバンドが解散したりメンバーが抜けちゃったりするのを向こう岸を見る感じで眺めていたけど、いざ自分の身に降りかかってくると…今でもどこか他人事のように思いながら、フィリポは僕の精神的支柱でもあったから、その穴は大きく感じていて…。もっと劇的にケンカでもすればラクなんでしょうけど、そんな簡単な話でもなくて、すごく複雑だなって思います。こんなに近くに感じているのに、別れなきゃいけないときもあるもんなんだなって。僕が泣いて彼を引き止めることだって可能だったと思うんですけど、そうすることに何の意味があるのかと思ったんですね。彼の人生の邪魔をしちゃいけないし、友人として彼の考えを本当に尊重したいんですよね。そうですね…これはもう、しょうがないんですね! きっと」
何かね、歳をとったんだなとも思うんですけど
一生懸命生きていかなきゃダメだなって思うんですよね
――今後の、2014年の髭はどうなっていくんでしょう?
「これからすぐに次のアルバムに取り掛かるのではなく、今年はライブで髭っていうバンドを再構築していこうと思ってます。だからライブの本数も多くするし、その中でかなり積極的に新曲をやっていくことになると思います。フィリポが抜けることで今いろいろなことを試していて、バンドの編成もより自由に考え始めているんですね。フィリポが参加しないスタジオセッションでは、実験的に他のミュージシャンを呼んで一緒にやってみたりもしていて。それは新メンバーとして加入するとかではなく、新しい髭の音楽的なチャレンジの1つでもあるんですね。新曲もガンガン作っていて、今度大阪でライブをするときには披露出来るんじゃないかな」
――そう言えば、大阪での自主企画『Party Mustache』で、フィリポさんが「髭は最初に大阪で人気が出た」と言われてましたね。
「本当にそう。東京ではそれほどライブに人が入ってなかった頃でも、確か十三ファンダンゴがソールドアウトしていたぐらいで。多分僕らが初めてソールドアウトを出したのも大阪だったと思うんですよね。自分たちでも不思議だったんですけど、大阪のライブハウスの空気感にフィットしたんでしょうね。僕らのカラッとした“から騒ぎ感”って、ともするとちょっと理解されにくいところがあって、髭っていうバンド名も手伝って誰もが攻めあぐねていたところを(笑)、大阪のみんなはいち早くフラットに観て、難しく考えないで純粋に楽しんでくれていたのかなと」
――世の中にはシリアスな音楽が溢れていますが、髭の音楽って本当にカラッとしていますよね。
「シリアスなのはすごくいいと思うんですよ。けど、人ってどんなにフザけてても根本はシリアスなものだから、わざわざシリアスに表現する必要はないのかなっていう想いは常にある。それよりも僕たちは、ユーモアを大事にしたいっていつも思っていましたね。どのみちシリアスなんだから、それは敢えて出そうとしなくても絶対に漏れ出てしまうものなんですよ」
――新しい髭の音楽も楽しみです。
「今年の初めに1週間の内に計5本のライブがあったんですけど、どれもものすごく充実していたし、たった1週間ですけどライブがメキメキと音を立てて変わっていってるんですね。例えば『テキーラ!テキーラ!』とか『虹』とか、この2~3年はハンドマイクで歌っていた曲も、僕がギター&ボーカルに専念するスタイルが戻ってきたことで、見せ方も違えば、やっているときの感覚も全然違うんで、今は自分でもドキドキしてるんです。これはミュージシャンシップに乗っとったいいドキドキ感なので、それがみんなに伝わったらいいなと思うんですよね。今はバンドを取り巻く全てが変わっていってる最中なんですけど、不思議と希望を持ってやっているし、すごく力に溢れてる感じがしていて。’15~’16年にしっかりとした体格のアルバムを作りたいと考えているので、そのためにも今年は曲作りと髭というバンドの再構築をする。次のアルバムは髭にとってフィリポがいない初めてのアルバムなので、それだけでもかなり空気感は変わってくると思うし。フィリポに聴いてもらって“すごくいいアルバムだな”って思ってもらいたいですし、それだけの力のある音楽作りをしたいですね」
――そもそもバンドや音楽以前に、須藤さん自身が常に変化を求めるところはあります?
「音楽的にも、人間的にも成長していきたい。その中にきっと僕の音楽があるんですよね。何年か前に気付いた感覚なんですが、アルバムって“あのときはこうだったな”って振り返れる日記みたいだなと思ったんです。だから、その都度一生懸命やらないと、後で振り返ったときにそれが色褪せたものに感じちゃう。何かね、歳をとったんだなとも思うんですけど、最近は特に一生懸命生きていかなきゃダメだなって思うんですよね。だって僕らのライブを観に来てくれる人たちは、世の中のペースに合わせて生活して、仕事も頑張ってやっているわけですよね? 片や僕はちょっと仕事の毛色が変わっていて、自分の思う詞を書いて、曲を作って、ある意味自分の時間軸で好きなように生活をさせてもらってる。そうであるからには本当に一生懸命打ち込まなければ、ライブを観に来てくれる人に申し訳ないっていうか。そこが20代の頃と大きく変わったところだと思う。20代の頃は本当に本っ当に適当だったんで(笑)」
――そんなに強調しなくても(笑)。
「ものすごく真面目になりたいわけじゃないんですけど、もっと真剣に向き合わなきゃって。1回1回のライブって本当に大切で、“今日はダメだったなぁ”なんて日は、あっちゃいけないんですよ。だってその日観に来てくれた人が、次に来れるのはもしかしたら来年とかうんと先になってしまうことだってあるし、次がないことだってある。ファンの方から時々手紙をもらうことがあるんですけど、例えば僕ら自身は納得いかないようなライブをだったとしても、みんなは“最高のライブでした!”って言ってくれるんですよね。そうやって1回1回のライブを楽しんでくれる気持ちに、ちゃんと応えられるような生き方をしていかないとダメなんじゃないかなと思ってるんです」
最後にフィリポのすっごい花道を作ってあげたいなと思いますね
――ちなみに、サポートメンバーである謙介さんは、バンド内では今どんな立ち位置なんですか?
「僕は純粋に、ものすごくフラットに付き合っていますね。11歳離れているんですけど、年齢のギャップを感じることもないし、普通に頼みたいことを頼むし。彼はあくまでサポートなんで、あんまり深い話はしたことないんですけどね。ただ、それは謙介に限らず、フィリポとさえもこういう真面目な話をしたことはあんまりないですね。女子高生がしてるみたいな会話の中に、時々フッと真面目な話があったりする感じで。本当にいつも関係ないことばっかりみんなでおしゃべりしてますね」
――おしゃべり(笑)。
「本当にそう(笑)。話すというより、“おしゃべり”(笑)。でも、その中に“あぁそうなんだ”って分かることもあって。こういうインタビューの方が俺、よっぽど真面目なことを話してますよ(笑)」
――宮川(b)さんと須藤さんは中学時代の同級生ですよね。それほど長い付き合いの方や、“友達”と呼べる仲の良いメンバーたちと、“仕事”として真剣に音楽をやっていくのは、時にしんどいこともあるんじゃないでしょうか?
「その辺はヌルくならないよう努力しているところもあります。でも、この関係だからこそ全てを話さなくても伝わるし、分かり合えるところもあるんですよね。斉藤(g)くんは本当に気概のある男だし、今回のフィリポのことについても何度も“5人で集まって話そう”って。フィリポも僕の才能を本当に信じてくれてますし。いいメンバーですよ」
――そして、2月24日(月)~28日(金)には『Countdown to 37』と題して、東京・下北沢SHELTERで須藤さんの37歳のバースデー・カウントダウンライブを5日間連続で開催されます。
「誕生日ライブって今まで1回もやったことなかったから、お客さんとすごく距離の近い会場でやりたいってことと、どうせなら1週間ぐらい会場を押さえちゃおうよって、その場のノリで決めて。決めたのはまだ去年の10月ぐらいだったから、“毎日コンセプトを変えればいいんじゃない?”とか軽く言ってたんですけど、それが今ものすごく重くのしかかってる(笑)。これ…リハーサルがすごく大変だぞ!って(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「毎日コンセプトが違うんで、やってる僕らもすごくドキドキすると思うんですね。ただ、初めは俺の誕生日っていうだけだったのに、急に“フィリポが辞める”っていうトンデモない付加価値が付いちゃった(笑)。2月28日(金)は俺の誕生日ライブのはずが、フィリポのラストライブっていう意味合いの方が大き過ぎて、どんな顔してステージに出ればいいのか分かんないですよ(笑)。笑ってちゃダメなのかなぁとか、ものすごくハードルが上がっちゃってて。偶然とは言え、それもまぁ髭らしいなと思いますね。最後にフィリポのすっごい花道を作ってあげたいなと思います」
――とは言え、立て続けに3月にはアイドルのBELLRING少女ハートとの2マンが東京であったり。これはかなり異種格闘技的なライブなのかなと。
「そうですね。この前ベルハーの2人(宇佐美 萌、カイ)と対談もしてきたんですけど、最高に面白かったです」
――21歳のもえち(宇佐美 萌)と16歳のカイちゃんと、話はかみ合いました?
「もちろん。大人の余裕で全部受け止めるから(笑)。確かに異種格闘技的だけど、今は来たオファーはかなり積極的に受けているんですね。そこに何が隠れているか分からないし、ベルハーとのライブも2年ぐらい前だったら受けてなかった気がするけど、今の気分としてはすっごく面白そうだなと思っていて」
――須藤さんのソロ、GATALI ACOUSTIC SETとしての動きは?
「髭として秋から本格的にワンマンで全国ツアーをしようと思ってるんですね。そのちょっと前の夏だけGATALIが動けたらやっても面白いかな。GATALIのメンバーはそれぞれ自立したミュージシャンなので、みんなのスケジュールを見て、髭のテンションを見て、そこにGATALIの隙間があるなら積極的にやりたいです。今年は髭の年にしたいんで無理はしなくてもいいかなと思ってるけど、GATALIをやることで髭に持って帰れるものもありますからね」
――6月13日(金)の自主企画『CLUB JASON』の開催もオフィシャルサイトではすでにアナウンスされていたり…今年はかつてないぐらいに精力的に動く髭が見られそうですね。
「僕たちは今ちょうど脂が乗っているときでもあるし、1回立ち止まろうと思うんです。“立ち止まる=オフにする”じゃなくて、今まで以上にもっと大きなものを作ろうとしたら、それなりの準備が必要で。自分たちが今何に燃えているのか? どんな音楽に自分がワクワクするのか? そういったことをちゃんと受信しなくちゃいけない。それは音楽じゃなくても何でもいいんですけど、受信する時間をちゃんと持って、ライブで消化して、最高のアレンジをレコーディングに持っていきたい。そうやって次の髭のアルバムを大きなものとして迎え入れたいと思ってるんですね。それがきっとアイゴンとフィリポと別れた“けじめ”にもなるんだと思う。自分が向かっている先に何があるのかは分かってないんですけど、自分が聴いて“作ってよかった”と思えるような、自分の心にちゃんと誠実に響く音楽を作りたい。それは必ずみんなに突き刺さると思っているので。それを今いるメンバーと、もう一度初めからやっていきたい。やっぱりね、自分が信じた道を行くのが一番なんだと思います」
――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
「本当に“いつもありがとう”って言いたいのと、今年はライブをやっていく中で髭を再構築していこうと思っているので、関西にもたくさんライブで来る機会があるので。是非みんなに会いに来て欲しいです!」
Text by 梶原有紀子
(2014年2月24日更新)
Check