インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 当たり前を疑え、違和感を信じろ これぞSuck a Stew Dryな渾身の『N/A』! 中途半端であることに振り切った今を語れ―― 篠山コウセイ(vo&g)インタビュー&動画コメント


当たり前を疑え、違和感を信じろ
これぞSuck a Stew Dryな渾身の『N/A』!
中途半端であることに振り切った今を語れ――
篠山コウセイ(vo&g)インタビュー&動画コメント

 “自分という人間を、自分でもわからないものにしてしまう「音楽」というものが、ある時期からとにかく邪魔者に思えるようになっていたと今は思う。”/“なんか、ずっと臆病になっていたなぁと。そもそも臆病は臆病なんだけど、臆病であることを伝えることに臆病になっていたというかね。”/“僕はSuck a Stew Dryというバンドに何枚も何枚も、何十枚何百枚も、余計な服を着せてしまっていました。精一杯「嘘だけは歌わないように」って気をつけていたけど、それは気づけばもはや「嘘」と呼んでもいいくらいのものになっていて。もうそういうことはやめよう、って思いました。”etc…Suck a Stew Dryの篠山コウセイ(vo&g)がタイムラインに投下した数々の言葉が、前作『ジブンセンキ』(‘14)からの2年間の、このバンドの揺れ動く感情と関係の交錯を如実に物語っているよう。正体不明の違和感、自らの思考とスタンスと改めて向き合い彼らが作り上げた、起死回生の2ndフルアルバム『N/A』は、Suck a Stew Dryの新たなるスタンダードとなる1枚だ。意義あるリリースツアーとなったその大阪公演でも、彼はこう言っている。「サックがどういうバンドなのか、篠山がどういう人間なのか、改めて自己紹介するようなツアーにしたかった」。全ての価値観が表裏一体であるという感覚と、持ち前のポップセンスが結実した同作にたどり着くまでのストーリーを改めて回想する、篠山コウセイインタビュー。右でも左でも白でも黒でもない、中途半端な僕らの世代を照らす『N/A』を語る――。

 
 
“Suck a Stew Dryはどういうバンドなのか”
 
 
――篠山くんが嬉々としてリリースを待ち望むなんてなかなかない、というか初めてだと思いましたけど(笑)、ようやく2ndフルアルバム『N/A』が世に出て。
 
「今までは、もう1枚目ぐらいから“あ、CDって本当に出るんだ”みたいな感覚だったんですけど(笑)、今回は“やっと出せる!”っていう気持ちになりましたね。“お店で展開されてるのって嬉しいよね”みたいな話もメンバーとしたりして…やっぱり自分がやってる実感がないと分からないというか、嬉しいんだけど何か現実味がなかったというか。今回は、“Suck a Stew Dryは自分がやってる”という自覚がかなりあったんで」
 
――逆に言うと、よくここまで他人事で来れたね(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) そうですね、もう8枚目ですからね(笑)」
 
――で、5月にはめでたく初ライブから6周年という中途半端な(笑)記念ライブ『Ningen/Asobi to N/A ~Suck a Stew Dry 6th Anniversary~』も開催され。
 
「いや、本当は5周年で何かやりたいなと思ってたんですよ。でも、去年は(北海道で)ライブが先に決まってたんで、その気持ちがあろうがなかろうができなかったんですよ。それでも、僕は一応“やりたい”と言ったとは思うんですけど。そうですね…だから僕は記念日を祝いたい彼女なんだけど、彼氏は記念日とかはどうでもいい、みたいな(笑)」
 
――アハハハハ!(笑)
 
「でも、それも今までは強く言えずにいたんですけど、今回はちょっとゴリ押しして(笑)」
 
――言うなれば、自分が“こうしたいんだ”ということを口に出せるようになったと。今年は、そういう周年のライブもやれて、バンドとしても本当に機能し始めたというか。ただ、今に至るまでにボタンの掛け違いを整理する時間が何度もあって、篠山くんがバンドを辞めたくなるとか、ハジオキクチ(g&key)が“俺が篠山くんを追い詰めた”と言うだの、いろいろと物騒な話題が飛び交ってたけど、実際のところは何がどうなってたのかなと。
 
「スケジュールに関してもそうなんですけど、何か知らない間に物事が進んでることが多くて。自分がやってる感じがしなかった原因が、多分それなんですよ。小さいことなんですけど、気付いたらすでに決まってることがいっぱいあった。僕に何も言わなくてもバンドが勝手に進んでいくなら、別に僕はもう関係ないなと思って。極端に言うと、Suck a Stew Dryは別に僕のバンドじゃないんだから、関係ないものとしてやろう、みたいな(笑)。僕はすぐにそうやって“諦め”で何でもやってしまうので。僕のバンドじゃないし、最悪イヤなったら辞めるしって」
 
――そこで“何で勝手に決めるんですか!?”みたいにはならないの?
 
「ならないんですよねぇ…ならなかったから、なっときゃよかったなぁ、みたいな。そういう気持ちにはやっぱりなって、うん。あと、たまに“言ってる意味が分かんない”とか言われて怒られるじゃないですか? でも、僕もそう言われる原因が分からないから、さらに“何でそんな風に怒られることをするのか分からない”みたいにどんどんなっちゃって。それはもうバンド内もだし、スタッフも、結構全部(笑)」
 
――ややこしい(笑)。でも、突き詰めていくとそういう1つ1つの違和感を見過ごしてきたことが、積み重なっていったのかもしれないね。その中で何とかミニアルバム『Wake me up!』(‘15)を出して、ツアーも廻って、でも、その違和感はなくなるわけじゃない。このアルバムに関して、もう一度自分たちの価値観を擦り合わせたわけよね?
 
「何か1つきっかけがあったというよりは、単純に『Wake me up!』が思った通りに伝わらなかったり、さっき言ったみたいに“よく考えたらあのときこうしときゃよかったなぁ”って思えたり、あとは単純に制作担当が変わって客観的な意見がもらえたり…。そういうことからメンバーも各々自分で気付いたというか、本当に1つ1つの要素がどんどん向かっていった感じはしますね」
 
――で、ちょっと答え合わせをしてみたら、お互いに思ってたことが案外違った、みたいな。そうやってある種の思考の整理がされて、いろんな原因が分かると、バンド内の空気も態勢も変わっていったよね。
 
「“だからあのときああ言ってたんだ”って全部分かるようになって、全然変わりましたね。まぁ特に僕がですけど」
 
――篠山くんはどう思ってて、何が一番違ったんだろう?
 
「やっぱり“自分のことじゃねぇ”って思ってたこととか(笑)」
 
――“いやいやオメェのことだよ”っていう(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) あと、ハジオさんが言ってたあれはちょっと大袈裟だなぁとは思いつつ、やっぱり…ハジオさんがいろいろと“こうした方がいい”と言ってくる意味が当時は全然分からなくて、“理由は分からないけど、何かやりたくない”と一応返す。そうすると、“やりたくないからやらないって何だよ”みたいな感じになる(笑)。フセ(タツアキ・g)くんにもそれが結構あって、ハジオさんがマジメにバンドのこと考えてるからこそなんですけど、フセくんも俺も何でそうした方がいいのかが分かってないから、やりたくないのにやらされそうになって…みたいな(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) まぁハジオが一番年上やし全体を見渡して。音楽的にもそういう素養があるだろうしね。
 
「そうですね、素面だったら」
 
(一同爆笑)
 
――言うなればハジオは、“篠山くんはダメ人間だけど、ダメ人間でもやれるんだ”っていうハングリーなバンド感を目指していたというか。
 
「そうそう。そういうバンドになれる、そういうバンドだと思ってたというか。でも、そういうことは各々のメンバーに多分あって。それはやっぱり“Suck a Stew Dryはどういうバンドなのか”をメンバー内で話さなかったから、僕の頭の中にもそれがなかった」
 
――バンドに対して明確な方針がないから、それぞれが正しいと思うことをやるけど、それぞれが違うみたいなね。
 
「そうそうそう。まさにそういう感じでしたね」
 
 
“やりたいことをやる”というよりは“やりたくないことはやらない”
 
 
――そして、そこで何かしらの指針が決まったから今があると。
 
「僕がほぼメインで曲作って、僕が歌う。バンドのメインは自分だと思うんですよ。だとやっぱり、自分がやりたくないことはやらない方がいい。“やりたいことをやる”というよりは“やりたくないことはやらない”。じゃないと、それだけで音楽的なストレスが溜まってくるから。あとは昔から、自分の気持ちを表現してくれてる音楽が世の中には全然ないと思ってたんですよ。だから、ちゃんと自分のことを表して、僕と同じような気持ちの人がしっくりくるものを作る…それが根本なんじゃないかなって。もちろん自分の中にも普遍的な要素はあるんですけど、前は“行き過ぎだから言葉を変えよう”とか、“ちょっと隠れて見えるようにしよう”とかしてたんで」
 
――前回のインタビューでも言ったけど、ポップミュージックに毒を忍ばせて身体に浸透させる、みたいなね。でも、その毒に気付かずにウ●コとして出しちゃう人が結構いるぞっていう(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 本当に。オブラートに包み過ぎちゃったんですよね。だから、もっとオブラートを薄くというか、もう隠さなくていいなと。結果、やりたくないことはやらないようになりました(笑)」
 
――“やりたいことは何?”と聞かれて答えられなくても、“やりたくないことは何?”と聞かれたら、案外答えられたりするもんね。で、何がやりたくなかったの?
 
「『Wake me up!』で一番後悔してるのはタイトルなんですけど、本当にこれじゃない方がよかった(笑)。“これが一番よくね?”ってメンバー内で話してたタイトルは却下されて、結果、5人ともが“違くね?”って思ったタイトルになったわけだから。もうちょい言っときゃよかったなぁって…(苦笑)」
 
――『Wake me up!』というタイトルがシニカルに響かなかったら、ただポジティブに聞こえるもんね。やっぱり今作に至るまで、いろんな思考とかスタンスの整理があったんやね。
 
「今回のレコーディング前半の時点で、僕が“もう辞めたい”みたいなことを言い出して、作業の最初の1時間がミーティングみたいな日もあり」
 
――今までも辞めたくなったことはあったの?
 
「まぁ全然何回もあったんですけど(笑)」
 
――(笑)。ある種、それを口に出すぐらいまで追い詰められたってことか。
 
「そうだし、それを言うだけでも変わるなって、そのとき思いました。結果、じゃあ何で辞めたいんだとか、いろいろ考えるきっかけにもなって。やっぱり基本はマイナス・エネルギーで動くんで(笑)、このままバンドを続けていく方がイヤだなって思ったのは大きかったですね」
 
 
“そうだ、僕は別に前向きじゃないんだ!”って(笑)
 
 
――そんな紆余曲折を経た今作は、まぁ最高傑作じゃないですか?
 
「お! 自分では言えないですけどね(笑)」
 
――自分で言ってもいいんやで~(笑)。まぁ聴き手としては千差万別だから、“いや~言っても前作『ジブンセンキ』(‘14)の方が好き”っていう人も、そらいるやろうけど。
 
「そうそう。僕が(最高傑作と)言うことによって逆にそんな風に思う人がいそうだから、僕は言わない(笑)」
 
――傷付くのイヤがり過ぎ(笑)。“この曲でアルバムが変わっていくかも”みたいな曲はあった?
 
「『ヒーローになれずに』(M-10)の歌詞は結構書き直したんですけど、元の歌詞を担当の人が見たときに“前向き過ぎるんじゃね?”みたいなことを言われて。そんな風に言われたのが初めてだったので、“あ、確かに”と。要はそんなことを思ってもないのに、お話として前向きな感じで書いてたんですよね」
 
――篠山くんはネガティブ発信の人間やのに、やっぱり精一杯、どこかでポジティブに向かおうとは思うんやね。
 
「この歌詞はちょっと前に書いてたから、そういう見えない力による“そうしなきゃいけないんじゃないか”という謎の思い込みで、自分はそうじゃないのに書いてて。周りもそういう方向に向かせようとしてくるし、“じゃあ向かっとくか”みたいな(笑)。形としては出来ちゃったりするんで」
 
――まぁ物事をシニカルに見つつもコンプレックスも感じてるから、それを改善したいと思うのは人としての純粋な反射だとも思うし。
 
「なので“前向き過ぎじゃない?”みたいな感じで言われたときに、“そうだ、僕は別に前向きじゃないんだ!”って改めて気付かされて、かなり直しました(笑)」
 
 
歌ってて違和感もないし、ちゃんと希望も入ってるし
嘘をついてるとも思わない
 
 
――今作のリード曲『GOEMON』(M-1)はトリッキーな曲ですけど、ここまで遊んだ曲もなかったのではと。実際にCDをリスナーにデリバリーする『サックがあなたのおうちまで!SHINOBI PIZZA CD配達企画』もありましたが、いざやってみてどうでした?
 



「いや、楽しかったんですけど、あまりにも届けに行った人の家が豪邸過ぎて(笑)」
 
――アハハハハ!(笑)
 
「世の中にこんなが豪邸があるんだ!って…あまりにもインパクトが強過ぎた。抽選でランダムに選んだんですけど、いやぁ~もはや妬みもしないぐらいの圧倒的なものがそこにはありました(笑)」
 
――Suck a Stew Dryの音楽をいろんな人が聴いてくれてるんだな~。
 
「いや、ホントにそう思いましたね」
 
――今作の中では特に、『トロイメライ』(M-3)と『空に星が降る夜は』(M-6)みたいな曲が生まれたのが、Suck a Stew Dryの今後にすごく意味がある気がしました。
 



「『トロイメライ』はもう完全に自分だなって。物事は“どっちか”じゃないってずっと言ってるんですけど、例えば、終わる=悪みたいに言われると“本当にそうなのか?”って思うし。手に入れることは嬉しいけど、それによって“手に入れたい気持ち”はどこかに行っちゃって虚しい気持ちになったり…手に入らないのはイヤなんだけど、“手に入らない憧れ”みたいなものに魅力を感じたり。そんな風に思うことを全部書けたから…“自分”だなぁって」
 
――この曲の序盤と終盤に出てくる“いつか消える 全ていつでもそうだった”という1行も、1曲を通してその意味が反転していく。“いずれ終わる”のは悲観的に思えるけど、どんなにイヤなことがあっても“いずれ終わる”とも捉えられる。全ての価値観が表裏一体であるという感覚、篠山くんの基本精神とポップセンスが合体した曲とも言えるね。
 
「プロデューサーさんには、どうしても希望みたいなものを1つ歌詞に入れてほしいと言われたんですけど、入れたくないものは入れたくない。僕が書ける絶妙なバランスがこれなんだなって。歌ってて違和感もないし、ちゃんと希望も入ってるし、嘘をついてるとも思わないし」
 
 
言われたら言い返すし、やられたらやり返す(笑)
 
 
――あと、『失恋、失恋。』(M-5)はキラキラのリフから始まる殺傷力の高いポップチューンやけど、この歌詞マジで…頻繁に出てくる、とか。の句読点が、めっちゃムカつく!(笑) SNS上に、こういう文体で自己陶酔してる子、たまにいるよなぁって。
 
「アハハハハ!(笑) そうなんです! 句読点は最初は入れてなかったんです。また奥さん(=筆者)見付けちゃいましたね(笑)。この曲は完全に“あるある”の集合体なんですけど、ちょっと携帯小説っぽい感じにしたくて、句読点を後から全部に足したんですよ。名古屋でゲイのDJさんのラジオ番組に出たときも、“いるわよね~こういう女!”みたいな話になって(笑)」
 
――ひらがなの“ばいばい。”も、“本当は好きじゃなかったし。”っていう強がりのテンプレートも、ホンマ…(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) SNSのポエマーみたいな。でも、この曲を聴いた女性の反応とかを見てると“分かるわぁ~”みたいな共感が(笑)」
 
――そうなんや…やっぱり男と女は違う生き物ね(笑)。あと、『レフストアンブルフィ』(M-4)もフセくん作の『F.O.M.H.』(M-8)もそうやけど、ライブでガツンと持っていけるような曲が一気に増えたね。
 
「ミックスの力も大きいんですけど、今回のアルバムでは(内容的に)結構ダウナーかと思いきや、テンポはめっちゃ速いっていう(笑)。演奏が大変というか」
 
――『レフストアンブルフィ』なんかはもう、“Suck a Stew Dry”で検索するとオフィシャルサイト、ウィキペディア、ツイッターの次に出てくるサイトの余波かな~(笑)。
 
「まぁそうっすね(笑)。言われたら言う!と」
 
――そう考えると、マイナスの感情も、結局は曲を書かせてくれる。やっぱりタフになったというか。
 
「元々の自分の基本姿勢を見返してみたら、人のことを攻撃するというよりは、言われたら言い返すし、やられたらやり返す(笑)。社会的にはあまりよくないですけど、そういうタイプだから。それを子供だと言われてもね、いや、知らねーよと(笑)。最初に言ったヤツが悪くね?って」
 
――この一億総評論家のご時世ならではやなと。
 
「だから、みんながそこに気付いてくれたらいいなと。その人とかじゃなくてね(笑)」
 
 
やっぱり分かりづらい人間なんですよね。けど、それが分かったんで
 
 
――『N/A』はSuck a Stew Dryにとっても、篠山くんの音楽人生においても、転機の1枚になったね。
 
「そうですね。本当に以前の状態のまま続けることにならなくてよかったなぁって。これだったら聴いて何を言われても、前ほど気にならないかな。カート・コバーンの名言を改めて見て、それだ!って思った」
 
――“偽りの自分を愛されるより、ありのままの自分を憎まれる方がいい”と。でも、篠山くんはそういうことに気付いてて、それを実行できる人かと思いきや、すんなりとはできないのがやっぱりリアルだなと思うし、人間っぽいと思う。揺れた上でたどり着いたことも含めて説得力のような気もするし、今はバンドが楽しいんちゃう?
 
「“自分がイキイキしてるのはどんなときなのか?”と思って過去のツイートをさかのぼってみたら、“自分がいかに中途半端か”を語ってるときが一番イキイキしてた(笑)。まさにそれが素というか、作品とかライブでもそうだったなって。だからこれからは、いかに自分が中途半端であるかとか、暗いことを考えてるかとか、そういうことを出していくのが楽しみです(笑)」
 
――中途半端であることに振り切っていくという、よく分からんスタンス(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) やっぱり分かりづらい人間なんですよね。けど、それが分かったんで。今まではそれを“どう分かりやすくしようか”みたいなことばかり考えてて。これからは、“分かりづらいんです”っていうところを分かりやすく出していくと」
 
――そして、『N/A』のタイトルは=“該当なし”、“not available”とか。チャート圏外のときにも使う言葉だけど。
 
「最初のイメージ的には、“特になし”っていう。アンケートの選択肢に“特になし”があると助かるなと昔から思ってて。逆に、それがないアンケートを見たとき、何で選ばなきゃいけないんだって(笑)。要は“特になし”という一見否定的に感じるものが、結果的には自分にとってホッとするみたいな感覚。それがこのアルバムにはすごく合うなと」
 
――“何々が好きですか? 嫌いですか? 普通ですか?”とあったら、気が引けるけど“普通”に丸をすることが多いかもしれない。でも本当は、“ちょっと好き”とか“ちょっと嫌い”なのに、どっちかに寄せて丸をするよりも、よっぽど素直というか。
 
「そうなんですよ。だから、今回はタイトルもしっくりきてますね。ちょっとエゴサーチしにくいけど(笑)」
 
――そういう意味では、ライブもまた違った感覚で響くようになってきたみたいね。
 
「そうなんです、ライブも楽しみになっちゃって。ライブなんか全然楽しみじゃなかったのに(笑)。あと、ライブで自分が喋ることもマイナスだと思ってたんで。それは自分が喋る=聴いた人のテンション下がるというか。でも、だから盛り上げようっていうのも正しいかどうかは分からない。盛り上げる=正解じゃないなら、僕が喋ってテンションが盛り下がることも別にマイナスじゃない。だったら、自分が喋った方がいいよなって」
 
――何かそのセオリーでいくと、これからは快適人生な気がするね(笑)。世の大半が“特になし”な感覚の人だと思うし=リスナーとしてもそうなはずなのに、音楽で提示するものはどこかYESかNOでなければならなかったムードから、篠山くんみたいな発想の音楽家が現れたのはおもしろい。右でも左でも白でも黒でもない、その人たちの気持ちが誰よりも分かるはずだから。
 
「そうですよね。あとはまぁ僕が音楽ぐらいしかできない部分はもちろんあるし。それしかできないのにその音楽がストレスになってたら、何の意味もないですから」
 
 
当たり前に毎日続いてきたことが急にダメになることなんて、いくらでもある
 
 
――Suck a Stew Dryを始めて8枚出すまで変われなかった人も、続けてるとこうやって変われる瞬間がやってくる。でも、ちょっと気になったのは、篠山くんは“いつまで続けられるか分からない”ってよく言うやん。自分が続けるか/続けないかだけじゃない?
 
「いや、極論を言っちゃえば明日死ぬかもしれないし、地球が滅亡するかもしれないし(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) そっちか。
 
「そういった意味では刹那的というか、本当にいつまで続くかも、続けられるかも分からない。急にやる気がなくなるかもしれないし、みんながいつまで観てくれるかも分からない。とは言え、いつまで続けられるか分からないから観て!とは思わないんで(笑)。好きなタイミングで観てくれたらいいなって。そういう感じも伝えたいですね」
 
――相変わらず先回りするね~。
 
「フフフフ(笑)。やっぱりいろいろなことにおいて常にそう思ってるからですよね。友達とかでもそうだし、“付き合ってる”とかでもそうだし」
 
――別れるときは、昨日まで付き合ってた人と、翌日には別れてるわけだもんね。
 
「本当にいつそうなるか分かんないんで。当たり前に毎日続いてきたことが急にダメになることなんて、いくらでもあるから。そういうことを自分でも知り合いでも実際に見てきたから」
 
――そこに対する感度が高いんだろうね。無頓着ではいられないというか。
 
「うん。無頓着だとある種期待してることにもなるし、当たり前のようにそうだったのに何で?って思いたくないんです。何でも当たり前だと思うことに、普段から疑問を感じてますね」
 
――もうちょっといろんな人に気付いてもらうまで、Suck a Stew Dryをやる意義がまだまだありそうやね。
 
「そうそう。そう思ってます」
 
――そんなSuck a Stew Dryの今後を楽しみに。本日はありがとうございました!
 
 
Text by 奥“ボウイ昌史”



(2016年7月15日更新)


Check

Movie Comment

新作と大阪についてしっかり喋ります
篠山コウセイ(vo&g)の動画コメント

Release

誤差を解消し自らの意思と音楽を貫く
2年ぶりの2ndフルアルバム!

Album
『N/A』
発売中 2500円(税別)
Lastrum
LACD-0275

<収録曲>
01. GOEMON
02. インナーワールド
03. トロイメライ
04. レフストアンブルフィ
05. 失恋、失恋。
06. 空に星が降る夜は
07. 冷たいリグレ
08. F.O.M.H.
09. 一人じゃ生きれないわけでもない
10. ヒーローになれずに
11. ユースフル -used-

Profile

サック・ア・ステュー・ドライ…写真左より、イタバシヒロチカ(ds)、ハジオキクチ(g&key)、シノヤマコウセイ(vo&g)、フセタツアキ(g)、スダユウキ(b)。'10年、スダを除くメンバーが都内大学の軽音サークルで出会い結成。'11年、デビューミニアルバム『人間遊び』をリリース。‘12年には2ndミニアルバム『ラブレスレター』を、’13年には1st EP『世界に一人ぼっち』を発表。'14年、iTunesが選ぶ“New Artists2014”に選出され、多数の大型フェスやサーキットイベントに出演。同年7月には2nd EP『アイドントラブユー』、9月には1stフルアルバム『ジブンセンキ』をリリース。’15年3月には、3rd EP『モラトリアムスパイラル』と初のライブDVD『僕らのジブンセンキ ワンマンツアー 2014 Final』を同時発売。『モラトリアムスパイラル』はオリコンデイリーチャート初登場11位を獲得。『VIVA LA ROCK』『ROCK IN JAPAN FES.』『RUSH BALL』など数々のフェスに出演し、同年9月には3rdミニアルバム『Wake me up!』をリリース。ワンマンでは初となる札幌・新潟を含む7ヵ所でワンマンツアー『夢中でがんばれない君にエールを』を開催し、ツアーファイナルの恵比寿LIQUIDROOMは見事完売。’16年1月には約3年ぶりの自主企画イベント『Stew Party vol.1』を開催。そして、5月25日には2ndフルアルバム『N/A』をリリース。全8ヵ所でワンマンツアー『N/A ~Ninja Action Tour~』を開催。焦燥感、虚無感など若者が誰しも抱く感情をシニカルな視点で切り取った独特な歌詞世界が10~20代のリスナーをメインに強烈な支持を獲得、ライブ動員は急増中。WEBを中心に話題となっており、毎日SNS等で途切れることのない拡散が続けられている。

Suck a Stew Dry オフィシャルサイト
http://suckastewdry.com/

Live

学生無料の野外イベントに初出演
夏の大阪で再びライブ!

Pick Up!!

【大阪公演】

『UCHU FES 2016』
チケット発売中 Pコード300-231
▼7月16日(土)昼12:30
服部緑地野外音楽堂
全自由2500円
[出演]ココロオークション/PURPLE HUMPTY/ヤバイTシャツ屋さん/Shout it Out/Suck a Stew Dry/The Floor/岡崎体育/いざゆかんとす!
[DJ]ライブキッズあるある中の人/
板東さえか(司会)
※雨天決行・荒天中止。学生(中高大専門学生)の方は学生証提示で無料(ドリンク代別途要)。
【お問合せ】UCHU FES 2016実行委員会 uchuufes@gmail.com
【公式ホームページ 】http://uchufes.wix.com/uchufes2016

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


【茨城公演】
『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016』
Thank you, Sold Out!!
▼8月14日(日)10:30
国営ひたち海浜公園
8/14入場券13000円
[出演]ASIAN KUNG-FU GENERATION/androp/イトヲカシ/岩崎愛/打首獄門同好会/宇宙まお/岡崎体育/OKAMOTO'S/オワリカラ/CAPSULE/きゃりーぱみゅぱみゅ/℃-ute/GOOD ON THE REEL/グッドモーニングアメリカ/黒木渚/Silent Siren/Suck a Stew Dry/サンボマスター/Lyu:Lyu/湘南乃風/SUPER BEAVER/Superfly/Turntable Films/Dizzy Sunfist/東京カランコロン/TOTALFAT/中村一義/NICO Touches the Walls/ねごと/NOISEMAKER/パスピエ/パノラマパナマタウン/PUFFY/ヒトリエ/藤巻亮太/Brian the Sun/THE BAWDIES/POLYSICS/三戸なつめ/MONGOL800/ヤバイTシャツ屋さん/米津玄師/lovefilm/LAMP IN TERREN/LiSA/忘れらんねえよ/WANIMA/ONE OK ROCK [DJ]オカモトレイジ/kz/柴田隆浩/タナシンドローム/DJ和
ROCK IN JAPAN FESTIVAL事務局■0180(993)611
※6歳未満は保護者同伴に限り無料。雨天決行、荒天中止。出演者は予定のため変更の可能性あり。出演者変更に伴う払戻し不可。

【栃木公演】
『RADIO BERRY ベリテンライブ 2016
~HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2~』
チケット発売中 Pコード301-364
▼8月24日(水)18:00
HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2
前売3000円
[出演]ircle/The Cheserasera/Suck a Stew Dry/LAMP IN TERREN
フォールーラー■028(614)4044

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 

Column1

「今回は攻撃力が高い曲しかない」
ポップミュージックに
劇薬を忍ばせる大胆不敵な確信犯が
『モラトリアムスパイラル』
の裏設計図を語る前回インタビュー

Column2

冷めてるようで諦めてない
脱力の力と中ぐらいの気持ち
1stアルバム『ジブンセンキ』の
ポップな弾道に込めた全方向の感情
初登場インタビュー&動画コメント

Comment!!

ぴあ関西版WEB音楽担当
奥“ボウイ”昌史からのオススメ!

「取材前には入念に下調べする僕ですが、音楽界きってのツイッター・アディクト、篠山コウセイのそれを追いかけるのはとても大変です(笑)。でも、ブログよりも他誌のインタビューよりも、大事なことを語っていたのはツイッターでしたから。様々な感情の機微を経て生まれた『N/A』は、これまでのバンドのイメージとはちょっと違うかもしれません。でも、これこそがこのバンドの本質に限りなく近付いた作品なんです。そのせいか、“男の喪失あるある”というかもはや“篠山あるある”である(笑)『冷たいリグレ』(M-7)でも、パーソナルな内容ほどアレンジは壮大という法則も健在。いつもは“はぐらかす”というかオブラートに包みまくる、篠山くんの素が垣間見られるような『空に星が降る夜は』もすごく素直でドラマチックと、今作はSNSが作らせた一面も大いにあると思いますが、自分との誤差を解消した篠山くんの内面もより感じられます。Suck a Stew Dryは、きっとあなたが思うより熱いし奔放だしかわいいとこあるし、並み居る同世代のロックバンドとは違うルートでシーンを登っていく可能性を存分に秘めてますよ。あー早くまた一緒に呑みたい、という大いなるラブコールをもって、コメントを締めさせていただきます(笑)」